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特集:未曽有の危機下で日本企業が模索する海外ビジネス海外進出企業の半数以上が投資関連協定を知らず、普及に向けた余地大きく(世界、日本)

2021年3月10日

ジェトロが実施した2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査)(注1)によれば、海外進出企業の半数以上が、投資関連協定(以下、投資協定)(注2)を全く知らないと回答した。また調査結果からは、企業が進出先国・地域でトラブルに直面した際に、投資協定の活用がその解決手段となり得るとの認識を有していない実態も浮かび上がった。このレポートでは、本調査の詳細を紹介するとともに、地域・分析レポート「投資協定を海外ビジネスの「お守り」に、その活用方法とは」では、企業が具体的にどのような局面、手順で投資協定を活用し得るかを紹介する。

投資協定とは何か

米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響で企業が海外ビジネスの再考を迫られる中、各国のカントリーリスクにどう対処するかという視点は、既存の投資の保護のみならず、新たな投資先国の選定など投資計画の段階においても重要だ。特に海外進出時には、現地政府の対応・措置が原因で予期せぬトラブルに直面する可能性がある。例えば、法制度が突然変更され事業に支障をきたす、適当な理由もなく事業許認可が下りない、送金規制や技術移転要求を受ける、投資優遇措置を途中で破棄される、といった事例が挙げられる。

こうしたトラブル解決の一手段として挙げられるのが、投資協定である(注3)。投資協定とは、海外に投資を行う企業や、投資した財産を保護するための国際協定だ。協定の内容は、「外国投資の待遇」と「紛争解決手続き」に大きく分けられる。前者は、投資受入国の政府が外国企業にどのような保護(待遇)を与えるべきかを定め、後者は、投資受入国政府にそのルールの順守を求める手続きを規定する。投資協定の多くは2国間で締結されるが、近年はTPP11(投資章)など複数国間で締結されるものもある。

日本の投資協定網は拡大を続ける。日本は、2020年にヨルダン、アラブ首長国連邦、ASEANとの間で投資協定を発効させており、2021年2月現在、74の国と地域がカバーされている。署名済み・発効待ちや現在交渉中の国・地域を含めれば、その範囲はさらに広がる見込みである。

半数以上が投資協定を全く知らず、事業との関係性を検討した企業は1割

こうした中、海外に進出する日本企業はどの程度、投資協定を知っているのだろうか。本調査ではまず、海外に拠点を有する966社(以下、海外進出企業)を対象にその認知状況を尋ねた。なお、調査対象企業のうち、日本の投資協定締約国・地域に海外拠点を有する企業の割合は94.0%だった(注4)。

調査結果によると、まず海外進出企業の51.2%が「投資協定を全く知らない」と回答した(図1参照)。この割合を企業規模別にみると、大企業が35.5%であったのに対し、中小企業は58.7%と約6割が投資協定を全く知らないと回答している。

次に回答割合が多かった選択肢は「投資協定の概要は知っている」(34.6%)で、「自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある」(10.2%)、「海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある」(0.3%)と続いた。この3つの選択肢を足し合わせると、投資協定を認知している企業の割合は全体で45.1%となる。認知企業の中でも、「投資協定の概要は知っている」と回答した企業の割合が多かった背景には、協定の概要は知りつつも自社事業の文脈で検討するほど内容を知らない企業や、そもそも協定の活用を検討する必要がない(ほかにリスクヘッジ手段があるなど)企業が一定数存在することが考えられる。

図1:投資協定の認知率(企業規模別)
全体(966社)、投資協定を全く知らない51.2%、投資協定の概要は知っている34.6%、自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある10.2%、海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある0.3%、無回答3.6%。大企業(310社)、投資協定を全く知らない35.5%、投資協定の概要は知っている48.4%、自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある10.6%、海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある0.6%、無回答4.8%。中小企業(656社)、投資協定を全く知らない58.7%、投資協定の概要は知っている28.0%、自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある10.1%、海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある0.2%、無回答3.0%。

注:nは海外に拠点を有していると回答した企業数(代理店を除く)。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

また、「自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある」企業は回答企業全体の10.2%にとどまった。この割合を企業規模別にみても、その傾向に差異はなかった。大企業は、中小企業よりも投資協定をより認知している一方で、実際に海外事業において協定との関係性を検討する企業の割合は中小企業と変わらない。大企業ほど投資協定以外の手段でリスク管理体制を整えている可能性はあるものの、少なくとも投資協定が海外事業展開の文脈で検討されていないという点は、海外進出企業全体の傾向であるとみられる。

