特集:各国進出企業に聞く-RCEPへの期待と発効を見据えた事業戦略RCEP協定の活用、ベトナム国内販売に効果、インドの加入にも期待

2021年7月21日

ベトナムは、自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の交渉・締結を積極的に進めている。近年では、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)やEUベトナム自由貿易協定(EVFTA)が発効した。同国には輸出加工型の製造企業が多く、それらの企業にとって、原材料の調達先や製品の輸出先に応じて、FTA/EPAを活用することで得られる関税削減などのメリットは大きい。製造業の中でも、繊維産業は同国で伝統的に盛んな主要輸出産業であり、日系を含む外資系企業の進出も多い。また、繊維産業では、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定という広域EPAに初めて参加する中国から原材料を調達する割合が高いと言われる。

今回、日系の繊維製品メーカー大手A社社長に話を聞いた(インタビュー実施日:2021年6月22日)。

質問:
貴社の事業について。
答え:
原材料となる生地を輸入して、ベトナムで縫製・加工した製品を主に日本向けに輸出するのが基本的なビジネス形態だが、ベトナム国内向けの販売も行っている。独資(単独資本)の日系企業としてビジネスを展開しており、製造工場はホーチミン市近隣の省に複数箇所、販売事務所はハノイ市とホーチミン市に設けている。製品の輸出先としては、欧州や台湾などもあるが、大半が日本向けだ。
質問:
貴社の現在のFTA/EPAの活用状況は。
答え:
原材料となる生地の主な調達先は中国、日本で、その他、ASEAN域内ではタイから、一部は台湾からも輸入するが、中国が全体の多くの割合を占める。また、ベトナム国内材料の取り扱いも年々増加している。加工貿易を行っているため、輸出加工のためにベトナムへ輸入する原材料の関税は無税だ。また、主な輸出先の日本では、主力品目の1つの基本税率が無税なので、当該品目については、FTA/EPAの活用による関税の減免税を考慮する必要がない。その他の品目についても、大半は既存のEPA〔日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、日ベトナム経済連携協定(JVEPA)〕を活用することで、関税が無税もしくは減税となっている。
ベトナムで縫製した製品を国内で販売する場合は、原材料(主に中国産)の輸入時に関税が発生しているものの、生産量全体からみると規模は小さい。
質問:
RCEP協定活用の見通しや、発効に向けた期待は。
答え:
現在の調達先国、輸出先国、輸出量・国内販売量を前提とすれば、既存のFTA/EPAの枠組みの中で関税撤廃・削減の恩恵を十分に享受できているので、RCEP協定が発効しても、それほど大きなインパクトはないと考えている。しかし、完成品のベトナム市場での販売については現在、原材料をベトナムに輸入する際に関税が発生しているため、RCEP協定発効後に特恵関税の適用を受けられるのはメリット。また、当社における国内販売向けの商品が多くなれば、活用のメリットはさらに大きくなるだろう。
質問:
サプライチェーンの観点を含めた今後の事業展開について。
答え:
中国については、当社の取扱品目の中では、原材料に関する環境上の規制強化などさまざまなリスクや、原材料のコスト上昇懸念もあるので、調達、生産は地産地消に基づく考え方が主流になってくる。
ベトナム国内での調達については、日本、韓国、中国、台湾の企業も進出しており、グローバルブランドのロットまでは発注できないが、品質が安定し始めた原材料の購買先から調達することも選択肢の1つとなるだろう。
現地調達だと、現地通貨で決済できるだけでなく、輸出加工の場合に求められる輸入原材料の厳密な在庫管理が不要となる。また、カーボンマイレージ(注)の観点から、今後の環境配慮型購買などでも重要な位置づけになってくると考えられる。
インドは、今後のマーケット拡大に向けてカギになる国と考えているが、当社が取り扱う品目について、非常に高い関税が掛かっている。インドがRCEPに入って関税が一定のレベルに落ち着き、インド向けの輸出でメリットが出てくると、生産調達の組み立て・枠組みにも変化があるのではないか。

注:
「カーボンマイレージ」は、商品の産地から消費地までの移動距離を指す。産地と消費地が離れるほど輸送機関が多く使用され、より多くの二酸化炭素が排出されて環境負荷が高くなるという考え方に基づく。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所
阿部 浩明(あべ ひろあき)
2003年、財務省函館税関入関。財務省関税局などを経て、2020年よりジェトロ・ホーチミン事務所勤務(出向)。