カナダ政府、鉄鋼・木材産業の保護と変革に向けた新措置を発表

(カナダ、米国)

トロント発

2025年12月03日

カナダのマーク・カーニー首相は11月26日、鉄鋼および木材産業の保護と変革に向けた包括的な新措置を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

カナダ原産の鉄鋼製品には米国による追加関税措置により、50%の追加関税が発動されている。また、カナダ原産の針葉樹材は長年にわたり米国によるアンチダンピング税(AD)および補助金相殺関税(CVD)の適用(2025年4月14日記事参照)を受けている。今回の発表は、こうした状況を踏まえ、これら産業の競争力の強化と、供給網の安定化を目的に打ち出されている。

鉄鋼輸入制限の強化

カナダ政府は6月に、自由貿易協定(FTA)非締結国からの特定の鉄鋼製品の輸入に関税割当制度(TRQ、注1)を導入し、割当超過分に50%の追加関税を課す措置を施行。8月からはFTA締結国にも適用を開始し、米国・メキシコ産の鉄鋼製品はTRQの対象外とされたが、米国産の鉄鋼製品は報復関税の対象となっており、25%の追加関税が賦課される。

発表された新措置では、12月26日からFTA非締結国のTRQを2024年水準の50%から20%に、FTA締結国は100%から75%に縮小する。米国・メキシコ産はカナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA、注2)特例により免除される。また、風力タワーやプレハブ建築などの構造物に使用する鉄鋼派生品に一律25%の関税を発動するほか、国境サービス庁(CBSA)に順守チームを設置し、虚偽申告防止を強化する。製造業、食品・飲料包装、農業用途の鉄鋼製品に対する一時的な関税免除は2026年1月末で終了する。

国内資材利用促進と産業支援

カナダ政府は2026年春から、鉄鋼や木材製品の鉄道輸送コストを50%削減する協議を開始し、公共住宅プロジェクト「ビルド・カナダ・ホーム」に約7億カナダ・ドル(約777億円、Cドル、1Cドル=約111円)を投じ、カナダ産針葉樹材を優先的に使用することで最大1億4,000万Cドル規模の需要を創出する。さらに、2,500万Cドル超の政府調達案件では「バイ・カナディアン・ポリシー」を適用し、国内産資材の使用を義務化する。

加えて、2025~2026年度に1億Cドル超を投じ、ワークシェアリング(注3)と訓練支援を強化し、鉄鋼や木材産業を含む最大2万6,000人の労働者を支援する。また、カナダビジネス開発銀行(BDC)の針葉樹材産業保証プログラムや関税ローン制度にそれぞれ5億Cドルを追加投入し、資金の流動性を確保するほか、森林産業向けのワンストップ窓口の設置やタスクフォースを通じて長期的な競争力維持策を検討する。

カーニー首相は、鉄鋼と木材はカナダ経済の中核であることから「この新たなグローバル環境で競争し、勝ち抜いていくためには、国内および海外市場を獲得する態勢を整えていかなければならない。これら戦略的産業の改革と労働者の支援に向け、迅速かつ断固とした措置を講じていく」と述べた。

(注1)輸入国が特定の品目の輸入に関して、一定量までは低い関税率を適用し、その割当枠を超えた輸入には高い関税率を適用する制度。

(注2)米国ではUSMCA、メキシコではT-mecと呼ばれる。

(注3)雇用の維持・創出を目的として、1人の業務を複数人で分け合うこと。1人の労働時間の短縮にもつながる。

(井口まゆ子)

(カナダ、米国)

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