中国進出企業の認知度は最低、非締結国のブラジルでは関心高く

次に、調査結果から、投資協定の認知状況を日本企業の進出先国・地域別に整理した(表参照)。表中の国・地域は二重線以下の4カ国・地域を除き、全て日本の投資関連協定締約国・地域である。まず、投資協定を認知している企業比率をみると、フィリピン進出企業が最も高く、60.2%であった。次に、トルコ(59.0%)で、シンガポール(57.5%)、ブラジル(57.3%)、ベトナム(57.0%)と続いた。他方、中国に進出する日本企業の認知度は46.8%となり、調査対象国・地域の中でカンボジアと並び、最低だった。日本は中国と、1989年に日中投資協定、2014年に日中韓投資協定を発効させた。また、2020年11月に日中両国が署名したRCEP協定投資章にも投資保護規定が含まれている。中国進出企業による投資協定の認知度は低いものの、協定を通して対中投資の保護体制は一層拡充している。

表:投資協定の認知率(進出先国・地域別)(—は値なし)
国・地域 社数
(n)
投資協定を認知している
(合計)
投資協定を認知している(内訳)
投資協定の概要は知っている 自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある 海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある
中国 556 46.8 36.3 10.1 0.4
タイ 352 51.4 41.5 9.9
ベトナム 314 57.0 43.3 13.1 0.6
インドネシア 223 56.9 43.9 12.1 0.9
シンガポール 195 57.5 46.2 10.3 1.0
香港 185 53.0 40.5 11.4 1.1
韓国 176 53.4 37.5 15.3 0.6
西欧(英国を除く) 175 51.4 37.7 13.1 0.6
インド 148 56.7 40.5 16.2
マレーシア 141 54.6 42.6 11.3 0.7
フィリピン 108 60.2 49.1 10.2 0.9
メキシコ 104 56.8 38.5 18.3
英国 89 53.9 44.9 9.0
ミャンマー 80 56.3 41.3 15.0
オーストラリア 73 52.1 41.1 9.6 1.4
中・東欧 60 53.4 40.0 11.7 1.7
カナダ 55 54.5 43.6 10.9
ロシア・CIS 51 53.0 47.1 5.9
カンボジア 47 46.8 36.2 10.6
トルコ 39 59.0 43.6 15.4
バングラデシュ 38 52.6 36.8 15.8
米国 316 48.1 37.7 10.1 0.3
台湾 223 54.3 40.4 13.5 0.4
ブラジル 61 57.3 39.3 18.0
南アフリカ共和国 35 48.5 37.1 11.4

注1:nは海外拠点を有する企業。
注2:太字は投資協定の認知度が上位5位の国を示す。
注3:回答企業は複数国・地域に海外拠点を有している場合があり、必ずしも各国・地域の認知度が日本と当該国・地域との投資協定の認知度を示しているわけではない。
注4:米国、ブラジル、南アフリカ共和国は日本の投資協定非締約国。台湾との間では、2011年に日台民間投資取り決めを作成。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

また、海外事業展開において投資協定との関係性を考えたことがあると回答した企業比率は、中南米のメキシコ(18.3%)やブラジル(18.0%)で高く、全体平均(10.2%)の2倍近くになった。ブラジルは日本の投資協定非締約国であるが、ブラジルに進出する日本企業が新たな投資関連協定の策定に強い関心を示していることがうかがえる。

不透明な制度や突然の規制変更を課題とする企業が最多

先に述べた通り、投資協定は海外進出時に起こり得るトラブルのうち、特に進出先国政府の措置・対応を原因とするものから企業を保護し得る。本調査によれば、海外進出企業の約2割に当たる177社がこうした課題に実際に直面したと回答した。具体的な課題の内容をみると、177社のうち4割超の企業が「不透明な制度や突然の制度変更が原因で、事業の継続に支障をきたした」と回答した(図2参照)。

図2:進出先国政府の措置・対応により直面した課題
不透明な制度や突然の規制変更が原因で、事業の継続に支障をきたした41.8%、適当な理由なく事業許認可の更新を拒否されたり、手続きに遅延が生じたりした24.3%、事業の利益を日本に送金することが制限された17.5%、現地労働者の雇用や現地人の役員への任命を求められた14.1%、他国の企業が事業許認可を受ける中、自社の事業許認可が明確な理由なく拒否された5.1%、十分な補償を受けないまま、土地の明け渡し要求や営業権剥奪など(収用)を被った4.5%、現地政府と約束した投資条件(補助金や免税などの投資優遇を含む)を破棄された4.5%、その他9%。

