カナダ政府、鉄鋼産業への支援策を発表
(カナダ)
トロント発
2025年07月22日
カナダ政府は7月16日、米国による関税措置への対応を目的に、鉄鋼産業を保護・強化する新たな支援策を発表した。これに先立ち、マーク・カーニー首相は7月10日、米国によるカナダへの35%の追加関税通告(2025年7月11日記事参照)について、自身のSNSで「北米におけるフェンタニルのまん延を食い止めるため、カナダは重要な進展を遂げてきた。私たちは両国の人命を守り、地域社会を安全に保つため、今後も米国との協力を継続していく」と述べたうえで、国内の貿易障壁の解消や国家的規模の経済プロジェクトの推進を通じて、自国の経済的利益を重視していると言及し(2025年7月7日記事参照)、持続可能で強靭(きょうじん)な経済基盤の構築に向けた取り組みを行っていることを強調していた。
鉄鋼産業は、カナダにおいてインフラ整備や先端製造業に不可欠な基幹産業と位置付けられている。一方で、2024年には生産量の半分以上が輸出され、そのうち90%以上が米国向けだった。このような輸出依存の構造に加え、世界的な鉄鋼の供給過剰という状況もあり、カナダの鉄鋼生産者は国際貿易の影響を非常に受けやすい立場にあった。今回発表された支援策の主な内容は次のとおり。
(1)輸入規制の強化
2025年8月1日から、関税割当制度(TRQ)を米国とメキシコを除く自由貿易協定(FTA)の締結国にも拡大し、鉄鋼製品の2024年の輸入水準を超える分には、50%の追加関税を課す。また、非FTA締結国からの無関税枠は2024年水準の50%とし、超過分には同様の関税を課す。さらに、中国製造の鋼材には25%の追加関税を導入し、供給網の透明性向上を図る「メルト・アンド・ポア(Melt and Pour)関税」措置を7月末までに実施する。
(2)産業支援
最大10億Cドル(約1,080億円、Cドル、1Cドル=約108円)規模の「戦略的イノベーション基金(SIF)」を活用した、鉄鋼企業の事業転換や国内供給網の強化を支援する。また、労働者支援として、3年間で7,000万Cドルを投じ、最大1万人のスキル向上を促進。中小企業向けには「地域関税対応イニシアチブ(RTRI)」を通じて最大1億5,000万Cドルを配分し、大企業には「大企業関税融資制度(LETL)」の融資条件を緩和するとともに、最大100億Cドルの融資枠を用意する。
(3)政府調達
大規模プロジェクトの建設において、原則としてカナダ産鋼材の使用を可能な限り義務付け、例外的な使用には厳格な証明が求められる。また、中小企業の成長支援策「ピボット・トゥ・グロウ(Pivot to Grow)」を立ち上げ、柔軟な返済条件による資金提供を行い、新市場への参入や生産性向上を後押しする。
(井口まゆ子)
(カナダ)
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