特集:半導体グローバルサプライチェーンはどう変わる?日本は装置・素材の高度化ニーズを深耕
半導体産業の日台連携(2)

2023年2月15日

経済社会のデジタル化が進む中で、その基盤を担う半導体の重要性が増している。前稿では、台湾大手ファウンドリーとの足元の連携事例を取り上げながら、今後の日本における半導体産業の日台連携の発展可能性について考察した(本特集「半導体産業の日台連携(1)台湾ファウンドリーとの連携強化が要に」参照))。本稿では、先端ロジックIC(集積回路)をはじめとする半導体の製造拠点が集中する台湾における日台連携について展望する。

製造装置と素材の市場としても存在感を示す台湾

先端ロジックICは、デジタル経済社会を支える基盤デバイスである。米国半導体工業会(SIA、2021年4月)によれば、2019年における国・地域別の線幅10ナノメートル未満のロジックICの生産能力では、世界全体の92%が台湾に集中している。今後、台湾のファウンドリーのIC生産拠点は、欧米や日本などによる積極的な誘致を受けながら、海外への展開と拠点分散が一定程度は進むとみられるが、一方で、最先端の技術・製造工程は引き続き台湾に集中すると考えられる(本特集「ファウンドリーは海外進出も、最先端技術は台湾に」参照)。なお、国際半導体製造装置協議会(SEMI)が2022年12月に発表した予測によれば、台湾では2021年から2023年にかけて、計14件の半導体製造工場の新規建設が予定されている。

台湾は、ICに加え、その製造工程で必要となる装置や素材の市場としても存在感が大きい。SEMIおよび一般社団法人日本半導体製造装置協会(SEAJ)が2022年4月に発表した、2021年の半導体製造装置の国・地域別販売額では、台湾は全体の約4分の1を占め、中国、韓国に次ぐ第3位の市場となっている(表1参照)。また、SEMIが2022年3月に発表した2021年の半導体材料の国・地域別販売額では、台湾の構成比は22.9%を占め、世界最大の市場となっている(表2参照)。

表1:半導体製造装置販売額(国・地域別) (単位:10億ドル、%)
国・地域名 2020年 2021年 前年比
伸び率
構成比
中国 18.7 29.6 58% 28.9
韓国 16.1 25.0 55% 24.3
台湾 17.2 24.9 45% 24.3
日本 7.6 7.8 3% 7.6
北米 6.5 7.6 17% 7.4
欧州 2.6 3.3 23% 3.2
その他地域 2.5 4.4 79% 4.3
合計 71.2 102.6 44% 100.0

出所:国際半導体製造装置協議会(SEMI)および一般社団法人日本半導体製造装置協会(SEAJ)による発表データ(2022年4月)

表2:半導体材料販売額(国・地域別) (単位:100万ドル、%)
国・地域名 2020年 2021年 前年比
伸び率
構成比
台湾 12,720 14,711 15.7% 22.9
中国 9,783 11,929 21.9% 18.6
韓国 9,119 10,572 15.9% 16.4
日本 7,902 8,811 11.5% 13.7
北米 5,564 6,036 8.5% 9.4
欧州 3,622 4,414 21.9% 6.9
その他地域 6,770 7,801 15.2% 12.1
合計 55,479 64,273 15.9% 100.0

出所:国際半導体製造装置協議会(SEMI)による発表データ(2022年3月)

他方で、台湾は特に上流の半導体製造装置や素材については、多くを輸入に頼る構造となっている。台湾当局は、中長期的に台湾の半導体産業の競争力を維持するためには、上流分野も台湾での開発・生産が急務と捉え、台湾企業への補助金と外資企業の誘致を通じたサプライチェーンの強化を図りたい考えだ(2021年6月21日付地域・分析レポート参照)。しかしながら、こうした技術の蓄積には相当な時間とコストを要することから、サプライチェーンの構築は容易ではないとされる。

外資誘致に関わる政策に関しては、足元ではさらに力を入れる動きがみられる。2022年11月に台湾行政院が「産業創新条例」第10条の2と第72条の改正案を閣議決定し、2023年1月に立法院を通過して施行された。同改正案は、半導体をはじめとする先端技術の研究開発費用および関連設備投資に対する法人税の控除を定めていることから、「台湾版CHIPS法」とも呼ばれる。2022年11月にはオランダの大手半導体製造装置メーカーであるASMLが、台湾における大型の追加投資を発表した、と報じられており、同改正案による優遇措置の適用を見越した動きとみられている(本特集「国際戦略物資となる半導体、企業はどう動く(世界)」参照)。

