特集:変わるアジアの労働・雇用環境と産業界の対応 コロナ禍で、失業率が急速に悪化(ラオス)
今こそ魅力的な職場環境整備や地域社会への貢献を

2021年10月6日

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響を受ける以前から、高い失業率の改善が課題とされていたラオス。コロナ禍によって、観光業を中心としたサービス業の雇用環境の悪化やタイからの出稼ぎ労働者の帰国により、失業率がさらに悪化している。本稿では、コロナ前から現在、そしてアフターコロナ期の雇用環境を分析する。

失業問題は新型コロナ禍以前から

ラオスの失業率は、2019年時点で9%だった。コロナ禍以前から既に、比較的高い失業率の改善が課題になっていたことになる。同国はピラミッド型の人口分布で、人口の過半数が24歳以下と若者層が多い。その結果、毎年15万人程度が何らかの形で就学を終えている(ラオス統計センター 2020年)。加えて、国内の工業化が遅れ、十分な雇用先が確保できていないことが、高失業率の構造的な原因と言える。若者の38%が潜在的に失業状態にある、とする報告もある。ラオスでは、大学を卒業しても希望する職に就けない者が多い。

例えば、大卒者を中心に最も人気の高い公務員は、いまや「狭き門」だ。全国の公務員の総数は、軍人を除いて18万7,000人。総人口の約2.6%を占め、それほど少なくはない。実際、かつては年1万人以上を新規採用していた。しかし行政コスト削減ため、新規採用が急激に絞られている。2020年の採用枠は2,000人、2021年は1,000人ほどに留まる(UNDP資料、2021年7月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

このような中で就労先として大きな吸収先となっていたのが、郷里での農業とともに、タイへの出稼ぎ労働だった。その形態は、長期的なものから、農繁期に限られる短期的なものまで多岐にわたる。また、長期の業種は製造業、建設業、漁業やハウスキーパーなど幅広く、合法的なものもあれば非合法的なものもある(注1)。いずれにせよ、コロナ前は少なくとも30万人がタイに出稼ぎに行っていたと推定される(IOM資料、2016年PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.25MB))。タイ語とラオス語の類似性も、比較的容易に出稼ぎできる要因だ。

出稼ぎの中でも大きな比重を占める家庭内労働者は法的保護の外に置かれ(注1)、過剰労働や虐待など、様々な人権問題が指摘されている(インタソーン資料、2003年)。このようなリスクを負ってもタイで就労するのは、ラオス国内で雇用機会が限定されている点に加え、労賃水準の側面も大きい。ラオスの最低賃金は、2018年5月に改正された後も月110万キープ(約100ドル)に過ぎない。一方、タイ(バンコク首都圏)では1日336バーツ(約10ドル)で、月換算すると約265ドル。大きな格差があるのだ。

他方で、先述した労働人権問題について両国政府は、「合法的出国と就労雇用に関する制限」に関する二国間協力覚書(MOU)を2002年10月に署名。2005年5月からは、タイ側の労働需要に応じてラオス人労働者を派遣する制度が始動した。本MOUにより、両国の公式な出稼ぎ労働者の権利の保全・管理が可能となった。また、タイ国内で死亡した場合の通知連絡や、自らの出身郡への安全な帰国なども規定された。しかし、本スキームを利用した新規送り出し者数は、2019年では5万3,764人に過ぎない(2019年労働社会福祉省統計)。さらに、タイ政府は2017年8月から、国籍を確認した上で合法的な登録を可能とする制度を導入した。違法にタイ国内で就労するラオス人、ミャンマー人、カンボジア人労働者とその扶養家族の状況を改善するのが、その狙いだ。その結果、2018年6月までに約4万人のラオス人労働者と扶養者が合法化された(パテートラオ 2018年11月19日)。その後も、タイ政府は複数回にわたり同様の救済措置を実施し、2021年2月までに11万6,000人がなんらかの登録がなされた(パサソン社会経済紙 2021年3月5日)。しかし、先述したように家庭内労働や短期的な出稼ぎは、対象になりえない。結果として、違法状態の労働者がなおも多数滞在していると見られる。

いずれにせよ、タイを中心とした外国への出稼ぎ労働は、雇用面からもラオス全体の経済としても、重要な役割を担っていた。世界銀行は2021年1月のエコノミックモニターで、2019年の時点で外国に何らかの形で暮らすラオス人は約90万人で(注2)、年間およそ2億ドルがラオスへと送金されていたと推計した(世界銀行資料、 2021年1月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

コロナ禍で失業率が急上昇

この状況は、コロナ禍により大きく悪化した。2020年末まで、ラオスの累積感染者は幸い42人にすぎなかった。しかし、経済的には大きな影響を被った(注3)。

まず、内需と外需が抑制されたことで、2020年のGDP成長率が0.5ポイント縮小。通貨危機以来のマイナス成長となった。行動制限により、特に外国からの観光客数は81.5%も急減した(アジア開発銀行 2021年4月外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。世界銀行は先述の2021年1月のエコノミックモニターで、2020年7月までにパンデミック前に雇用されていた労働者の約13%が職を失い、失業率は25%を超えた、と報告した。

