関税回避の取り締まり強めるトランプ米政権、「迂回輸入」が焦点に

2026年1月14日

米国のトランプ政権が関税回避の取り締まりに力を入れている。原産国の虚偽申告や迂回輸入など違法な関税逃れは民事、刑事両方の罰則リスクを伴う。高関税が対米ビジネスの新常態となる中、企業は不当な関税回避を疑われないよう、適法に関税削減策を実施することが重要だ。

相互関税の全面発動を経て関税負担軽減が目下の課題に

「米国第一の通商政策」を掲げる第2次トランプ政権は、2025年1月の政権発足以降、矢継ぎ早に関税措置を打ち出してきた。企業は目まぐるしく変わるルールに翻弄され、関税影響の正確な把握も困難な状況が続いた。しかし、8月に相互関税が全面発動し、各国に対する関税率はおおむね固まったといえる。対日関税は9月に、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税と1962年通商拡大法232条に基づく自動車・同部品関税の引き下げが実行された(2025年9月16日付ビジネス短信参照)。日本企業からは「関税影響は残るものの、予見可能性は高まった」との声も聞かれるようになった。これまで「様子見」せざるを得なかった企業も、本格的な影響評価や対策を検討しやすくなることが見込まれる。

企業にとって中長期的な課題は、関税措置を受けたサプライチェーンの見直しだろう。だが、短期的には関税コストをいかに少なくするかも重要だ。関税削減のためには、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の利用など各種関税の軽減措置を検討したり、自社製品が関税の適用除外品目に該当するかを精査したりできる。「ドローバック」や「ファースト・セール・ルール」など従来からある制度の利用も有効な手段となり得る(注1)。

トランプ政権、タスクフォースを通じて関税回避の取り締まり強化

関税対策を練る上で注意すべきは、トランプ政権が関税回避の取り締まりに力を入れていることだ。司法省は2025年8月、省庁横断の「貿易詐欺対策タスクフォース」を立ち上げた(2025年8月29日付司法省プレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。司法省の民事局と刑事局が、国土安全保障省傘下の米国税関・国境警備局(CBP)などと連携し、違法に関税を支払わない事業者に対する法執行を強化する狙いがある。司法省は、国内投資の財源としての関税徴収を損ない、違反者に不当な競争優位をもたらす貿易詐欺を容認しない姿勢を示した。

貿易詐欺の取り締まりでは、輸入品の関税分類や原産地の虚偽申告、課税評価額(一般的には商品の取引額)の過少申告などが対象になるとみられる。司法省はこれらの違法行為に対する執行手段として、1930年関税法、虚偽請求取締法(False Claims Act:FCA)、合衆国法典(USC)18編の3つの法的枠組みを挙げている。1930年関税法は輸入者に対し、輸入品の正確な課税評価額や関税分類を申告するための「合理的な注意義務」を課し、詐欺や過失による虚偽申告を禁じる。違反した輸入者は罰金を含む民事罰を科される可能性がある。これに対しFCAは、関税を含む米国政府への金銭の支払いを回避するために故意に虚偽情報を提出することなどを禁止し、違反者は懲罰的損害賠償などより厳しい民事制裁が科され得る。

米国の通商法に詳しい法律事務所によると、貿易詐欺の取り締まりは従来、関税法に基づく執行が多かったが、近年、FCAによる執行が増え、衣類から食品、産業資材まで幅広い分野に及んでいるという。トランプ政権も、より幅広い制裁措置が可能となるFCAを貿易詐欺の取り締まりのツールとして重視しており、2025年4月には米国のアパレル企業が、輸入した衣料品の価格を過少申告することで本来支払うべき額より低い関税額を支払ったことがFCA違反に当たるとして、訴訟を提起している(2025年4月18日付司法省プレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注2)。

違法な関税回避は民事罰に加え、直接的な刑事罰を負うリスクも伴う。司法省がタスクフォース設置に関するプレスリリースで言及したUSCの18編は、連邦政府による刑事訴追の手続きなどを規定する。貿易に関しては、虚偽の課税価格に基づく輸入(541条)や虚偽申告による輸入(542条)などに対する罰則を定めており、これらの規定が刑事罰の根拠になるとみられる。司法省のマシュー・ガレオッティ次官補代理は2025年5月、刑事局の職員宛ての覚書で、優先して取り締まるべき企業犯罪として「関税回避を含む貿易・関税詐欺」を挙げ、貿易詐欺の起訴が米国企業にとって公平な競争条件をもたらすと説明した(司法省資料参照PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(267KB))(注3)。

