貿易・物価などに変調、農産品輸出促進や経済環境改善を目指す
ラオスでの新型コロナ禍(後編)
2020年7月28日
ラオスでは、2020年3月下旬に新型コロナウイルスの初の感染者が確認された後、4月には国民の外出禁止や工場操業の停止を伴う強いロックダウンが取られた。工場停止や国境封鎖によるサプライチェーンの混乱による輸出減、観光業の落ち込み、失業率の増加、税収の低下による財政赤字の拡大と対外債務支払いの膨張などさまざまな面で問題が顕在化している。本稿では2回に分けて、ラオスでの新型コロナウイルスの影響について報告する。後編では、貿易、観光業、物価への影響を分析する。今後、第2波の侵入を防ぎながらも、立て直しが喫緊の課題である。
貿易への影響は4月に顕著
ラオスにおいては、2月上旬に中国人に対するアライバルビザの発給が停止され、3月中旬には、国境を接する国の人のみが通行できる全国の地方国境が閉鎖された。同月下旬までにタイや中国、ベトナムなど隣国との国際国境も閉鎖され、その後7月末までの封鎖が継続されており、一般人の陸路および空路による出入国は原則不可能となったままである。しかしながら、商品輸送のためのトラックおよび運転手の出入国は認められており、物流は停止しておらず、4月~5月では1日平均でタイから950人、ベトナムから620人、中国から90人の輸送関係者が入国し、物流を維持してきた。
商工省の速報値によると、電力輸出を除いた貿易額は、特に4月に大きく減少した(表参照)。季節変動の比較的少ない衣服や銅・銅製品でさえも、2020年1月と4月を比較すると、6~7割減少している。これは、4月~5月上旬に鉱山や工場の操業停止措置が行われたことが大きく影響しているとみられる。
ラオス商工会議所が実施した4月の調査では、工業セクターの少なからぬ企業が原料輸入や商品輸出ができないなど、サプライチェーンの大きな影響を受けた、と指摘している。地場工場では労働者を解雇し、資金繰りの悪化により借入金の利息や元本、テナント賃料の支払いや納税が不能になっている会社もある、と指摘している。トンルン首相は6月の国会において、2020年全体の輸出は48億3,000万ドルで前年比8.4%減との見通しを発表している。ただ、そうした中でも、輸出の多くを占める電力や鉱物は大きな影響を受けず、当初計画を上回る見通しであるという。
項目 | 2020年1月 | 2020年2月 | 2020年3月 | 2020年4月 | 2020年5月 | 2020年計画 |
---|---|---|---|---|---|---|
貿易額 | 890 | 769 | 804 | 529 | 711 | 13,035 |
輸入 | 480 | 378 | 461 | 320 | 447 | 6,615 |
輸出 | 410 | 391 | 343 | 208 | 264 | 6,420 |
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81 | 68 | 62 | 31 | 55 | n.a. |
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25 | 30 | 24 | 26 | 23 | n.a. |
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n.a. | 17 | 18 | 21 | 20 | n.a. |
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21 | 17 | 17 | 5 | 12 | n.a. |
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22 | n.a. | n.a. | 12 | 9 | n.a. |
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49 | 54 | 35 | 11 | n.a. | n.a. |
注:本データには電力輸出額は含まれていない。
出所:商工省発表値よりジェトロ作成
一方、ラオスでは、これらの正式な通関手続きを経て輸出入が行われる貿易とは別に、地方国境を介し、正式な通関手続きを得ていない食料品や日用品、農産物などの小規模貿易が全国的に広く行われてきた。3月中旬から開始された地方国境の閉鎖は、これらの小規模な輸出入を停止させ、地方から周辺国への流通を止めてしまっている。これらの措置は、防疫上必要な措置であるとは言え、とりわけ農産物が輸出できないなど、地方経済へ大きなマイナス影響を与えているとみられる。
観光業に大きな打撃、対策も効果は限定的か
観光業は、最も早く影響が顕在化した産業である。1月下旬からラオス北部のカジノが閉鎖されて中国人観光客の減少が始まり、3月には外国人観光客数は前年同月比51.9%減の18万9,000人に減少した(図1参照)。国境閉鎖とロックダウンが開始された4月以降は、6月末まで新たな外国人観光客の入国は実質ゼロであることから、外国人観光客数は1~3月の約88万6,000万人から増えていないとみられ、1~6月は前年同期比で60.2%減に落ち込んだと推定できる。外国人からの観光収入も2020年1~6月は約1億4,200万ドルと発表されており、2019年全体の9億3,500万ドルの15%程度しかないと推定される。
情報文化観光省による4月の調査では、1~3月におけるホテルの売り上げは前年同期比79%の減少となり、キャンセル率は1月26%、2月40%、3月86%に達した。観光会社も同様に、売り上げは前年同期比76%減に落ち込んだ、と指摘している。中国や欧州系の顧客が多い、ある地場観光会社によると、2月初旬から観光ツアーが途絶え、現在まで休業を続けているという。従業員には他の収入を探すように指示している、とのことであった。
WTTC(世界旅行ツーリズム協議会)による2019年の分析によると、ラオスでは観光関連産業に約33万人(労働者の10人に1人)が従事しており、GDPの10.3%に貢献しているという。現在、これらの労働者の多くが、観光による収入の機会を少なくとも3カ月以上失っていると推定される。
労働社会福祉省は、これら観光セクターや製造業を含む国内事業の縮小による失業者の増加や、タイの出稼ぎから10万人を超える失業者が帰国したことにより、失業率が従来の2%程度から25%にまで上昇する可能性を指摘している。ラオス政府は、観光業の納税期限を3カ月延長し、さらに当面はラオス人による国内観光の促進キャンペーンに力を入れるとしているが、効果は限定的であろう。

