特集:半導体グローバルサプライチェーンはどう変わる?ファウンドリーは海外進出も、最先端技術は台湾に

2023年2月6日

台湾は半導体生産拠点の集積地で、とりわけ、ロジック集積回路(IC)の製造で世界をリードする存在となっている。しかし、米国や日本などの主要国・地域では、台湾への先端半導体生産拠点の集中をサプライチェーン上のリスクととらえ、拠点の分散に向けた提案や、自国への企業誘致の動きを進めている。他方、台湾の蔡英文総統は2022年10月の双十節式典のスピーチで、「半導体の生産能力が台湾に集積していることはリスクではない」と強調した上で、「台湾は、先端半導体製造の優位性を維持し、再編が進む世界の半導体サプライチェーンでも世界と協力して重要な地位を担っていく」と表明した。本稿では、有識者へのインタビューなどを通じて得られた見解を踏まえつつ、台湾から見た半導体市場の動向や展望を紹介する。

最先端ロジックIC生産で強い存在感示す台湾

台湾企業は半導体の生産で強い存在感を示している。台湾の調査会社トレンドフォースによると、2022年第3四半期(7~9月)の世界のファウンドリー(半導体の受託生産)企業の収益額について、台湾企業は6割以上を占めた(注1)。上位5社について内訳をみると、台湾積体電路製造(TSMC)が56.1%と1社で、世界シェアの半分以上を占め、これに韓国のサムスン電子、台湾の聯華電子(UMC)が続き(表参照)、台湾の力晶半導体(PSMC)も6位につけた。

表:世界のファウンドリー収益上位5社(2022年第3四半期)(単位:100万ドル、%)
企業名 本社所在地 収益 市場シェア
台湾積体電路製造(TSMC) 台湾 20,163 56.1
サムスン電子 韓国 5,584 15.5
聯華電子(UMC) 台湾 2,479 6.9
グローバルファウンドリーズ 米国 2,074 5.8
中芯国際集成電路製造(SMIC) 中国 1,907 5.3

注:市場シェアは収益ベース。
出所:トレンドフォース(2022年12月8日)

また、台湾は線幅が狭い最先端ロジックICの生産で存在感が強い。米国半導体工業会がまとめた2019年の国・地域別のウエハー生産能力をみると、台湾が世界全体に占める割合は20%だったが、線幅10ナノメートル未満のロジックICの生産に絞ると、世界全体の92%が台湾に集中していた(2021年6月21日付地域・分析レポート参照)。他方、メモリーICでは韓国のシェアが44%で最大、台湾は11%となっており、双方が強みを有する分野は異なっている。

米国や日本は台湾ファウンドリーを誘致

先端ロジックICは、スマートフォンやハイパフォーマンスコンピュータ(HPC)などに使用されており、第5世代移動通信システム(5G)やビッグデータ、人工知能(AI) などのデジタル経済社会を支える基盤デバイスだ。その先端ロジックICの生産能力が台湾に集中していることから、欧米や日本では台湾企業を誘致して生産能力の台湾一極集中を回避するとともに、自国の供給・生産能力強化を図る動きがみられた。結果として、日本や米国は台湾積体電路製造(TSMC)の誘致に成功し、いずれも2022年に工場着工に至っている。

TSMCは日本では、日本企業との合弁でJapan Advanced Semiconductor Manufacturing (JASM)を熊本県に設立し、12ナノメートル、16ナノメートル、22ナノメートル、28ナノメートルのIC生産を行う予定だ(本特集「半導体産業の日台連携(1)台湾ファウンドリーとの連携強化が要に」参照)。さらに、TSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は2023年1月12日に実施した2022年12月期決算の記者会見で、顧客の需要と政府の支援水準を踏まえ、日本での第2工場建設を検討していることも明らかにしている。

米国では、アリゾナ州で4ナノメートルのICウエハーを生産する第1工場と、3ナノメートルの第2工場の建設を開始している。第1工場は2024年、第2工場は2026年の生産開始をそれぞれ計画。2つの工場の投資総額は400億ドルに上るという(2022年12月8日付ビジネス短信参照)。

このほか、欧州に関しては、上述の2023年1月12日の記者会見で、自動車技術関連に特化した工場の建設の可能性について、顧客やパートナーとの間で可能性を評価していると明らかにしている。

ファウンドリーの海外展開は、TSMCに限った話ではない。UMCは2022年2月にシンガポールでの新工場建設を発表した。投資額は50億ドルで、同国の既存の300ミリウエハー工場に次ぐ工場となり、22、28ナノメートルのICウエハーの製造を2024年後半に開始する予定だ。