「迂回輸入」対策が焦点に

貿易詐欺の取り締まりで、トランプ政権が特に神経をとがらせているのが「迂回輸入(輸出)」だ。ドナルド・トランプ大統領は相互関税の発動に関する2025年7月の大統領令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、相互関税の回避を目的とした迂回輸入(注4)に40%の追加関税と罰金を科すと定めた。具体的なルールは2025年12月時点で未発表だが、政権高官は、生産や加工を行っていない第三国を原産国として偽るケースだけでなく、輸入品が第三国産の原材料を相当程度含む場合も迂回輸入として扱う意向を示している(米国通商専門誌「インサイドUSトレード」2025年8月4日)。トランプ政権は、米国の関税措置を巡るASEAN各国との通商合意にも迂回輸入対策に関する協力を盛り込んだ。

トランプ政権が迂回輸入を問題視する背景には、高関税を課されている中国の製品が第三国を経由して米国に輸入されることへの懸念がある。米国の対中関税措置は、合成麻薬フェンタニルの流入阻止を目的としたIEEPA関税が、2025年10月の米中首脳会談後に20%から10%に引き下げられた。だが、多くの中国製品には相互関税10%と1974年通商法301条に基づく追加関税25%も課されており、米国の対中関税率(貿易加重平均)は11月時点で38.6%と主要貿易相手国の中で群を抜いて高いままだ(図1参照)。関税措置を受けて対中輸入が減ったことで、米国の対中財貿易赤字額は4月以降、6カ月連続で前年同月を下回っている。その一方で、ベトナムや台湾に対する貿易赤字は6~7月に2カ月連続で過去最高を更新し、タイも9月に過去最高となった。こうした貿易構造の変化は、米国内事業者による調達先の多様化を反映している面もあるが、中国企業がこれらの国を通じて米国に迂回輸出しているとの見方も強い(注5)。

図1:米国の主要貿易相手国・地域に対する関税率(貿易加重平均)の推移
米国の平均関税率は2025年11月時点で18.5%。平均関税率を貿易相手国・地域別にみると、中国は38.6%、日本は19.9%、EUは14.0%、メキシコは11.4%、カナダは8.5%。

注:メキシコの1月、2月のデータはなし。
出所:「Tariff & Trade Data」(WTO、2025年12月8日時点)を基にジェトロ作成

付加価値割合基準に懸念

前述のとおり迂回輸入規制の詳細は未発表だが、規制が第三国から調達した原材料の付加価値割合に基づく場合、米国向け製品の原産性判定に新たな不確実性が生まれることになる。米国の非特恵の原産地規則として用いられている「実質的変更基準」では、主に製造工程における製品の特徴や用途の変更に着目して実質的変更の有無が判断されており、これまで付加価値割合は重視されてこなかったからだ(注6)。また、例えば中国企業が外国に設けた工場から調達した材料でも「中国産」と見なされるような場合には、製品の原産性を一から見直さざるを得ない。

企業は第1次トランプ政権時に先鋭化した米中対立を受け、米国向け製品の生産拠点を東南アジア諸国などに移した。しかし、最終的な製造工程は移せても、産業によっては部品や原材料の中国依存は続いている状況だ。OECDがまとめている付加価値ベースの貿易額(2025年7月31日付地域・分析レポート参照)でみると、米国の輸入に占める中国のシェアは、2017年の21.6%から2022年に20.9%と微減にとどまった。通常の輸入額ベースで中国のシェアが21.6%から16.6%に減少したのとは大きな差がある。一方、トランプ政権が迂回輸入の経由地として懸念するベトナムやメキシコからの輸入に占める中国の付加価値割合は、同じ期間に2~4ポイント以上増えた。ASEAN全体でも、4ポイント弱の上昇となっている(図2参照)。ASEANに進出する日系企業の間では、中国製部材を含む製品が迂回輸入規制の対象になることを懸念し、現地調達化を進める動きもある。一方で、サプライチェーンをさかのぼって原材料の原産国を全て把握するのは困難との声も聞かれ、新たな規制に警戒感が高まっている(2025年7月10日付地域・分析レポート参照)。

