特集:半導体グローバルサプライチェーンはどう変わる?台湾および韓国から見た中国半導体産業
日韓台半導体座談会in成都

2023年12月20日

中国政府は2015年7月に発表した「中国製造2025」において、半導体の自給率を2030年までに75%まで引き上げるという目標を掲げているが、米国調査会社IC Insights によると、2021年の自給率は16.7%に過ぎず、うち6割は外資企業によるものとのことだ。さらに、米国などの対中半導体輸出管理規制により調達が難しくなる製造装置も出てくるなど、中国半導体産業は厳しい局面に置かれている。一方で、2022年の中国の半導体市場規模は1,803億ドルで、世界全体(5,559億ドル)の32.4%を占めており、引き続き世界最大となっている。また、レガシー半導体分野などでは、中国半導体最大手SMIC(中芯国際集成電路製造)といった地場メーカーも投資している。

先端半導体の分野で世界をリードする台湾と韓国の半導体企業は、IT産業の一大集積地である成都、重慶を中心とした中国西南地区にも進出している。台湾や韓国、製造装置などで優位性を保ちつつ半導体産業での復活を目指す日本は、今後どのように中国半導体企業と向き合うべきか。

四川省成都市に拠点を構える韓国・大韓貿易投資振興公社(KOTRA)の辺龍燮(ピョン・ヨンソプ)成都貿易館館長、台湾貿易センター(TAITRA)の陳彦廷成都事務所所長、ジェトロの森永正裕成都事務所所長(当時)が集い、中国および東アジアの半導体産業の現状に関する座談会を開催した(取材日:2023年9月26日)。


中国半導体産業に関する日韓台座談会、左から辺龍燮氏、森永正裕氏、陳彦廷氏
(ジェトロ撮影)

中国は半導体の世界最大市場かつ製造拠点

質問:
世界各国が半導体の自国開発・自国生産を目指す中で、米中対立の常態化や世界的なハイテク製品の需要減速などの世界経済情勢を受けて、中国の半導体産業は厳しい状況に直面していると思うが、韓国や台湾は、半導体産業の世界での中国の位置付けをどのように見ているか。
答え:
(KOTRA辺氏)韓国の半導体産業にとって、中国は最大市場かつ製造パートナーという2つの側面がある。中国は韓国の最大の輸出相手国であり、主要輸出品目の中でも半導体は大きな部分を占めている。ただ、韓国の対中輸出は2023年現在、半導体を中心に大幅に減少している。半導体の対中輸出減少は韓国の輸出全体にも大きな影響を与える。
(TAITRA陳氏)中国大陸は先端半導体において世界最大の応用市場である。現在、「生成AI」が注目されており、中国でも、大手ユーザーであるテンセントやアリババなどが米国のNVIDIAのチップ「H800」を購入している。また、クラウド演算やレベル4自動運転などは少なくとも7ナノメートル(nm)以下のチップが必要であり、中国の先端チップ市場は今後とも拡大することが予測される。
質問:
やはり、生産拠点としてよりは市場としての位置付けが大きいとの見方か。
答え:
(TAITRA陳氏)中国の半導体製造において、リソグラフィ装置や洗浄装置を含む設備、化学原料などは米国や日本に依存している。この分野の日本のシェアは6~8割以上であり現時点で中国はこれに追いつくことはできない。しかし、中国は新規市場でイノベーションを起こした事例がいくつもある。例えば、伝統的なエンジン製造を発展させることなく、電気自動車(EV)生産にシフトし同市場において世界的地位を確立することができたように、先端半導体の巨大市場においても、ロジック半導体のイノベーションと応用が進むかもしれない。

中国半導体産業に参入する韓国・台湾企業

質問:
韓国、台湾の半導体企業は中国の半導体産業にどのような形で関与しているのか?
答え:
(KOTRA辺氏)台湾の半導体企業の強みはチップやプロセッサーだが、韓国の強みは主にメモリだ。韓国にはサムスン電子とSKハイニックスという大手半導体企業がある。この2社を中心に、韓国のメモリ半導体の世界生産シェアは2022年時点で6割を占めた。サムスン電子は陝西省西安市に、SKは重慶市や江蘇省無錫市、遼寧省大連市に工場を有するなど、いずれも膨大な投資を行い、両社の最大市場である中国に生産拠点を設立している。

