グローバルサウスでの競争激化、求められる日本企業のポジショニングとは内需型企業は日本ブランド・品質を訴求
ベトナムでの競争環境(3)
2025年3月13日
ベトナムへ進出する日本企業の製品・サービスの売り上げや市場シェアの拡大が進んでいる。堅調な経済発展を背景とする消費市場の魅力の高まりや、グローバルサプライチェーン再編によるものだ。一方、生産拠点、消費市場としてのさらなる発展への期待とともに、同国への参入プレーヤーは増加し、競争相手も多様化している。日本企業にとっての競争プレーヤーは、日系企業だけではない。地場企業や中国企業がコスト競争力を武器に存在感を増すほか、欧米企業は高いブランド力で攻勢を強めている。シリーズの第3回では、ジェトロが実施した進出日系企業へのアンケート調査を概観する。また、現地ヒアリングの結果を基に、ベトナム国内市場をターゲットにする日本企業の競争環境の変化や、主要競合プレーヤーの動向、日系企業にとって脅威となりうる要因、それに対する各社の対応策などを紹介する。
競合相手が増加する中、日系企業は市場シェア獲得
ジェトロが実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査」では、アジア大洋州地域の進出日系企業を取り巻く競争環境の変化について回答を得た。そのうち表1は、ASEAN主要国と周辺国で、主要製品・サービスの「現地市場シェア」が新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と比較して、どのように変化したかを示したものだ。ベトナム進出日系企業のうち、新型コロナ前と比較して市場シェアが拡大した企業は44.8%で、ASEANの他国と比較して比率が高かった。シリーズの第1回、2回で言及したように、これはベトナムで堅調に推移する消費市場の拡大や、地政学的緊張の高まりの顕在化に伴うサプライチェーン再編に向けたベトナムへの生産シフトに起因するものと考えられる。
一方、57.4%のベトナム進出企業が「競争相手数」が増加したと回答し、縮小はわずか0.4%だった。中長期的に拡大が期待される消費市場を目指して、多様な国・地域から企業が参入するなど、現地市場の獲得競争が厳しい実態を示す。製造業と非製造業に分類してみると、市場シェア、競争相手数ともに、製造業よりも非製造業で増加の回答率が10ポイント以上多かった。日本企業は現地販売市場でシェア拡大を達成するなど競争力を維持しているが、同時に、厳しい競争環境に直面している。
表1:進出先における主力製品・サービスの市場シェアと競争相手の変化(2019年との比較)
国・地域名 | 主力製品・サービスの市場シェア変化 | 競争相手数の変化 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
回答数 | 増加 | 横ばい | 縮小 | 回答数 | 増加 | 横ばい | 縮小 | |
ASEAN | 1,868 | 38.5 | 42.9 | 17.5 | 1,860 | 46.5 | 49.6 | 3.9 |
ベトナム | 475 | 44.8 | 39.2 | 13.9 | 472 | 57.4 | 42.2 | 0.4 |
フィリピン | 87 | 43.7 | 46.0 | 9.2 | 329 | 47.1 | 49.8 | 3.0 |
インドネシア | 328 | 42.4 | 39.6 | 17.7 | 236 | 44.1 | 52.5 | 3.4 |
マレーシア | 237 | 38.0 | 42.2 | 18.6 | 87 | 41.4 | 55.2 | 3.4 |
タイ | 386 | 27.2 | 50.8 | 22.0 | 385 | 40.5 | 54.5 | 4.9 |
インド | 223 | 60.1 | 33.6 | 5.4 | 221 | 53.8 | 44.8 | 1.4 |
中国 | 513 | 29.2 | 28.8 | 41.9 | 512 | 60.4 | 35.0 | 4.7 |
国・地域名 | 主力製品・サービスの市場シェア変化 | 競争相手数の変化 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
回答数 | 増加 | 横ばい | 縮小 | 回答数 | 増加 | 横ばい | 縮小 | |
