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国際的な注目度も高まるエコシステム
オーストラリアのスタートアップ・エコシステムをひもとく(1)

2020年5月26日

オーストラリア政府は、鉱物資源に依存した経済構造からの脱却を目指して、2015年12月に「全国イノベーション・科学アジェンダ」を発表し、イノベーションや起業家育成を推進してきた。それから4年以上が経過し、オーストラリアのスタートアップ・エコシステムに対する国際的な認知度が徐々に高まってきている。本シリーズでは、まだ日本では知られていない同国のスタートアップシーンを紹介する。第1回は、オーストラリアのエコシステムに対する世界的な評価とともに、大きな成功を収めたオーストラリアのスタートアップや投資動向について紹介する。


シドニーで開催されたスタートアップイベント(ジェトロ撮影)

世界のエコシステムランキングに位置付けられるシドニーとメルボルン

米国のスタートアップ・ゲノム社が2019年5月に発表した「グローバル・スタートアップ・エコシステムレポート2019」では、世界各都市のスタートアップ・エコシステムを評価・ランキングしている。この中で、シドニーが世界第23位に位置付けられた。「コネクテッドネス(連結性)」が評価されているのが特徴で、起業家がさまざまなイベントやネットワークを通じて投資家、技術者、専門家などとつながることができるとされている。また、シドニーはフィンテック〔情報通信技術(ICT)を駆使した金融商品やサービス〕やエドテック(教育とICTを融合させて生み出す新しい教育サービス)に強みがあると評価されており、こうした分野で成功するスタートアップが多数生まれている。

英国不動産会社サヴィルズによる「テックシティ・インデックス」では、事務所賃料、起業に必要な日数からコーヒーの値段に至るまで、100以上のさまざまな指標を用いて、ビジネス環境、テクノロジー環境、街の活気と健全性、人材、不動産、モビリティーの6つの分野で世界の30都市を評価している。2019年2月に発表された最新のランキングでは、メルボルンが第22位となった。生活の質の高さが特に若い世代の優秀な人材を引きつけ、グーグル、アマゾン、スラックなどの世界的なテック企業が拠点を置く、「活気に満ちたハイテク・エコシステム」として評価された。

オーストラリアのデータ関連企業2シンクナウは、毎年「イノベーションシティ(革新的都市)ランキング」を発表。これは、世界の500都市について、交通インフラ、インターネット、観光、文化など100以上の項目を評価したものだ。2019年11月に発表された最新のランキングでは、メルボルンが第11位、シドニーが第15位となった。また、ブリスベンが第48位となり、2007年の同ランキング開始以降、初めてトップ50入りを果たした。

スタートアップ数は増加傾向、ユニコーンは3社

オーストラリア政府の支援を受けているスタートアップ調査団体「スタートアップ・マスター」によると、オーストラリア国内には2018年時点で推定1,465社のスタートアップが活動しており、2015年時点の954社から大きく増加している。創業者の35.7%は(オーストラリア以外の)海外生まれで、所在地はシドニーが最も多く、42.8%のスタートアップが拠点を置いている。ブリスベン(13%)、メルボルン(12.4%)が、これに続く。スタートアップが取り組むビジネス分野は、人工知能(AI)が最も多く20.6%で、フィンテック(18.1%)、教育(14.7%)、モノのインターネット(IoT)(13.6%)、マーケティング(13.4%)、医療(11%)などが上位を占める。また、長期的にみると海外展開への志向も強く、今後1年以内のビジネスプランとしては、国内での売り上げ拡大を計画するスタートアップが64.0%と最多だが、1年超のビジネスプランでは海外市場での売り上げ拡大を計画するスタートアップが最多で51.1%となっている。

スタートアップ・マスターのレポートによると、2017年調査では1,675社のスタートアップが活動していたが、前年に比べると2018年調査ではやや減少したことになる。同団体によると、これは「アイデアによるスタートアップ・ブームが終わり、次のステージに入っている兆候」とされている。ビジネス化できずに事業を終えたスタートアップもある一方で、スケールアップに成功してスタートアップを「卒業」した、以下のような成功事例も生まれている。

  • アトラシアン(Atlassian):シドニーを拠点とするソフトウエア企業。2003年に設立され、2016年にナスダック(NASDAQ)へ上場した。現在は、日本をはじめ世界7カ国に事業展開し、4,000人の社員と15万社を超える顧客を有している。アトラシアンがオーストラリア証券取引所(ASX)に上場した場合、オーストラリアで10番目に大きい企業になると言われている。
  • アコネックス(Aconex):建設業界向けのソフトウエアを開発する企業。2000年にメルボルンで設立され、英国をはじめ東南アジアや中東など海外での事業展開を進めた。その後、2014年にASXに上場し、2018年に米国ソフトウエア大手オラクルに16億オーストラリア・ドル(約1,120億円、豪ドル、1豪ドル=約70円)で買収された。
  • アフターペイ(Afterpay):2014年にシドニーで設立されたフィンテック企業。「ショップナウ・ペイレーター(今買って、後で支払う)」をキャッチフレーズに、オーストラリアで人気の決済サービスへと成長し、2016年にASXに上場した。2017年には、地場同業のタッチコープ(Touchcorp)を買収し、アフターペイ・タッチ(Afterpay Touch)として、そのサービスを拡大している。

こうした「卒業生」に続いて、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)も注目を集めている。スタートアップやベンチャーキャピタル(VC)のデータベースCBインサイツによると、オーストラリアには3社のユニコーン企業がある。

