特集:各国進出企業に聞く-RCEPへの期待と発効を見据えた事業戦略実際の活用にはメリットの見極めを要する(中国)
協定の締結には評価

2021年7月21日

中国は2021年4月15日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の批准書をASEAN事務局長に寄託。国内批准手続きを正式に完了したと発表した。日本も国会承認を受け、必要な政令改正などを終えて6月25日に寄託した。RCEP協定発効に向けた手続きが各国で着々と進む。

RCEP協定に対する評価やビジネスへの影響、発効を見据えた事業戦略案、サプライチェーンの見直しなどについて、日系4社に聞いた(ヒアリング実施期間:2021年6月)。聴取元は、自動車部品メーカーA社、化学・繊維メーカーB社、輸送用機器メーカーC社、化学品商社D社で、いずれも上海市に進出している。

分業体制最適化や調達コスト低減に期待

RCEP協定の締結については、各社からおおむね評価するとの回答が得られた。自動車部品メーカーA社の担当者は「当社は現地生産(現地調達)が基本で、輸入品目は限られる。そのため、RCEP協定発効によるビジネス上のメリットは限定的と考えられる。しかし、中国外から原材料を調達しやすくなるのは確かだ。中国に加え、ASEANなどを含めて1つのアジアとして捉えると、RCEP協定への期待はさらに高まるだろう」と述べた。

化学・繊維メーカーB社は「日中間の関税を回避するため、日本や中国とそれぞれFTA(自由貿易協定)を締結している東南アジアの国で製品を加工して中国に再輸出している。中国向けの関税が撤廃されれば、手間が省ける上、中国メーカーとの価格競争で有利になる」とコメントした。RCEP協定は広域の経済連携協定(EPA)のため、国境をまたぐ分業体制の最適化を目指す海外進出企業にとってはメリットが大きい。

また、RCEP活用の見通しについては、「メリットを見て判断する」との回答があった。A社の担当者は「東南アジアから部材を調達している。RCEP協定では原産地規則が域内累積になるので、メリットがあれば活用を検討したい」と語る。

一方で、「積極的に活用しない」とする企業もあった。輸送用機器メーカーC社の担当者は「日本から中国への関連部品で関税の撤廃対象になっているものはある。しかし、該当するHSコードに当てはめると、労力の割にメリットが少ない。また、製品によって関税撤廃の時期が異なるが、最終的な関税撤廃は発効後21年目以降になるなど、現時点でのメリットはそれほど大きくない。そのため、今すぐ活用することはない」と述べた。

手続きの煩雑さなど、課題も

FTAやEPAを活用する上の課題として、手続きが煩雑という点が挙げられる。ジェトロがアジア・オセアニア地域に進出する日系企業を対象に実施した「2020年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、「FTA、EPAを利用できない理由」(複数回答)について、「手続きが煩雑、高コスト(原産地証明書の取得など)」と回答した企業が13.0%(中国進出日系企業は5.9%)あった。また「事務負担が過大」(原産地規則を満たすかの確認作業など)と回答した企業は10.8%(中国に進出日系企業は3.0%)だった。

A社の担当者は「原産地証明の手続きなどが非常に煩雑だ。大企業であれば人員を割いて対応できるが、ティア2では体制的に無理があるのではないか。関税が下がるなら何でもやってみるということではなく、輸入額の多い製品などメリットの大きい製品に限定して利用を検討する必要がある」と述べた。

原産地証明書については、発給手続きの煩雑さに加え、輸出入国で適用されるHSコードが異なるなどの問題も存在する。中国日本商会が発表した「中国経済と日本企業2021年白書」によると、中国からASEAN向けに輸出する際に、中国の原産地証明書発給機関は中国側が指定したHSコードを記載するよう要求する。しかし、輸入国側でこの当該原産地証明書の記載を条文違反と見なす事例がみられた。その結果、FTAやEPAが利用できない、あるいは発給機関との交渉に時間を要し利用に遅れが生じる可能性が生じることになる。

RCEP協定の第4章(通関手続きおよび貿易円滑化)では、締約国の関税法令に対する一貫性や、通関の迅速化、関税手続きの簡素化を図っていくものとされている(注)。そうした仕組みを通じて、問題の改善が期待される。

地政学的リスク見据えたサプライチェーン構築が求められる

今回インタビューした4社のうち、RCEP協定の発効を受けてサプライチェーンの再構築を検討する企業はなかった。サプライチェーン再構築を考える上で、米中摩擦をはじめとする地政学的なリスクは無視できない。A社の担当者は地政学的なリスクについて、「中国で輸入しているものに関して、欧米の企業や技術などが関係していると影響が出るかもしれない。RCEP協定と環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)、重複して利用できる国・地域もあるが、どちらを利用するか検討していく必要がある。全世界で生産・調達を行っていく以上、そうした要素も十分に注意しないといけない」との考えを示した。

一方、C社の担当者は「中国で製造した汎用(はんよう)品を米国に輸出している。米国側から25%の追加関税が賦課され受注が減少した。当該製品の追加関税の適用除外が認められたことで、注文が戻ってきている」と述べた。適切な手続きにより地政学的リスクを回避した事例といえる。

RCEP協定は広域なEPAだ。そのため、海外に進出する日系企業にとって最適なサプライチェーンを構築する上でプラスに動く可能性がある。例えば、中国やASEANで生産する製品で使用する高付加価値部品・材料を日本や韓国から調達する場合に関税上のメリットがある。しかし、現時点のRCEP協定で、中国の対日関税撤廃率(品目ベース)は最終的に86%にとどまる。さらに、インドが当協定に加入していないなどの課題もある。中国進出日系企業のうち、RCEPの活用については現段階で様子見という企業が多い。


注1:
外務省、財務省、農林水産省、経済産業省「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関するファクトシート」(2021年4月)
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
劉 元森(りゅう げんしん)
2003年、ジェトロ・上海事務所入所、現在に至る。

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