加速するサプライチェーンの再編
トランプ2.0下の台湾ICT産業(2)
2026年4月21日
米国のトランプ第1次政権の2018年前後から、PC、スマートフォン、サーバーなどを含む情報通信技術(ICT)産業では、ヒューレット・パッカード(HP)やデル・テクノロジーズ(DELL)といった米国のブランド企業の方針に基づいて、電子機器製造受託(EMS)を担う台湾企業による生産拠点の分散が進められてきた。最終製品を組み立てるEMSの立地は、製品の最終製造工程で多数の部品を輸入し、完成品を最終消費地に輸出するという構造が一般的であり、各国の関税政策や経済安全保障上の影響を最も受けやすいといえる。特に2018年7月以降の米中間の関税戦争では、米国が中国に対して追加関税を賦課した。さらに、その後の段階的な対象品目の拡大を背景に、台湾EMSは顧客(ブランド企業)の方針に基づき生産の中国依存度の引き下げを進めた(2025年5月14日付地域・分析レポート「ICT産業のサプライチェーン(1)台湾企業の動向」および「ICT産業のサプライチェーン(2)台湾企業の生産能力配置の展望」参照)。
その後トランプ第2次政権の発足後は、米中間の追加関税の応酬や、米国による各国・地域に対する相互関税の発動(注1)に加え、対米投資の要請の高まり、半導体などに対する追加関税措置(注2)など国際通商秩序が変化し、EMSなど台湾企業のICTサプライチェーンに大きく影響を与えている。台湾企業の貿易構造や対外投資への影響については、前編で明らかにしたとおりだ。
本稿では、主にトランプ第2次政権以降の変化に焦点をあて、台湾の公的シンクタンクの資訊工業策進会(台湾資策会)産業情報研究所(MIC)による台湾企業のサプライチェーン動向に関する調査(注3)を基に、PC、スマートフォン、サーバーのサプライチェーンの最新動向を概観する。
ICT産業サプライチェーンにおける生産拠点の分散が加速
まず、台湾企業によるこれらICT製品の世界シェア(2025年、同年9月時点推計値)を見ると(図1参照)、スマートフォン(18.0%)を除くその他の品目では、いずれも50%を上回っており、特に人工知能(AI)サーバーでは96.8%に達するとされている。台湾企業はICT産業の製造において引き続き重要な役割を果たしているといえる。
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析からジェトロ作成
次に、これら製品の最終消費地はどこにあるのかを見てみる。MICの分析(2025年9月時点の推計値)によると、2025年の世界消費市場における主要ICT製品の国・地域別シェアは、スマートフォン(米国シェア10.4%)を除き、ノートPC(同28.6%)、デスクトップPC(同24.7%)、サーバー(同41.2%)、AIサーバー(同53.0%)のいずれにおいても米国が世界最大の消費市場となっている(図2参照)。
(2025年9月時点推計値)
注:東南アジアにはベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンが含まれる( 以下同様)。
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析からジェトロ作成
PCは中国から東南アジアへの生産移管が加速
ICTサプライチェーンの変化について、主な製品を品目別に見ていく。まず、PCでは、米系ブランド企業を主要顧客とするEMSが北米市場向けの生産ラインの移転を先行して進めてきた。HPは2025年6月末時点で北米市場向け製品の9割をタイで生産しており、2026年までにPC生産量の50%を中国から移転するとされる(注4)。DELLも米国市場向け製品の生産拠点をベトナム、インドに移管し、2027年までに米国市場向け製品の100%を中国以外で製造するとされている。台湾EMSは、こういったブランド企業の方針を受け、ベトナム、タイ、メキシコ、インドでの生産能力増強のための投資を続々と実施している。
また、生産拠点の移管にとどまらず、調達部材の「脱中国化」の動きも指摘されている。DELLは、米国市場向けの製品製造において中国メーカーが中国国内または海外で生産した半導体や、中国以外のメーカーが中国国内で製造した半導体も排除する意向とされる。
米系ブランド企業のみならず、台湾系ブランド企業も積極的に中国以外への生産移管を進めている。台湾系大手PCブランドの宏碁(エイサー)は、北米市場向け製品のサプライチェーンを中国からベトナムやタイへ徐々に移転しており、台湾系PCブランド華碩電脳(エイスース)も、米国市場向けPCとマザーボード生産ラインの90%以上を中国からタイやベトナム、インドネシアへ移管済みだと明らかにしている。
また、MICの専門家は、「PCでは表面実装(SMT)工程をどこに置くかを重視して移管が進められている」と指摘する。同専門家によると、米国の原産地認定では「実質的加工基準」が中心となっており、ノートPCの場合、コア部品がSMTによってマザーボードへ実装される工程が「実質的な加工」をもたらす工程とみなされることから、SMTが行われた国を原産地と判断することが一般的だという。他方で、米国が追加関税と40%の罰金を科すと定めた「迂回輸出(輸出)」について、現時点(2026年3月時点)では米国から具体的なルールが発表されていない。トランプ政権高官は生産や加工を行っていない第三国を原産国として偽るケースだけでなく、輸入品が第三国産の原材料を相当程度含む場合も迂回輸入として扱う意向を示しているとされている(2026年1月14日付地域・分析レポート参照)。同専門家は、当該ルールの行方次第で移管が必要な工程の基準が変わり、台湾企業のサプライチェーン戦略に大きな影響をもたらす可能性があるとの見方を示した。
