感染症対策に成功も、財政・債務への打撃が深刻
ラオスでの新型コロナ禍(前編)

2020年7月28日

ラオスでは、3月下旬に新型コロナウイルスによる初の感染者が確認された後、4月には国民の外出禁止や工場操業の停止を伴う強いロックダウンが取られた。累積感染者数は19人に抑えられ、6月10日にトンルン首相が第1波に対する勝利宣言を行った。一方で、新型コロナウイルスによる経済的な影響は大きく、世界銀行はGDP成長率を悲観シナリオの下でマイナス1.8%にまで落ち込むと推計している。工場停止や国境封鎖によるサプライチェーンの混乱による輸出減、観光業の落ち込み、失業率の増加、税収の低下による財政赤字の拡大と対外債務支払いの膨張など、さまざまな面で問題が顕在化している。今後、第2波の侵入を防ぎながらも、立て直しが喫緊の課題である。本稿では2回に分けて、ラオスでの新型コロナウイルスの影響について報告する。前編では、ラオスでの社会の動きを振り返るとともに、経済、財政の見通しを紹介する。

厳しいロックダウンを実施、感染抑制に成功

ラオス政府は、新型コロナウイルスに対処するため、1月27日に、副首相を委員長とする特別委員会を設置した。その後、不安に駆られた国民の間で、さまざまなフェイクニュースや感染を予防するとされる健康法が流布した。2月下旬には、大規模なイベントの開催中止や、感染流行国からの入国に際して14日間の隔離措置が開始された。

周辺国の感染者数が日々増加する中、3月中旬には隣接する国民のみが通過できる地方国境が閉鎖。そして、3月24日に初めて国内で2人の感染が確認されるに至った。事態を重く受け止めたラオス政府は、3月30日からあらゆる学校の休校や工場の閉鎖や外出禁止措置を含む非常に強いロックダウンを導入し、5月3日まで実施された。

その措置が功を奏したのか、4月14日以降、新規感染者は発生せず、累積感染者数は19人と比較的低い水準に抑え込むことに成功した。その後、5月下旬には国内フライトが再開、6月9日に最後の入院患者が完治ししたことで、6月10日にトンルン首相が第1波に対する勝利宣言を行うに至った。6月末現在、一見すると、国民の健康上の被害は軽度で社会生活も正常化したようにみえる。一方で、今回の新型コロナウイルスが与えた経済的な影響は大きく、また長期化することが懸念されている。

表 :ラオスにおける新型コロナウイルスをめぐる動き
時期 動き ラオス政府の措置
1月下旬 観光客が徐々に減少し始める
  • 全国の国境にて体温測定などの対策が始まる
  • コロナ対策委員会を設置
2月上旬 中国との国際便が次々と停止 中国人へのアライバルビザの発給を停止
2月中旬 さまざまなフェイクニュースがSNSを中心に広がる
2月下旬 イベント自粛の動きが始まる 国体の無期限延期を発表
3月上旬 韓国との国際便が次々と停止
  • ラオス入国者への14日間の隔離措置を開始
  • 感染国への公務員の出張、ツアーの実施の停止
3月中旬
  • 地方国境を閉鎖
  • 幼稚園~大学の休校開始
  • 観光ビザ・アライバルビザの発行を停止
3月下旬
  • タイとの国際便が次々と停止
  • タイ・ベトナム・中国との陸路国境が閉鎖
  • タイへの出稼ぎ労働者が大量に帰国
  • 初の感染者2名を確認
外出禁止・工場操業停止を伴うロックダウンを開始
4月上旬
  • 外出制限が本格化
  • ビエンチャン・成田臨時便
鉱物採掘とダム建設の停止命令を発布
4月中旬 累積感染者が19名になる
4月中旬 感染者1名が退院 5月3日までロックダウン延長を発表
5月上旬 条件を満たした工場の一部が再稼働(注) 外出禁止を解除、県を超える移動は禁止を継続
5月中旬 県外への外出、長距離バス・国内フライトを解禁
5月下旬 国内線、国内長距離バスが再開 一部の学校の再開を許可
6月上旬 最後の感染者が完治して退院
  • ほぼ全ての学校の再開を許可
  • トンルン首相第1波への勝利宣言
6月中旬 国内の平常化進む
6月下旬 感染者ゼロが2カ月以上続く 国際国境・地方国境の閉鎖を7月31日まで延長

