カナダ経済を強く築くカーニー政権
2025年のカナダを振り返る(1)

2026年4月14日

2025年はカナダにとって間違いなく激動の1年だった。年初から首相が辞任を表明し、総選挙が実施された。最大貿易相手国かつ隣国の米国とは、関税を巡って応酬が続いた。こうした背景を踏まえ、米国依存からの脱却と経済的自立を目的にさまざまな政策が打ち出された。本稿前編では、カナダの総選挙を振り返りつつ、マーク・カーニー新政権による国内経済を強化するための政策や2026年の展望について概説する。後編では、米国から賦課された関税とそれに対するカナダの対抗策について、連邦政府および州レベルで概説する。

長期政権の与党自由党の支持低下と、トルドー前政権の崩壊

カナダは日本と同様に議院内閣制を敷いており、2025年10月20日までに総選挙が行われる予定だった。2015年11月から与党自由党のジャスティン・トルドー首相が政権を率いてきたが、2024年末時点で、与党支持率は著しく低下していた。

2021年頃に、自由党と保守党の支持率が拮抗(きっこう)する時期があったが、2022年7月を境に、自由党に対する支持が低下し、保守党の支持率が上昇傾向となった。この背景には、自由党が主導した移民政策による人口増加と、それに伴う住宅不足による家賃上昇、インフレ、そして反対多数の中導入された炭素税などが挙げられる。また、2022年に野党保守党党首になったピエール・ポワリエーブル氏が「カナダは壊れている(Canada is broken)」というフレーズを繰り返し用い、経済の失敗、生活費の高騰、住宅危機などの問題はトルドー政権にその責任があるとして、政権に対する強烈な批判を行ってきたことも一因と考えられる。

事実、カナダ経済は年々悪化傾向にあった。特に、2022年6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.1%上昇し、これはカナダにとって1983年1月以来の最高値だった。また、CPIから変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアインフレ指数についても、2022年11月および2023年1月に6.1%上昇と、カナダ中銀が目標としている2%を大きく超過し、物価が国民生活を圧迫していた(図参照)。

図:カナダのCPIの推移
カナダのCPIは2015年から2019年末ごろまで1~3%の間を推移していた。新型コロナウイルス禍の2020年第1四半期でマイナスを記録して以降、2022年まで全体的に上昇を続け、8.1%に到達。以後下落傾向にあるものの、2024年半ばまで2%を超えていた。コアCPIについても、最高6.1%を記録、食料品は2023年に10.4%を記録。住宅も2022年に7.4%を記録しており、カナダ全体が非常に高いインフレ率に襲われていた。

出所:カナダ統計局

深刻な住宅供給不足についても、トルドー政権下で大幅な移民の受け入れを行ったことが要因とされる(2022年11月4日付ビジネス短信参照)。移民の流入によりカナダの人口は2023年6月に4,000万人を超え、人口増加率が2022年比で2.7%増とG7の中で最高になった(2023年6月26日付ビジネス短信参照)。一方、住宅の供給数が追いつかず、2023年には過去最低の空室率を記録。家賃上昇率を通年で見ると、1990年以来最高を記録した(2024年4月8日付2026年3月2日付地域・分析レポート参照)。

また党内でもトルドー氏に対する不満が募っていた。2024年12月、閣僚のクリスティア・フリーランド元副首相兼財務相やショーン・フレーザー元住宅問題・インフラ・コミュニティ相が、トルドー氏の方針と相いれないことを理由に大臣職を辞任すると発表した。それを受けてトルドー氏は、2025年1月20日に米国でドナルド・トランプ大統領が就任することを見越し、トランプ政権に対抗できるよう12月20日に内閣改造を実施したものの(2024年12月19日付ビジネス短信参照)、支持率は改善せず、党内の統制も取れないでいた(2024年12月24日付ビジネス短信参照)。

その結果、自由党の支持率は12月23日に20.1%にまで落ち込んだ。反対に、同日の保守党の支持率は44.2%と、2倍以上のポイント差をつけた。こうした状況を踏まえ、トルドー氏は2025年1月6日、首相の職および同氏が率いる自由党党首を辞任する意向を表明し、9年にわたるトルドー政権は幕を閉じた(2025年1月7日付ビジネス短信参照)。