製造業 | 254 | 40.2 | 41.3 | 15.7 | 252 | 50.0 | 50.0 | 0.0 |
非製造業 | 221 | 50.2 | 36.7 | 11.8 | 220 | 65.9 | 33.2 | 0.9 |
出所:2024年度海外進出日系企業実態調査
主な競争相手は地場、日本企業、周辺国と比較して中国企業は低い水準
次に、進出日系企業にとって一番の競争相手はどの国籍の企業かを確認する(表2)。ASEAN全体では、地場企業が一番の競争相手と回答した企業比率が36.1%と最も高かった。ただし、在中国(80.3%)や在インド(46.8%)の各進出日系企業による回答と比較すると、ASEANでは地場企業を競争相手とする企業比率は相対的に低い。一方、それ以外の日本企業(27.0%)、中国企業(21.4%)の比率が競争相手として相対的に高かった。ベトナム進出日系企業は、地場企業(39.6%)や日本企業(25.3%)を競争相手とする比率が相対的に高く、中国企業(18.0%)を一番の競争相手として選択した比率は低かった。中国企業を一番の競争相手と回答する企業比率は、タイやマレーシアで25%を超えるなど高かった。
ベトナム進出日系企業の競争相手を業種別にみると、地場企業を競争相手とする企業の比率は主に、製造業(32.8%)よりも非製造業(46.6%)で高く、とりわけ建設業(69.2%)、運輸業(53.8%)、情報通信業(65.4%)などが目立った。日本企業を競争相手と回答した企業比率が高いのは、製造業(22.3%)ではプラスチック製品(38.5%)、輸送機器部品(48.1%)、非製造業(28.5%)では事業関連サービス(59.5%)などだった。中国企業を競争相手とするのは繊維・衣服(46.2%)、電気・電子機器部品(36.8%)、販売会社(37.5%)などだった。このうち販売会社は、韓国企業(16.7%)、米国企業(12.5%)、欧州企業(8.3%)を選択する比率が日本企業よりも高いことから、商品を輸入してベトナム市場へ投入する進出日系企業にとって、これらの国・地域の企業による商品が競合相手になっているようだ。
項目 | 回答数 |
地場 企業 |
日本 企業 |
中国 企業 |
台湾 企業 |
韓国 企業 |
欧州 企業 |
米国 企業 |
その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全 体 | 505 | 39.6 | 25.3 | 18.0 | 3.4 | 5.3 | 3.2 | 2.4 | 2.8 |
大企業 | 261 | 35.2 | 27.2 | 18.4 | 3.4 | 4.6 | 5.0 | 2.3 | 3.9 |
中小企業 | 244 | 44.3 | 23.4 | 17.6 | 3.3 | 6.1 | 1.2 | 2.5 | 1.6 |
製造業 | 256 | 32.8 | 22.3 | 24.6 | 5.5 | 6.6 | 4.7 | 1.2 | 2.3 |
食料品 | 20 | 65.0 | 0.0 | 10.0 | 0.0 | 10.0 | 5.0 | 0.0 | 10.0 |
繊維・衣服 | 13 | 15.4 | 23.1 | 46.2 | 0.0 | 7.7 | 7.7 | 0.0 | 0.0 |
化学・医薬 | 18 | 33.3 | 0.0 | 27.8 | 5.6 | 0.0 | 27.8 | 0.0 | 5.5 |
プラスチック製品 | 26 | 30.8 | 38.5 | 23.1 | 0.0 | 3.8 | 0.0 | 0.0 | 3.8 |
鉄・非鉄・金属 | 58 | 41.4 | 15.5 | 22.4 | 8.6 | 10.3 | 0.0 | 1.7 | 0.1 |
一般機械 | 16 | 37.5 | 12.5 | 25.0 | 6.3 | 0.0 | 12.5 | 0.0 | 6.2 |
電気・電子機器部品 | 19 | 15.8 | 31.6 | 36.8 | 5.3 | 10.5 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
輸送機器部品 | 27 | 14.8 | 48.1 | 22.2 | 11.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 3.8 |
非製造業 | 249 | 46.6 | 28.5 | 11.2 | 1.2 | 4.0 | 1.6 | 3.6 | 3.3 |
