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特集:各国進出企業に聞く-RCEPへの期待と発効を見据えた事業戦略RCEPによる自由貿易拡大を見据え、貿易金融サービスをデジタル化(フィリピン)
地場大手ユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピン

2021年7月27日

フィリピンは2020年11月、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に署名した。RCEPはビジネスにどのような影響をもたらすのか。デジタル金融に強みを持つフィリピンの大手ユニバーサルバンク(注1)、ユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピンのジェイピー・ソリマン氏にインタビューを行った(インタビュー実施日:2021年7月5日)。


ジェイピー・ソリマン氏(本人提供)

デジタル金融サービスを積極的に展開

質問:
貴行の事業内容について。
答え:
ユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピンは、フィリピンの大手ユニバーサルバンクである。当行は、優れた技術力とユニークな販売戦略が強みだ。また、バックオフィス業務が集約化され、効率的に運営されているという特徴も有する。銀行の収益性や効率性といった観点では、フィリピンで最も優れたユニバーサルバンクの1つであると位置づけられる。近年は、顧客へのデジタルサービスの提供に注力している。当行は、預金の受け入れやローン貸し出し、貿易金融といったさまざまな伝統的金融サービスを、デジタルプラットフォームの下で提供する事業を推進している。また、銀行の基幹システムのクラウド化にも取り組んでいる。
質問:
大局的な視点から、RCEPに対する見解やビジネスへの影響について。
答え:
RCEPでは、アジア大洋州地域の多くの途上国が締約国として参加しており、自由貿易を行う上で歓迎すべき協定であると考える。また、自由貿易が促進されることで、競争が激化する東南アジア諸国間の中でフィリピンが主要な投資先として選択される機会も増加するだろう。自由貿易体制の構築は、一般的にフィリピンにとっても良好な影響を与えると考えている。当行を含む金融機関にとって、RCEPは明確に便益をもたらす。さまざまな国々との間で関税が撤廃され、貿易障壁が緩和されることにより、締約国間での交易が盛んになる。それによって、貿易金融への需要が高まるからだ。

貿易金融取引の拡大に商機、書類手続きのデジタル化に注力

質問:
RCEPの署名を踏まえた、貴行のビジネス戦略を。
答え:
当行はRCEPの締約を見据えて、特にEコマース分野や貿易金融の観点からRCEPを含む通商体制・政策の動向に注目をしてきた。そして、インターネット・プロバイダーと議論を重ね、前述のとおりデジタル分野への投資を進めてきた。例えば、貿易金融は、従来では書類手続きが非常に多く、煩雑であった。一方で、シンガポールや香港、日本では貿易金融分野でデジタル化を推進してきた。当行では、シンガポールで行われていたブロックチェーンを活用した貿易金融手続きのモデルを導入し、デジタル化のトレンドに対応してきた。デジタル技術を導入することで、手続きを合理化し、円滑な貿易金融サービスを提供することが可能となる。
その他にも、データベースを駆使して貿易取引に関する信用供与金額の自動計算を行っている。その一例として、石油貿易の事例を挙げたい。当行は、ある大手石油会社および同社の石油製品のディストリビューターや関連企業との間に個別契約を締結している。当行と個々の企業の取引情報はすべて1つのデータベースによって結び付けられている。そして、石油会社に対する信用供与金額は、ディストリビューターや関連企業に対する信用供与金額と密接に関連している。1つのデータベース上に取引情報を集約することで、例えば、石油会社に対する信用供与金額が変更した場合、ディストリビューターや関連企業に対する信用供与金額についても、石油会社が変更した分を反映して、数秒で自動的にデータベース上で金額を反映・算出できるシステムを構築している。
重要な点は、繰り返しになるが、RCEPなどを通じて自由貿易が行われることで、仲介する貿易金融の取引も増加するという点だ。そうした中で、依然として金融業界では人が直接、書類を確認する慣行が残っているため、貿易取引を遅滞させるという問題を招いている。しかし、人による作業の多くは、データ技術を駆使することで自動化・省力化できるものである。
また、フィリピンの金融産業に関して言えば、既存のASEANとの協定は外資の流入に対して制限的な措置を取っていた。RCEPが署名された今、フィリピンの金融機関は締約国域内で金融取引の自由度が高まっていることを踏まえ、対応していくべきであると考える。金融取引の自由化は、金融市場の流動性が上昇することやサイバーセキュリティー上のリスクが高まることも意味するが、当行はそうしたリスクに適切に対処し、金融自由化の利益を享受する意向だ。
質問:
RCEPは、自国の法令に従ったデータの管理および保管やシステムの維持等を要求する場合を除き、金融サービス提供者の業務上必要な情報の移転および処理を妨げる措置をとってはならない義務が締約国に課されている。一方で、デジタル金融は個人情報を含む多くの情報を扱う。RCEPにおいて情報交換が促進される規定が盛り込まれていることに対して、貴行としてどのように情報を管理するのか。
答え:
まず、個人情報保護について、当行はフィリピンで随一の安全性を有していると自負する。デジタル金融サービスを提供する銀行として、優れた本人認証技術やブロックチェーン技術を導入しているからだ。
ただし、フィリピン全体に関して言えば、個人情報・機密情報保護の状況は、着実に進展しているものの、依然として大きな課題であろう。フィリピン政府は、フィリピン情報通信技術省(DICT)をはじめとして、情報通信インフラやサイバーセキュリティー分野への投資を進めている。

