政府支援で需給バランス改善(カナダ)
住宅コスト高騰に挑む(1)

2026年3月2日

カナダでは近年、住宅コスト(注1)が高騰し、社会問題化している。移民が急激に流入したことによる人口増加や、住宅供給量の伸び悩みなどがその要因だ。

本稿前編ではまず、その要因を分析。あわせて、連邦政府および州政府が主導する規制やインセンティブを解説する。後編では、住宅産業の生産性向上を促すスタートアップ企業の動きや産官学連携の支援策を紹介。イノベーションの促進を通じた住宅事情改善への取り組みを概観する。

大都市圏を中心に、住宅コスト上昇が深刻

カナダ住宅・ローン公社(CMHC)によると2019年(新型コロナによるパンデミック前)、2ベッドルームの月額賃料は全国平均で1,077カナダ・ドル(約12万3,000円、Cドル、1Cドル=約115円)だった。それが2025年には、1,550Cドルまで上昇した。カナダ国内の都市圏でもっとも平均賃料の高いバンクーバーでは、2019年1,748Cドル→2025年2,363Cドルだ。

住宅価格の推移を示す住宅価格指標(NHPI)(注2)は、2019年10月103.3→2025年10月122.2。ここからも、大幅に上昇したことが分かる。住宅コストの上昇は、社会福祉への影響も大きい。例えば、大都市圏を中心に公営住宅の入居待ちの増加を招いている。

連邦政府の目標は、国民の住宅コスト負担を収入の30%に抑えることだ。特に住宅価格が高騰する地域では、2019年の住宅価格に回帰することを目指す構えだ。

一方CMHCは、住宅価格を2019年水準にするには、今後10年間にわたって1年あたり43~48万戸の住宅建設が必要と試算している。これは、2024年の住宅着工件数(24万5,120戸)の約2倍に当たる。野心的な数値と言えるだろう。

図1:主要都市圏別の平均月額賃料(2ベッドルーム)推移

注1:「全国平均」は、1万人以上の人口が居住する地域に所在する物件の平均値
注2:集計対象は、3戸以上の賃貸集合住宅物件。
出所:カナダ住宅・ローン公社

需給ギャップの広がりが住宅コスト高騰の大きな要因

住宅コストの高騰は、急増する需要と伸び悩む供給の不一致が大きな要因だ。需給ギャップは拡大が続く。2023年の人口1,000人当たりの住居数は、420戸台まで落ち込んだ。これは過去10年で最低だ。

需要が急増した最大の理由は、積極的な移民の受け入れだ。その背景には、パンデミック後の労働力不足がある。そのため人口が急増し、2023年に4,000万人を突破した。わずか1年後には4,100万人を超え、これに比例して住宅需要も大幅に拡大した。

政府はパンデミック中、景気後退で政策金利を大幅に引き下げていた。その結果、住宅投資が過熱した。投資目的の分譲マンション需要が増加し、住宅価格高騰の引き金になった。当地の都市計画に詳しい自治体の担当者からの情報によると、「一部の地方自治体は、財源を固定資産税に依存している。そのため、不動産投資の規制に消極的」との指摘に接した。それが、投資を加速する要因となったことになる。住宅価格の高騰は、人々の住宅購入意欲の減退を招き、賃貸住宅の需要をさらに押し上げた。他方、住宅投資ブームで、不動産ディベロッパーが利益率の高い投資家向け分譲マンションの開発を優先した影響もあるだろう。そのため、廉価な価格帯の住宅供給が減少したとも言われている。

一方、旺盛な需要とは対照的に、供給の伸びは軟調だ。理由の1つとして、一戸建ての低層住宅に用途を制限するゾーニングがある。大都市圏の一部には、現在も土地利用制限がある。すなわち、一戸建ての低層住宅用に規制があり、集合住宅の建設が難しい。建築許可手続きにかかる時間も、住宅の供給スピードに影響を与えている。カナダ建設団体(Canadian Construction Association:CCA)によると、建築許可の取得に平均で約250日かかる。これ、OECD加盟国35カ国中34番目の遅さだ。形式的な行政手続きや、紙やメールでのやり取りへの依存が原因という。

(1)住宅の需給バランスが偏っているほか、(2)土地価格の上昇や(3)住宅建設にかかる高額な開発税、(4)建設コストの増大も、住宅コストの上昇に拍車をかけている。

連邦政府:需要には規制、供給にはインセンティブで対応

連邦政府の取り組みは、(1)需要を抑えるための規制と、(2)供給を拡大するためのインセンティブに主眼をおく。

まず(1)について。住宅需要を抑制するため政府は、2024年から移民の受け入れを制限。2028年まで新規永住権付与数を38万件に設定した。2024年以前の計画値50万件を2割以上削減したかたちだ。一時滞在者(留学生など)の割合も、2024年は人口比6.5%だったが、2027年までに5%以下に引き下げる予定だ。