注1:集計対象は現地政府の措置・対応により課題に直面したと回答した177社。
注2:その他は自由記述のみで回答した企業のうち、現地政府の制度運用や個社に対する投資関連措置を課題と指摘した16社。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

不透明な制度運用の例として、「所管官庁により外資規制の解釈が異なり支障をきたした」(電気・ガス・水道、大企業)や「地場(進出先の)法律が細かく網羅されていないために、地場の行政から言いがかり的場面に遭遇したことがある」(商社・卸売り、中小企業)といった声が聞かれた。また、現地政府の投資促進機関を活用してビジネスを開始したが、マージンの少なさを理由に追加課税を受けた、といったコメント(商社・卸売り、中小企業)もあった。

突然の政策・規制変更の例としては、「法律、規制などが急に変更になり、ビジネスを中断せざるを得ない状況が発生」(プラスチック製品、中小企業)、「政府要職者の交代で事務方が総入れ替えになり、それまで受けていた事業承認手続きがやり直しになった」(情報・ソフトウエア、中小企業)、「突然のルール変更、制度変更があり、内容を知らないまま、いきなり指摘される」(金属製品、中小企業)といった声が上がった。

その他の課題としては、「適当な理由なく事業許認可の更新を拒否されたり、手続きに遅延が生じたりした」(24.3%)や「事業の利益を日本に送金することが制限された」(17.5%)、「現地労働者の雇用や現地人の役員への任命を求められた」(16.4%)、「技術移転やロイヤリティへの介入を受けた」(14.1%)などが挙げられた。さらに、「現地地方政府からの補助金が、コロナ禍の影響もあり縮小された」(医療・福祉、大企業)など、進出先国政府が新型コロナの影響で投資優遇措置を修正する事例や、現地政府の環境政策が強化された結果、十分な補償がないまま工場の操業停止と立ち退きを求められた事例(ゴム製品、中小企業)もあった。

最後に図3の通り、実際に課題に直面している企業を対象に投資協定の認知度を確認した。この企業群の認知度は56.5%と、全体平均(45.1%)を上回った。特に、「自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある」と回答した企業比率は、全体平均の2倍近くになった。この結果から、海外進出企業は進出先(国・地域)で具体的な課題に直面したことを契機に初めて投資協定の存在を知る可能性がある。ただし、「海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある」と回答した企業は1.7%に過ぎず、投資協定が課題解決手段になり得ることが広く認識されているわけではない。また、課題に直面した企業の43.5%は「投資協定を全く知らない」と回答しており、トラブル解決の一手段として、投資協定の認知度の向上や活用の余地は十分にあるといえよう。

図3:投資協定の認知率(全体、課題に直面している企業)
全体(966社)、投資協定を全く知らない51.2%、投資協定の概要は知っている34.6%、自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある10.2%、海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある0.3%、無回答3.6%。課題に直面している企業(177社)、投資協定を全く知らない43.5%、投資協定の概要は知っている36.2%、自社の海外での事業展開において、投資協定との関係性を考えたことがある18.6%、海外での事業トラブルに直面して投資協定を参照したことがある1.7%。

注:nは海外に拠点を有していると回答した企業数(代理店を除く)。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

本稿では、投資協定の認知状況を明らかにするとともに、トラブル解決手段としての投資協定の活用状況も紹介し、海外に進出する日本企業が投資協定を活用し切れていない実態を指摘した。これを受けて、冒頭のレポートでは、海外事業を展開する日本企業が具体的にどのような局面、手順で投資協定の活用を検討できるのかを紹介する。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業1万3,503社を対象に、2020年10月30日から12月6日にかけて実施。2,722社から回答を得た(有効回答率20.2%、回答企業の84.9%が中小企業)。プレスリリース報告書も参考にされたい。
注2:
投資についてのみ約束を取り交わした投資協定と投資に関するルール(投資章)を定めたEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)の総称。
注3:
投資協定の概要については、「『世界は今-JETRO Global Eye』 海外進出する企業を守る こんなときに役立つ『投資協定』(動画)」を参照されたい。そのほか、経済産業省のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは日本の投資関連協定の締結状況やその活用事例を確認できる。
注4:
日本の投資協定締結国でない国・地域(米国、台湾、ブラジル、南アフリカ共和国など)にのみ拠点を有していた企業は58社だった。なお、台湾との間では、2011年に日台民間投資取り決めを作成している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
山田 広樹(やまだ ひろき)
ダナン市投資促進部、プラハ国際関係研究所を経て、2019年にジェトロ入構。同年より現職。

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