MICは、台湾EMSにおける米国市場向けノートPCの生産能力の国・地域別構成比について、中国以外の生産能力が2026年の32.6%(推計値)から2029年に49.1%に上昇すると予測(2026年1月時点)。うち、東南アジアでのノートPCの生産能力が28.7%から40.9%へ上昇すると予測している(図3参照)。
(2026年1月時点推計値)
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析からジェトロ作成
スマートフォンはインドへの移管が急速に進展
次に、スマートフォンのサプライチェーンの変化も見ていく。スマートフォンにおいてもトランプ第1次政権からアップルなど一部のブランド企業がインドへの生産能力の移転目標を設定する動きが出始め、台湾企業による世界のスマートフォン製造金額に占める中国製造分の構成比は、米中摩擦以前の約9割から2024年には約7割に低下していた。その後トランプ第2次政権における関税リスクの増大を受け、生産移管が一気に加速。2026年1月時点では約6割まで低下した。
まず、米国ブランド企業の動向として、アップルのiPhone 17シリーズの全モデルが2025年にインドで組み立て生産可能となり、同社は2026年末までに米国で販売するiPhoneの組み立て生産を全面的にインドに移管する方針と報じられている。さらに2025年12月には同社がインドで一部の半導体チップの組み立てや封止(OSAT)を行うことを検討し始めたと複数のメディアが報じている。
アップルなどのブランド企業から生産委託を受ける台湾EMS・ODMは、インドでの生産能力を強化している(表参照)。2024年11月にタタグループと合弁会社を設立し、iPhoneの組み立てを受注しているペガトロンは、2025年5月にインド子会社への増資を発表。また、ホンハイは、2025年6月にスマートフォン部品の新工場設立のため、同社シンガポール法人経由で約15億ドルをインドの子会社へ再投資した(2026年2月19日付ビジネス短信参照)。このほか、コンパルもインド最大の電子部品受託業者ディクソン・テクノロジーズとの提携により、GoogleのスマートフォンPixelの生産を2024年に開始したとされている。
| 企業 | 本社 | スマートフォンの生産能力配置状況 |
|---|---|---|
| 鴻海精密工業(ホンハイ) | 台湾 |
カルナータカ州工場を拡張。2025年5月にはインドのHCLグループとホンハイ傘下のフォックスコンが合弁で新たな半導体工場を建設。 2025年6月にフォックスコンシンガポール経由で約15億ドルをインドの子会社へ再投資し、スマートフォン部品の新工場を設立する計画。 |
| 和碩聯合科技(ペガトロン) | 台湾 |
2024年11月にタタグループとの合弁会社を設立。タタグループとペガトロンの持ち株比率はそれぞれ60%と40%。共同でiPhoneの組み立てを受注。 2025年5月にインド子会社PEGATRON ELECTRONICS INDIA PRIVATE LIMITEDへの増資を発表。 |
| 仁宝電脳工業(コンパル) | 台湾 | コンパルとインドのディクソン・テクノロジーズが提携し、2024年からノイダでGoogle Pixelのハイエンドバージョンのスマートフォンを生産開始。 |
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析、各社情報、報道からジェトロ作成
MICは2029年の台湾系スマートフォン企業の生産能力配置について、中国が49%(2026年比で11ポイント減)、インドが40%(同9ポイント増)、その他が11%(同2ポイント増)と予測する(図4参照)(2026年1月時点)。
(2026年1月時点推計値)
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析からジェトロ作成
AIサーバーでは対米投資が加速
最後にサーバーの動向を整理する。サーバーは、一般サーバーとAIサーバーに大別される。一般サーバーはCPU(中央処理装置)中心の汎用(はんよう)処理に適するため、Webやメール、業務アプリケーションなどに利用されることが多い。一方、AIサーバーは並列処理が得意なGPU(画像処理装置)を多数搭載しているため、AIモデルの学習や推論といった複雑な計算処理や大規模データの高速処理に対応できる。特にAIサーバーはAI需要の爆発的な増加に加え、「主権(ソブリン)AI(注5)」が重視される中、経済安全保障の観点からも最大の需要地である米国内にAIサーバーの設置を求める動きが強まっている。サーバー(特にAIサーバー)はPCやスマートフォンと比較し、相対的に利益率が高いことから、米国による国内生産の要請に応じやすい側面も指摘される。上述のとおり、サーバー製造における台湾企業のシェアは圧倒的であり、その主要プレーヤーとしては、ホンハイ、英業達(インベンテック)、緯創資通(ウィストロン)など、PCやスマートフォンのEMS・ODMを手掛ける企業が名を連ねる。各社はより成長性が高い分野として事業ポートフォリオ全体の中でサーバー事業の比重を高めているとされる。
台湾企業はサーバー製造の中で大きく2つの役割を担う。1つは、EMSとしてDELLやヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)などの米国サーバーブランド企業から委託を受けて生産するモデルだ。この場合、完成した製品はサーバーブランド企業を通じて、その先の企業やデータセンターなどのエンタープライズ顧客へ供給される。
もう1つは、ODMおよび自社ブランドとしてMicrosoft AzureやGoogle Cloudといったクラウド事業者などと直接取引するモデルだ。近年では、コアウィーブ(CoreWeave)やラムダ(Lambda)など、いわゆる「ネオクラウド」と呼ばれるAIデータセンター事業者も台湾企業の主要顧客としての存在感を高めている(図5参照)。
