特集:半導体グローバルサプライチェーンはどう変わる?国際戦略物資となる半導体、企業はどう動く(世界)

2023年1月24日

世界の主要半導体メーカーによる相次ぐ巨額の設備投資に牽引され、2021~2022年の半導体製造装置市場は活況し、世界全体の市場規模は2年連続で過去最高を更新した。2023年の半導体装置市場は、メモリIC(集積回路)を中心とする主要半導体メーカーの投資の抑制や延期により、一時的な減速が見込まれるものの、2024年以降は中長期的に拡大することが見込まれている。

半導体産業の設備投資、2023年に落ち込むも翌年には回復の見通し

国際半導体製造装置材料協会(SEMI)は2022年12月13日、東京で開催された半導体製造装置・材料の国際展示会「SEMICON Japan」(会期:2022年12月13~15日)の開催に合わせ、2022年末の半導体製造装置市場予測を発表。2022年の半導体製造装置市場が前年比5.9%増の1,085億ドルと、2年連続で1,000億ドル超えを達成、過去最高額を更新したと報告した。グローバル半導体メーカーによる半導体工場の新規着工の増加などが市場の伸びを牽引した。セグメント別では、前工程のウエハプロセス処理装置やファブ設備、マスク/レチクル製造装置を含むウエハファブ装置が8.3%増の948億ドルで、装置市場全体の87%を占めた(図参照)。

図:SEMIの半導体製造装置市場見通し(2021~2024年)
単位は10億ドル。主要装置別の売上高推移は次の通り。それぞれ2021年から2024年の順。組み立て・パッケージング装置は、7.17、6.11、5.29、6.57。半導体テスト装置は、7.83、7.63、7.07、8.19。ウエハファブ装置(WFE)は、87.5、94.8、78.84、92.4。

出所:SEMI (2022年12月13日付プレス発表資料)

ウエハファブ装置のアプリケーション別では、ファウンドリおよびロジックIC向けが、最先端市場および成熟市場双方での旺盛な需要により、前年比16%増の530億ドル。一方、メモリICおよびストレージ向けは、DRAM装置が同10%減の143億ドル、NAND装置が同4%減の190億ドルとされた。後工程では、半導体テスト装置市場が同2.6%減の76億ドル、組み立ておよびパッケージング装置分野は同14.9%減の61億ドルとなった。

2023年の装置市場について、SEMIは、装置市場全体で前年比16%減の912億ドルと3年ぶりのマイナス成長を見込む。とりわけメモリとストレージ分野での需要の減退で、DRAM装置は25%減(108億ドル)、NAND装置は36%減(122億ドル)と予想される。

ただし、2023年の落ち込みは一時的であり、2024年には前工程、後工程の両セグメントが牽引して装置市場は回復するとの見通しを示している。SEMIのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)アジット・マノチャ氏は、今後の市場動向について「記録的な件数の半導体工場が新規で建設されたことによって、半導体製造装置の販売額は2年連続して1,000億ドルを超えた。今後10年の半導体産業は、さまざまな市場で新たなアプリケーションが誕生し、著しく成長することが見込まれる。持続的な成長の基盤を築くためにはさらなる設備投資の増加が不可欠となる」と述べている。

主要メモリIC企業は相次ぎ設備投資計画を下方修正

半導体産業全体の設備投資の指標となる製造装置市場の増減は、ICの生産能力で世界全体に占める構成比が高い一部グローバル企業の投資計画に大きく左右される。なお、米国の調査会社ノメタ・リサーチが毎年発表する世界の半導体生産能力調査(注1)によると、2021年末における全世界のICウエハ生産能力は、月間2,160万枚相当(200ミリメートルウエハ換算)であり、生産能力上位5社(韓国・サムスン電子、台湾・TSMC、米国・マイクロンテクノロジー、韓国・SKハイニックス、日本・キオクシア)でその57%(1,222万枚相当)を占めるという。