図2:米国への輸出に占める中国の付加価値割合
2017年から2022年までの米国への輸出に占める中国の付加価値割合の変化を国・地域別にみると、世界は21.6%から20.9%に減少した。一方で、ベトナムは13.4%から17.9%に、ASEANは9.1%から13.0%に、メキシコは7.5%から9.7%にそれぞれ増加した。

注:「製造業」の輸出に占める中国の付加価値割合を算出。2022年が最新データ。
出所:「Trade in Value Added(TiVA)」(OECD)を基にジェトロ作成

貿易詐欺の取り締まり強化に対し、企業は現行のルールに照らして、米国向け製品の原産国や関税分類、申告価格が適切かをあらためて確認することが重要だ。関税分類の判断に当たっては、CBPの事前教示制度も利用できるだろう(2025年11月26日付ビジネス短信参照)。また、CBPによる監査や調査に備えて、原産国や関税額の判断根拠となる資料を適切に保管する必要もある(2025年10月14日付ビジネス短信参照)。迂回輸入に関しては、CBPが2025年12月に「テロ防止のための税関・産業界パートナーシップ(CTPAT)」参加者向けのガイダンスを公開した(CBPウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ガイダンスによると、対中関税の対象品目の迂回輸入が顕著に増加しており、具体的には鉄鋼・アルミニウム製品や繊維・アパレル製品、自動車・同部品、電子機器、ソーラーパネル、農産品が多いという。CBPは、迂回輸入が疑われる兆候として「表示されている原産国と(輸入品を製造するために必要な)製造能力の不一致」「合理的なサプライチェーン上の理由がないにもかかわらず、低コスト国または自由貿易協定(FTA)締結国を経由した輸送ルート」「過去の取引パターンから逸脱した価格設定」などを挙げ、リスクのある取引に従事しないよう注意を促している。企業は従前のコンプライアンス体制を点検し、関税削減に伴う法的リスクを洗い出すことが求められている。


注1:
トランプ政権の関税措置に関する最新情報は、ジェトロウェブサイト「特集:米国関税措置への対応」を参照。関税削減のために取り得る対策については、同特集サイト掲載資料「米国における関税等を削減するための法制度・方策等PDFファイル(1.20MB)」とジェトロ調査レポート「米国の関税削減のための各種制度に関する実務、手続き、具体例、留意点等」を参照。
注2:
そのほか、第2次トランプ政権でのFCAに基づく執行事例としては、2025年3月25日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます7月23日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます7月24日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます8月19日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます12月18日付司法省プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、それぞれ関税回避に関わる罰金の支払いについて輸入者との合意が発表されている。FCAは、連邦政府だけでなく第三者(告発者)にも違反者を被告として提訴する権限を与えており、7月23日の事例を除いて全て告発者による提訴が発端となっている。
注3:
司法省刑事局は同じタイミングで、「企業の取り締まりと自主開示に関する指針(279KB)」と「企業告発者報奨金パイロットプログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」に関するガイダンスを更新した。自主開示に関する指針では、不正行為を自発的に司法省に開示するなど特定の条件を満たした企業については起訴を見送るとしている。企業告発者報奨金パイロットプログラムでは、告発対象となる行為に「貿易・関税・通関詐欺」を新たに加えた。司法省は貿易詐欺対策タスクフォースに関するプレスリリースでも、貿易詐欺の被害を受けている国内産業からの通報を奨励している。
注4:
大統領令では「Transshipment」と記載されている。Transshipmentは通常「積み替え」を意味し、米国に輸入する前に第三国など中継地で輸送手段を変更することを指すが、こうした原産国の変更を伴わない合法的な積み替えは「迂回輸入」には含まれないとみられる。
注5:
例えば、英国の調査会社キャピタル・エコノミクスによる2025年9月時点の試算によると、中国から米国への輸出減少分のうち、およそ8分の1は第三国経由で米国に間接輸出されているとされる(キャピタル・エコノミクスウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。
注6:
米国の実質的変更基準については、経済産業省作成の報告書「日米貿易協定における原産地規則PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.1MB)」が詳しい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課 リサーチ・マネージャー
甲斐野 裕之(かいの ひろゆき)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、海外調査部米州課、ニューヨーク事務所〔戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員〕を経て、2024年2月から現職。