グローバルサウスでの競争激化、求められる日本企業のポジショニングとはサプライチェーン再編で受注増の企業も
ベトナムでの競争環境(2)

2025年3月13日

昨今の米中対立、地政学リスクの高まりを受け、ベトナムの生産拠点としての重要性が高まっている。日本企業のほか、中国企業、台湾企業、欧米企業も、ベトナムでの生産機能を強化している。そうしたグローバルな潮流は、現地進出日系企業の業況に、どのような影響を与えているのか。また、米国で第2期トランプ政権が始動する中で、ベトナムへの影響はどの程度見込まれるだろうか。シリーズ第2回。

対米輸出拠点として生産拠点設置が増大

ベトナム経済が好調な要因に、国内市場の成長に加え、輸出、直接投資が堅調であることが挙げられる。ベトナムの輸出総額は、2024年に過去最高額の4,055億3,200万ドルとなり、2018年に比べると約66%拡大した(図1参照)。仕向け地の割合をみると、中国、韓国、日本の比率はほぼ横ばいだが、米国向けの輸出が約3割に拡大している。ベトナムの、対米輸出拠点としての存在感が増している。

図1:ベトナムの輸出総額と主な輸出先の構成比の推移
ベトナム経済が好調な要因に、国内市場の成長に加え、輸出、直接投資が堅調であることが挙げられる。ベトナムの輸出総額は、2024年に過去最高額の4,055億3,200万ドルと、2018年から比べると約66%拡大した。仕向け地の割合をみると、中国、韓国、日本の比率は横ばいだが、米国向けの輸出が約3割に拡大している。ベトナムの、対米輸出拠点としての存在感が増している。

出所:ベトナム税関総局

米中対立や地政学リスクを見越したグローバルでのサプライチェーン再編の機運が高まる中、生産拠点の移管先としてベトナムが選ばれている。ベトナム外国投資庁によると、2024年の対内直接投資(認可ベース、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で4,914件(前年比4.6%増)、認可額は336億8,805万ドル(10.0%増)だった。業種別では製造業が最大となっており、2,151件(12.9%増)、246億8,166万ドル(4.2%増)だった(2025年1月20日付ビジネス短信参照)。

ベトナム税関総局によると、2024年の同国の輸出総額のうち、71%(2,892億500万ドル)は外資系企業による輸出だ。外国企業がベトナムに生産拠点を続々と設置した結果、米国向け輸出が増えた。米国商務省によれば、米国にとって対ベトナムの貿易赤字額は1,235億ドル(2024年)に上り、同額は中国、EU、メキシコに次ぐ規模である。第2期トランプ政権において、追加関税の対象となりうる一定のリスクがあることは留意すべきだろう(注1)。

仕事がベトナムに流れてくる中での受注増

こうしたサプライチェーン再編の動きは、企業の業況感にどのような影響を与えているのか。ジェトロが2025年1月にベトナムで実施したヒアリング調査結果(注2)より、外需を主なターゲットとしている日系企業の声を紹介する。在ベトナム日系企業は、他国で活動する日系企業に比べて、平均輸出比率が49.5%と高い。また、輸出先の内訳では、日本への輸出比率が平均で65.3%と高い傾向にある(図2参照)。業態として、日本向けに製品を納めている企業が多い。

図2:各国に所在する日系企業の平均輸出比率、輸出先に占める日本の割合
在ベトナム日系企業では、他国で活動する日系企業に比べて、平均輸出比率が49.5%と高い。また、輸出先の内訳では、日本への輸出比率が平均で65.3%と高い傾向にある。

注:カッコ内は平均値にかかる有効回答数。順に輸出比率、輸出先の内訳。
出所:ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(全世界編)」

医療機器を製造するD社は、ベトナム工場で生産した製品の99%を日本に輸出している。今後、ベトナム工場を拡張する予定で、「現在1,000人以上の従業員を雇用しているが、2025年中に約3~4割増員する」計画だ。D社にはタイ工場もあり、ほぼ同じ製品群を生産しているが、そちらには拡張余地がない。一方、ベトナムには拡張余地があることに加え、労働力が比較的豊富であることもメリットとなるという。ベトナムでは、許認可取得手続きに時間がかかり、税関手続きでのトラブルなど事業上での問題点も多いが、グループ全体としては、ベトナムを東南アジアにおける中核工場として増強する方針となっている。

電子部品を製造するE社も、主に日本向けに輸出する中小企業だ。2017年にベトナム北部に進出し、従業員数50人強で運営している。同社の社長は「日本国内では人材を集められない状態となっており、人手がかかる工程、大量生産品をベトナム工場で請け負っている」と話す。一方、当初は製品の100%を日本の親会社向けに輸出していたが、現在ではベトナム国内での販売が売り上げの25%を占めるようになった。日本の親会社向けの売上高に変化はないが、ベトナム現地法人向け(日系企業が中心)の販売が増えているのだ。

この背景には、昨今のベトナムへの生産移管の流れがある。E社は、2012年に中国にも営業所を設立していたが、近年は同国市場での販売状況が悪く、中国拠点を閉鎖した。取引先においても、中国からベトナムに生産をシフトする企業が一定数あり、中国で納めていた製品を、ベトナムでも納めてほしい、というニーズが多かった。E社の社長によると、「お客様の生産がベトナムに集まる流れ、ベトナムでの生産を増やそうとする考えがある中で、『近くで作ってくれるところが安心、安全で良い』というお声を多数いただいている。日本品質で供給してくれる企業が求められている」という。「中国にいた現地採用の日本人も、ベトナムに移ってきている。仕事と人が、中国からベトナムに流れている」と話す。