同調査で世界シェア4位(構成比9%)のICウエハ生産能力を有するSKハイニックスは、2022年10月の第3四半期決算発表において、当分の間はメモリICの供給が需要を上回る状況が続くとの予測に基づき、2023年の投資額を前年比50%以上削減するとした。低採算製品を中心に生産量を削減し、サーバー用DRAMに注力する方針を示している。

また同3位(同10%)のマイクロンテクノロジーは2022年11月、同社の全てのテクノロジーノードの生産現場で、2022年9月以降のDRAMとNANDウエハの投入を6~8月期比でまずは2割削減し、2023年にはさらなる投資抑制を図る計画を発表した(注2)。また、同5位(同6%)のキオクシアホールディングスも2022年9月30日、主力工場である四日市(三重県)と北上(岩手県)において、2022年10月から当面、ウエハ投入量を約3割削減する生産調整を行うことを発表している(注3)。

メモリICに比べて需要の減少幅が小さいロジックICを主力とする台湾のTSMCも、2022年10月の決算発表(2022年第3四半期)において、「中期見通しに基づく生産能力の最適化、ならびに機械などのデリバリー上の課題」を理由に、2022年通期の設備投資額を年初の計画である400~440億ドルから360億ドルへ下方修正した。また今後も、短期的な不確実性を考慮した慎重な事業運営を行い、適宜、設備投資の調整と引き締めを行う方針を明らかにしている(注4)。

半導体産業の強化へ法整備と予算措置を急ぐ各国・地域政府

2023年は半導体市場および半導体関連設備投資の一時的な落ち込みが予測される中でも、主要国・地域政府は、中長期的な市場拡大を見据えた半導体の安定確保を目的に、半導体メーカーの誘致競争を熾烈(しれつ)化させている。米国で2022年8月に成立・施行となった「CHIPSおよび科学法(H.R.4346 )」(以下、CHIPSプラス法)をはじめ、主要国・地域は巨額の予算を投じ、自国・地域の半導体産業の強化ならびにグローバル企業の誘致のための支援を本格化させる(表参照)。

表:主要国・地域における半導体産業強化策(2022年以降の主な動き)
国・
地域名
政策・根拠法 支援内容
米国 「CHIPSおよび科学法」(CHIPSプラス法)
(2022年8月施行)
  • 半導体の設計、製造、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または現代化への補助金(390億ドル相当)。
  • 商務省管轄の半導体関連研究開発プログラム推進(110億ドル)。
  • 半導体製造に関わる投資に対し25%の税額控除。
韓国 「国家先端戦略産業競争力強化および保護に関する特別措置法」(2022年8月施行)
「改正租税特例制限法案」(追加の改正案を2023年1月発表)
  • 先端半導体を含む核心技術を対象に「戦略産業特化団地」を造成。道路、電気・ガス・水道などの敷設費用の支援。
  • 戦略産業専門人材を育成するための「特化大学」整備。
  • 先端戦略技術の輸出や同保有者の海外M&Aなどに対し、政府の事前承認を規定。また技術流出防止のための保護措置義務を規定。
  • 半導体を含む国家戦略技術の設備投資への税額控除率を8%から15%(10%の追加控除あり)に引き上げる税制改正案を発表。
台湾 「産業創新条例(第10条の2および第72条)改正案」(※通称「台湾版CHIPS法」)(2022年11月17日閣議決定)
  • 先端技術研究費支出の25%、先端プロセスに用いる新規機器や設備費支出の5%を、当該年度の法人税より控除。
  • 研究開発規模や対売上高比率などが一定規模・割合を満たすことが要件。控除総額が法人税額の5割を超えないことを規定。
日本 「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部を改正する法律」
(2022年3月施行)
  • 高性能な半導体生産施設整備等に係る計画認定制度の創設。
  • 認定された計画の実施に必要な資金に充てるための助成金交付、および助成金交付のための基金の設置。
    ※2022年度第2次補正予算で、先端半導体の国内生産拠点の確保や、次世代情報通信システム基盤強化などを含む半導体産業の強靭(きょうじん)化に合計1兆3,000億円を計上。

