特集:主要国・地域の越境EC シンガポールの越境EC

2017年12月20日

ECメインプレーヤー

米アマゾンが2017年7月、シンガポールのEC市場に参入。同社進出により、アリババを始めとする既進出外資や地元EC事業者との競争がますます激化(アリババは2016年4月、EC事業者ラザダ[本社:シンガポール]の過半数株を10億米ドルで買収)。

アマゾンは同月27日、会員制の短時間配送サービス「プライム・ナウ」を開始。同サービス提供に先立ち、西部ジュロン・イーストに配送センター(床面積:約10万平方フィート)を設置。シンガポールで扱う品目(当初は食品から電子製品など約2万品目)は、国内各地区を最短1~2時間で配送する同国最速のサービスが売りで、競合他社と差別化が狙い。今後同社はシンガポールを拠点にASEANでのEC事業展開を図っていくとしている。

携帯アプリのダウンロード首位の座には2017年8月8日以降、プライム・ナウを抜いてウィッシュが浮上。同社は、主に中国の格安商品を携帯アプリ上で販売する米EC事業者(2011年創立)で、2016年11月にはシンガポール政府国家ファンドのテマセク・ホールディングスを中心とする投資家から資金調達をしている。

EC市場規模

インターネット環境がASEAN域内で最も整備され、クレジットカードやスマホが広く普及するシンガポールであっても、全小売りに占めるECの割合は、2.1%(2015年)にとどまる(米グーグルとテマセクの調査[2016年9月発表])。同調査によると、ASEANでのEC市場規模は2015年時点の55億ドルから2025年には878億ドルに拡大すると見込まれる。

シンガポールのEC市場に参入している日系ECサイトは(1)実店舗を持ちながらECサイトも運営するタイプ(14サイト)と、(2)ECサイトのみを運営するタイプ(12サイト)で計26ある(ジェトロ調べ)。賃料・人件費の高いシンガポールで実店舗を持たないことでコスト競争力を付け、特定商品のみを扱うことで効率性を高めている。

EC決済手段

決済手段については、VISAやマスターカードなどのクレジットカード(デビットカード含む)、ペイパル、銀行振り込み、小切手郵送、代金引換(現金・小切手)など多くの選択肢がある。このうち、クレジットカード決済が利用可能なサイトが8割以上。地場系ECサイトにヒアリングした際も、効率性の観点からクレジットカード決済のみとしている事例が複数みられた。シンガポールではクレジットカード決済のみであっても、ある程度ECサイトが成立する。

オンラインで購入したことがある人が使用した決済手段の71%がクレジットカード。ただし、35歳以上の世代では7割以上がクレジットカード決済を利用したものの、15~24歳では代金引換が59%、25~34歳ではデビットカード決済(銀行口座を利用した決済)が60%で最多であった(シンガポール情報通信メディア庁の調査[2015年])。販売対象の年齢層によっても、決済手段を使い分ける必要がありそうである。

日本からの出品に際する留意点

競争が激化するシンガポールのEC市場に新規参入するためには、「日本」を売りにするだけでは十分ではなく、先行企業との差別化、独自性、価格競争力が欠かせない。多くの日系ECサイトがシンガポールに設立されたのはこの4~5年とみられるが、同国へのEC市場(または広く小売市場)参入は決して容易ではない。2014年1月の楽天市場はシンガポールEC市場に参入したが、2016年2月末に閉鎖。株式会社アパレルウェブの関連会社AWSG PTE LTD.が運営していた複合型日本ブランドショップJRUNWAYも2016年9月に実店舗閉鎖とともにオンライン・ストアも閉鎖。また、株式会社BLUETABLEも2016年11月に日本食品販売EC専門サイトを立ち上げたが、2017年8月に撤退を発表。

シンガポールにおける越境ECの市場動向と制度

シンガポールにおける越境EC市場動向
日本からの出品を可能にしている主なECサイト
  • ラザダ(Lazada)
  • キュー・テン(Qoo10)
  • イーベイ(eBay)
  • ショッピー(Shopee)
主要ECサイトにおける販売上位品目(=売れ筋) (販売上位5品目)
  • サプリメント(ダイエット)
  • 美容関連製品(ウェットティッシュ)
  • 雑貨(ヘア・アクセサリー)
  • 美容関連製品(コラーゲンドリンク)
  • 化粧品(香水)
(出所)キュー・テン・ウェブサイトの「Best in All items (2017年8月11日時点)」
越境EC利用の際の主な決済システムの利用割合
  • クレジットカード (マスターカード、VISAなど)
  • 代金引換
  • 第三者決済(ペイパル、アリペイ[Alipay])
  • 電子マネー(Nets)
  • ネットバンキングによる送金
(出所)Lazada、Qoo10のペイメントオプション参照。
※複数のEC事業者によれば決済方法はクレジットカードが主流との回答。また、ECの決済比率(2015年)について、クレジットカードの使用率が全世代で71%との調査結果がある(以下、20ページ)。
ANNUAL SURVEY ON INFOCOMM USAGE IN HOUSEHOLDS AND BY INDIVIDUALS FOR 2015PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(710KB)
シンガポールにおけるEC(越境EC含む)に関する制度
国内規制 (1)データ制約に関する規制の有無
  • 個人情報移転の制限(個人情報保護法)について、シンガポールの同法と同程度以上の保護水準を受けるようにしなければ、個人情報を国外に移転させてはならないことを規定(第26条第1項)。
  • なお、サーバー設置義務については所管の情報メディア開発庁に照会しているものの、明確な回答を入手できていない。
(2)規制取扱商品
  • 輸入禁止品目ならびに管理品目が定められている。管理品目に関しては、所管の当局から輸入ライセンスの取得が必要となる(対象品目はシンガポール税関で確認)。販売上位品目に関し、(1)サプリメントでは、管理品目の該当なし(品目によるので保健科学庁に要確認)、(2)医薬品は管理品目(保健科学庁が所管)、(3)美容関連製品(化粧品やシャンプー)は管理品目(同庁が所管)、(4)玩具は一部が管理品目となっている。玩具のトランシーバーは情報通信庁、玩具のピストルなどは内務省所管のものがある。
(3)その他のEC販売に関連する規制
  • 電子商取引法(取引関係者の権利・義務、電子的契約の法的側面などを対象としている)
  • 消費者保護法
  • 不当表示法
  • 中古品取扱事業者法
小口配送に関する税制や輸入手続き関連制度(上のメリット)の有無と販売への影響
  • CIF価格が400Sドルを超えない非課税・非管理品目の小口貨物の場合は、財・サービス税(GST:7%)納付免除。

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ジェトロ海外調査部