台湾では、欧米や日本などによるファウンドリー誘致について、自国でのIC製造によるオンショア化の進展はコスト上昇や技術発展の減速などのデメリットをもたらし、非効率との指摘もあった(注2)。ただ、これらのデメリットは存在するものの、半導体の重要性が高まるにつれて、海外展開に対するスタンスも変化しているとの見方がある。半導体の業界団体に所属し、同サプライチェーンの動向に明るい在台湾アナリストは、製造拠点の海外展開によってコスト増加というデメリットは当然生じるとしつつも、展開先の地場のサプライヤーや顧客企業(注3)とつながりを強化できるといったメリットもあると指摘。米国と日本に進出を決めたTSMCは、半導体製造企業としての国際的地位の維持や、地震などによる生産リスクの分散、顧客を含む海外企業との連携強化などのメリットを踏まえて決断したのではないかと分析した(2022年12月)。実際に、TSMCの魏哲家CEOは前述の2023年1月12日の記者発表で「TSMCの仕事は顧客の成功を可能にするための最適なソリューションを提供することにあり、これら(のソリューション)は、技術リーダーシップ、製造、コストに加えて、地政学的な(側面を考慮した)生産の柔軟性(geographic manufacturing flexibility)を含んでいる。顧客の要求に基づき、台湾域外での生産キャパシティーを増やしている」と言及。今後のビジネスで地政学的な要素も考慮しつつ、海外展開に前向きに取り組む姿勢を示している。

最先端技術は引き続き台湾に

台湾のファウンドリーの海外展開が進められる一方で、展開先で予定する製造工程の中身などを見ると、最先端の技術や製造工程は引き続き台湾域内にとどめようとする姿勢も見えてくる。例えば、TSMCは、米国アリゾナ州の第2工場で3ナノメートルICウエハーを2026年に生産開始予定だが、台湾では2022年12月29日に、南部のファブ18で3ナノメートルICウエハーの量産を既に開始したと発表した。また、2023年第2四半期(4~6月)には台湾北部の新竹サイエンスパークで研究開発センターが開所するほか、新竹と台南で2025年の生産開始を目指し2ナノメートルICウエハー製造用のファブの準備を進めている。

産業情報研究所(MIC)の鄭凱安シニア産業アナリストは、TSMCはアリゾナ州への追加投資(第2工場建設)を発表したが、TSMCの生産能力全体に占める米国での生産能力の割合は数%程度と小さく、米国に生産拠点を移管しているとは言い難いと指摘。また「(台湾は)土地、水、電気、人的資源などのリソースが限られているため、台湾の半導体工場にとって、海外展開は検討しなければならない選択肢となっている。ただし、最先端プロセスの研究開発と生産は引き続き台湾で優先的に進め、台湾の半導体産業クラスターの利点を最大限に活用する。そして、技術と市場の成熟を待ったのち、米国や他の国・地域への生産拠点移転を検討するだろう」との見方を示した(2022年12月)。

新型コロナウイルスを契機とした半導体の供給不足によって、半導体製造での台湾の存在感の強さと、その集中がリスクになり得ることが認識された。日本や米国などのIC調達国はサプライチェーンの分散や自国への生産拠点誘致を進め、これに呼応するように、TSMCは海外展開を行う姿勢を示している。他方、上述のTSMCの動きを見ると、IC生産拠点の海外展開と分散は一定程度進む一方で、引き続き最先端技術は台湾に集積すると考えられる。


注1:
垂直統合型デバイス製造(IDM)を含めた半導体製造企業の売上高を見ても、TSMCやUMCの存在感は大きい。ジェトロが日本台湾交流協会と協力して実施した「台湾における半導体産業について‐台湾の関連政策と主要企業のサプライチェーン調査‐PDFファイル(2.00MB)」によると、IDMやファウンドリーを含む世界主要 IC 製造企業の売上高ランキング(2020年)でTSMCは第3位、UMCは第14位だった。
注2:
TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は2021年7月のAPEC非公式首脳会議で、各国で半導体の自前製造を求める傾向が強まっていることに対し、コスト増大と技術発展の減速をもたらしかねないと警鐘を鳴らしていた。
注3:
TSMCによると、2022年第4四半期(10~12月)の純収益(199億3,000万ドル)の国・地域別構成比は、北米が約7割で最大だった。中国は約1割、日本は1割未満だった。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て現職。