グローバルサウスでの競争激化、求められる日本企業のポジショニングとは投資停滞も、8割の日系企業は黒字
南アフリカの競争環境(1)

2025年3月21日

BRICSの一角で、グローバルサウスやアフリカ諸国を牽引するリーダーとしての存在感が際立つ南アフリカ共和国(以下、南ア)。アフリカ最大級の製造業の集積地で、2025年のG20の議長国としても注目を集める。経済成長率の停滞や対内直接投資の伸び悩みに加え、電力不足による停電や、港湾や鉄道網の機能性・効率性の低さなど、インフラ面での課題も多いが、現地日系企業の業績は好調だ。ジェトロが進出日系企業を対象に実施した最新のアンケート調査「2024年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(注1)の結果によると、南アに進出している日系企業の8割以上が2024年の営業利益見込みを黒字としている。一方、地場企業や欧米企業、さらに中国企業といった競合他社が徐々に増加しており、日系企業は今後、製品の独自性や品質、営業力やサービスを武器に、現地市場での差別化を図る必要がある。

南アの競争環境の実態について、2回に分けてレポートする。初回の本稿では、南アの対内直接投資の動向と、日系企業の奮闘について解説する。

投資冷え込みも、再エネ、鉱業、自動車産業などへの投資が下支え

南アフリカ準備銀行(SARB、中央銀行)によると、2023年の南アの対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年から約58%減の641億ランド(約5,199億円、1ランド=約8.11円)だった。SARBは減少の理由として、外資親会社による南アグループ企業への株式投資が前年より減速したことを挙げた。2024年1~9月(注2)の南ア向け対内直接投資額は前年同期比38.7%減の378億ランド(約3,122億円)と、減少傾向が続いている(表1参照)。

南ア経済全体では閉塞感を抱える一方、堅調な金融市場や通信市場、透明性の高い法制度、再生可能エネルギーを含む豊富な天然資源などが下支えし、特定の産業では複数の大規模投資が行われている。特に近年は政府の重点産業のエネルギー、情報通信、鉱業、インフラ、自動車産業(2024年7月8日付地域・分析レポート参照)などへの投資案件が目立った。南ア政府は外国投資を呼び込むため、2018年から「南アフリカ投資会議」を計5回開催し、第1フェーズの2018~2023年の間に1兆5,100億ランドの投資が発表された。第2フェーズでは、その後の5年間でさらに2兆ランドの新規投資を呼び込みたいとしている(2023年4月28日付ビジネス短信参照)。

表1:南アフリカ共和国の対内直接投資額
(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ランド)
項目 2021年 2022年 2023年 2024年1~9月
対内直接投資額 594,326 151,785 64,121 37,795

出所:南アフリカ準備銀行「Quarterly Bulletin(四季報)」とCEICからジェトロ作成

世界中の主要なグリーンフィールドFDIプロジェクトをリアルタイムで捕捉するfDi Markets(注3)の登録データによると、対南アのFDIプロジェクト件数は、新型コロナウイルス禍で2020年に101件まで停滞したものの、2022年には158件まで回復し、その後は2023年に145件、2024年に148件とほぼ横ばいで推移している(図1参照)。

図1:南ア向けグリーンフィールド直接投資件数
南ア向けグリーンフィールド直接投資件数は新型コロナ禍で2020年には101件まで停滞したものの、2022年に158件まで回復し、その後は2023年に145件、2024年に148件とほぼ横ばいで推移している。