建設業 | 26 | 69.2 | 19.2 | 11.5 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
運輸業 | 26 | 53.8 | 34.6 | 0.0 | 0.0 | 3.8 | 3.8 | 3.8 | 0.2 |
情報通信業 | 26 | 65.4 | 26.9 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 7.7 | 0.0 |
商社・卸売業 | 64 | 35.9 | 31.3 | 23.4 | 1.6 | 6.3 | 1.6 | 0.0 | 0.0 |
販売会社 | 24 | 12.5 | 8.3 | 37.5 | 4.2 | 16.7 | 8.3 | 12.5 | 0.0 |
事業関連サービス | 37 | 29.7 | 59.5 | 0.0 | 2.7 | 0.0 | 0.0 | 8.1 | 0.0 |
注:主要産業を抜粋。
出所:2024年度海外進出日系企業実態調査
日本企業はコストや価格以外の強みアピール
進出日系企業が地場や中国、台湾、韓国、欧州、米国など非日系企業を一番の競争相手とする場合、これら企業のどのような特徴や要因をその強さや脅威と捉えているのだろうか。選択項目として挙げた製品・サービスの「コスト競争力」「技術」「開発」「ブランド・知名度」や、「経営体制・方針」などのうち、「コスト競争力」を挙げたベトナム進出日系企業は75.6%に達した(表3)。とりわけ競争相手として中国企業(97.8%)、台湾企業(94.1%)、地場企業(87.5%)と回答した場合、同項目を選択する企業比率が極めて高い。これらの国・地域籍の企業、あるいは商品・サービスとの間で、コストや価格競争が激化していることを示唆する。「コスト競争力」以外では、台湾企業、韓国企業が「意思決定の早さ」を武器に、スピード感を持った現地顧客対応や現地事情への柔軟な対応力で強みがあるようだ。一方、欧州企業、米国企業は「ブランド・知名度」や「技術力」で攻勢をかけている。デジタル技術やマーケティング戦略で強みを発揮するほか、高品質製品の分野で競争力を持っていることが示唆された。
企業の国・地域籍 | 回答数 | コスト競争力 | 意思決定の早さ | 販売ネットワーク | ブランド・知名度 | 営業力の高さ(広報戦略、顧客への提案など) | 製品・サービスの技術力 | 現地企業との連携・パートナリング |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 505 | 75.6 | 31.1 | 24.8 | 24.4 | 23.0 | 20.0 | 19.4 |
地場企業 | 200 | 87.5 | 34.0 | 29.0 | 20.5 | 22.0 | 5.0 | 22.0 |
日本企業 | 128 | 49.2 | 10.2 | 21.1 | 30.5 | 33.6 | 39.8 | 19.5 |
中国企業 | 91 | 97.8 | 47.3 | 12.1 | 1.1 | 6.6 | 14.3 | 14.3 |
台湾企業 | 17 | 94.1 | 58.8 | 11.8 | 11.8 | 11.8 | 23.5 | 11.8 |
韓国企業 | 27 | 66.7 | 59.3 | 44.4 | 33.3 | 37.0 | 25.9 | 18.5 |
欧州企業 | 16 | 31.3 | 25.0 | 43.8 | 75.0 | 18.8 | 43.8 | 18.8 |
米国企業 | 12 | 25.0 | 8.3 | 33.3 | 83.3 | 33.3 | 58.3 | 33.3 |
注:「その他企業」は省略、太字は50%以上の回答項目。
出所:2024年度海外進出日系企業実態調査