光学部品や精密部品を製造するF社も、中国工場を2021年に売却し、ベトナム工場を中心とする体制に切り替えた。主に電気機器やOA機器メーカー向けに部品を供給しており、最終製品は米国、欧州、日本と、全世界に輸出される。業界としては大きな市場拡大は期待できないが、納品先がベトナム生産に重点を置く流れにある中で、F社としても、ベトナムでの生産比率を上げていく考えだ。また、ベトナム国内で進出日系企業向けにアプローチをして、新規取引を開拓すると同時に、車載向けなど、新たな業界にもチャレンジをしていく。

今後は非日系企業への販売がカギに

他方、物流業のG社の担当者は、「日系企業の進出自体は鈍化している」と指摘する。前述の通り、2024年のベトナムに対する外国直接投資は製造業を中心に増えているのだが、日本が占める割合は7.6%にとどまっている。日本のシェアは、2017年では28.3%、2018年で31.8%であったことから、日系企業向けサービスを生業(なりわい)とする企業にとっては、「(当時に比べて)新たな取引先が出てこない」と感じるに違いない。結果として、既存の日系企業の取引を奪い合う競争が強まっている。日系企業向けにサービス提供を行う情報通信業H社の担当者も、「ベトナムへの日系企業の新規進出は、新型コロナ以前と比較すると、その勢いは弱い。既存企業による第2、第3工場の設立はあるが、新規設立に比べて取引規模の増加は小さい。このため、営業成績が伸びない」という。

反対に、H社が期待するのは、非日系企業との取引だ。「現在でも地場系、台湾系、韓国系の顧客がいる。中国企業への売り込みは厳しいかもしれないが、半導体関連企業の進出があれば、米国企業や欧州企業も狙っていきたい」と意気込む。ベトナムへの外国直接投資を3年ごとにみると、2022~2024年では年平均294億ドル増と、着実に10年間で拡大がみられ、韓国や日本の割合が減少し、代わりにシンガポール、香港、中国、台湾が増加していることが見て取れる(図3参照)。シンガポールや香港からの投資は、同国に持ち株会社や統括会社を有する第三国企業で、主に中国企業や欧米企業と推察される。

図3:ベトナムの外国直接投資(3年ごと)の平均額、投資元の割合(国・地域別)
ベトナムへの外国直接投資を3年毎にみると、2022年~2024年では年平均294億ドルと、着実に10年間で拡大がみられ、韓国や日本の割合が減少し、代わりにシンガポール、香港、中国、台湾が増加していることが見て取れる。

注:新規・拡張合計、認可ベース(出資・株式取得を除く)。
出所:ベトナム外国投資庁、ジェトロから作成

物流業のI社は、チャイナ・プラスワンの観点で中国から進出してくる「中華系企業(中国企業、台湾企業)」への販路開拓に5~6年前から注力してきた。それまでは日系企業からの受注がほぼ100%であったところ、現在では中華系からの受注が全体の3割強を占めている。同社では、中国語が話せるベトナム人と中国人の駐在員でチームを編成し、ベトナムに進出してくる中華系企業への営業を強化してきた。日用品や太陽光パネルなどをベトナムで生産し、国外へ輸出するメーカーからの物流を受注できている。

同社の担当者は、「中華系は『チャイナ・プラスワン』の観点で、まだまだ出てきている」という。ベトナムでは、EMS(電子機器受託製造)メーカーなどのアップル関連製品を製造する企業が増加している。同担当者によると、「中国企業は、シンガポールを経由して投資することが多い。中国企業が直接、ベトナムに投資するよりも、シンガポール企業として進出した方がベトナム側での抵抗感が少ないからだ」という。

一方、日系企業の進出については、「新たに大きな企業が進出するケースは少なくなってきた」と同社担当者は話す。進出するサイズ感、会社の規模感も小さい。同社顧客である日系企業もベトナムでの事業に注力しているが、「『非常に景気が良い』『大きく増産する』という話は聞かない」という。引き続き、同社の売り上げの多くを日系企業向けが占める中で、「ベトナム全体として伸びるのは間違いないが、相対的に日系企業が劣勢となっている。中国企業、韓国企業も多数進出する中で、日系製造業が勝てていけるかどうかがカギだ」と指摘する。そのため、今後も業績が右肩上がりかといえば、不透明感が高いといわざるを得ないのが実情だ。

日系企業がベトナム市場で勝てていけるかどうか。日系企業の持つ競争力とベトナムの競争環境について、次稿で考察する。


注1:
米国商務省のレポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(329KB)では、2024年の貿易赤字が大きかった国としてベトナムがハイライトされており、対ベトナム貿易赤字が過去最大であったと記載されている。トランプ政権は貿易赤字をゼロにすることを貿易政策の当初目標としているため、米国にとって貿易赤字が大きい国は関税政策の対象になりやすいと危惧される(政治専門誌「ポリティコ」2月5日)。
注2:
2025年1月7日から10日にかけて、ベトナムで事業を営む日系企業12社にヒアリングを行った。このうち10社は2022年~2024年にかけて3年連続で「事業拡大」の方針を示した企業であり、同国における投資意欲が旺盛な企業群である。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。