カーニー氏が自由党党首選を勝ち抜いた背景

党首の辞任表明を受け、自由党は残りの任期を引き継ぐ次期党首の選出に動いた。そこで党首選に躍り出たのがマーク・カーニー氏だ。同氏はオックスフォード大学セント・ピーターズ・カレッジで経済学を学び、カナダおよび英国の中央銀行(中銀)総裁を務めたほか、金融安定理事会(FSB)で議長に就任するなど、金融に強く、カナダ経済の立て直しを期待された。

時を同じくして米国では、トランプ政権が誕生した。トランプ大統領は就任前の2024年12月頃から、「カナダを米国の51番目の州にする」といった主権の侵害を良しとする過激な発言や、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA、米国ではUSMCAと呼ばれる)に対する批判を繰り返し、2025年2月にはカナダに対し関税を賦課するなど、カナダの主権と経済安全保障を脅かした。

党首選期間中に発動されたこの対カナダ関税を受け、カナダ国内では米国に対する不信感が急上昇した。加米間の関係悪化が予想される中、調査会社イプソスが実施した調査によると、「トランプ大統領と最高の取引ができそうなタフな交渉者」として最も支持されたのはカーニー氏(48%)で、ポワリエーブル氏は31%だった。

党首選にはフリーランド元副首相兼財務相、カリナ・グールド元院内総務なども出馬したが、「カナダを強く築く(Building Canada Strong)」をスローガンとしたカーニー氏への期待は高く、2025年3月9日、85.9%の票を獲得し、カナダ自由党の新総裁にカーニー氏が就任した(2025年3月10日付ビジネス短信参照)。

党首選に続く総選挙では、与党のカーニー氏と最大野党のポワリエーブル氏の対決が注目された。カーニー氏は党首選の勢いのまま総選挙に臨む一方で、トルドー政権の崩壊によって、トルドー氏を集中攻撃していたポワリエーブル氏は最大の批判材料がなくなってしまった。同氏が批判していた炭素税も、カーニー氏が就任直後に停止したこともあり、これまで行ってきた自由党に対するネガティブキャンペーンの効果が弱まった(2025年3月28日付ビジネス短信参照)。さらに、ポワリエーブル氏はトランプ氏のスローガン「米国を再び偉大な国に(Make America Great Again、以下MAGA)」およびそれに続く「米国第一主義(America First)」になぞらえるように、「カナダ第一主義(Canada First)」を掲げていたことで、かえって国民の不信を招き、感情的に争うのではなく、理知的に対応できるリーダーが望まれた。結果、カーニー氏率いる自由党が過半数の議席を獲得し、勝利した(2025年4月30日付ビジネス短信参照)。

カーニー政権による「カナダ経済を強く築く」ための政策

カーニー氏率いる自由党の総選挙における公約は「カナダ・ストロング」と題され、4本の柱で構成された。

  1. 団結:国家の団結の重要性を強調し、カナダ経済を1つにまとめることで国を強化する
  2. 安全:カナダの主権を確保することに焦点を当て、軍事力の強化、食料安全保障の向上、北極圏の安全保護など
  3. 保護:公共医療、家族支援、環境保護など、カナダの価値を守る必要性を強調
  4. 構築:強固な経済、手頃な価格の住宅、クリーンエネルギーなどを通じた気候変動対策を提唱

カーニー政権の公約を達成するべく、2025年6月26日に「ワン・カナダ・エコノミー法(One Canadian Economy act、C-5法案)」が可決された(2025年7月7日付ビジネス短信参照)。カーニー首相は同法を「自由党政策の柱で、最も重要な経済イニシアチブ」と位置付けている。同法は「自由貿易および労働者移動法(the Free Trade and Labour Mobility in Canada Act)」と「カナダ建設法(The Building Canada Act)」で構成されている(表1参照)。

表1:ワン・カナダ・エコノミー法の概要
項目 自由貿易および労働者移動法(The Free Trade and Labour Mobility in Canada Act) カナダ建設法(The Building Canada Act)
主目的 カナダ連邦内における内部貿易障壁を排除し、カナダを単一市場化することで、州間の貿易・サービス・労働移動を自由化する 国家的インフラ(国益プロジェクト)を高速で承認・建設する制度を設備
実施される内容
  • 相互承認(mutual recognition)制度を導入し、州や準州の要件に沿って生産、使用、または流通した財は、同等の連邦要件を満たしていると認められる。
  • 州や準州の要件に沿って提供されたサービスは、同等の連邦要件を満たしていると認められる。
  • 州や準州で免許または認定を受けた労働者は、連邦管轄内であれば同等の職業で働くことができる
内閣が「国益」と認定すると高速での大規模インフラプロジェクト等の計画承認が可能になる。そのための「Major Projects Office」を設置し、調整・迅速化を実施する。
発効日 2026年1月1日 2025年6月26日

