1. サイトトップ
  2. 海外ビジネス情報
  3. 地域・分析レポート
  4. ラオスでのコロナ禍とアフターコロナに向けて(後編)新5カ年計画は高成長路線から質のある成長へ転換

新5カ年計画は高成長路線から質のある成長へ転換
ラオスでのコロナ禍とアフターコロナに向けて(後編)

2021年3月23日

ラオスにおける、新型コロナウイルス禍とアフターコロナに向けた動きについて報告する連載の後編では、主要な経済活動として貿易、観光業を取り上げつつ、ラオス政府の新5カ年計画について解説する。貿易ではサプライチェーンの混乱による影響を受けているものの、農林業の回復や、電力輸出の増加が下支えした。一方で、観光業は大きな影響を受け、その回復には時間を要すると見られている。ラオス政府は、3月末の国会で承認される予定の新たな5カ年計画の中で、メガプロジェクトに依存し、貧富の差の拡大など様々な問題が顕在化したこれまでの高成長戦略から、中小零細企業の成長を支援し、質に重点を置く成長へと路線を変更する。コロナ禍からの回復に向けた、政府の今後の取り組みにも注目が集まる。

貿易への影響は軽微

世界銀行のラオエコノミックモニター(2021年1月)によると、2020年1~9月のラオスの輸出は43億2,000万ドル(前年同期比0.5%減)で全体しては新型コロナの貿易への影響は比較的軽微にとどまった。一方、一部の品目では、サプライチェーンの混乱と外需の縮小による影響もみられた。例えば、ラオス商工省によると、1~9月の縫製品の輸出は1億5000万ドル(12%減)と輸出総額に比べて落ち込みが大きかった。輸入は47億6,000万ドル(10.2%減)で、ラオス国内の経済活動の低下や製造業におけるサプライチェーンの混乱による原料輸入の減少などの影響を受けたと見られる。

タイは毎年のラオスの輸入総額の5割、輸出総額の4割以上を占める最大の貿易相手国であるが、タイの商務省外国貿易局国境貿易統計速報によると、2020年はタイのラオスからの輸入が862億バーツ(約3,060億円、1バーツ=3.55円)(前年比8.4%増)、タイからラオスへの輸出が1,036億バーツ(12.1%減)であった(表参照)。ラオスからの輸入では、最大の輸出産品である電力が554億バーツ(27.4%増)に達した。前年の干ばつから回復し、メコン川の本流ダムであるサイニャブリダム[1,285メガワットMW)]など複数の発電所からの電力輸出が本格化したことが大きな要因である。また、野菜および加工品が52億バーツ(84.2%増)、果物および加工品が8億バーツ(2倍)と伸びた。一方、送受信機が46億バーツ(33%減)、ラジオ/電話/テレビが17億バーツ(46.6%減)、セメント17億バーツ(23.1%減)など、世界的需給の減少やサプライチェーンの混乱が影響したと見られる。銅が48億バーツ(62.2%減)と減少する中、過去数年ラオスからの実績がなかった金は56億バーツとなった。これは主要鉱山の1つであるセポン鉱山で銅資源の減少に伴い銅の生産を停止し、2020年8月から金の生産へと切り替えたことが原因である。タイからラオスへの輸出では、ラオス国内の経済活動の停滞によりディーゼル油96億バーツ(32.9%減)、ガソリン52億バーツ(17.5%減)、自動車43億バーツ(34.6%減)と落ち込んだ。

表:ラオスとタイの貿易(単位:100万バーツ)

輸入(△はマイナス値、—は値なし)
品目 2019年 2020年 前年比
タイのラオスからの輸入総額 79,555 86,214 8.4%
電力 43,474 55,399 27.4%
野菜および加工品 2,816 5,188 84.2%
果物および加工品 395 810 104.8%
送受信機および設置機器 6,875 4,607 △33.0%
ラジオ/電話/テレビ 3,259 1,740 △46.6%
セメント 2,249 1,729 △23.1%
銅および銅製品 12,717 4,803 △62.2%
金および金製品 0 5,595
輸出(△はマイナス値)
品目 2019年 2020年 前年比
タイのラオスへの輸出総額 117,891 103,622 △12.1%
ディーゼル 14,360 9,635 △32.9%
ガソリン 6,358 5,247 △17.5%
自動車 6,531 4,273 △34.6%

出所:商務省外国貿易局国境貿易統計からジェトロ作成

なお、ジェトロが2020年8~9月に実施した2020年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)によると、在ラオスの日系企業は新型コロナの影響により、輸出低迷による売り上げ減少、工場などの操業停止や販売店などの閉鎖、渡航制限・入国制限、現地市場の売り上げ減少、サプライチェーンの断絶、の影響を強く受けている(図1参照)。