日本の素材メーカー、台湾での生産能力拡大へ

半導体製造装置や素材などの分野で高い競争力を有する日本企業は、先端半導体の製造拠点が集中する台湾市場をターゲットにビジネスを展開してきた。

両分野における日本企業の動きを概観すると、まず製造装置では、これまで製造拠点や研究開発拠点を日本に置き、販売や保守・点検などのアフターサービス拠点を台湾など海外の主要販売先に設置する体制を取る企業が大半であった。この点について、みずほ銀行の村田温 台北支店・台中支店・高雄支店長は、「多くの日本の装置メーカーは、台湾のほか韓国、中国、米国などにも顧客を抱える。そうした中で、開発・製造について、必要なリソースを日本に集約させることで、それらをより効率的に進める狙いがあるのでは」との見方を示した。他方で、村田支店長は、足元における日本の装置メーカーの台湾における事業展開について、「顧客接点を強化し、より迅速なニーズの吸い上げにつなげようとする動きもみられる」と指摘する。

例えば、東京精密は2021年3月、台湾で新たな半導体アプリケーションセンターの設立を発表した。新センターは、従来施設の3.5倍の面積を有し、大型の製造装置などを設置することが可能。製品ショールームとしての活用に加え、新たに現地顧客と製品・技術の評価を行うことができる拠点として、機能強化を図るとした(注1)。

また、日立ハイテクは現地半導体メーカーとの協同で技術開発を行う「協創拠点」の設立を米国、韓国、台湾にて進めている。同社の台湾現地法人である日立先端科技の獅々堀兼三董事長は、「半導体製造装置メーカーにとって、大手ファウンドリー企業から聞き取ったニーズを素早くハードやプロセスに落とし込むことが非常に重要。したがって、コアな技術開発は日本で行いつつ、ニーズに対するソリューションへの落とし込みとその検証を台湾でも開発拠点を設置して対応していく」と語った。

一方、素材メーカーでは、すでに台湾に製造拠点を設けているケースも少なくない。また、昨今では台湾における生産能力の増強や、研究開発機能の強化に向けて投資を行う動きもみられている(表3参照)。前述のとおり、半導体の製造拠点が集中する台湾市場での中長期的な需要増が見込まれるほか、台湾企業が得意とするロジックICの微細化の進展に伴う素材の高度化ニーズも、日本企業の投資を後押ししているとみられる。

表3:日本の半導体素材メーカーによる主な台湾投資事例(2020年以降)
企業名 発表
時期
主な発表 内容
三菱ガス化学 2020年2月 生産設備・体制の増強 台湾子会社における工業用過酸化水素製造設備の建設を決定。稼働中の超純過水設備へ、原料となる工薬過水(原料過水)を供給することで、原料過水から超純過水までの現地一貫生産体制を実現する。
トクヤマ 2020年9月 生産設備・体制の増強 台湾化学大手の台湾塑膠工業(台湾プラスチック)と電子工業用高純度イソプロピルアルコール(高純度 IPA)の製造・販売を目的とした合弁会社を台湾に設立することを決議したと発表。台湾において原料のプロピレンからの一貫生産体制を構築し、高純度IPAビジネスを一層の拡大を図る。
信越化学工業 2020年10月 生産設備・体制の増強 台湾におけるフォトレジストの生産工場について設備増強を発表。
昭和電工マテリアルズ 2020年12月 生産設備・体制の増強 台湾子会社における半導体回路平坦化用研磨材料(CMPスラリー)、プリント配線板用積層材料(プリプレグ)および感光性ソルダーレジストの生産能力を増強すると発表。
三井化学東セロ 2021年4月 生産設備・体制の増強 半導体製造工程用テープの能力増強を決定したと発表。本増強により台湾での生産能力は2倍以上となる。
SUMCO 2021年11月 生産設備・体制の増強 台湾化学大手との合弁子会社フォルモサSUMCOテクノロジーに282億台湾元の設備投資を決定。最先端の直径300ミリメートルウエハーを増産する。
住友ベークライト 2021年11月 生産設備・体制の増強 半導体封止材の台湾子会社において、生産能力増強のため新規設備導入を行うと発表。
ADEKA 2022年2月 生産拠点の新設 最先端ロジック半導体の配線工程(ALD成膜)において使用される材料の生産拠点を台湾で新設すると発表。台湾におけるロジック半導体ビジネスへ本格参入を図る。
JSR 2022年3月 営業・マーケティング・研究開発機能の強化 半導体材料事業の営業・マーケティングおよび研究開発活動の強化のため、現地法人の設立を発表。

