特集:アフリカ・スタートアップアフリカの魅力と医療系スタートアップの今(AAIC)(ケニア)

2019年7月12日

新興国への進出支援などを手掛けるAAICグループは、医療に特化したファンドを運営し、スタートアップへの投資を行っている。同社のケニア法人代表を務める石田宏樹氏にアフリカやケニアの魅力、医療系スタートアップの現状などについて話を聞いた(6月18日)。


石田 宏樹氏(ジェトロ撮影)
質問:
AAICの特徴と活動について。
答え:
AAICグループはアフリカにおける投資(主にファンド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 運営)と、新興国への進出支援などのコンサルティング外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を中心に行っている。アフリカでは、2013年にルワンダの農業事業に投資、2015年からケニアに拠点を構えた。2017年にはアフリカの医療に特化したヘルスケアファンドを設立、これまでに病院・専門センター、eコマースなどのヘルスケア・テクノロジー企業、サービス(医療保険など)、水・衛生分野で東アフリカを中心に計9件の投資を実行している。
質問:
アフリカに注目する理由は。
答え:
アフリカとひとくくりにしても、言語や文化が異なる54カ国から構成されるため一概には言えないが、2014年からの原油価格急落で多くの国が影響を受けたものの、その後の人口増、所得増、豊富な天然資源に支えられ、経済成長を続けている。また、アフリカ大陸全域を対象にした自由貿易協定(AfCFTA)も発効し、将来的には関税の引き下げや撤廃による貿易活性化、人の往来の増加などが期待される。これは、インドネシアやタイなどASEAN10カ国のうち5カ国のGDP総額(2兆4,000億ドル)とほぼ並ぶ規模だ。
8月には第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が横浜で開催される。日系企業の関心も高まっていると感じている。前回のTICAD6は、1993年にTICADが始まって以来初めてアフリカ(ケニアの首都ナイロビ)で開催され、29人の国家元首・首脳級を含むアフリカ53カ国、日本側は安倍晋三首相をはじめ関係省庁、日系企業・機関77社、サイドイベント出展企業を含めると200社以上が参加した。特に、ナイロビは治安面の課題も多い中、無事にこれだけの規模の会議を開催できたことは大きな成果だった。
質問:
ケニアの投資先としての魅力は。
答え:
アフリカの中でもケニアは、日系企業の進出が南アフリカ共和国に次ぎ、エジプトと並んで多い国だ(ケニア商工会の会員数は約60社)。世界銀行が各国のビジネス環境について調査しているDoing Businessでは、ケニアは2018年61位(前年は80位。ちなみに日本は39位)となった。会社設立や就労ビザ、輸入手続きなど改善すべき点がまだまだ多いと思うが、外資誘致に積極的であり、一部の業種を除いて100%会社を所有することができる(例えば、病院事業を100%所有することも可能)。東アフリカの中でもケニアを拠点にしている企業は多く、また、われわれのようなプライベート・エクイティ・ファンドの投資が2018年には東アフリカ全体で51件あったが、うち29件がケニアだった。
ケニアでは、携帯の普及は2018年に100%を超え(アクティブカスタマー数は4,660万人)、M-PESAが有名なモバイルマネーの取引額は2018年のGDPの44%〔約4兆ケニア・シリング(約4兆4,000億円、1ケニア・シリング=約1.1円)〕相当に達した。銀行口座を保有している人の72%がモバイルバンキングを利用しているというデータもあり、これはグローバルの平均25%の3倍近い。スマートフォンの普及も急速に進んでおり、私が住んでいるアパートの警備員も最近、全員がスマホに切り替わった。先日は近所のショッピングモールで安いフィーチャーフォン(ガラケー)を購入しようとしたところ、「もう取り扱っていないから、一番安いスマホ買いなよ」と言われる次第だった(値段は3,000ケニア・シリング)。ただし、安いスマホは容量が限られ、使えるアプリも限られるし、地方ではフィーチャーフォンもまだまだ使われている。携帯・モバイルマネーのインフラを使い、マイクロファイナンスやeコマースなどのサービスが展開されている。
ナイロビはテクノロジーへの対応が早い印象で、私がケニアに移った2015年には、タクシーに乗る際は毎回値段交渉の必要があったが、今ではUberが普及、市内であれば深夜に空港に行く際も不便がない。また、Uber Eatsでフードデリバリーを注文、楽天キャピタルも出資したスペインのGloboでは、食品も含めてスーパーの商品も届けてくれる。