前述のような競争環境の中、進出日系企業はベトナム市場での優位性を維持・強化するためにどのような対応や戦略を取っているのだろうか。各社が現地市場で特に取り組んでいる対策は「営業・広報の強化」(45.5%)で、「製品・サービスの多角化」(34.8%)が続いた(表4)。これらはコスト削減(34.2%)を上回ったことから、進出日本企業は現地調達やコスト削減などを進めながらも、コストや価格だけによる対応は限界を迎えつつあることを示している。各社は価格以外の強みをアピールする営業努力、製品の多様化や高付加価値化、アフターサービスの強化などに取り組んでいる。また、ITインフラやデジタルマーケティング(EC、SNS)の活用による販売チャネルの拡大(30.0%)を進める動きもある。さらに、現地市場の理解を深化させ、製品・サービス開発(28.5%)や現地企業との協業・連携(29.1%)の取り組みを強化することにより、現地ニーズを取り込んだローカル戦略を強化させている。進出日系企業は「品質」「信頼」「技術力」といった強みを生かしつつ、競争環境に合わせた柔軟な戦略や対応を取っている。
業種 | 回答数 | 営業・広報の強化 | 製品・サービスの多角化 | コスト削減(人件費、光熱費などの削減、生産効率の改善など) | 販売チャネルの拡大 | 製品・サービスの開発 | 現地企業との協業・連携 | 価格の引き下げ(利幅の調整を含む) | 販売ネットワークの見直し・再構築 | 製品・サービスの絞り込み |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 506 | 45.5 | 34.8 | 34.2 | 30.0 | 28.5 | 29.1 | 23.9 | 16.6 | 12.5 |
製造業 | 254 | 39.4 | 27.2 | 46.9 | 25.6 | 29.9 | 22.0 | 29.1 | 13.8 | 11.0 |
食料品 | 20 | 70.0 | 25.0 | 35.0 | 55.0 | 70.0 | 20.0 | 15.0 | 15.0 | 10.0 |
繊維・衣服 | 13 | 15.4 | 30.8 | 46.2 | 46.2 | 53.8 | 30.8 | 30.8 | 7.7 | 23.1 |
化学・医薬 | 17 | 47.1 | 17.6 | 23.5 | 17.6 | 29.4 | 23.5 | 11.8 | 11.8 | 0.0 |
プラスチック製品 | 27 | 51.9 | 33.3 | 44.4 | 18.5 | 29.6 | 14.8 | 14.8 | 11.1 | 7.4 |
鉄・非鉄・金属 | 59 | 44.1 | 27.1 | 50.8 | 20.3 | 20.3 | 18.6 | 37.3 | 20.3 | 16.9 |
一般機械 | 15 | 20.0 | 33.3 | 20.0 | 33.3 | 33.3 | 26.7 | 33.3 | 20.0 | 6.7 |
電気・電子機器部品 | 19 | 21.1 | 31.6 | 63.2 | 21.1 | 5.3 | 21.1 | 36.8 | 5.3 | 10.5 |
輸送機器部品 | 26 | 15.4 | 19.2 | 57.7 | 7.7 | 19.2 | 15.4 | 46.2 | 7.7 | 0.0 |
非製造業 | 252 | 51.6 | 42.5 | 21.4 | 34.5 | 27.0 | 36.1 | 18.7 | 19.4 | 13.9 |
建設業 | 26 | 50.0 | 38.5 | 34.6 | 23.1 | 19.2 | 46.2 | 34.6 | 19.2 | 15.4 |
運輸業 | 26 | 57.7 | 57.7 | 30.8 | 23.1 | 30.8 | 42.3 | 19.2 | 19.2 | 7.7 |
情報通信業 | 26 | 53.8 | 23.1 | 26.9 | 23.1 | 34.6 | 15.4 | 11.5 | 23.1 | 26.9 |
商社・卸売業 | 67 | 40.3 | 50.7 | 13.4 | 41.8 | 19.4 | 46.3 | 16.4 | 23.9 | 10.4 |
販売会社 | 24 | 50.0 | 54.2 | 16.7 | 54.2 | 29.2 | 37.5 | 16.7 | 29.2 | 8.3 |
事業関連サービス | 36 | 75.0 | 27.8 | 19.4 | 30.6 | 36.1 | 30.6 | 11.1 | 8.3 | 19.4 |
注:主要業種のみ抜粋。
出所:2024年度海外進出日系企業実態調査
内需型企業は日本ブランド・品質を消費者に訴求
後述では、ベトナム進出日系企業12社を対象に実施したヒアリングを基に、各社の主要製品・サービスの市場特性、競合相手の変化や脅威となる内容、各社の対応策などを紹介する。まず、本稿では、ベトナムの消費者をターゲットに事業展開している内需型企業にとってのベトナム市場の競争環境を概観する。