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)作成・提供
台湾のサーバー製造企業は、米国クラウド事業者が世界各地でデータセンター建設を進める動きなどにあわせて、生産拠点のグローバル展開を進めてきた。MICによると、ハイエンドサーバーのOEMおよびコア部品メーカーの研究開発・製造拠点が台湾に集積している。製造プロセス別では、マザーボードの製造と実装が台湾や東南アジアに集積しており、さらに米国向け製品では工程の一部はメキシコなどへも移転している。米国と欧州では完成品の組み立てやテストなどの工程が中心となっている。足元では米国での関連投資が目立ち、「6大EMS(ホンハイ、ペガトロン、インベンテック、広達電脳(クアンタ・コンピュータ)、ウィストロン、コンパル」全社が米国に製造拠点を構えたかたちだ(2025年10月17日付ビジネス短信参照)。特に電力が豊富なテキサス州のほかカリフォルニア州などで製造拠点を設けているケースが多い。
米国の1962年通商拡大法232条に基づく追加関税リスクや米国からの要請を受けながら、台湾のサーバー製造企業はAI需要の拡大のもとで、米国内での生産能力拡大を継続するとみられる。MICの専門家は、関税リスクなどの影響度合いによっては、米国内にマザーボード工場の設置が検討される可能性もあると指摘する。台湾EMSにおけるAIサーバーの生産能力のうち、米国の生産能力は2025年の15%から2029年には30%へと倍増する見込みだ(図6)。他方、構成比の落ち込みが目立つのはメキシコで、2025年の35%から2029年には15%に低下すると予測されている。MICによれば当初メキシコ向けに予定されていた投資計画について、米国による国内生産要求の強まりを受けて、米国向けに変更されたケースがあるという。また、2026年7月に予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しも、米国市場向け製品の生産拠点として活用されてきたメキシコの位置付けおよび台湾企業のサプライチェーン戦略に影響を及ぼす可能性があると指摘された。
(2025年12月時点推計値)
出所:台湾資策会産業情報研究所(MIC)の分析からジェトロ作成
台湾EMSは米国のブランド企業の要請や追加関税リスクを受け、生産拠点の分散を加速し、PC・スマートフォンは中国から東南アジアやインドへの移転を推進。一方で、相対的に利益率が高く経済安全保障上の観点からも国内立地が重視されるAIサーバーでは、半導体製造や高付加価値部品の製造を台湾に残しつつ、最終組み立て工程を中心に米国への移管を急速に加速させている。ICT産業において台湾企業と相互補完関係を強めてきた日本企業としては、国際通商政策の動向に加え、台湾EMSの台湾内外における動きや生産能力配置の変化をタイムリーに把握することが肝要だろう。
- 注1:
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米国連邦最高裁は2月20日に、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき課した「相互関税」および「フェンタニル関税」などにつき権限を超過しているとして無効と判断した。判決の概要については2026年2月24日付ビジネス短信参照。
- 注2:
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米国は1月14日に1962年通商拡大法232条に基づき特定の半導体に対して25%の追加関税を課す大統領令を発表したが、輸入される半導体が米国内のデータセンターで使用される場合など、複数の適用除外措置が設けられている(2026年1月15日付ビジネス短信参照)。また、米国と台湾との間の通商合意について台湾行政院が1月16日に発表した内容によると、米国は台湾の半導体メーカーおよび関連製品企業に最恵国待遇を与えることを約束したとされている(2026年1月19日付ビジネス短信参照)。他方、同合意事項の中には台湾企業が半導体やAIアプリケーションなどの産業で自主的に2,500億ドルの対米投資を行うことなども含まれるとしている。
- 注3:
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ジェトロが日本台湾交流協会の協力を得て、資訊工業策進会(台湾資策会)産業情報研究所(MIC)に委託し、調査を実施した。
- 注4:
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一般的に、ブランド企業は自社のサプライチェーンの方針について、プレスリリースのようなかたちで公開はしていない。脱中国といった受け止められ方をした場合、レピュテーションリスクになるといった配慮があるものと考えられる。本稿の中で記載したブランド企業の方針については、MICに委託して作成した調査レポート「台湾EMS産業の生産拠点配置およびサプライチェーン移転に関する調査」およびMICによる分析、報道などに基づいている。
- 注5:
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データの安全性やプライバシーの保護を確保するために、各国・地域がAI関連の開発などを自国・地域内で構築し、運用できるようにすること。
トランプ2.0下の台湾ICT産業
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
富永 笑美子(とみなが えみこ) - 2019年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て、2022年10月から現職。





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