非居住目的の住宅需要にも対策がある。2023年1月から4年間、人口1万人以上の地域でカナダ人(注3)以外の住宅購入を禁止。外国人による投資用物件の購入を防ぐ。このほか2024年には、住宅の短期賃貸物件(注4)への転用防止を目的に、法令を順守しない物件を取り締まる活動に支出できる補助金を設けた。地方自治体を対象に公募し、補助金を供与する仕組み。その応募に対し、これまで18件を採択している。

(2)に向けては、住宅・インフラ・コミュニティー省(HICC)やCMHCが積極的に財政支援を打ち出している(表参照)。目下、需要の伸びが大きいのは賃貸住宅だ。そのため、賃貸物件の建設に対する補助金や低金利融資や税制優遇が中心になっている。

一方、開発税の引き上げ抑制やゾーニングの変更を企図した住宅インフラ建設に対する補助金、地方自治体に高度な土地利用を促す補助金などもある。供給スピードの向上を目指し、建築許可手続きの電子化に向けた取り組みや国家建築基準の見直しも始まった。

表:住宅供給の増加を目的にする主な財政支援策(補助金、税額優遇制度など)
申請を受け付け中または適用期間内のプログラム (ーは記載なし)注1:一部の州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州、プリンス・エドワード・アイランド州)では、HSTに含めて連邦税のGSTを徴収している。 注2:コープ住宅とは、居住者が共同運営するスペースで生活し、掃除や料理など雑用を分担する住宅。
連番 概要 内容 対象者 予算額
1 連邦物品サービス税(GST)〔または統一売上税(HST)の連邦税部分〕(注1)の還付 賃貸用住宅として新規建設または改修する物件について、GST(またはHSTの連邦部分)の全てを還付する。対象になるのは、2023年9月13日より後で2031年より前に建設を開始し、2036年より前に大部分の建設が終了する物件。
オンタリオ州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州、プリンス・エドワード・アイランド州では、HSTの州部分も、全てまたは一部を還付する。ただし、州によって、HSTの還付対象になる物件の建設時期の要件が異なる。
建設事業者など
2 賃貸用住宅への加速償却率の導入 賃貸用住宅の税務上の減価償却率を、4%から10%に引き上げ。
対象になるのは、2024年4月16日以後2031年より前に建設を開始し、2036年1月1日より前に使用を開始する物件。
建設事業者など
3 賃貸用アパート建設融資プログラム(ACLP) 賃貸用住宅として新たに建設または改修する建築物に対して、低コストの融資を供与する。
返済期間は最大50年間。居住スペースには建設費用に対して最大100%の借り入れが可能。最低の借入額は100万Cドル。
入居者形態(通常の賃貸アパート、高齢者向け、学生向けなど)によって、要件(建設予定の最低部屋数など)が異なる。
建設事業者、州、地方自治体、先住民族自治組織、非営利団体、コープ  住宅運営団体。いずれの団体も、一定の条件を満たしていることが必要。 550億Cドル
4 連邦土地イニシアティブ 公有地を住宅建設用に売却・リースする。
連邦政府は、のべ463ヘクタール、88件の対象地をウェブサイトで公開している(2025年12月時点)。
州、地方自治体および政府系組織、先住民族政府、コープ住宅運営団体、民間企業(建設業者や不動産開発業者など) 3億1,890万Cドル
5 コープ(Co-op)住宅展開プログラム 返済免除条件付きまたは低金利のローンプログラム。最大で、プロジェクトの費用に対して100%融資する。融資期間は、2024/2025年度 から4年間を予定。 学生・高齢者向けコープ住宅(注2)を現在運営している(または運営を予定する)非営利協同組合や、先住民族協同組合   15億Cドル
6 カナダ住宅インフラ基金 上下水道や廃棄物処理インフラの整備に対する補助金。州・準州が地方自治体におけるプロジェクトの補助を受けるためのコースと、地方自治体などが直接連邦政府から補助を受けるためのコースがある。
適用条件は、(1)人口3万人を超える自治体  が、低層住宅地域の1区画に住宅を4戸建設可能にするゾーニングを適用すること、(2)開発税の引き上げを、2024年4月2日時点の金額を基準として3年間行わないこと((2)は、人口30万人を超える自治体だけに適用)。
州・準州および地方自治体 60億Cドル
7 カナダ担保付債の発行上限金額の引き上げ 集合住宅向けの担保付債の年間発行金額を、600億Cドルから800億Cドルに引き上げる。
金融機関の担保付債の証券化を促進し、集合住宅の建設事業に対する貸し出しを増やすことを目的とする。
CHMCが認可した金融機関
申請の受け付けを終了し、運用段階に入ったプログラム
連番 概要 内容 対象者 予算額
1 住宅アクセラレーター基金 土地利用計画や許認可手続きにかかる規制の緩和や撤廃に対する補助金。対象は地方自治体。
1万人以上の都市のコースと、1万人未満の農村・先住民族のコースがある。同補助金を通して、11万2,000戸の供給増を目ざす。
地方自治体 44億Cドル
2 カナダ賃貸住宅保護基金 賃貸住宅の賃料上昇防止を目的に、物件取得を支援する補助金。
総予算額のうち、4億7,000万Cドルは、返済免除条件付き補助金。残る10億Cドルは、低金利ローンとしてコミュニティー住宅のプロジェクトに充当する予定。
基金を運営するのは、ビルド・カナダ・ホームズ(BCH)。
コミュニティー住宅運営団体 14億7,000万Cドル
3 アフォーダブル住宅基金 アフォーダブル住宅や公営住宅の新設または改修を目的とした返済免除条件付きまたは低金利のローンプログラム。  特定の提携団体 140億Cドル規模