注1:発表ベース。
注2:推計値を含む。
出所:「fDi Markets(Financial Times)」を基にジェトロ作成

fDi Markets によると、2023~2024年の2年間に発表された南ア向けグリーンフィールドFDIプロジェクトは合計293件だった。国・地域別では、英国が件数(66件)と金額(44億3,000万ドル)で最大だった。特に英国からは「ビジネスサービス」(22件)、「ソフトウエア・ITサービス」(19件)への投資が多かった。投資件数では米国2位(34件)、ドイツ3位(29件)、スイス4位(23件)と続く。金額別ではドイツに加え、インド、フランス、米国が上位に位置し、再生可能エネルギーや金属・鉱物分野、自動車関連産業の大規模プロジェクト向けの投資が反映されている。英国のジェラード・エナジー・リソーシズ(Jearrard Energy Resources:JER外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は2023年7月、北ケープ州に太陽光・水素発電施設の建設にかかる30億1,000万ドルの投資を発表した。12ギガワット(GW)の太陽光から水素を製造し、年間約15億キロのグリーン水素を生産する予定だ(注4)。また、ドイツの風力発電に特化した再生可能エネルギー会社PNE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの子会社のWKNは2023年2月、イタリアの化学品メーカーのオムニアグループ(Omnia Group外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)と覚書(MoU)を締結した。このMoUは、南アでの風力と太陽光を利用したグリーンアンモニア製造に関する調査を目的としており、総額30億1,000万ドルの投資を発表した。年間10万トンのグリーンアンモニア生産を目指す(注5)。

一方、新興勢力の存在感も増してきている。インドのコングロマリット企業OPジンダルグループ(OP Jindal Group外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の子会社ジンダル・スチール・アンド・パワー(Jindal Steel & Power外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の投資案件が、2023~2024年の南ア向けFDI案件のうち、金額別で第3位となった。2023年8月に20億ドルの投資を発表し、南アのメルモス市で鉄鉱石鉱山を開発するとした。2027年の生産開始を予定しており、オマーンやインドにあるジンダルの製鉄所向けに輸出される見込みだ(注6)。また、サウジアラビアの政府系企業ACWAパワー(ACWA Power外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)が再生可能エネルギー分野で8億ドルの大規模投資を発表した。南アの北ケープ地方に新たな442メガワット(MW)の太陽光発電所の建設を計画しており、2026年に稼働予定だ(注7)。同プロジェクトは、2023~2024年の南ア向けFDI案件のうち、金額別で第4位となった(表2参照)。

表2:主要15カ国・16業種の南ア向けグリーンフィールドFDIプロジェクト件数と投資額(2023~2024年暫定値)(-は値なし)

表2:PDF版を見るPDFファイル(462KB)

順位
(金額ベース)
国名 再エネ 金属 ビジネスサービス 通信 自動車OEM ソフトウエア・ITサービス 食品・飲料 電子部品 輸送・倉庫 金融サービス 産業機器 自動車部品 紙、印刷・放送 プラスチック 不動産 鉱物 合計
(その他含む)
件数 金額
1 英国 3 1 22 19 1 1 4 4 2 2 2 1 66 4,433
2 ドイツ 4 4 3 2 1 1 4 1 3 1 1 29 3,588
3 インド 1 2 9 12 2,063
4 フランス 7 3 1 1 1 1 14 1,208
5 米国 2 9 5 8 2 2 1 2 1 34 982
6 サウジアラビア 1 1 2 821
7 カナダ 2 2 1 1 6 628
8 デンマーク 3 1 5 10 430
9 ノルウェー 2 1 3 363
10 オランダ 2 1 1 3 2 12 349
11 中国 2 1 4 2 2 11 244
12 モーリシャス 3 2 5 229
13 アラブ首長国連邦 2 1 5 206
14 日本 1 1 2 1 7 176
15 スイス 1 2 1 1 1 1 15 23 164
合計
(その他含む)
件数 25 7 61 13 8 47 11 15 23 16 12 7 1 2 18 2 293
金額 9,687 2,870 1,291 592 585 343 292 258 228 153 127 85 78 68 63 49 16,971
業種別の順位(金額ベース) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

注1:発表ベース。
注2:金額単位は100万ドル。
注3:推計値を含む。
出所:「fDi Markets(Financial Times)」を基にジェトロ作成

8割の在南ア日系企業は黒字、鉱業や機械関連などが牽引

日本の財務省統計によると、2023年の南アへの対外直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー) は87億5,000万ドル(注8)で、前年の55億2,000万ドルから6割増であった。2024年についても、速報値で58億6,000万ドル(速報値)となっている。一方、外務省の発表によると、2023年の南ア進出日系企業数は255社(2021年268社、2022年266社)となり、アフリカの中では最多だが、年々減少傾向にある。ジェトロが2024年8~9月に南アに進出する日系企業を対象に実施した「2024年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(以下、進出日系企業調査、注1)によると、撤退を考える理由としては、人件費、インフラ、黒人経済力強化政策(BEE)対策にコストがかかることに加え、国内の消費控えによる需要の減少が挙げられる。ジェトロの調べでは、主な日系企業の業種は消費財関連(22%)、輸送機器(17%)、機械関係(10%)、鉱業(8%)などが挙げられる。