出所:各社発表資料に基づきジェトロ作成

例えば、ADEKAは2022年2月、先端ロジック半導体向け材料を生産する工場を台湾に新設すると発表。同材料は半導体の微細化技術に用いられることから、先端半導体の研究開発および生産が活発な台湾への工場設立を決めたとしている(注2)。また、台湾で素材の原料から一貫生産体制を構築し、競争力強化を図る動きもみられる。三菱ガス化学は2020年2月、台湾子会社における工業用過酸化水素(以下、工薬過水)製造設備の建設を決定したと発表。同社はこれまでに台湾で主に半導体のウエハーやデバイスの製造工程における洗浄・エッチング・研磨剤として用いられる超純過水の設備を有していた。新たな設備建設により、原料となる工薬過水(以下、原料過水)の供給が可能となることから、原料過水から超純過水までの現地一貫生産体制を実現する。同社は、半導体の微細化に伴い、より高品質で大量の超純過水の需要が高まる中で、供給安定性・高品質・コスト競争力の向上を図るとしている(注3)。トクヤマは2020 年9月、台湾において台灣塑膠工業(台湾プラスチック)と合弁会社の設立を決定したと発表。半導体製造プロセスで洗浄液として使用される電子工業用高純度イソプロピルアルコール(以下、高純度 IPA)の製造・販売を行う。半導体の微細化の進展に伴い、高品質化と安定供給に対するニーズが高まる中、本合弁会社設立により、台湾において原料のプロピレンからの一貫生産体制を構築するとしている(注4)。

日立ハイテクの獅々堀董事長は、「日本の半導体素材メーカーが台湾で生産を行うことによって、台湾企業と競争関係が生じるというよりも、むしろ半導体サプライチェーン全体としてコスト削減を図るうえでの日台連携の動きと捉えるべきだ」と指摘する。

最後に、台湾における日台連携を展望するうえで、昨今の国際情勢を巡る動きの中での日本企業の対台湾ビジネスに対する方針について触れておきたい。ジェトロが2022年8~9月に、台湾に進出する日系企業を対象に実施したアンケート調査(注5)の結果では、今後1~2年の事業展開の方向性について「拡大する」との回答は47.1%と前年度調査(53.9%)から6.8ポイント低下した。他方で、「現状維持」との回答は、前年度調査から7.3ポイント上昇し50.7%と過半を占め、「縮小」または「第三国・地域へ移転、撤退する」との回答は合計で2.2%にとどまった。同結果を踏まえると、足元では、日系企業の台湾における事業展開の方向性に大きな変化はみられていない。

前述のとおり、台湾ファウンドリーが強みを有する先端ロジックICは、今後のデジタル経済社会を支える基盤デバイスであることから、中長期的な需要が期待できる。また、その中でも最先端の製造拠点や研究開発拠点が集中する台湾では、日本企業が競争力を維持する高度な製造装置、素材が必要とされている。半導体産業における日台連携の舞台は、今後も台湾をその中心地としながら、前稿で取り上げた日本においても新たな広がりをみせつつ、今後も双方で深化していくとみられる。


注1:
2021年3月15日付の同社プレスリリースに基づく。
注2:
2022年2月17日付の同社プレスリリースに基づく。
注3:
2020年2月13日付の同社プレスリリースに基づく。
注4:
2020年9月25日付の同社プレスリリースに基づく。
注5:
ジェトロ「2022年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)(2022年12月)」を参照。台湾では、公益財団法人日本台湾交流協会の協力を得て、542社を対象に実施(有効回答232社)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
小林 伶(こばやし れい)
2010年4月、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課事業推進班(北東アジア)、ジェトロ名古屋などを経て2019年6月から現職。