感染抑制に成功するものの、厳しい経済状況続く
ラオスでのコロナ禍とアフターコロナに向けて(前編)

2021年3月16日

ラオスでは、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染者が累計わずか47人。抑え込みに成功している。2021年は政治的重要イベントが続き、新政権をスムーズにスタートさせるためにも、感染拡大は絶対に回避すべきものとして、引き続き厳しい措置が続くとみられる。

一方で、マイナス成長の中、未曽有の財政難にも直面。中長期的に対外債務問題に対処する必要がある。

本稿では2回に分けて、ラオスのコロナ禍とアフターコロナに向けた動きについて報告する。前編では、感染抑制状況と政治、経済、債務問題について取り上げる。

政治的イベントが続く中、感染抑制に成功

ラオスでは、2021年3月5日時点で確認された新型コロナの累計感染者数は47人にとどまる。うち42人が既に完治しており、感染拡大の抑え込みに成功している(図1参照)。

ラオス政府は新型コロナ対策として、2020年1月から2021年3月にかけて、110以上の文書化された規制を矢継ぎ早に発布した。規制には、特別委員会や首相府、省庁など中央レベルで対応。2020年3月30日から5月3日まで強力なロックダウンを実施するなど、国民生活のあらゆる点に長期的に介入してきた。トンルン首相を筆頭に、国民への理解や団結を鼓舞したことや、特別委員会が休日を返上して日々プレス発表し正確な情報伝達に務めたことは、国民の防疫意識を高めたとみられる。ジェトロ・アジア経済研究所の山田紀彦研究員は「自由権が制限され、経済的補償などもほぼなかったにもかかわらず、国民の政府への支持は高まり、ナショナリズムも高揚した」と指摘する。

とはいえ、新型コロナは、国民生活に大きな影響を与えている。労働社会福祉省は「2021年3月までにタイから14万7,000人の移民労働者が帰国した。観光関連産業を中心にさまざまなビジネスで休業が続く中で、コロナ前から9%と高かった失業率が20%以上に上昇した」と分析している。貧ま困率も、2019年の18.3%から2020年に1.4~3.1ポイント増加すると推定されている。国際連合児童基金(UNICEF)は「家計の貧困から7万3,000人の子供が重度の栄養失調の危険性がある」と指摘した。

図1:ラオスにおける新型コロナウイルス累計感染者の推移(単位:人)
2020年4月15日にトンルン首相が対新型コロナで国民の団結を呼びかけた後、7月まで新規感染者は発生しておらず、累計19名のままで推移していた。その後、11月に感染が累計39名まで拡大し、トンルン首相が12月22日に、第2波に備えるための緊急会見を開催。その後、2021年3月5日時点で確認された新型コロナの累計感染者数は47名に留まり、感染を抑え込んでいる。

出所:新型コロナ特別委員会などを基にジェトロ作成

実は、ラオスにとって2021年は政治的に重要な年だ。1月13~15日には、第11回人民革命党大会を開催(2021年1月19日付ビジネス短信参照)。今後5年間の重要人事と国家政策の骨子を決定した。また、2月21日には第9期国民議員選挙が行われた。さらに、3月22日からは第1回国民議会が招集され、国家主席、首相、大臣など政府閣僚の決定や第9期社会経済開発5カ年計画が承認される予定になっている(表参照)。これら一連の政治イベントが終了し、次期政権の運営が軌道に乗るまでは、国内の感染拡大は許されない。そのため、現在の厳しい入国規制や国内のさまざまな措置は継続するとみられる。

表 :ラオスにおける新型コロナウイルスをめぐる動き
時期 動き ラオス政府の措置
2020年
7月
上旬 周辺国との違法出入国事例が増加。
中旬
下旬 国際国境・地方国境の閉鎖を継続。
8月 上旬
中旬 ムーディーズ Caa2に格下げ。
下旬 茂木外相ラオス訪問。ビジネストラック開始で合意。
9月 上旬
中旬
下旬 フィッチ CCCに格下げ。
10月 上旬 航空便フライト搭乗時にPCR陰性証明が必要に。
中国の王毅外相ラオス訪問。ファストトラックや輸送グリーンチャネルで合意。
市中感染が無い国からの渡航者は自宅や職場での隔離を容認。グループツアーも認める。
中旬 一部の地方国境をオープン(貿易目的に限る)。
下旬 国会(10月27日~11月17日)で、コロナ禍の経済対策の強化を議論。
11月 上旬 エンターテイメント店舗の営業再開。
中旬 中国とのファストラック開始(隔離48時間に短縮)。
下旬 14名の感染確認を発表(全て外国からの入国者)。
中国シノファーム製ワクチンの医療従事者への接種開始。
中国から新型コロナ分析室(38万ドル)設置に向け、支援。
12月 上旬 マレーシアでラオス人漁業労働者500名が帰国できず社会問題化。 仁川→ビエンチャン便の外国人の搭乗を急遽禁止。
ミャンマーからラオス経由で中国に密航した中国人が雲南省で陽性反応。 ボケオ県、ルアンナムター県の一部を14日間ロックダウン。
中旬 マラソン・野外コンサートが急遽禁止。
日本を市中感染国扱いに指定(明文化無し)。入国が困難に。
下旬 タイの魚介市場で集団感染広がる。 PCR検査(約120ドル)や治療費を一部有料化。
ビエンチャン・バンビエン高速道路が開通。 タイの海産物の輸入を禁止。
2021年
1月
上旬 タイからの密入国帰国者が増える。 ボケオ県の一部でロックダウン(25日まで)。
中旬 コロナ入院患者がゼロに。
第11回人民革命党大会(1月13~15日)。
下旬 チャムパサック県で初の感染者確認(タイ移民労働者)。
医療従事者へのワクチン接種が本格化。
2月 上旬 シノファーム製ワクチン30万本が到着。
中旬
下旬 第9期国民議員選挙(2月21日)。
3月 上旬 全国で医療従事者など優先度の高いグループへのワクチン接種開始。 外国人入国者に、新型コロナ対応の保険加入やモニタリング機器の使用を義務化。
中旬
下旬 第1回国民議会(3月22日~)。