タイを主とするラオス人労働者の帰国は、第1波としては2020年4月にいったんピークとなった。これは、3月中旬ごろからタイで解雇された者、摘発や感染を恐れた者が帰国しはじめ、3月下旬にラオスが全ての陸路国境を閉鎖すると発表したことでさらに拍車がかかったためだ。帰国者が最多だった2020年4月中旬には、ピーク時で公設隔離センターにおいて6万8,000人、自宅において4万4,000人が14日間の隔離下に置かれた(COVID-19特別委員会プレス、2020年4月)。世界銀行の分析外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、年間およそ2億ドルの海外からの送金が2020年には半減した。当然ながら、送金に依存する世帯には大きな打撃だ。2020年通年で約14万人が帰国し、その後、2021年7月までに累計で約24万人が帰国したとみられている(ビエンチャンタイムス 2021年7月30日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。無論、帰国後に国内で職を得ている者も一定数いるだろう。しかし、2021年6月以降、タイ国内の感染の急拡大に伴い、再びタイからの労働者の帰国が急増している。失業問題は、一層深刻化する可能性がある。

日本企業の多くがコロナ禍でも給与・賞与支払いを維持

先述のように失業率が上昇する中、ジェトロは複数の日系企業に聞き取り調査を実施した。その限りでは、福利厚生的な観点から定期昇給やボーナスを例年通り実施したところが多いようだ。実際のところ、従業員からの賃金値上げの要求はそれほど強くはない。しかし、2020年1月から2021年6月末までの間に現地通貨キープが対ドルで17%も下落。化石燃料を筆頭に生活必需品の多くを輸入に依存していることから、従業員の生活を維持することを重視したものとみられる。

また、ビエンチャン日本人商工会議所の調査によると、第1期ロックダウン(2020年3月下旬~5月上旬)時の工場閉鎖では日系製造業の84%が閉鎖期間中も50%以上の給与支払いを実施し、従業員の生活を支えた。このような姿勢を反映してか、ある日系製造業では離職率は2019年に1.6%だったが、コロナ禍で徐々に減少し2021年には0.8%にまで低下している。なお、第2期ロックダウン(2021年4月〜)前に県外へ帰郷した労働者は、復帰できていない例も多いという。これは、行動制限の緩和後も県外への移動にワクチン接種の条件が設けられた結果だ。

ちなみに、ワクチン接種完了は、新規雇用の条件とされる。このことから、2021年7月時点で、労働者不足を指摘する声が多く聞かれた(注4)。ラオス縫製工業協会は、会員企業で労働者が1万5,000人不足しているとする。また、就業を希望するワクチン接種完了者には、協会を通して就職を斡旋(あっせん)すると告知している(パサソン社会経済 2021年7月7日)。

アフターコロナに向けて、労働需給ミスマッチの解消を

このようにラオスでは、今のところ、コロナ感染拡大はある程度抑え込むことに成功してきた(2021年7月現在)。その一方で、タイ国内の感染拡大を受け、失業問題は悪化しつつある。2020年11月までにILOやNGOが新型コロナの影響について共同で実施した調査「ラオスの帰国移民労働者に与える社会経済的な影響」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、帰国労働者のうち、再度他国への出稼ぎを希望しているのは約半数(49%)にとどまった。今後、国内での就労機会をいかに提供するかが大きな課題ということになる。そのためには、労働市場と適合する職業訓練機会の提供が必要だ。また、日本でいうハローワークのような政府系労働斡旋サービス(注5)や民間のマッチングサイトの充実も求められる。

進出日系企業にとっては、アフターコロナ期は優良な人材確保の機会と捉え、福利厚生の充実や人材育成の強化など、魅力的な職場環境や地域社会への貢献を提供することが期待されよう。これに伴い、労働者の人権保護など責任ある企業行動も一層重要になってくるとみられる(2021年10月6日付地域・分析レポートで詳報)。


注1:
労働者の3分の1は、ハウスキーパーなどの家庭内労働と言われている。このような労働者は社会保障の対象外に置かれる。そもそも労働許可を取得していないケースがほとんどと推定される。短期労働者も同様だ。
注2:
米国やフランス、日本などへの移民も含まれる。
注3:
ラオスでの新型コロナの影響については、2020年7月28日付2020年7月28日付2021年3月16日付2021年3月23日付、それぞれの地域・分析レポートを参照。
注4:
ラオスでのワクチン接種率は、7月27日時点で1回目接種が107万人(人口の約15%)。2回目接種が84万人(約12%)だった(ラオス保健省)。
注5:
労働社会福祉省による労働斡旋サービス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、すでに各県に設置され、様々な雇用情報を提供している。民間のマッチングサイトとしては、108.jobs外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどがある。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員

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