特集:アフリカ・スタートアップ競合が少ないことが魅力(その1)(エチオピア)

2019年7月12日

エチオピアのエコシステムは、ケニアやナイジェリアと比べて「初期段階」にある。そのような中、当地で起業家育成に取り組む日本人がいる。金融機関勤務を経て、国際協力機構(JICA)専門家として働く不破直伸氏に、エチオピアのスタートアップを取り巻く環境や魅力について話を聞いた(6月24日)。


不破 直伸氏(JICA提供)
質問:
現在の活動について。
答え:
中小零細企業に経営指導を行うプロジェクトに2018年9月から取り組んでいる。主な活動は、政府機関職員の能力向上のための研修の実施や、日本の中小企業診断士に似たシステムの構築だ。プロジェクトの一環として、起業家支援活動を行っており、現在メインで担当している。
起業家支援活動の具体的手段として、現在、「Solve IT 2019」というスタートアップイベントを行っている。エチオピアの主要15都市で18~28歳の若者約2,000人を対象に支援を提供している。「テクノロジーを活用して社会課題・地域課題をビジネスとして解決する」をコンセプトに、アイデアをプロトタイプ化し、「実用最小限の製品」の構築を目指す支援をしている。支援のポイントは「ビジネス化できるか否か」で、持続性のためにも収益性を追求したい。収益性に対するアドバイスが専門家としての腕の見せ所だ。
個人的には、各地域の課題・問題を抽出するとともに、その課題に挑む起業家情報やビジネスモデルを蓄積することを大切にしている。蓄積した情報を分析し、今後は特定の課題に焦点を当てたアクセラレーションプログラムを構築していく予定だ。起業家の実体験に基づいた情報を収集し、プロジェクトが終了予定の3年後には、起業を一層促し、容易にする制度・政策提言をしたい。

Solve IT 2019の講義(アルバミンチにて)
(JICA提供)