出所:各国・地域政府発表資料、ジェトロビジネス短信を基に作成

米国のCHIPSプラス法は、米国内で先端半導体に対する新規投資や拡張投資、研究開発などに対し、5年間で390億ドル規模の補助金を拠出するほか、投資企業に対する25%の税額控除措置も盛り込むことで、グローバル企業の立地を呼び込む。すでにインテルやマイクロンテクノロジーなどの米国企業に加え、TSMCやサムスン電子などのグローバル企業も補助金の適用を前提とした大型投資計画を発表している(2022年12月28日付地域・分析レポート参照)。

他方、CHIPSプラス法における補助金の対象事業者は、米国商務長官との間で、補助金の受給日から10年間、中国を含む懸念国において、先端半導体製造施設(注5)の拡張などを行わないことに合意しなければならない。同要件に関して、韓国や台湾の有識者は、補助金受給が見込まれるサムスン電子やSKハイニックス、TSMCなどの既存の中国拠点における中長期的な追加投資計画に一定程度の影響が及ぶ可能性を指摘する。

韓国では、韓国の産業通商資源部が2022年7月、関係省庁と合同で「半導体超強大国達成戦略」を発表。韓国の半導体エコシステムの強化に向けた施策パッケージを策定し、半導体およびバッテリーやディスプレーなどを含む戦略産業の競争力強化を目指す。同8月4日には、法的枠組みとして「国家先端戦略産業競争力強化および保護に関する特別措置法」を施行。半導体を含む国家先端戦略産業の持続可能な成長基盤を整備・構築する(2022年8月5日付ビジネス短信参照)。また、2023年1月3日には、政府・企画財政部が、新たな税制優遇策として、半導体施設への投資に対する税額控除率を15%(現行8%)、中小企業は25%まで引き上げる計画を発表。2023年中の投資増額分については、さらに10%を税額控除する方針を示している。今後、根拠となる租税特例制限法の改正に向けた国会審議の行方が注目される。

2024年には、半導体製造装置の国・地域別売上高で、中国を抜いて世界第1位になることが見込まれる台湾では、行政院院会が2022年11月17日、半導体などの先端産業を支援する関連法の改正案を閣議決定した。産業創新条例の第10条2項、および第72条を改正する内容で、「台湾版CHIPS法」とも呼ばれる。革新的な技術を有しグローバルサプライチェーン上の重要な役割を担う企業を対象に、最先端の研究開発や設備投資にかかる費用の一定割合を法人税から控除する。具体的には、一定の要件を満たした案件に関して、先端研究開発向け支出の25%相当、先端プロセス向けの設備購入費用の5%相当を法人税から控除できる。

オランダのASMLは2022年11月、台湾での大規模投資を発表したことが報じられており、同改正案による優遇措置の適用を見越した動きとみられている。(注6)また、台湾のTSMCやUMCなども今後、同改正案を追い風に、台湾域内での投資を促進するものとみられる。

日本においても、改正5G(第5世代移動通信システム)促進法(特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律、改正法が2022年3月施行)などに基づき、国内における高性能半導体生産設備の整備に対する助成金などを通じて、半導体産業を育成・強化する対策を打ち出している。予算措置では、2021年度補正予算では半導体産業基盤強化に係る関連予算として7740億円を計上。さらに、2022年11月18日に閣議決定された2022年度の第2次補正予算案では、先端半導体の国内生産拠点の確保事業(4,500億円)や、ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(4,850億円)、半導体サプライチェーンの強靭化支援(3,685億円)など、合計1兆3,000億円の半導体関連予算が計上されている。

