新車販売台数は微増で予測値に届かず、製造は好調(南ア)
中国メーカーが徐々にシェアを伸ばす

2024年7月8日

南ア自動車製造者協会(NAAMSA、National Association of Automobile Manufacturers of South Africa)は、2023年の南アの新車販売台数(乗用車と商用車の合計)が53万2,067台(前年比0.5%増)だったと発表した。2022年の予測値56万3,000台には届かず、コロナ渦前(2019年)の実績である53万6,612台をも下回った。

新車販売の中で不調だったのが、乗用車で(同4.4%減)、乗用車輸入台数も減少した(同8.1%減)。NAAMSAは、新車販売台数が伸び悩んだ主な要因として、(1)南ア経済の低迷(2023年のGDP成長率は同0.6%増にとどまった)(2)停電の発生(3)物流の混乱を指摘した(2024年3月15日付ビジネス短信参照)。そのほか、インフレ率の高止まり(年平均6%)や金利の上昇(年末時点で8.25%)も相まって、消費活動も減退したと分析した。

対照的に、商用車の販売は好調だった。小型商用車は同11.6%増、中・大型商用車は同9.1%増を記録。特に大型商用車は、2022年に更新した販売台数記録を、さらに大きく上回った(同12.8%増)。その背景には、貨物鉄道の稼働率の低下により、その代替手段として陸上トラック輸送の需要が高まったことが挙げられた。

NAAMSAは、2024年の年間新車販売台数を56万台と予測する(同5.2%増)。しかし、2024年の経済成長見通しは1.2%で、電力不足や物流混乱に対する解決は長期的な課題になっている。そのため、新車販売市場が予測の通り拡大するかは暗雲が漂う(表1参照)。

表1:国内新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
車種 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 365,247 △ 0.8 355,379 △ 2.7 246,541 △ 30.6 304,341 23.4 363,689 19.5 347,654 △ 4.4 360,000 3.6
階層レベル2の項目うち、輸入台数 266,545 △ 0.7 267,557 0.4 187,115 △ 30.1 238,848 27.6 292,898 22.6 269,305 △ 8.1 275,000 2.1
小型商用車(LCV) 159,525 △ 2.3 153,221 △ 4.0 110,912 △ 27.6 133,077 20.0 135,711 2.0 151,506 11.6 167,000 10.2
階層レベル2の項目うち、輸入台数 26,761 △ 1.5 24,226 △ 9.5 17,163 △ 29.2 24,579 43.2 32,551 32.4 29,384 △ 9.7 30,000 2.1
中・大型商用車(MCV、HCV) 27,455 4.5 28,012 2.0 22,754 △ 18.8 27,075 19.0 30,149 11.4 32,907 9.1 33,000 0.3
合計販売台数 552,227 △ 1.0 536,612 △ 2.8 380,206 △ 29.1 464,493 22.2 529,549 14.0 532,067 0.5 560,000 5.2

出所:NAAMSA

トヨタ、全体の新車販売で首位を維持

2023年の新車販売台数をメーカー別に見ると、(1)トヨタ(シェア26.8%)、(2)フォルクスワーゲン(VW)(12.7%)、(3)スズキ(9.3%)の順だった(図参照)。トヨタの首位は、44年連続になる。

図:新車販売台数市場シェア(2023年)
2023年の南アフリカの新車販売台数のメーカー別シェアは、1位がトヨタで26.8%、2位がVWで12.7%、3位がスズキで9.3%だった。4位以降は順に、現代(6%)、フォード(5.8%)、日産(5.5%)、いすゞ(4.4%)、ルノー(4.1%)、ハバル(3.7%)、起亜(3.6%)、その他18.1%だった。

出所:NAAMSA

モデル別に販売実績を見ると、上から(1) VW「ポロ・ビボ」2万3,904台(前年比12.7%増)、(2)トヨタ「カローラ・クロス」2万2,592台(同29.9%増)、(3)スズキ「スイフト」1万5,974台(同8.2%減)だった。(1)が最人気なのは、ここ数年変わらない。(3)は前年に2番手だったところ、当年は順位を落とした。また、(4)トヨタ「スターレット」が、僅差の1万5,713台(同17.8%増)で(3)を追う展開になった。

一方、小型商用車(LCV)の売れ筋は、(1)トヨタ「ハイラックス」3万7,382台(前年比13.9%増)、(2)フォード「レンジャー」2万4,618台(同29.6%増)、(3)いすゞ「D-MAX」1万8,959台(同10.0%増)だった。(1)は、LCVでは8年連続で首位を維持。ダーバンにある工場で生産され、全トヨタ車の中で最も売れ筋のモデルだ。また(3)は過去6年、順調に販売台数を伸ばしてきた。

