特集:アフリカ・スタートアップ競合が少ないことが魅力(その2)(エチオピア)

2019年7月12日

前回に引き続き、エチオピアで起業家育成に取り組む不破直伸氏に、エチオピアのスタートアップで注目を集める分野、日系企業との連携可能性ついて話を聞いた(6月24日)。

質問:
スタートアップの中で、注目を集めている分野は。
答え:
フィンテックとロジスティクス関連が注目を集めている。6月にICT EXPO(2019年06月24日付ビジネス短信参照)が開催されたが、両分野の企業が多かった。国内で乱立する決済手段を統合するYenepay外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます のモデルは面白い。ただし、金融業自体は規制業種のため、政府から急にサービス停止を言い渡される可能性もあり、フィンテックにはリスクが相応にある印象だ。国全体の購買力が向上すれば、ヘルステックやエドテックの分野も有望だろう。この点は他のアフリカ諸国と状況は類似している。
個人的には、現時点ではアグリテックを推奨したい。アグリテックで有名な企業は、E-コマース系のGebeyanet外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますDeamat外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます や、Greenpath外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます などが挙げられる。エチオピアの輸出品目はコーヒーやゴマなどの農産品で、一次産業従事者が多いため、革新的技術やサービスに対するニーズは高く、一層の成長を見据えた買い手も他の分野に比べて多いのではないかと考えている。この分野では、国際協力機構(JICA)が実施しているSolve IT 2019でも、植物工場、人工知能(AI)での農作物病気診断ツール、B to Cの販売プラットフォーム(E-commerce)など、さまざまなプロジェクトが誕生している。
イノベーションによる価値創造や既存産業の破壊は、エチオピアでは「徐々に起きている段階」という理解だ。先進国同様に、将来的にはバリューチェーン上の統合・プラットフォーム化がいずれ起きるだろう。バリューチェーンの要所を押さえて、最終的にプラットフォーム化できる事業会社が数年後には出てくるのではないか。
質問:
日系企業と現地スタートアップとの連携可能性について。
答え:
現時点で一番可能性が高いのは、アウトソースかと思う。その次は、有限責任組合員(LP)としてVCを介した投資だろう。直接投資となるとハードルが高い印象だ。AIソフトウエア開発のスタートアップであるiCog外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は世界的に有名なAIロボット「ソフィア」の開発に携わっているし、既に日系企業や欧米企業から多数の受注を得ている。ナイジェリアのAndelaのようなIT教育機関のGebeya外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます も海外の大手企業から受注している。技術的には問題がないので、あとはブリッジエンジニアを活用したビジネスモデルができれば、人件費が安いことが特徴のエチオピアで、日系企業からの受注が増えるのではないだろうか。ただし、インドなどの他国とのコスト競争になるため、「信頼関係を構築できるかどうか」がカギを握る。
日系企業との接点という意味では、日系VCを介した間接的な投資や調査委託案件もあり得る。一般的に自ら現地調査するよりも、実際に現地企業の株式を持っているVCの方がより詳細な情報を入手できることも多く、VC経由で現地情報を収集している日系企業がそれなりにいる。また、現地のスタートアップ企業に最初から「投資」ではなく、「調査委託費」として資金提供し、調査委託をしたスタートアップ企業に成長の兆しが見えた段階で株式投資に切り替えていくといった方法を取る日系企業もいる。最初から転換社債や株式投資をすればいいのではと思うが、いろいろ聞くうちに、どうも大手企業では「投資」という場合のハードルが高く、「調査委託」の方が社内稟議(りんぎ)を通しやすいようだ。
直接投資に踏み切れるのは、上場会社よりは未上場会社の方が可能性は高いと思われる。ナイジェリアやケニアなどでの出資事例をみると、株主説明責任を問われやすい上場企業より、未上場企業社長のリーダーシップによって投資をするケースがそれなりにある印象だ。先日もナイジェリア企業に投資を決めたのは、日系の未上場企業だった。
VC経由でも調査委託でも、ややリスクが低いところからスタートし、現地情報を収集した上で、最終的に直接投資につなげていくフローができると良いと考えている。
質問:
今後の活動について。
答え:
正直、エチオピアだけ見ていても分からないことが多いため、今後は広域での活動に力点を置いていく予定だ。エチオピアから周辺国、東アフリカなどさまざまな国の起業家の支援にシフトし、広域の視点でエコシステムの構築・強化をしていければと考えている。エチオピアでいえば、エリトリア、ジブチなどの周辺国との経済関係も考慮する必要がある。エチオピア東部ではソマリア・ケニアの影響も強く、地方都市や周辺国を訪問して、現場で何が起きているかを確認の上、適切な支援メニューを検討していく予定だ。
現場主義というように、専門家自身が自分の目で見て、経験して、活動に反映させていく。当たり前のことを当たり前に実施して、コツコツ積み上げていく。そのような活動を展開して、1人でも多くの起業家支援ができればと考えている。
不破 直伸氏 略歴
不破 直伸(ふわ なおのぶ)
金融機関で約10年勤務。現在はエチオピアでJICA専門家(起業家支援・金融制度構築)として従事。趣味は写真撮影。
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所
山下 純輝(やました じゅんき)
2016年、ジェトロ入構。東京本部で、農林水産物・食品の輸出業務に従事。2019年2月から現職。