注:2020年6月以前の動向については2020年7月28日付地域・分析レポートを参照。
出所:各資料からジェトロ作成


国民議会議員選挙の投票所の様子(ジェトロ撮影)

2020年のGDP成長率はマイナス0.6%、サービス部門が大きな打撃

2021年1月に世界銀行ラオス事務所が発表したラオス経済の定期レポート「ラオ・エコノミックモニター」によると、2020年のラオスの実質GDP経済成長率はマイナス0.6%と前年の4.7%から大きく落ち込んだ(図2参照)。ロックダウンと国境閉鎖に伴い大きな打撃を受け、サービス部門がマイナス4.5%となったと推定(2019年は6.7%)。特に外国人観光客の落ち込みが宿泊施設などの観光関連に多大な影響を与え、国民の消費控えやサプライチェーンの弱体化は卸・小売りの成長を鈍化させたと分析した。一方、農林部門は、2019年の干ばつ・洪水の影響(2020年9月7日付地域・分析レポート参照)から2%に回復した (同マイナス0.9%)。工業部門は、サプライチェーンの混乱による製造業への影響や、鉱物の減産の影響があったものの、複数の大規模発電所での売電の本格化が下支えし、2.9%となった(同4.7%)。なお、2021年の経済見通しとしては、鉄道などのインフラ投資やサービス、輸出、民間消費が伸びることで、4.9%に大きく回復するとした。ただし、新型コロナの長期化や債務問題など状況が悪化した場合は、2.8%に下振れするとも予想している。

図2:名目GDPと実質GDP成長率の推移
2020年のラオスの実質GDP経済成長率はマイナス0.6%と前年の4.7%から大きく落ち込んだ。2021年の経済見通しとしては、4.9%と予測されている。ただし新型コロナの長期化や債務問題など状況が悪化した場合は2.8%に下振れするとも予想している。

出所:世界銀行発表資料からジェトロ作成

未曾有の財政難が慢性化

新型コロナによる経済的な影響は、国家財政にも大きな負担をもたらした。世界銀行(2021年)の推計によると、景気後退により2020年の財政赤字はGDP比で7.6%に拡大した(2019年は5.1%)。政府は2017年ごろから、徴税システムの強化や節約節制政策による緊縮財政を推し進め、健全化を目指してきたさなかだった。

2020年10月末に行われた国民議会でソムディ副首相兼財務相は、2020年の1月から9月までの国内歳入が13兆6,000億キープ(約1,632億円、1キープ=0.012円)で、前年同期比15%減に落ち込んだと発表。さらなる歳出を抑える必要がある中、国内や対外債務の借り換えのために5兆5,000億キープが必要になっていると説明し、債務返済が最も困難な課題と認めた。対外債務問題では、2020年8月にムーディーズがラオス政府のソブリン格付け(債務発行体格付け)を従来の「B3」から投機的で安全性が低いとする「Caa2」へと引き下げ。9月にはフィッチ・レーティングスが「B-」から相当重大な信用リスクとする「CCC」に格下げした。いずれも、2025年まで続く多額の債務返済(年間10億~11億ドル)と資金調達の選択肢が限られるリスクを反映したもの、と説明している。10月の国会では、ソムディ副首相兼財務相は、国有資産や国営企業売却を積極的に進めること、ソンサイ副首相兼計画投資相は、歳出を抑えるために公共投資を貧困対策や人材育成、中小企業支援など必要性の高い事業にのみ限定する、と説明した。

世界銀行は、2020年に公的債務がGDPの69%に増加し、2022年までに77~88%に拡大する、と予想している。2020年中に償還が予定されていた12億ドルについては、借り換えを含め返済されたとみられる。ただし2021年以降も、対外債務返済は最大のリスク要因として注視する必要がある。

ラオスでのコロナ禍とアフターコロナに向けて

  1. 感染抑制に成功するものの、厳しい経済状況続く
  2. 新5カ年計画は高成長路線から質のある成長へ転換
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員