韓国・大韓貿易投資振興公社(KOTRA)ピョン・ヨンソプ(辺龍燮)成都貿易館館長
(ジェトロ撮影)
(TAITRA陳氏)現在、半導体に使われるレジストとマスクは台湾で生産し、中国大陸の台湾系メーカーに供給している。台湾で生産される半導体の化学原料の多くは日本企業と共同開発しているため、中国大陸には移管せず、台湾での生産を続けている。現在、台湾で生産された原料および設備の中国大陸の供給先は主にTSMCの南京工場と、聯華電子(UMC)のアモイ工場の2カ所だ。半導体製造設備も、中国に供給するのは中古品ではない限りそれほど多くない。一方、TSMCは米国に工場を建設中であり、そちらは原材料生産工程を含むサプライチェーンをすべて現地でも設けた。
質問:
自国や他国・他地域との役割分担という意味合いでは、やはり最終工程に近いところを中国で行っているという理解でよいか。川上・川下の上流部分、例えば設計やウェハー上にLSI(大規模集積回路)を作るといった前工程などは自国で行っているのか。
答え:
(TAITRA陳氏)中国大陸は半導体設計技術者の人件費が安いため、一部の設計会社は中国に研究開発センターを設立している。中国大陸には台湾系ファブレス(注1)の現地法人も多い。台湾半導体大手のメディアテックは成都市、重慶市、深セン市に現地法人を設置している。現地法人の立地は、設計のみならず技術支援を必要とするため、携帯電話メーカーや音声制御チップメーカーの拠点に隣接させている。ただし、高速ネットワーク通信、衛星通信と言った先端通信分野のチップ設計は引き続き台湾で行っている。
質問:
半導体産業は、垂直統合から水平分業へシフトするという特殊な構造変化を経てきたと指摘されている。
答え:
(TAITRA陳氏)半導体分野は他の消費財と異なり、設計をファブレスが、製造(前工程)をファウンドリー(注2)が、販売をチップメーカーが担うという分業が成立している。発注量が膨大な米アップル、米大手半導体メーカーのNVIDEA、初期のファーウェイなどの企業は直接TSMCに発注を行っているが、一般企業はTSMCに直接発注することはできない。ほとんどの半導体販売企業は中国半導体商社の文曄科やWPGホールディングスなどを通じて、日本半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスや米インテルからチップを調達している。今後は、分業体制にも変化が出るかもしれない。中国大陸の自動運転用のチップなどは、EV(電気自動車)メーカーからTSMCが直接OEMを受けるケースも増えてきた。量も多く、今後の発展が見込まれるからだろう。また、スマートフォンメーカーのOPPOやVIVO用のIC設計大手のメディアテックもTSMCに直接、生産委託している。

台湾貿易センター(TAITRA)陳彦廷成都事務所所長(ジェトロ撮影)

米中対立における中国進出韓国・台湾半導体企業の立ち位置

質問:
中国に進出している韓国および台湾半導体関連企業の現状はどうか。米国による対中輸出管理規制はどのように影響しているのか。
答え:
(KOTRA辺氏)中国のPC(パソコン)や携帯電話メーカーの多くが韓国製のメモリを使用しているが、2023年は中国国内でノートPCの販売台数が減少しているため、韓国の対中メモリ輸出も大幅に減少している。しかし、サムスン電子やSKハイニックスが西安市と重慶市に持つ中国工場での生産はそれほど落ち込んでいない。中国で製造するメモリは国内販売のみならず第三国への輸出もあるが、中国で生産を行う韓国の半導体製造企業が憂慮しているのは、米国による半導体設備の対中輸出管理規制である。
(TAITRA陳氏)現在、各国が中国に対して半導体分野で規制をしているが、それは一定の範囲内で行われている。台湾では多くの海外企業から委託生産でチップを製造しているが、一部は中国大陸にも輸出している。演算速度によって米国の輸出管理規制の対象になり得るが、対象外の範囲内で中国と取引することは今後とも可能であると考える。また、チップの製造工程と原料は同輸出管理規制の対象であるため、台湾の半導体チップ販売企業は中国へ輸出する際に別途、登録手続きを行う必要がある。