進出日系企業調査の南アの結果では、2024年の営業利益見込みについて「黒字」と回答した企業は81.6%と、世界の主要国の中で最高値となった(図2参照)。投資や輸出が伸びている鉱業、鉱業に関連する建設機械やプラント関連機器、日本企業のシェアが高い自動車産業など向けの自動化関連機械といった分野が好調だった。また、運輸も運賃高騰による手数料収入増加の恩恵を受けた。さらに、南アをアフリカ大陸へのゲートウエーとして南部アフリカ諸国へ販路を拡大し、売り上げを堅調に伸ばしている事例も報告された。一方、一部の輸送機器メーカーなどでは、南ア国内市場の停滞に伴う販売不振や減産に加え、市場での中国企業の台頭もあり、厳しい競争環境にさらされている。

図2:2024年の海外進出日系企業の営業利益見込み(%)
進出日系企業調査の結果では、2024年の営業利益見込みについて「黒字」と回答した企業の割合が81.6%と、世界の主要国の中で最高値となった。

注:営業利益の発生しない駐在員事務所は設問の対象外。
出所:ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

進出日系企業調査の南アの結果によると、進出日系企業の過半数(51.5%)が、進出先での主要製品・サービスの市場シェアが2019年比で「増加」したと回答した(図3-1参照)。これは世界平均(39.3%)を大きく上回り、順調に市場でのシェアを拡大できていることがわかる。業種別では、鉱業向け機器などの販売会社や一部の輸送用機器メーカーを中心に、シェアが「増加」したとの回答が多く見られた。一方で、2019年比で市場シェアが「縮小」したとの回答も2割を超えており、シェアが増加している企業と縮小している企業の二極化が進んでいることがわかる。

また、競合相手の数が2019年比で「増加」したと回答した日系企業は、南アでは45.5%と世界平均と同等だった(図3-2参照)。業種別では、販売会社、輸送用機器メーカー・卸売業で「増加」の回答が目立った。この結果から、南ア市場でシェアを拡大する日系企業も多い中、特定の業種では競争環境の厳しさが増していることがわかる。

図3-1:進出先における競争環境の2019年からの変化
(主要製品・サービスの市場シェア、%)
南アフリカは51.5%の企業が増加と回答。

注:営業利益の発生しない駐在員事務所は設問の対象外とした。
出所:ジェトロ2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

図3-2:進出先における競争環境の2019年からの変化(競合相手の数、%)
南アフリカは45.5%の企業が増加と回答。

注:営業利益の発生しない駐在員事務所は設問の対象外とした。
出所:ジェトロ2024年度海外進出日系企業実態調査(アフリカ編)

本稿では、経済や対内投資が低成長な南ア市場で、8割の日系企業が黒字を達成していること、これは鉱業や機械関連などが牽引していることを解説した。次稿では、南アフリカ市場での競合他社の状況と、日系企業の奮闘について、現地でのインタビューを基に報告する。


注1:
ジェトロが2024年8月から9月にかけて、海外83カ国・地域の日系企業(日本側出資比率が10%以上の現地法人、日本企業の支店、駐在員事務所)1万8,186社を対象に実施したアンケート調査。7,410社から有効回答を得た(有効回答率40.7%)。うちアフリカ編では、アフリカ21カ国に拠点を有する日系企業267社を対象に実施し、223社より有効回答を得た(有効回答率83.5%)。
注2:
SARBの発表済みの速報値。
注3:
「Financial Times」が提供。グリーンフィールドFDIプロジェクトを発表ベースに基づいて捕捉。
注4:
fDi Markets、ジェラード・エナジー・リソーシズのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注5:
fDi Markets、PNEのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますオムニアグループのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注6:
fDi Markets、JINDALアフリカのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注7:
fDi Markets、ACWAパワーのプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注8:
円建てで公表された数値を四半期ごとに日銀インターバンク・期中平均レートによりドル換算。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
吉川 菜穂(よしかわ なほ)
2023年、ジェトロ入構。中東アフリカ課でアフリカ関係の調査を担当。

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