中小企業が国際貿易を行う上でEコマースの普及が必要

質問:
フィリピンでは、中小企業はRCEPを大企業ほど十分に活用できず、大企業にとってより利益の大きい協定であるとの見解もあるが、どのように考えるか。
答え:
中小企業が十分にRCEPを活用できない可能性はある。その理由として、おそらく大半の中小企業がRCEPの存在自体を知らないことが挙げられる。大企業は、RCEPのような自由貿易協定の政策動向について関心が高く、かつ実際に国際的な取引も行っている。また、RCEPの締結により、バイヤー、サプライヤーともに市場への参加者数が増加し、市場競争が激化する可能性があることも中小企業が不利になる可能性として挙げることができる。
中小企業に対する、RCEPなどの自由貿易協定についての啓発に関して、フィリピン貿易産業省(DTI)は、中小企業のEコマース利用を促進する取り組みを行っている。Eコマースは、フィリピンの中小企業がデジタル貿易を行う上で着手しなければならない。Eコマースを通じて、デジタル貿易に参加することで、中小企業もRCEPによる貿易自由化の便益を得ることができるからだ。
当行では、DTIや他の機関と、フィリピンの中小企業に対してEコマースを活用した国際貿易の実施をいかに促すか、議論を重ねてきた。重要な点は、中小企業がEコマースを活用して国際貿易を展開していく上で、必ずしもデジタル技術について完璧に理解する必要はなく、個々の企業が「自社も国際貿易をできる水準に達している」という自信を持ってもらうことだ。なぜならば、国際貿易を行う上で、実務面でサポートする業者が数多く存在しているからだ。これらの業者は、中小企業と他国企業との間を仲介し、他国企業との貿易取引を支援する。その代わりに、中小企業は自社の製品あるいはサービスのコア・コンピタンス(注2)に注力していく必要がある。
中小企業のデジタル貿易に対する取り組みついて、当行では「ユニオン・バンク・グローバル・リンカー」というデジタル・プラットフォームを運営している。同プラットフォームでは、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、インドとフィリピンのバイヤーおよびセラーがマッチングするサービスを提供している。一般的に外国企業と取引を行う際には、相手方の信用情報を十分に収集できないことが課題となりうる。外国企業がきちんと活動している会社であるのか、法人格を有しているのか懸念されるケースにおいても、当該企業の信用情報を確認することは、中小企業にとって(大企業よりも)いっそう難しい。そのため、当行では、プラットフォーム上の参加者が法人として実在するのかどうかも確認をしており、システムとして信頼性を高めるべく取り組んでいる。
また、カンボジアとフィリピンの事業者の商談をアレンジするイベントも試験的に開催している。イベントに参加してもらうことで、フィリピンの中小企業は「自社も国際貿易に参加する資格がある」ということに気が付くであろう。

新型コロナによる渡航制限や物流の混乱が、経済活動の回復にとって課題

質問:
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を含め、RCEPに加えて考慮すべきビジネス環境の変化が生じているか。
答え:
人々は徐々に新型コロナウイルスがもたらしたニューノーマルに適応しつつあると感じている。ビジネス活動は正常状態へと復帰しつつあり、経済は回復段階にあるととらえている。その一例として、直近では、フィリピンと他国との貿易は拡大傾向にある(注3)。国内商業や国際貿易が活性化する一方で、いまだに国境間の渡航制限が課されており、物流面でも混乱が見られるなどの課題があり、経済活動は本来有しているポテンシャルを実現できていないのも事実だ。もし、渡航や物流面での問題が緩和すれば、経済はより力強い成長を見せるだろう。

注1:
ユニバーサルバンクとは、リテール、ホールセールや投資銀行などさまざまな金融サービスを提供する銀行形態を指している。
注2:
コア・コンピタンスとは、企業の中核となる強みのこと。
注3:
フィリピン統計庁(PSA)は7月9日、2021年1~5月の貿易総額(輸出入額の合計)が前年同期比で25.0%増(予測値)であることを発表した。
略歴
ジェイピー・ソリマン(Jaypee Soliman)
ユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピン、バイスプレジデント兼カスタマーエクスペリエンス・グループ/SME・プラットフォーム部門長。同行で中小企業向けのデジタル・プラットフォームサービスを統括している。デラサール大学卒(行動科学)。大手金融機関および広告代理店を経て、2008年にユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピン入行。2020年11月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・マニラ事務所
吉田 暁彦(よしだあきひこ)
2015年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ名古屋を経て、2020年9月から現職。

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