消費市場で日本企業は技術力や品質で差別化を図っている。一方、コスト意識の高い消費者や若年層など新しい価値観を持つ購買層も出現し、コスト競争力や柔軟な対応力に強みを持つ地場企業や中国企業が競争相手になり得る。ベトナム市場の特性はどのようなものか。
小売業J社は、日本から輸入した商品を中心に、多くのラインアップを取りそろえており、「店舗運営で競合他社が取り扱う製品と完全に重なることはない」という。製品によっては、スーパーマーケットや百貨店などで販売されたり、自社ブランド製品を販売したりする店舗が新規開店するなど、部分的にオーバーラップすることはある。しかし、同社では、日本クオリティーを打ち出して商品を販売する方針で、コスト面で競合相手の中国製品とは品質面で差別化が実現されていると認識している。同社としては、日本クオリティーの商品価値について、店舗やSNSなどを通じて消費者に訴求する取り組みを重点的に行う方針だ。
また、ベトナム消費市場の特色として「消費者の中国製品に対する意識は保守的だ」という。例えば、ベトナムとカンボジアで中国製品を主体に取り扱う他社のケースで売り上げ動向を比較すると、ベトナムよりもカンボジアで売れ行きが良く、これは中国製品に対する消費者の意識の違いによるものとみる。ただし、若年層では中国製品に対する捉え方は変化しつつある。例えば、中国ブランドのスマートフォン購入は10年前と比較して心理的ハードルは下がっているようだ。
店舗形式や規模で同様の小売店舗を展開する競争相手は、ASEAN企業だ。競争相手は年間十数店舗のペースで新規開店するなど、急速に拡大しているという。一方、同社の店舗数拡大に当たっては、現地政府の許認可がスムーズに得られないことがあり、スピーディーな経営にとっての課題になっている。また、新型コロナ以降の同国の不動産市場では、モールへの入居ニーズが高い一方で、モール新規建設による不動産供給が十分でなく、新規入居スペースの確保が難しいことや、賃料が高止まりしていることが経営課題という。
中国企業も「ジャパンブランド」で市場攻勢
ベトナム市場向けに電気製品を販売するK社は、同国の耐久消費財の市場特性として「消費者は中国ブランドや製品に対して一定の距離感を持っている」という。また、地場生産の製品に対しても、そこまで信頼が置かれておらず、むしろ、タイやマレーシアなどの周辺国を含めた外国製品が好まれる傾向にある。同社製品は市場拡大局面で販売やマーケティング活動を強める段階にあり、現時点では現地生産には至っておらず、周辺国で生産したものを輸入し、国内販売している。
耐久消費財については、日本のブランドやクオリティーへの信頼感は非常に高く、中国企業もベトナム市場での販売・マーケティングで、「ジャパン」を強く打ち出し、市場を攻略している。中国企業の中には、日本企業の買収で引き受けた日本ブランドで集中的に市場攻略をする企業もある。これらの企業は「ジャパンブランド」をうたった強いアピールや価格競争力により、競合相手として台頭している。
このような競争環境下、どのように競争力強化に取り組んでいるのだろうか。同社は、日本製品のブランド・品質の強みをアップデートし、同社製品の強みを消費者にアピールする営業努力を行っている。日本企業らしい、モノづくりに対するこだわり、丁寧さ、思いやりなどのスト―リーを提供し、消費者とのコミュニケーションを強める意向だ。とりわけ、若年層では環境問題に対する意識が高まっており、新しい世代によるブランドに対する信用や信頼を構築するための重要な要素となっている。
シリーズ第4弾となる次稿では、ベトナムで生産した製品を輸出する外需型企業や、それら企業向けに部品を供給するサプライヤー、あるいはサービスを供給する企業にとってのベトナムの競争環境を紹介する。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課長
藤江 秀樹(ふじえ ひでき) - 2003年、ジェトロ入構。ジェトロ・ジャカルタ事務所(10~15年)、海外調査部アジア大洋州課(15~18年)、シンガポール事務所(18~22年)などを経て、2024年9月から現職。編著に「インドネシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2014年)、「分業するアジア」(ジェトロ、2016年)がある。