図1:新型コロナ感染拡大が在ラオス日系企業の営業利益に与えた
マイナスの影響とその影響の強さ(N=14)
マイナスの影響について、1番目から3番目の合計値は、「輸出低迷による売上減少」がのべ9社と最も多く、続いて「操業停止や販売店の閉鎖」、「渡航制限・入国制限」、「現地市場の売上減少」、「サプライチェーンの断絶の影響」の順となっている。

注:設問は影響度の大きさにより3項目まで選択可能としたもの。
出所:2020年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)からジェトロ作成

観光業への影響は長期化か

厳しい入国制限は現時点でも続き、外国との定期便は中国を除いて停止されたままである。2019年には、ラオスへの外国人観光客は479万人(前年比14%増)、観光収入は9億3,000万ドルに達したが、2021年1月の党大会においてトンルン首相は、2020年は98万人(前年比80%減)に落ち込んだと報告した。ラオス国営航空の搭乗客数は2019年の100万人超から2020年には38万人に減少し、売り上げも70%落ち込んだ。主な消費者物価項目別指数では唯一、ホテル・レストランのみがコロナ禍の1年を通して継続的に下落した(図2参照)。首都ビエンチャンのツーリストエリアでは2020年にかけて、レストランやマッサージ店など、多くの店舗の撤退が相次いでおり、閉鎖されたホテルも目立つようになった。既に、日系観光代理店や日系レストランの撤退も始まっている。このような中、バス運転手など多くの従業員を抱えるラオスの大手旅行会社スートチャイトラベルは、雇用の維持のために2020年3月に生鮮市場での買い物代行も行うフードデリバリー事業を立ち上げ、生き残りを図る。

また、打開策として2020年7月から大幅な値下げを打ち出した、ラオス国内旅行の推進キャンペーン(2020年7月20日付ビジネス短信参照)が行われ、特に世界遺産都市として国内旅行者にも人気が高いルアンパバンが注目された。しかしながら、同都市には2020年を通して外国人142万2,000人(前年比68%減)、ラオス人13万3,000人(40%減)の訪問にとどまった。なお、世界銀行はラオ・エコノミックモニターで、様々な社会経済活動の規制が解除された後も、人々は予防的な行動をとることにより、観光関連産業の回復は他の産業に比べて時間がかかる、との悲観的な見通しを示している。

図2:主な消費者物価項目別指数(折線)とインフレ率(棒グラフ)の推移
(2020年1月から2021年1月)
インフレ率は2020年1月から12月にかけて低下傾向にある。同期間の消費者物価項目別指数は、レストラン・ホテルのみ1年を通して低下傾向にある。

注:消費者物価指数は2015年12月時点を100として算出したもの。
出所:ラオス統計センター資料からジェトロ作成


首都のツーリストエリアは店舗の閉鎖が目立つ(ジェトロ撮影、撮影日2月19日)

アフターコロナに向けて

感染者の拡大の抑え込みに成功する中、2021年3月上旬から全国で医療関係者など15万人を対象にワクチンの接種が開始された。世界銀行はラオス経済について、2021年以降、鉄道や高速道路(2021年1月7日付ビジネス短信参照)、発電所などインフラ投資が進むこと、また民間消費や輸出の伸びを背景に回復基調になる、と分析している。一方で、失業者や財政赤字と対外債務の残高問題、観光を筆頭とするサービス産業の回復には時間を要し、アフターコロナ後も長く影を落とすことが予想される。

このような中、1月13~15日に行われた第11回人民革命党大会では、2021~2025年の第9期社会経済開発5カ年計画の骨子が議論された。本5カ年計画は、3月末の国会にて承認される運びだ。そこでは、資源開発に依存して7~8%の高成長率を目指した前期(2016~2020年)5カ年計画と比べて、次の5年間の成長率は4%以上とし、持続的で質の高い成長を目指すとする、現実的な計画とした。さらに、物質的のみならず精神的な国民生活の向上を目指すこと、環境保全や気候変動への対応を強化すること、効果的な政府ガバナンスを確保するとした。とりわけ、財政赤字ではGDPの2%以下とする厳しい目標を掲げた。貧富の差の拡大、土地の接収問題、環境問題など、総じて様々な問題が顕在化したこれまでの高成長路線からの軌道修正を明示したといえる。

また、ラオス経済の底上げを目的に中小零細企業やスタートアップの促進を主要項目に掲げた点は注目に値する。これは全企業の99.8%を占める中小零細企業への技術支援や金融アクセスの向上に具体的に努めるとするものである。これらの軌道修正は、新型コロナによるパンデミック発生前から議論されてきた課題ではある。しかしながら、コロナ禍が変革の必要性を強く突きつけ、後押しした面は否めないであろう。このような改革に対し、実際にどのように取り組むのか、3月の国会において承認される新政権の運営手腕が注目される。

ラオスでのコロナ禍とアフターコロナに向けて

  1. 感染抑制に成功するものの、厳しい経済状況続く
  2. 新5カ年計画は高成長路線から質のある成長へ転換
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員

この情報はお役に立ちましたか?

役立った

役立たなかった

ご質問・お問い合わせ