注1:一部の州(オンタリオ州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州、ニューファンドランド・ラブラドール州、プリンス・エドワード・アイランド州)では、HSTに含めて連邦税のGSTを徴収している  。
注2:コープ住宅とは、居住者が共同運営するスペースで生活し、掃除や料理など雑用を分担する住宅。
出所:HICCとCMHCのウェブサイトからジェトロ作成

BC州ではさらなる住宅投資規制や高度な土地利用を推進

州単位でも、住宅コストの高騰に対処するための取り組みが進む。既に8州・準州(注5)が賃料規制を導入済みだ。ただし州ごとに、基準(入居者入れ替え時の賃料引き上げの可否や例外条件など)が異なる。

カナダで最も平均賃料が高いブリティッシュコロンビア(BC)州は、特に積極的な施策を展開している。まず、州独自の住宅投資規制が多い。例えば、(1)投機・空き家税や、(2)転売税(購入から730日未満の住宅を売却する場合に課税)を導入済み。(1)は、1月から税率を引き上げた。外国人や外国企業には、特定地域で不動産取得に20%追加課税している。

また、土地利用を効率化するため、一戸建て専用地域でも1つの敷地内にセカンドハウスや4戸までの集合住宅の建設を許可している。さらにバンクーバー都市圏では、鉄道全駅から200メートル以内は住宅の高さ制限を20階に緩和。供給量の強化を促す。

BC州は、供給プロセスの効率化にも意欲的だ。一例は、「BCビルズ」プログラムの立ち上げだ。当該プログラムでは、政府やコミュニティー、土地所有者が連携。(1)賃貸住宅の用地選定から、(2)事業者のマッチング、(3)低金利ローンの拠出などまで取り組んでいる。また、建築許可申請の電子化を導入も推進する。

こうした取り組みには、連邦政府も注目している。

連邦政府機関「ビルド・カナダ・ホームズ」を設立

マーク・カーニー首相は9月、アフォーダブル住宅(注6)の建設を目的とする連邦政府機関「ビルド・カナダ・ホームズ(BCH)」の設立を発表した。

BCHの取り組みには、3本の柱がある。(1)迅速なアフォーダブル住宅の建設、(2)迅速な住宅建設に向けた資本投入と革新的かつ持続可能な住宅技術の導入、(3)国産品優遇(バイカナディアン)政策に基づくカナダ産木材や資材の活用、だ。今後5年間で、予算130億Cドルを投入する見込みになっている。住宅建設を円滑化するため、BCHはカナダ土地会社(公有不動産の開発・管理を行う公営企業)を所管。既にその公有地6カ所で、アフォーダブル住宅を最大4,000戸建設する予定になっている(2025年12月時点)。さらに、モジュール住宅やマスティンバー(注7)の普及を通じ、建設期間や費用、温室効果ガスの排出削減も目標に掲げる。

BCHの特徴は、融資や補助金拠出だけでなく、低~中所得者向けを中心に住宅建設にも取り組むことだ。この点で、財政支援を活動の軸にするCMHCと異なっている。カナダの住宅全体に占めるコミュニティー住宅(注8)の割合は3.5%。OECD平均の7%を大きく下回っている。BCHの設立で、低所得者向けの住宅供給量の増加や、ホームレス化の防止にも期待が高まる。

住宅市場は賃貸中心にシフト、賃料に改善の兆し

CMHCによると、2024年に着工した賃貸用アパートの総数は8万3,561棟。前年を1万棟以上上回ったかたちだ。7万棟台前半で推移していた2021~2023年と比較して伸びが著しい。