Solve IT 2019の講義(メケレにて)
(JICA提供)
質問:
スタートアップ投資先としてのエチオピアの魅力は何ですか。
答え:
投資に関して競争が少ないことが魅力の1つと言える。投資の形態にもよるが、一番の魅力はベンチャーキャピタル(VC)やプライベート・エクイティー(PE)がケニアなどと比べて少ない。また、エチオピアへの投資に関心を示す事業会社も少ないので、廉価なバリエーションでの投資が可能とよく言われる。「お得感がある」と表現できるかもしれない。日系企業をみても、「サブサハラ・アフリカ」といえば、まずは南アフリカ共和国やケニア、ナイジェリアを見る。
業種やサービス・商品にもよるが、エチオピア国内で事業規模を拡大できても、エチオピアから他国へ展開というのは現時点では可能性が低いだろう。一方で、エチオピアは規制も多いので外からも入ってきにくい。閉ざされたマーケットという意味では、日本とよく似ているかもしれない。「エチオピア国内での独占状態」で満足してもらえるかが、エチオピアを評価する1つの目安かと思う。
質問:
課題は。
答え:
外貨問題のリスクが大きいことだ。エチオピアで稼いだ利益を外国送金するのに時間がかかる可能性がある。例えば、オランダ系企業が海外送金できずに、結局、エチオピア国内に再投資している。ただし、エチオピアに限らず、カメルーンでも最近、外貨準備高の問題で外国送金が難しくなったと聞いており、どこでも起こり得る問題かもしれない。
加えて、政治リスクも高い。特に金融関連業の規制によるリスクだ。先日も、某スタートアップのサービスが金融業にあたるとして政府から停止させられた。投資額だけでみれば、フィンテックは投資を集めるには良い業種なのでもったいない。あと、通信環境も良くない。インターネットが遮断されるというのも、エチオピアではたまにある話だ(2019年6月13日付ビジネス短信参照)。
また、エチオピアの政府高官と話すと、「人口が魅力だ」という話をよく聞くが、そのメリットを生かせるかはビジネスモデル次第だろう。エチオピアの人口は約1億人だが、1人当たりGDP は800ドル程度と経済力は高くない。同じく人口大国のナイジェリアの1人当たりGDPは2,000ドル程度だ(一時期は3,000ドル近くあった)。「人口大国」と一口に言っても両者は大きく異なる。
質問:
課題をどのように捉えれば良いか。
答え:
インドのあるビジネス関係者によると、「エチオピアは他国と比べると規制も多く、ビジネスをするには難しい国。ただ、それを乗り越えれば、ライバルが少ないので利益を上げやすい」とのこと。米系VCは「2019年は、7月までに2件投資回収に成功した」と言っていた。リターンは2件とも20%程度だったという。彼らの投資先は、他国で既に類似モデルが存在するもので、エチオピア国内で規模拡大が見込める企業のようだ。繰り返しになるが、魅力はライバルが少ないこと。課題は規制が多く、政治リスクが高いことだ。
質問:
スタートアップを取り巻く環境は。
答え:
2018年4月にアビィ首相が就任し、イノベーション改革にも積極的に取り組んでいる。一例として省庁再編では、科学技術省を革新・技術省(MINT)に名称変更するなどして、スタートアップ支援にも乗り出している。ルワンダのZipLine外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のようなドローンによる血液輸送事業を検討している会社も、政権が代わってから事業認可プロセスが前に進んだと聞いている。MINTはスタートアップへの資金提供も検討しており、政府の支援はそれなりにある印象だ。また、融資に際して、これまで認められていなかった動産担保が公式に認可される動きが、起業促進に向け良い流れだと思う。
スタートアップを支えるインキュベーターの数は増加している。2011年にIce Addis外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます がエチオピア初のインキュベーション施設として設立されて以来、今は10カ所程度まで増加している。とはいえ、まだ10カ所程度で、50カ所近くあるナイジェリアと比較すると少ない。近隣のケニアも30カ所ほどある。競争がないと良いサービスも生まれないので、増加していくのは望ましいと考える。また、ナイジェリアやケニアと比較すると、インキュベーションの運営資金面で援助機関頼りのところが強く、援助機関の資金の取り合いになっている面も否めない。以前は、インキュベーター同士の連携が見られたが、やや様相は変わってきている。持続性を考慮し、現在支援しているインキュベーターに対しては、民間事業会社からの資金提供を受けられるよう支援を行っている。
VCに関して言えば、4月に米系VCが、6月に日系VCのサムライインキュベート・アフリカが現地インキュベーターと覚書をそれぞれ締結するなど、VC関連の動きはそれなりに活発化している。特に、米系VCの活動が活発化している印象だ。知っている限りでは、8月までに別のもう1社の米系VCが出資に係る契約を締結する予定だ。米系ファンドからの問い合わせはそれなりにある。
米系ファンドは、「すぐに投資をする」というよりは、将来を見据えて、まずはコンサルティングサービスなどを提供し、提供先に良い投資先があれば投資をしていくという戦略のようだ。ファンド規模が小さいと投資業務だけでは稼げないし、安定した収益が必要なので、ベースとなる収益をコンサルティング業務で稼いで、投資の種まきをしている状況だ。
とはいえ、まだまだVCの数そのものが多くないので、スタートアップ起業家の課題は常に金融アクセスだ。VCを除けば、通常は銀行、マイクロファイナンス、組合、親族・友人からお金を借りるといった選択肢しかない。エクイティ投資がまだまだ浸透していない中では、融資が一般的な資金調達手段となる。
融資には常に担保が課題となる。銀行やマイクロファイナンスは担保を要求するが、掛目は130%~200%となかなか難しい状況だ。また、融資は利息が発生するので、金利10%から25%というのは、猶予期間はあるといっても、起業当初のスタートアップにとって、成長の妨げになる。
他のアフリカ諸国とも類似しているが、エチオピアでも自己資金や親族・友人から資金援助を受けて起業するのが現実的な方法だ。親族・友人から借りて起業した後の「次の資金源がない」ことが問題だ。
質問:
環境整備については、どのように関与しているか。
答え:
事業会社のオーナーなどへの啓蒙(けいもう)活動を実施している。彼らの投資はレストランや建築など、爆発的なリターンはないものの、キャッシュフローがある程度見込めるものへの投資が多い。そのあたりの意識改革が必要と考えている。
また、大学によるスタートアップ支援への関与も意図的に増やしている。JICAが実施するSolve ITは全国15都市で実施しているが、各都市の大学と覚書を結んで、場所の提供から参加者のリクルーティングなど、大学が主体的に活動を支援するように仕向けている。一部の大学はシードマネーをSolve IT参加者へ提供するなど、意識改革は進んできている。今後は各大学にきちんとしたインキュベーション施設とスタートアップ向けのカリキュラムを設けてもらうように働きかけていく予定だ。
エチオピアのスタートアップは、ディアスポラが牽引している状況だ。欧米の大学を卒業したエチオピア人が欧米で既にあるサービスをエチオピアに持ち込んで現地に適応しているものが主流だ。配車サービス「RIDE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」、料理配送サービス「Deliver Addis外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」など、比較的成功しているのは、いずれもこうした事例だ。
ディアスポラが持ち込んだ知見を国内起業家に還流させ、国内の起業家活動を活性化させていくことが必要だ。また、アディスアベバに集中している知見を地方に還流させる仕組みを作っていくことも大切だ。そのためにも、スタートアップ・エコシステムの強化にも取り組んでいきたい。
競合が少ないことが魅力(その2)」に続く。
不破 直伸氏 略歴
不破 直伸(ふわ なおのぶ)
金融機関で約10年勤務。現在はエチオピアでJICA専門家(起業家支援・金融制度構築)として従事。趣味は写真撮影。
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所
山下 純輝(やました じゅんき)
2016年、ジェトロ入構。東京本部で、農林水産物・食品の輸出業務に従事。2019年2月から現職。