1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. オーストラリアのスタートアップ・エコシステムをひもとく(9)新型コロナ禍で注目集めるヘルステック企業

新型コロナ禍で注目集めるヘルステック企業
オーストラリアのスタートアップ・エコシステムをひもとく(9)

2021年3月26日

最終回の第9回は、前回のアグリテック分野のスタートアップに続き、新型コロナウイルス禍の中でも注目を集めているヘルステック分野のスタートアップに焦点を当てる。患者と医師の双方の負担を減らすビデオ遠隔医療のコビューと、患者の臨床試験へのアクセスを簡素化して適格なマッチングを可能としたヘルスマッチについて紹介する。

ビデオ遠隔医療で患者と医師双方の負担を削減へ

2016年にオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)内に設立され、2018年に同機構から独立したスタートアップ、コビュー(COVIU、注1)は、ビデオ遠隔医療プラットフォームを提供する。2020年12月にコビューはオーストラリアのベンチャーキャピタル(VC)エクイティベンチャーパートナーズやジャイアントリープファンド、医療投資会社のメディカルエンジェルスなどから600万オーストラリア・ドル(約5億400万円、豪ドル、1豪ドル=約84円)を調達した。

同社ウェブサイトによると、今までは、農村部や遠隔地に住む人々は医療提供者に会うために何時間も移動する必要があり、大きな負担になっていた。また、都市部でも高齢者や障害のある人にとって移動は多大な労力や時間、経費を必要としていた。ビデオによる診療を可能にすることによって、この問題を解決することができ、誰もが公平に安全に医療を受けられる。また、新型コロナ禍では医療従事者の感染リスクを抑えることにもつながる。

同社提供のプラットフォームを通して、患者は診断予約や診療、支払いができる。医師は同意書の取得や患者の症状の情報収集から始まり、遠隔の呼吸咳検査などさまざまな種類の臨床ツールを使用した診断が可能となり、処方箋も発行できる。また、1つの情報端末でメッセージを暗号化し、送信先の情報端末でしか複合できない仕組みを構築しているため、患者のプライバシーに対する安全性が担保されている。さらに、パソコンやタブレット、携帯電話などの情報端末を使用し、どこからでも患者は診断を受けられるようになっている。その際、患者はダウンロードやアカウントの作成を必要とせず、医者から送られてきた電子メールのリンクをクリックするだけで簡単にビデオに接続することができる。

患者と臨床試験を適切につなぐプラットフォーム

2017年にシドニーで設立されたスタートアップ、ヘルスマッチ(HealthMatch、注2)は、臨床試験を利用したい患者に対し、新しい治療法のより迅速で簡単な利用を可能にし、個々人に適格な臨床試験を提供するプラットフォームを提供する。シンガポールのVCのジャニアリーキャピタル(JanuaryCapital)のウェブサイトによると、ヘルスマッチは2020年12月に1,800万豪ドルの資金をシリーズBのラウンド(注3)で調達した。このラウンドには、オーストラリアのベンチャーキャピタル会社スクエアペッグ(Square Peg)やテンパスパートナーズ(Tempus Partnersm)、ジャニアリーキャピタルなどが参加した。

従来、新しい治療法を受けたい患者が臨床試験を利用するための利用過程は複雑かつ非効率で、うまくマッチングがされていないという問題点があった。同社ウェブサイトによると、プラットフォームを利用することによって、臨床試験施設は、治験を受けることに関心があって意欲的な患者とつながれるため、患者の募集スケジュールを大幅に短縮できる。また、試験に対する患者の適格性判断が施設側の大きな負担となっていたところ、このプラットフォームが患者と臨床試験の適格性データを収集・構造化してマッチングを行うため、施設側の負担が軽減される。さらに、広告や業界パートナーシップの利用など、同社の多面的な集客への取り組みにより、臨床試験施設は、従来の試験サイトや電子医療記録外に存在するより多くの患者とつながることができる。

臨床試験を利用したい患者は自分で、または医師と一緒に医療プロファイルを作成する。このプロファイルによって、同プラットフォームが各人に合う臨床試験を選別し、適性がある試験があれば通知する。患者がそれを受け入れると、試験施設などから直接連絡がくる仕組みだ。同システムには既に1,500以上の臨床試験があり、にきびや不眠症、がんなど350種類以上の症状の8万人以上の患者がいる。臨床試験への簡単なアクセスによって患者数が増えると、新しい治療法や薬が実証化される速度が上がる利点もある。

新型コロナ禍で注目を集めるヘルステックは、今までの医療体制を大きく変える可能性を秘める。ここで紹介した事例では、遠隔での気軽なビデオ診療や、臨床試験の相互マッチングなどを可能にし、患者と医療従事者双方の負担を大幅に減少させた。医療を急速に発展させるヘルステックの浸透は私達の生活をより一層豊かなものにしていくかもしれない。


注1:
コビューについては、主に同社ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を参考に執筆。
注2:
ヘルスマッチについては、同社ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますジャニアリーキャピタルのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を参考に執筆。
注3:
スタートアップが創業する段階の最初の資金調達(シードラウンド)後、1回目の資金調達をシリーズA、2回目をシリーズBと呼ぶ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
坂本 未侑(さかもと みゆ)
2015年、香川県庁入庁。2020年4月からジェトロ海外調査部アジア大洋州課。

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