  • キャンバ(Canva):2012年にシドニーで設立されたソフトウエア企業。デザイン制作ウェブツールを世界190カ国に展開し、北京やマニラにも拠点を持つ。2018年に4,000万米ドルの資金調達を行い、ユニコーン入りを果たした。その後も資金調達を行い、現在の評価額は30億米ドル以上と言われている。
  • エアーウォレックス(Airwallex):2015年にメルボルンで設立されたフィンテック企業。低コストの越境送金サービスを提供し、130カ国以上にネットワークを広げている。2019年に1億米ドルの資金調達に成功し、オーストラリア史上最速でユニコーンになったと言われている。現在は香港に本社を置き、世界8都市に拠点を持つ。
  • ジュードー・バンク(Judo Bank):2017年にメルボルンで設立されたフィンテック企業。「チャレンジャー・バンク」(注)と言われる新しい形態の企業で、中小企業向けの融資に特化している。2019年には、1回の資金調達ラウンドとしてオーストラリア最大規模となる4億豪ドルの資金調達に成功し、ユニコーンへと成長した。

スタートアップへの投資も堅調に拡大

オーストラリア統計局(ABS)によるベンチャーキャピタル(VC)投資およびレーターステージ(事業展開が軌道に乗り、株式公開を間近に控えた段階)のプライベート・エクイティ(PE)投資の統計によると、2019年6月末時点の投資残高は、国内総生産(GDP)の0.6%に相当する121億6,200万豪ドルに上る。2018年6月末比10.6%増で、2015年6月末の投資残高と比べると53.8%増加している。

2019年6月末時点の投資残高について、投資を受けた企業を産業別にみると、卸・小売りおよび宿泊・飲食サービス(20億8,200万豪ドル)や医療・社会保障(20億7,800万豪ドル)が多く、それぞれ投資残高の約17%を占めた。また、投資を受けた企業の所在地別にみると、ニューサウスウェールズ州(州都:シドニー)が最も多く、42.5%を占めた。次いで、ビクトリア州(州都:メルボルン)が18.8%、クイーンズランド州(州都:ブリスベン)が12.8%となった。

2018/2019年度の単年度フローでみると、同年度に行われた投資のうち、11億4,500万豪ドルは320件の新規投資として、3億700万豪ドルは既存の197件への追加投資として出資された。新規投資のうち、エクスパンションステージ(事業が軌道に乗り始めて成長しつつある時期、ミドルステージともいう)への投資が半分以上を占め、6億6,000万豪ドルと最も多かった。また、新規投資を受けた企業を産業別にみると、製造業が2億4,700万豪ドルと最も多く、次いで専門・科学技術サービス(2億1,800万豪ドル)、卸小売りおよび宿泊・飲食サービス(1億7,900万豪ドル)などが多かった。新規および追加投資を受けた企業の所在地別には、ニューサウスウェールズ州が215件と最も多く、ビクトリア州(129件)、海外(70件)、クイーンズランド州(58件)が続いた。ただし、投資額では、ビクトリア州は5億700万豪ドルとなり、ニューサウスウェールズ州(5億800万豪ドル)とほぼ変わらない規模だった。

新規および追加投資の推移をみると、2016/2017年度に投資額が大きく増加して22億4,700万豪ドルとなり、2017/2018年度には26億300万豪ドルまで拡大した(表参照)。2018/2019年度は投資額が減少したものの、投資件数は517件となり、過去5年では最大だった。

表:VC投資およびレーターステージのPE投資における新規・追加投資の推移(単位:件、百万豪ドル)
項目 2014/15年度 2015/16年度 2016/17年度 2017/18年度 2018/19年度
件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額 件数 金額
新規投資 151 1,383 145 1,207 211 1,881 298 2,089 320 1,145
既存案件への追加投資 150 415 150 338 161 366 181 514 197 307
合計 301 1,798 295 1,545 372 2,247 479 2,603 517 1,452

出所:オーストラリア統計局(ABS)

オーストラリアでスタートアップ支援を行う非営利団体スタートアップ・オース(StartupAus)によると、近年、オーストラリアのスタートアップは、借り入れ(デット)、クラウドファンディング、公開市場へのアクセスなど、さまざまな手法を活用して資金調達に成功していることが指摘されている。また、退職年金基金(スーパーアニュエーション・ファンド)がスタートアップへの投資に参入したことも、投資額が拡大した要因だと言われている。例えば、ホスピタリティ、観光、スポーツ産業の退職年金基金であるホスト・プラス(Hostplus)は、これまでに10億豪ドル以上を直接またはVCを通じて投資したとされている。さらに、オーストラリアのスタートアップに対する外国人投資家からの関心も高まっており、セコイア・キャピタルやアクセルなどの国際的に活動を行うVCを始め、マイクロソフトやセールスフォースなどの世界的なIT企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も、オーストラリアのスタートアップへ投資を行っているという。


注:
銀行業務ライセンスを取得し、当座預金、普通預金、住宅ローンなど、既存銀行と同じサービスをすべてモバイルアプリ上で提供するモデル。「ネオバンク」(銀行業務ライセンスを持たず、既存銀行のデジタルインターフェイスとして、主にモバイルを通じたオンライン上でのキャッシュフロー管理などの機能を提供するモデル)と比較される。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
住 裕美(すみ ひろみ)
2006年経済産業省入省。2019年よりジェトロ・シドニー事務所勤務(出向) 。

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