NAAMSAによると、南アの消費者は、商用車とレジャー車、双方の用途を併せ持つ小型商用車のタイプを好む傾向が強まっているという。特に「バッキー」と呼ばれるピックアップトラックが人気という。

中型・大型商用車で、いすゞ好調

当地の中型商用車(MCV)・大型商用車(HCV)市場には、20を超えるメーカーが参入している。その中で、11年連続首位を維持するのが、いすゞだ。乗用車・商用車を合わせた全体の新車販売台数シェアでは第7位に浮上し、当年、ルノー、起亜、ハバルを抜いた。上述のトラック輸送の需要増も追い風になった。なお、いすゞの部門ごとのシェア(2023年)を見るとMCVで30.8%、HCVでは21.2%に及ぶ。同社は自動車産業が集積するデェベハ(Gqeberha、旧ポート・エリザベス)に工場を構える。

一方、HCVを超える重量の超大型商用車では、第一汽車集団(FAW/中国メーカー)が徐々にシェアを拡大しているようだ。同社は2014年、当地で生産工場を立ち上げた。


FAWの工場(ジェトロ撮影)

中国系メーカーの存在が高まる

去年と比較し気になる傾向は、中国系メーカーのシェアの拡大だ。この展開に、日系自動車メーカー各社は、年々警戒感を高めている。

FAWについては前述の通りだが、2023年の乗用車では、奇瑞汽車(チェリー)の成長が顕著だった。その総販売台数は1万6,106台(前年比で2倍)。乗用車販売のメーカー別順位に占めるシェアも、前年12位から7位に躍進した。同社のSUVブランド「Tiggo 4 Pro」が好調(前年比2.2倍の9,916台)で、理由として、(1)手ごろな価格(注1)や(2) 10年間に及ぶ長期保証などが挙げられる。2022年は長城汽車の「ハバルH6」の好調が目立ったが、当年はハバル(注2)やVWなどのSUVモデルを押さえ、チェリーがSUV部門の販売実績で3位に入った(注3)。

こうした市場拡大に伴い、チェリーは2024年1月、ハウテン州に7,000平方メートルの部品倉庫を開設し、販売代理店向けの部品供給網を強化していくと発表した。

新エネルギー車(NEV)の販売シェア1%超え

新エネルギー車(NEV)の新車販売台数は前年比65.7%増の7,746台を記録(表2参照)。台数として多くはないが、新車販売台数に占めるNEVのシェアが初めて1%を突破した。なお、このうち8割以上を占めるのが、ハイブリッド車(HEV)だった。

政府は2023年12月、電気自動車(EV)に関する白書を発表。南アのEV振興に向けたロードマップと産業支援策を示した。具体的には、新規投資や工場の拡張に関する支援が盛り込まれた。

表2: 新エネルギー車の新車販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
HEV 181 229.1 155 △ 14.4 627 304.5 4,050 545.9 6484 60.1
PHEV 72 △ 19.1 77 6.9 51 △ 33.8 122 139.2 333 173.0
BEV 154 165.5 92 △ 40.3 218 137.0 502 130.3 929 85.1
合計 407 101.5 324 △ 20.4 896 176.5 4674 421.7 7746 65.7

注:この表で言う「HEV」はハイブリッド車、「PHEV」プラグイン・ハイブリッド車、「BEV」バッテリー式電気自動車。
出所:NAAMSA

新車生産台数は、最高記録を更新

NAAMSAによると、2023年の国内生産台数(乗用車と商用車の合計)は、63万3,332台(前年比13.9%増)を記録した(表3参照)。当年は、各完成車メーカーが生産能力を改善し、好調に数を伸ばした。結果、2019年(コロナ渦以前)に記録した63万1,921台を上回った。

一方、第4四半期に限っては、各社の工場の平均稼働率は軒並み低迷した。港湾の混雑やコンテナの滞留が深刻化したことが原因だった。この混乱は当時よりは改善しているが、最大の貨物量を誇るダーバン港は今もまだ部品輸入の遅延などが発生し不安定な状況だ。電力不足は各社が設備を投資し対応しているが、南アの物流公社トランスネットが管理する港湾及び物流については、完全な解決策が現時点で見えていない。

