特集:アフリカ・スタートアップラゴスの最有力インキュベーションセンター、CcHub(ナイジェリア)

2019年7月12日

今やアフリカ最大のスタートアップ拠点の1つとなったナイジェリアの商業都市ラゴス。その中で2011年創業と比較的長い歴史を持ち、既に数多くのスタートアップを輩出しているインキュベーションセンターが、CcHubことCo-Creation Hubだ。自身のファンドも保有し、数多くのパートナーとさまざまなプロジェクトを手掛ける。2016年にはフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が訪れ、2018年にフェイスブックと共同でNG_Hubを設立するなど、話題に事欠かない。2019年8月には、アフリカのスタートアップ10社を選定し、アジア5都市を訪問する「Pitch Drive」ツアーを開催する。日本へは、横浜で同月開かれる第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に合わせて訪問し、ジェトロと共催でピッチ・イベントを実施する予定だ。

CcHubの活動やナイジェリアのスタートアップの特徴について、「Pitch Drive」の責任者を務める担当ディレクター、ダミロラ・テイディ氏に話を聞いた(7月4日)。


ダミロラ・テイディ氏(ジェトロ撮影)
質問:
ビジネスの概要は。
答え:
CcHub は、ナイジェリアやアフリカのさまざまな社会課題について、テクノロジーを活用して解決を試みるソーシャル・イノベーションセンターだ。2011年にラゴスで創業し、現在では本部のラゴスのほかに、首都アブジャとルワンダのキガリにもオフィスがあり、合計約70人が働いている。
行政やデジタルセキュリティー、教育の3つの分野を軸として、多くのパートナーやステークホルダーと協力して課題解決に取り組んでいる。CcHubでは、スタートアップを支援し、成長させるための多彩なプログラムを用意している。このプログラムには3段階あり、アイデアは持っているものの実現していない起業家の卵のためのプレ・インキュベーション・プログラム、既に開発しているプロダクトを普及させたいという起業家のためのインキュベーション・プログラム、そして、さらに進んだフェーズの起業家のためのアクセラレーター・プログラムだ。最終的には、フェイスブックやグーグル、ノキア、マイクロソフトなど、CcHub とパートナーシップを結んでいる大企業からも資金を受けられる可能性がある。このような広いネットワークがCcHubの大きな強みだ。ほかにも、人材育成についてのメンタリングや財務会計のアドバイスを受けたり、外部のメンターやステークホルダーとコネクションを作ったりと、さまざまな面でのサポートが受けられる。資金面のサポートは、CcHub自身もファンドを持っているのに加え、上述以外の多様なパートナー企業から資金を受けることができるようになっている。現時点で、スタートアップ約120社を支援した。
質問:
これまでに支援したスタートアップは。
答え:
CcHub が支援したスタートアップの中で有名なのは、LifeBank外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますBudgIT外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます だ。LifeBankは1人の女性のアイデアから始まり、緊急時に血液や医薬品などを迅速に病院や患者の元に届けるために開発された。CNNやグーグル・ニュースにも取り上げられ、今ではオフィスを構え、既に多くの人々の命を救っている。BudgIT は政府の活動に対する国民の関心を高めようと立ち上げられた。最初の取り組みは政府の予算をインフォグラフィックで表し、一般の人にもわかりやすく公開したことだ。今ではコミュニティー調査なども行っていて、例えば、政府の実施するさまざまな公共プロジェクトを視察し、何か疑問があれば政治家に直接質問できるようにもなっている。これもあって、政治家からの評価はあまり良くないというのは笑い話だが。
質問:
Pitch Driveの詳細は。
答え:
われわれは、ビジネスそのものの育成だけでなく、スタートアップのビジネス環境改善やコミュニティー育成に向けたイベントにも力を入れている。Pitch Driveというプロジェクトは、アフリカ中の優れたスタートアップのアイデアを持つ起業家を集めて他の大陸の都市を訪れ、アイデアを投資家に売り込んで投資を募り、それぞれの都市で出会う人々とテクノロジー環境やそれぞれの課題ついて情報交換する機会を提供するもの。Google for Startupsがスポンサーとなり、2017年に初めて欧州ツアーを開催したところ、成果は上々だった。
8月に、2回目となるPitch Driveツアーをアジアで実施する。テクノロジーの最先端を走るアジアの5都市を選定し、アフリカのスタートアップでとりわけテクノロジーに優れた10社とともに訪問することにした。最大の狙いは、アフリカのスタートアップとアジアの企業がパートナーシップを結び、両大陸間のコラボレーションを促進することだ。もちろん、スタートアップに投資してもらうことも目的だが、互いのテクノロジー環境の相互理解が深まることも期待している。今回はルワンダのICT省の協力を得ることができたので、キガリでブートキャンプを行ってから、シンガポール、深セン、香港、ソウル、東京の5都市を訪れる予定だ。東京から足を延ばし、横浜で開催されるTICADにも参加する。8月30日にジェトロと共催でピッチ・イベントを開催できることとなっており、日本の皆さんにアフリカのスタートアップを紹介できることをとても楽しみにしている。
質問:
ナイジェリアのエコシステムの現状と、未来の姿について。
答え:
私は社会課題が存在する場には、同時にチャンスもついてくると思っている。ナイジェリアには多くの社会課題がある。人的資源を例に挙げると、人口がそもそも多すぎる。あと少しでナイジェリアの人口は2億人を超える。通常なら人口が多いことはありがたいことだが、ナイジェリアではこれがまさに課題になっている。なぜなら、教育や医療などのインフラが整っていないため、本来のわれわれの人口の持つポテンシャルが生かされないためだ。
ナイジェリアのスタートアップの一番の目的は、テクノロジーをいかに駆使して、これらの「課題」を「恵み」に変えていけるかを考え抜き、実践していくことだ。ナイジェリアのインターネット環境は依然として劣悪で、他の多くの国のように全国民がオンライン環境にいるわけではない。そのため、利用者を増やすためにはアプリの軽量化や、オフラインでも動くよう改良するなど工夫が必要だ。例えば、フェイスブックも「Facebook Lite」という軽量版アプリを開発するなどしている。人々がITサービスをより使えるようにするため、創業者には自身の心の強さや創造力が問われる。
注目すべき分野はフィンテック、交通・輸送、農業、教育、そして医療だと考えている。これら分野には大きな社会課題が存在する。だからこそ、これらの分野に取り組むスタートアップには大きなポテンシャルが眠っているのだ。近ごろではそれに目を向けて、交通系のスタートアップにヤマハ発動機を含む海外の大企業が出資することも増えてきている。 さらに、ナイジェリアには大きな所得格差も存在するので、上流・中流・下流階級の全てに大きな市場がある。誰を対象としても必ず需要が見つかるのも大きな特徴ではないだろうか。
質問:
日本の企業との連携の可能性は。
答え:
ナイジェリアのスタートアップと、日本の企業との関係をより深めていきたい。今回のPitch Drive のアジアツアーには大きく期待している。これまでの日本との関係は多くが大企業同士のもので、いわゆる従来型の「パートナーシップ」だった。これからはスタートアップの時代になると思っている。だからこそ、アジアの企業にわれわれのスタートアップに関心を持ってもらえれば、ともに素晴らしいものを作っていけると考えている。
ダミロラ・テイディ氏略歴
Co-Creation Hub インキュベーション・ユニット ディレクター。英国サウサンプトン大学大学院修了(修士)。ソフトウエア・エンジニアとしての勤務、自身のスタートアップ創業などを経て現職。2019年8月のPitch Driveアジアツアーの責任者を務め、訪日予定。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。東京本部で勤務後、2015年2月よりジェトロ岡山にて地元中小企業の輸出支援を中心に担当し、2017年4月より現職。主にナイジェリア、ガーナでの日系企業ビジネス支援に従事している。