出所:カナダ政府発表を基にジェトロ作成

自由貿易および労働者移動法が制定され、相互認証制度が導入されたことで、これまで州をまたぐ越境取引で求められていた連邦レベルでの許可証が不要になり、規制対応コストを低減することが可能になった。さらに、労働者の国内移動の自由化により、これまで州をまたいで働く際や、州別に資格制度が異なる場合に求められていた再認定や追加試験が不要となった。今後、労働者の移動が円滑化され、労働市場の柔軟性が高まることが期待される。カナダ政府によると、連邦、州、準州の内部貿易に対する全ての障壁が取り除かれれば、カナダ経済は2,000億カナダ・ドル(約23億4,000億円、Cドル、1Cドル=約117円)拡大できると推定されている。

また、カナダ建設法の制定により、インフラ整備速度の飛躍的向上が見込まれる。これは米国との関係悪化によってカナダ自身が必要性を実感した経済安全保障・供給網強化に寄与するほか、インフラの構築加速により、投資誘致や雇用創出も加速すると見込まれている。

また、カーニー政権は米国による対カナダ関税、アンチダンピング税(AD)および補助金相殺関税(CVD)によって影響を受けるカナダ国内産業に対する支援も複数発表している。表2はカナダ政府による主要な補助を表にした。

表2:対カナダ関税、AD/CVDによって影響を受けるカナダ国内産業に対する政府支援一覧(ーは記載なし)
施行時期 内容 詳細(ジェトロビジネス短信、地域・分析レポート)
2025年4月 自動車メーカーに対する、パフォーマンス基準の関税免除枠組みを策定し、カナダで車両を製造し続ける自動車メーカーがCUSMA準拠の米国で製造された車両を米国から輸入する際、その一定数についてカナダによる対米報復関税を免除する。同枠組みは、これらの自動車メーカーがカナダでの車両生産を継続し、計画された投資を完了することを条件としており、カナダでの生産や投資が減少した場合、関税免除車両の数も減少する。
また、カナダの製造業や食料・飲料品包装、公衆衛生や国家安全保障のために使用される製品に対し、6カ月間の一時的な関税の免除を行う。
大企業関税ローン施設(LETL)の申請も受け付ける。
2025年4月22日付ビジネス短信
2025年8月 自由貿易協定(FTA)非締結国からの特定の鉄鋼製品の輸入に対し関税割当制度(TRQ)を導入し、割当超過分に50%の追加関税を課す。
また、労働者支援として、3年間で7,000万Cドルを投じ、最大1万人のスキル向上を促進。
中小企業向けに「地域関税対応イニシアチブ(RTRI)」を通じて最大1億5,000万Cドルを配分。
大企業向けに「大企業関税融資制度(LETL)」の融資条件を緩和するとともに、最大100億Cドルの融資枠を用意。
2025年7月22日付ビジネス短信
2025年8月 針葉樹材産業保護のため、最大7億Cドルの融資保証により、企業の事業維持と再構築を支援する。
また、国内での加工と高付加価値製品の生産を推進し、拡大する針葉樹材需要に対応するために5億Cドルを拠出。また、先住民族による林業事業の成長と多様化も支援する。
公共建設でカナダ産木材の使用を優先し、契約企業に調達を義務付ける。「ビルド・カナダ・ホーム(カナダの家を建てる、Build Canada Homes)」制度により、革新的な住宅建設業者への資金支援も実施する。
持続可能な木材製品の輸出先を多様化し、成長市場での需要に対応するとともに、連邦プログラムを活用して国外展開を支援する。
6,000人以上の労働者に再訓練・所得支援を提供し、雇用保険制度も強化するために5,000万Cドルを拠出
2025年8月7日付ビジネス短信
2025年12月 FTA非締結国のTRQを2024年水準の50%から20%に、FTA締結国は100%から75%に縮小する。
風力タワーやプレハブ建築などの構造物に使用する鉄鋼派生品に一律25%の関税を発動するほか、国境サービス庁(CBSA)に順守チームを設置し、虚偽申告防止策を強化。
2025年12月3日付ビジネス短信
2026年春 住宅不足対策も兼ねて、鉄鋼や木材製品の鉄道輸送コストを50%削減する協議を開始。
公共住宅プロジェクト「ビルド・カナダ・ホーム」に約7億Cドルを投じ、カナダ産針葉樹材を優先的に使用させることで、最大1億4,000万Cドル規模の需要を創出する。
2026年3月2日付地域・分析レポート
2025~26年度 1億Cドル超を投じ、雇用の維持・創出を目的として、1人の業務を複数人で分け合う「ワークシェアリング」と訓練支援を強化し、鉄鋼や木材産業を含む最大2万6,000人の労働者を支援する。また、カナダビジネス開発銀行(BDC)の針葉樹材産業保証プログラムや関税ローン制度にそれぞれ5億Cドルを追加投入し、資金の流動性を確保するほか、森林産業向けのワンストップ窓口の設置やタスクフォースを通じて長期的な競争力維持策を検討する。
2026年2月 自動車新戦略を発表。内容は次のとおり。
連邦政府の戦略対応基金から30億Cドル、地域関税対応イニシアチブから最大1億Cドルを拠出する。
2027〜2032モデル年向けのより強力な排出基準を導入する。これにより、現行のEV可用性基準を廃止することが可能となる。
5年間にわたり23億Cドルをかけて電気自動車(EV)手頃価格プログラム(EV Affordability Program)を実施する。個人または企業が購入するバッテリー式EV(BEV)および燃料電池自動車(FCV)に対して最大5,000Cドル、プラグインハイブリッド車(PHEV)に対して最大2,500Cドルの購入またはリース奨励金を提供する。
カナダで生産・投資を行う企業への報奨として自動車関税免税枠組みを強化する。また、米国からの自動車輸入に対する報復関税を維持し、国内市場での公平な競争条件を確保する。そのほか、産業協力の強化を目的として、韓国と覚書(MOU)を締結するほか、中国との新たな戦略的パートナーシップの確立に注力する。
カナダの自動車労働者と企業を保護するべく、新しいワークシェアリング助成金を提供する。
2026年3月5日付ビジネス短信