このうち、88.4%はCMHCの融資プログラムを利用している。同公社が、賃貸住宅の建設数増加に大きく貢献していることが分かる(図2)。

図2:賃貸アパートの着工とCMHCの融資プログラム利用(件数の推移)
賃貸アパートの着工件数は2017年は35924棟。2018年は41601棟。2019年は49218棟。2020年は55028棟。2021年は70355棟。2022年は72845棟。2023年は71388棟。2024年は83561棟。

注:5戸以上を擁する賃貸集合住宅の着工件数を集計。
出所:CMHC

賃貸住宅の供給が増加した結果、2025年の分譲住宅の着工件数は賃貸住宅の半数以下にとどまった。2023年からは、賃貸住宅が分譲住宅や持ち家の件数を上回り続けている(図3)。住宅市場は、ここ数年で賃貸中心に転換したといえる。

図3:住宅種類別着工件数の推移
2019年は70813棟。2021年は89642棟。2023年は65147棟。2025年は65438棟。賃貸住宅の着工件数は、2019年は57005棟。2025年は122114棟。分譲住宅の着工件数は2019年は68592棟、2023年は77351棟、2025年は53565棟。

注1:人口1万人以上の地域で着工した件数。
注2:分譲住宅は、住居など敷地の専用部分を居住者が単独で所有し、共用部分は共同で所有、管理を行う住宅を指す。一般的には分譲マンションなどが該当する。一方、持ち家は敷地全ての所有権を居住者が持つ。
出所:CMHC

こうした取り組みを反映し、住宅コストに改善の兆しが見え始めている。

CMHCの賃貸市場レポートによると、2025年の賃貸アパートの空室率は、留学生の受け入れ制限による住宅需要の減少と新規賃貸物件の増加の影響で、3.1%。2年連続で上昇した(図4)。空室率の上昇は、賃料の軟化をもたらしており、入居者入れ替え時の2ベッドルームの平均月額賃料は、トロントやバンクーバーなど多数都市圏で前年より減少した。建設中の物件が市場に流入し、需給バランスが安定することで、賃料の改善を今後さらに期待できる。

図4:主要都市圏別2ベッドルームの空室率の推移
カナダ全体の2ベッドルームの空室率は2019年は2.2%、2020年は3.2%、2023年は1.5%、2025年は3.1%。カルガリーは2019年は3.9%、2020年は6.6%、2023年は1.4%、2025年は5%。バンクーバーは2019年は1.1%、2020年は2.6%、2021年および2022年は0.9%、2025年は3.7%。トロントは2019年は1.5%、2021年は4.6%、2023年は1.4%、2025年は3%。モントリオールは2019年は1.5%、2021年は3%、2023年は1.5%、2025年は2.9%。

注:集計対象は、3戸以上の賃貸集合住宅物件。
出所:CMHC

ここまで、住宅市場の概況と政府の取り組みについてまとめた。

住宅コストに改善の兆しが見える一方、政府が目標とする建設棟数の倍増や建設工期短縮の実現には、モジュール住宅やマスティンバーなどを活用した建設技術や生産性の向上が欠かせない。自治体による建築許可の手続きにも、人工知能(AI)を活用した手続きの効率化や時間短縮が期待できる。

後編では、こうした住宅分野のイノベーション促進に向けた産官学連携での取り組みや連邦政府による財政支援を紹介。あわせて、スタートアップ企業を中心にトレンドや投資動向を解説する。


注1:
本稿では、住宅の購入や賃借にかかる費用を「住宅コスト」とする。 本文に戻る
注2:
住宅価格の増減の推移を表す指標。2016年10月を基準値100としている。 本文に戻る
注3:
(1)カナダ国籍を有する者、(2)永住権保有者、(3)一定の例外要件を満たす一時滞在者を指す。 本文に戻る
注4:
日単位・週単位の貸し出し物件。エアビーアンドビーやバーボなどを通じた提供が典型的。 本文に戻る
注5:
BC州、マニトバ州、オンタリオ州、ケベック州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州、プリンス・エドワード・アイランド州、ユーコン準州。 本文に戻る
注6:
BCHでは、アフォーダブル住宅を「収入金額の30%未満で居住できる物件」と定義している。 本文に戻る
注7:
板材など複数の木材を組み合わせ、強度を向上した大型の木質部材。この部材により、木造建築の大型化や高層化が可能になる。 本文に戻る
注8:
コミュニティー住宅とは、市場価格よりも廉価な賃料の住宅のこと。通常、公的機関が運営資金の一部を補助している。そのため、公営住宅と呼ぶこともある。 本文に戻る

住宅コスト高騰に挑む

執筆者紹介
ジェトロ調査部米州課
小谷田 浩希(こやた ひろき)
2022年、ジェトロ入構。企画部国内事務所運営課を経て、2025年から現職。