中国での設備投資に慎重姿勢も

米国調査会社のICインサイツは2022年11月22日、2023年の世界全体の半導体の設備投資額が1,466億ドルと、2022年の1,817億ドルから19%減少するとの予測を発表している。2023年の設備投資を下押しする最大の要因として、同社は、(1)メモリ市場が2023年前半まで低迷し、同分野の設備投資が前年比で少なくとも25%減少すること、(2)米国の制裁に伴う中国半導体メーカー向けの半導体製造装置の禁輸措置などにより、中国企業の設備投資が30%以上減少すること、の2点を挙げる(注7)。

前述の(2)で指摘された米国の制裁とは、すなわち、2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が中国を念頭に導入した、半導体関連製品(物品・技術・ソフトウエア)の輸出管理規則(EAR)を強化する暫定最終規則(IFR)である(2022年10月11日付ビジネス短信参照)。先端半導体、先端半導体を含むコンピュータ関連製品に加え、それらの製造装置を中国に輸出・再輸出・移転する際に、米国商務省による許可申請が義務付けられ、申請した場合も原則不許可となる。中国国内の先端半導体製造に関与する製品・技術の輸出を不許可とするエンドユースを導入した点において、過去に導入された輸出管理規則とは一線を画す、極めて厳格な内容となっている。

前出のSEMIによる半導体製造装置市場予測(2022年12月時点)によれば、中国は、2020年以降、国・地域別で最大の半導体装置市場となっており、2022年および2023年も最大の市場としての地位を維持することが見込まれている(注8)。そのため、米国による新たな輸出管理規則は、日本企業を含む主要製造装置メーカーのグローバル戦略にも大きな影響を及ぼすことが見込まれる。すでに、同新規則の公表後には、米国のKLAやオランダのASMLなど世界の大手半導体装置メーカーが中国向けの輸出・サービスを一時停止する動きなどが報じられている。(2022年10月31日付ビジネス短信参照)。

ただし、韓国のサムスン電子やSKハイニックス、台湾のTSMCを含む、米国と同盟関係にある国・地域に本社を置く多国籍企業の中国拠点向けの輸出については、個別審査方式により、案件ごとに審査を行う(原則不許可を前提としない)方針が示されている。すでにサムスン電子やSKハイニックス、TSMCの中国工場については、いずれも米商務省から1年間の猶予措置の適用について通知を受け、少なくとも1年間は事前の個別審査不要で、製造装置などの輸入が認められたことなどが報じられている。(注9)

他方、韓国や台湾の半導体産業に関わる専門家や業界関係者は、2022年10月以降の米国の輸出管理規則は、両国・地域企業の今後の対中投資戦略およびサプライチェーンに対して、中長期的に影響することは避けられない、との見方を示しており(本特集「全世界的な供給網の再編で岐路に立つ韓国の半導体産業」参照)、猶予期間後の米国側の制度運用の実態や、業界をリードする韓国・台湾企業の動向が注目される。


注1:
Knometa research (2022年7月4日発表)、Top Five Leaders Continue Expanding Share of Global IC Fab Capacity
注2:
Micron Technology, Inc. (2022年11月16日発表)、Micron Announces Further Actions to Address Market Conditions
注3:
キオクシア株式会社(2022年9月30日付発表)、「フラッシュメモリの生産調整について」
注4:
決算発表資料のうち、Earnings Conference Transcript, Financial Results -2022Q3
注5:
回路線幅が28ナノメートル(nm)以上のロジック半導体などを製造する既存の施設・設備は規制の適用対象外。
注6:
TAIPEI Times (2022年11月16日付)ASML announces plans for New Taipei City plantほか
注7:
RESEARCH BULLETIN, IC Insights(2022年11月22日)、2023 Semi Capex Forecast Sees Largest Decline Since 2008-09
注8:
SEMIは、2024年に台湾が中国を抜いて最大の市場になるとの見通しを示している。
注9:
The Register(2022年10月13日)、SK hynix, Samsung, TSMC granted one-year reprieve from China chip restrictions
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジアなどを経て現職。主な著書:『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。