出所:カナダ政府発表

2025年度予算「カナダ・ストロング」で産業力強化を目指す

これらの政策を実行するための予算が、2025年11月に発表された2025年会計年度(2025年4月~2026年3月)予算「カナダ・ストロングPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(11.7MB)」だ。

産業投資については特に第1章、第2章を中心にまとめられている。第1章では、ワン・カナダ・エコノミー法で掲げた国家プロジェクトの加速のほか、新規投資に対する税制優遇措置、カナダの強みの1つである人工知能(AI)に対する投資、国際的な人材の採用誘致などが含まれている。

また、第2章では、労働者の保護とカナダの戦略的産業の変革のほか、貿易の米国依存脱却を目的として、重要鉱物、エネルギー、クリーン技術、インフラ、防衛産業に対し、250億Cドルを超える予算を投じるとしている。同予算に対しては、カナダ鉱物協会、鉄鋼生産者業界、製造業・輸出業者協会も、重要鉱物戦略へのカナダ政府のコミットメントを示すものだとして歓迎する旨のプレスリリースを発表している。

特筆すべき点として、第2章で「バイ・カナディアン」政策の立ち上げが発表されている。同政策では、5年間で9,820万Cドルがカナダの公共サービス調達に費やされるほか、5年間で7,990万Cドルを中小企業調達プログラムの立ち上げに費やすとしている。インフラ支出およびその他の連邦資金にも拡大適用される。カナダ政府は、最大700億ドル規模の追加公共投資が、カナダ製の製品およびサービスを支援するとしている。特定の業種のみならず、全業種に資するよう対策を講じ、カナダの経済的独立性を構築しようとする姿勢がうかがえる。

2025年のカナダは波乱から始まり、1年を通してさまざまなリスクと向き合いつつも多様な対策を打ち出し、対応してきた。後編では2025年のカナダの外交政策を概説する。

執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
谷本 皓哉(たにもと ひろや)
2023年、ジェトロ入構。同年から現職。