NAAMSAはアルセロール・ミタル南アフリカが2023年11月、国内2工場を閉鎖すると発表したことも生産に影響を与えたと分析する。同社は当地の鉄鋼大手で、多くのメーカーが鋼材を調達している。そのため、今回の発表は自動車メーカーにも大きな動揺を与え、サプライチェーンの再検討などにより第4四半期の稼働率低下の一因となったと見る。なお、同社は各産業からの反発を受け、閉鎖を半年間延長する旨決定済みであるが、自動車業界は閉鎖の撤回を交渉しているという。仮に、完成車メーカーが鋼材輸入元を国外から確保せざるをえなくなった場合、今後の生産に大きな影響をもたらす可能性がある。

なお、世界の自動車生産台数ランキングを見ると、南アは22位にとどまる。2023年は、マレーシア(20位/77万4,600台)やロシア(21位/72万9,864台)を下回った。もっとも、アフリカ大陸内の自動車生産拠点としては存在感が大きく、大陸で生産される自動車全台数(117万1,422台)のうち、54.1%を占める。

表3:国内生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
車種 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年(予測)
台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比 台数 前年比
乗用車 320,383 △ 3.1 348,665 8.8 237,214 △ 32.0 239,267 0.9 309,423 29.3 336,980 8.9 355,000 5.3
階層レベル2の項目うち、輸出台数 220,889 △ 4.0 260,057 17.7 178,299 △ 31.4 173,086 △ 2.9 237,626 37.3 256,541 8.0 270,000 5.2
小型商用車(LCV) 261,086 7.8 254,417 △ 2.6 185,691 △ 27.0 232,166 25.0 215,472 △ 7.2 296,352 37.5 287,000 △ 3.2
階層レベル2の項目うち、輸出台数 128,005 20.9 125,079 △ 2.3 91,725 △ 26.7 123,210 34.3 111,659 △ 9.4 139,661 25.1 150,000 7.4
国内生産合計 610,060 1.7 631,921 3.6 446,216 △ 29.4 499,087 11.8 555,885 11.4 633,332 13.9 675,900 6.7

注:中・大型車の生産台数は発表なし。
出所:NAAMSA

輸出も好調

南アで2023年に生産された自動車のうち、約63%が輸出された。仕向け先は、主に欧州市場だ。国別には、(1)ドイツ(輸出額830億8,810万ランド)、(2)ベルギー(340億9,580万ランド)、(3)米国(279億4,400万ランド)、(4)スペイン(178億3,960万ランド)、(5)英国(146億8,360万ランド)と続く。この5カ国に向けた輸出は、いずれも前年比増を記録した。

完成車メーカーは、輸出先国の自動車市場の好調がいつまで続くか、トレンドがどのように変わっていくかに敏感になっている。

投資案件、続々と

当地の市場環境は依然として厳しいところがあるにもかかわらず、自動車生産に関して新規・追加投資の発表が相次いでいる。主な例を列挙すると、以下の通り。

  • BMW(ドイツ)
    2023年6月、ロスリン工場に42億ランド投資。プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)を生産する予定にしている(2023年7月13日付ビジネス短信参照)。
  • ステランティス・グループ(多国籍事業者、注4)
    2023年9月、東ケープ州のクーハ経済特区に30億ランドを投資。新工場を建設する。なお同社は、2030年までに中東・アフリカ地域で100万台以上を販売し、市場シェア22%を獲得することを目標に掲げている。
  • フォード(米国)
    2023年11月、PHEVの製造のため、プレトリアにある組立工場に52億ランド(2億7,200万ドル)を投資すると発表した。
  • フォルクスワーゲン(VW)グループ・アフリカ(ドイツ)
    対南ア投資を発表。ドイツ企業としては最大で、合計投資額は100億ランドを突破。新型SUVを生産予定(2024年5月8日付ビジネス短信参照)。

Auto Week併設展示会(NAAMSA主催)のステランティスブース(ジェトロ撮影)

注1:
チェリーのベストセラー「Tiggo 4 Pro」新モデルの価格は、27万9,900ランド(約249万円、1ランド=約8.9円)。
注2:
「ハバル」は中国系メーカー長城汽車のSUVブランドであるが、南アの自動車産業では、Haval Motors South Africa(通称ハバル)として表記されるのが一般的のため、メーカー名として表記している。
注3:
当地でSUVの販売実績は、トヨタの2モデルが圧倒的だ。具体的には、(1)「カローラ・クロス」が2万2,592台(前年比29.9%増)、(2)「フォーチュナー」10,384台(前年比24.8%増)だ。チェリーの「Tiggo 4 Pro」は、これに次ぐ位置に付けたことになる。
注4:
ステランティスは、自動車大手のフィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)と、「プジョー」や「シトロエン」のブランドを有するプジョーS.A.(グループPSA)による統合新会社(2021年1月7日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。