出所:情報文化観光省観光統計よりジェトロ作成
交通・輸送、外食・宿泊、通信などの物価が下落
ラオス経済をリアルタイムで把握するための数少ない指標として、インフレ率が挙げられる。インフレ率は、2019年後半から水害や干ばつ、通貨キープ安などの影響を受け、徐々に上昇する基調にあった。強いロックダウンが行われた2020年4月、5月には全体のインフレ率はそれぞれ5.84%、5.46%であった。
ただし、個別項目の4月、5月の数字(前年同月比)を見ると、その影響は顕著で、ラオスの経済にどのような混乱をもたらしたかが明瞭となる。例えば、ガソリン市場の急落により交通・輸送はそれぞれ0.11%、マイナス1.12%、また観光客の激減によりレストラン・ホテルはそれぞれマイナス0.84%、マイナス1.18%、郵便・通信はリモートワーク推奨のために通信各社がネット代金を引き下げたことでマイナス0.20%、マイナス0.34%と、ほぼ軒並みマイナスに転換した(図2参照)。
一方で、国内流通の停滞やサプライチェーンの分断、国境貿易による輸入が停止したことにより、食料価格は前年からの高い水準を維持して11.24%、10.77%、保健医療はマスクや薬品需要が増加したことから5.07%、5.23%と上昇した。現在、食料品・日用品の輸入依存、公的対外債務の支払い増加、外国直接投資の鈍化などにより、外貨準備高の減少が進み、キープ安が徐々に進行している状況にある。今後、キープ安がさらに進めば、物価上昇に大きな影響を与える可能性がある。

出所:ラオス統計センターよりジェトロ作成
危機を機会へ
新型コロナウイルスへのラオス政府の防疫対策は、これまで相応の効果を出したと評価されるであろう。一方で、経済への影響は上述のようにさまざまな面で顕在化しており、第2波の侵入を防ぎながらも、経済の立て直しや対外債務への対応が喫緊の課題である。トンルン首相は6月10日の第1波に対する勝利宣言の中で、国民に対し、新型コロナウイルスの危機を社会的責務、事業、生活の改善の機会とし、国家の進歩の機会とするように呼びかけた。
ラオス国家経済研究所は、4月に発表した影響分析レポートの中で、国内の生産を増強し、輸出強化の機会とすること、健康意識の高まりに対応すべく中長期的にクリーン農業を強化すること、観光などのサービス業の質の向上に力を入れることを提言した。
リアン農林相は6月国会において、農産品輸出促進のため投資環境や物流環境を一段と改善するとともに、工業農業開発区の開発を推進し、中国ラオス鉄道を利用した農産品輸出を増加させる政策を導入すると発表した。2021年は、中国ラオス鉄道が開通し、新たな社会経済開発5カ年計画がスタートする節目の年となる。限られたリソースの中、厳しいかじ取りが求められる。
ラオスでの新型コロナ禍
- 感染症対策に成功も、財政・債務への打撃が深刻
- 貿易・物価などに変調、農産品輸出促進や経済環境改善を目指す

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう) - 2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員