中国半導体産業の今後は

質問:
中国の半導体産業は今後どのようになるだろうか。
答え:
(TAITRA陳氏)現在、中国で製造される半導体は40~90nm(ナノメートル)が基本で、小さいものでも10~30nmが主流だ(注3)。中国は14~28nmの半導体製造の標準化を目指しており、同領域のシェア拡大を試みているが、諸外国の輸出管理規制により最先端半導体の量産が困難な状況にある。また、米国、台湾、韓国、日本は最先端半導体製造の世界シェアを確立するために、韓国の「国家先端戦略産業法」や日本の「経済安全保障推進法」といった半導体産業の基幹インフラの安全を守るための強固なメカニズムが必要になるだろう。
(KOTRA辺氏)中国政府は半導体産業の促進政策を掲げており、達成のために膨大な資金と人的資本の投入を行っている。特に、国内で大量生産している携帯電話などに搭載するプロセッサー(注4)を、自国生産して最適化を行いたいだろう。中央政府および地方政府ともに同政策推進に力を注いでおり、四川省政府は、省、市、区ごとにそれぞれ半導体関連企業を設立している。政府支援のもと、中国の半導体産業は急速に発展し、独立したサプライチェーンを構築できるかもしれない。
(TAITRA陳氏)中国の産業コンサルティングを手掛ける中商産業研究院によれば、中国大陸では、半導体製造設備のうちリソグラフィ装置、イオン注入設備、計測機器関係の国産化率は1%に満たないという。中国最大手半導体ファウンドリーのSMICは7nmの比較的高いスペックの半導体も製造しているが、製造設備は主に日本に依存している。日本は、製造設備や原材料においてライセンス制御を徹底して行っているため、中国にとって国産化のハードルは高い。しかし、SMEE(上海マイクロエレクトロニクス)などは、既に28nm級のリソグラフィ装置の生産を開始したと公表している。
質問:
これからの中国の半導体産業において、他に注目しているポイントはあるか。

ジェトロ 森永正裕成都事務所所長(当時)(ジェトロ撮影)
答え:
(TAITRA陳氏)ファーウェイが製造したスマートフォン「Mate60pro」を動かす7nmの先端半導体のPPM(注5)がどのくらい低いかに注目している。TSMCの7nm技術は既に定着しており、極めて低いPPMを実現している。米アップル製品は既に4nmが基本だ。SMICも製品のPPMを下げないと、日本への原材料依存度が高くなり、同国の対中原材料輸出規制の影響を受けざるを得ない。現在は、中国が5nm以下の半導体を製造する場合、オランダの半導体製造装置メーカーASMLの極端紫外(EUV)リソグラフィ装置を使わなければならない。SMICは、従来の深紫外線(DUV)リソグラフィ装置を使っているので回路の微細化には限界がある。
質問:
中国が世界の最先端半導体を牽引するには時間を要するとの見方か。
答え:
(TAITRA陳氏)半導体産業には技術や製造設備の投資が必須で、短期間で一定水準以上の規模を達成するのは難しい。中国の半導体製造設備の国産化率が20%を超えたら、製造技術のブレイクスルーも可能かもしれない。
(KOTRA辺氏)現在、中国の半導体は価格や品質が低下しており、いかに高性能製品を生産するかが課題である。技術の発展には時間を要するだろう。産業発展に必要なのは、高精度な技術および優秀な人材の確保であるが、数年で達成するのは難しい。サムスン電子もSKハイニックスも、数十年の時間をかけたからこそ現在の実績を達成している。製造設備による生産性の向上は長い時間を要することが予測される。中国は今後とも、国家政策として企業への積極的な研究開発支援などを行うであろう。

中国半導体産業に関する日韓台座談会の様子(ジェトロ撮影)

注1:
自社で生産設備を持たず、外部の製造企業に100%生産委託しているメーカーを指す。
注2:
半導体製造の「前工程」と呼ばれる前半の工程の作業を請け負い、顧客の設計データに基づいた受託生産をする会社または業界。
注3:
ナノメートル(nm)の数値が小さいほど、より小型で高度な半導体であることを示す。
注4:
デジタル機器を構成する半導体ICの中で、デジタル情報の演算処理を担う。
注5:
製品の不良率を表す単位であり、製品100万個当たりの不良品の数を示す。
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 次長
森永 正裕(もりなが まさひろ)
1998年、アジア経済研究所入所。ジェトロ・上海事務所、JOGMEC・北京事務所長(出向)、研究企画課長、ジェトロ・成都事務所長などを経て現職。