注:2020年4月24日付ビジネス短信を参照。
出所:各資料からジェトロ作成

厳しい経済見通し

5月下旬に、世界銀行はラオスにおける新型コロナウイルスの影響について分析したレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます を発表した。その中で、ラオスはこれまでのところ感染の危機を回避しているが、世界的な景気後退の影響を免れておらず、景気後退は、観光や貿易・投資の減少、商品価格の乱高下、通貨安、移民労働者からの送金額減など、重層的にラオスに影響を与えているとした。その結果、2020年のGDP成長率は楽観シナリオで1%、悲観シナリオではマイナス1.8%に落ち込むという、厳しい見通しを発表した。これは、1990年以降最も低い成長率となる。

それによると、従来から脆弱(ぜいじゃく)だったマクロ経済下において、2020年の財政赤字はGDPの7.5~8.8%、公的債務累積はGDPの65~68%に増加すると予想されており、国の財政が窮迫するリスクが高い、とした。ビジネスセクターでは、観光関連セクターや、中小企業、特にサプライチェーンの混乱により輸出志向の製造業へ影響が大きく、同時に10万人以上の移民労働者がラオスに戻ったことも重なり、失業者が増加している、とした。結果として、ラオスの貧困層が9万6,000人~21万4,000人に増加する、と推定した。なお2021年のGDPは2.4~4.4%の成長にリバウンドする、と分析している。

また、アジア開発銀行は、4月初旬に発表した経済見通しで実質GDP成長率は3.5%に落ち込むと予測(2020年4月16日付ビジネス短信参照)していたが、その後5月下旬には成長率が0.5%からマイナス1.0%の間になる、との下方修正見通しを発表した(2020年6月4日付ビジネス短信参照)。

なお、6月24日に開会した第8期第9回国会において、トンルン首相は、2020年の経済成長を当初の計画の6.5%から3.3~3.6%に落ち込む見込みであると報告した。特にサービスセクターは、観光業の落ち込みによりマイナス4.5%となる可能性を示唆したが、全体として楽観的すぎる見通しとの指摘は否めないであろう。

財政悪化と債務問題

景気後退が明らかになるにつれ、ラオスの財政悪化と債務問題が注視されるようになっている。米国の3大格付け会社の1つであるフィッチ・レーティングスは5月15日、ラオスの外貨建ておよび自国通貨建て長期発行体デフォルト格付けを、非常に投機的とする「Bマイナス」に据え置き、見通しを「安定的」から最低レベルの「ネガティブ」に引き下げた。

また、コロナショックにより、税収が減少し、また、免税や納税猶予などの景気刺激策の影響もあり、政府の歳入は前年比約25%の大幅な減少が予想され、さらに政府保証債務は、2020年にはGDP比64.9%に上昇する、と分析した。

さらに、2020 年に国際市場からの資金調達を行うための計画が、現在の新型コロナウイルス禍に妨げられており、ラオスは困難な対外債務の返済に直面している、とした。ラオスの外貨準備高が10億ドル程度(輸入の1.5カ月分)であるのに対し、10月にはタイの債券市場で約1億ドルの償還を控えるなど、2020年に約9億ドルの公的対外債務の返済がある。

ムーディーズは6月19日、ラオス政府のソブリン債の格付けを「B3」から格下げの見直しをするための審査を開始したと発表した。この決定は、ラオスの対外的な脆弱性と財政的困難、および世界的な金融状況を背景とした、資金調達環境に関連する政府の流動性リスクの上昇を反映したもの、と説明している。成長の鈍化と財政赤字の拡大により、財政と債務の指標が悪化する。対外債務(対GDP比)が徐々に上昇し、2019年の58%から2022年には64%とピークに達する、と予想している。

また、ラオスの政府債務については2021~2025年の間に、年間平均10億ドル強の債務返済に直面する、と指摘している。G20が提案する債務の返済猶予を延長するイニシアチブへの参加については、資金調達の選択肢となる可能性があるが、救済の前提条件であるIMF支援プログラムへの参加や条件の順守など、その対応には時間がかかる可能性がある、とも指摘している。

なお、6月の国会においてトンルン首相は、2020年の歳入が計画の78%に落ち込み、財政赤字は当初計画の6兆6,960億キープ(約804億円、1キープ=0.012円)(GDPの3.77%相当)から10兆3,180億キープ(約1,238億円)(GDPの5.78%相当)へと拡大する見通し、と説明した。これに対し、不要な歳出を徹底して削減する、としている。同時に、対外債務については、政府は2020年の債務支払い延長について二国間国協議を進めている、と説明している。

ラオスでの新型コロナ禍

  1. 感染症対策に成功も、財政・債務への打撃が深刻
  2. 貿易・物価などに変調、農産品輸出促進や経済環境改善を目指す
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員