オフィス内の様子(AAIC提供)
質問:
医療系スタートアップの中で、注目を集めている分野は。
答え:
日本でも耳にする機会が増えたかもしれないが、遠隔医療(テレメディシン)は注目している。地方の病院・クリニックのサポート(B2B)など幾つかモデルに分けられるが、B2Cでユーザーに直接コンサルテーションを提供している企業としては、Babylon Health(ルワンダではBabyl Rwandaという名称)が挙げられる。ロンドン発のスタートアップで、英国では定額を支払うと専用のアプリで24時間コンサルテーションを受けられるが、ルワンダでは通話でサービスを提供している。まず*811#で予約し、時間になると医師から電話がかかってくる。診断後、SMSで処方箋コードを受け取り、薬局で薬を購入。同社発表では、200万人以上の登録者数、48万回以上のコンサルテーションを実施した。そのほか、糖尿病や高血圧など慢性的な疾患に特化したサービスなど、アフリカ各国でサービスが立ち上がっている。ただし、上記のBabyl Rwandaもそうだが、ドナーの支援を受けて運営している企業が存在するほか、サブスクリプションモデルを導入しているもののユーザー数が伸びないなど、マーケットの成長はこれからというタイミングだ。
医薬品の流通も大きなマーケットだ。現在、輸入から卸売りまで多くのプレイヤーが乱立し、消費者の元に届くころには高額となり、薬局によって値段もばらつきがある。AAICがヘルスケアファンドを通じて投資した企業に、ケニアのMyDawaがある。同社は卸売業者を通さず、ユーザー(主にB2C)からの注文後4時間以内に直接配送する。ケニアでは偽薬やサブスタンダード(基準を満たしていない)医薬品が横行しているが、同社の商品はSMSやQRコードで正規品かどうかの確認が取れる。また、処方薬も処方箋の写真を撮って添付すれば購入できる。先進国では既存のシステムが確立されているため、成り立ち難いビジネスモデルかもしれない。
医療を含む保険分野にもさまざまなスタートアップが出ている。サブサハラ・アフリカの大半の国と同様、保険の普及率が低く、低所得者層向けにマイクロインシュアランスが開発されている。また、南アフリカ共和国では、Pineappleというpeer-to-peerモデル(ユーザー同士で保険料を拠出して支払い、残高がある場合はキャッシュバック)もある。これは先進国でも注目されているモデルで、米国のLemonadeという会社にソフトバンクが出資している。
質問:
日本企業と現地スタートアップとの連携可能性について。
答え:
スタートアップ企業はアフリカに限らずだが、人材が不足している。ファンドの立場として面談する際も、人材面での支援を求められることが多くある。人材を派遣(もしくは受け入れてトレーニング)することで、日本企業にとってもマーケットを理解する人材を育成する機会と考えている(ここで言う人材は事業の専門性に限らず、一般的な企業に求められるファイナンスやガバナンスといったものも必要とされている)。
前述した医療分野を例にとると、日系企業が蓄積してきたノウハウが役立つと考えている。ビジネスモデルや技術がそのまま使える場合もあるし、製品・サービスの開発を支援することもできる。また、アフリカが抱える課題はアジア新興国でも見られ、一定のステージに達した企業はアジアへの展開も検討している。その際、既にビジネスを展開している日本企業が橋渡し役となり得る。近年のケニアにおける日本企業と現地スタートアップとの連携事例として、2018年にSOMPOホールディングスがケニアのBitPesaに対し、国際送金サービスのデジタル化を推進するため投資を実行した。
質問:
今後の活動について。
答え:
アフリカの医療を改善するには、さまざまな分野の取り組みが必要だ。立派な病院を設立したとしても、そこで働く人、システム、機器のメンテナンス、薬、保険などに問題があれば、サービスを提供できない。広大な大地のアフリカでは、今から日本のように地方までインフラを整備することは不可能で、そのギャップを埋めるためのテクノロジーが必須。AAICが運営するアフリカヘルスケアファンドは、施設(病院・クリニック)と工場などと合わせて、前述のようなスタートアップ企業にも投資することで、アフリカの現状に即した発展を考えている。
このファンドはまだ募集しており、2021年まで引き続き投資も行う。近年はアフリカ進出に関する各種調査・販売支援・戦略策定など、コンサルティング業務への対応も増えている。

オフィス入り口でメンバーと(ジェトロ撮影)
訪問企業
企業名 AAIC ケニア法人
所在地 Pinetree Plaza 9階(Nairobi Garage Kilimani office内)
連絡先 ishida@aa-ic.com
ウェブサイト
執筆者紹介
ジェトロ・ナイロビ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。2年間にわたり企画部・地方創生推進課で全国40カ所以上ある国内事務所の運営・管理業務に従事。2018年7月から現職。主としてスタートアップ調査を担当。