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特集:未曽有の危機下で日本企業が模索する海外ビジネス輸出拡大意欲に陰り、仕向け先の分散傾向が顕著に(世界、日本)

2021年2月26日

ジェトロが実施した2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、注1)によると、新型コロナ禍の影響を受け、今後、輸出の拡大を図る企業の割合が3年ぶりに8割を下回った。最大のターゲット市場である中国の重要性は変わらないものの、仕向け先を米国や西欧、ASEANへ分散させる傾向も明らかとなった。海外進出と同様に、特に米国への関心が高まっており、巨大な市場を視野に輸出を再開・拡大する姿勢も一方で垣間見えた。

輸出拡大意欲は3年ぶりに減退、ただし再開への期待も

今後3年程度の輸出方針について、「輸出の拡大を図る」企業は76.7%となった。同割合が8割を切るのは2017年度調査以来となる(図1参照)。特に大企業の同割合は、前回調査から約10ポイント落ち込み71.1%にとどまった。大企業に限れば、同じ形式でさかのぼれる2012年以降で最低水準の比率となる。新型コロナの影響で海外との取引が止まっているとの声も多く、これが今後の輸出拡大意欲をそいだとみられる。

図1:今後の輸出方針(時系列)
調査対象企業に今後3年程度の輸出に関する取り組み方針を聞いたところ、「さらに拡大を図る」が66.0%、「今後、新たに取り組みたい」が10.8%、「現状を維持する」が13.1%、「縮小、撤退を検討す」が1.4%、「今後とも行い予定はない」が8.8%であった。 「さらに拡大を図る」と「今後、新たに取り組みたい」の2項目を合算したものを「輸出の拡大を図る」企業群であると定義した場合その比率は76.7%であり、2017年度(79.4%)以来3年ぶりに8割を下回った。

注1:nは「輸出を行う業種ではない」(2012年度に新設)、「無回答」を除いた企業数。
注2:「今後、新たに取り組みたい」と「さらに拡大を図る企業」を合算したのが「輸出の拡大を図る」比率。当該比率を左端のボックス内に示した。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

一方、全体の動向に目を転じると、「縮小、撤退を検討する」は横ばいを維持(1.4%)したほか、「今後、新たに取り組みたい」企業の比率は4年ぶりに増加に転じ(10.8%)、全体として輸出拡大への意欲が大幅に減少したわけではないことも分かる。「今後、新たに取り組みたい」と回答した企業にその理由を尋ねると、「状況が改善した段階で取引を開始したい」(アパレル)に代表されるように、新型コロナの感染拡大が落ち着き次第、従来のビジネスを再開、あるいは海外市場に活路を見いだし新規に取り組みたいといった前向きなコメントも数多く寄せられた。さらに中小企業に限れば、「今後、新たに取り組みたい」比率は11.6%と、大企業(4.4%)の約3倍だった。「輸出の拡大を図る」と回答した企業の割合でみても、前回調査(80.2%)から77.5%へと2.7ポイントの低下にとどまっており、輸出意欲の底堅さがうかがえる。

業種別では、医療品・化粧品(89.4%)、飲食料品(87.4%)、化学(86.2%)などで特に、輸出拡大を図る企業の割合が高かった。これら業種では例年、輸出拡大意欲が高めに出るが、今回も引き続き、アジアを中心とした新興国での需要に期待し、中長期的な輸出拡大を見据える様子がうかがえる。具体的なコメントとして例えば、「今後はアジア経済圏に販売するとの認識を持たなければならない」(商社・卸売り)、あるいは「国内市場が頭打ちしているから」(飲食料品、繊維・織物、アパレル、化学、精密機器、商社・卸売りなど複数)といった、危機感から輸出拡大を目指す声もあれば、日本ブランドの強みを武器に海外に打って出たいなど、積極的な姿勢も垣間見えた。具体的には、飲食料品であれば、安全・安心・おいしいといった強みや海外での日本食ブームの継続・拡大、その他業種では日本製品に対する信頼感や高機能品への需要が引き続き高水準にある、との認識が共有されている。

新型コロナの影響で事業が停滞する企業も多い一方で、製品によっては需要増がもたらされた、あるいは非対面型ビジネスの着手につながったとの事例もある。例えば、巣ごもり需要の拡大やアウトドアブームが自社製品にとっては追い風になった例や、医療関連製品に対する引き合いが増加した例が、個社のコメントとして報告された。

輸出ターゲットは中国が最多だが、他国への分散傾向も顕著に

こうした中、輸出を注力する仕向け地の分散傾向が顕著に表れた。「輸出の拡大を図る」企業がターゲットとする国・地域は「中国」が最多だ(56.7%)。前回調査(58.4%)に引き続き6割弱を維持しており最重要市場であることが分かるが、比率はやや縮小し、次点の「米国」(50.3%)との差は縮小した(表1参照)。「米国」以外の国・地域の回答比率もおしなべて上昇しており、「中国」への集中度合いがやや弱まっている。業種別に分解すると、製造業では特に「米国」と「西欧」、非製造業では「台湾」の回答比率がそれぞれ大きく上昇した。

上昇幅の大きかった「米国」に関しては、特に繊維・織物/アパレルや鉄鋼/非鉄金属/金属製品などで比率の上昇が顕著であった。米国をターゲットとして選択した企業の個別コメントとして、「世界の中でも最も需要がある国だから」(小売り)や「米国市場にはまだまだ伸びしろがある」(商社・卸売り)など米国の市場としての重要性を再認識する声、あるいは「商品特性に起因するニーズが米国の方が大きい」(飲食料品)や「海外、特に米国で認められれば国内での認知度も高まる」(情報・ソフトウェア)など、国内に比して米国の有望性に期待する意見も寄せられた。他方で、「中国」については、情報通信機械/電子部品・デバイスや精密機器などで輸出拡大比率の低下が目立ち、結果として両国間の差が縮まったと考えられる。

表1:今後の輸出ターゲットとする国・地域(業種別)

(複数回答、%)(△はマイナス値)
全体(n=1,820)
順位 国・地域名 回答率 増減
(FY18→FY20)
1 中国 56.7 △1.7
2 米国 50.3 +7.9
3 台湾 45.1 +5.9
4 ベトナム 42.4 +2.4
5 タイ 41.9 +0.7
6 西欧 39.8 +7.9
7 シンガポール 33.8 +2.4
8 香港 32.0 +2.1
9 インドネシア 29.7 +1.3
10 マレーシア 28.8 +1.2
製造業(n=1,094)
順位 国・地域名 回答率 増減
(FY18→FY20)
1 中国 59.3 △1.1
2 米国 57.4 +9.2
3 台湾 46.3 +5.3
4 西欧 45.9 +9.1
5 タイ 43.2 +1.1
6 ベトナム 42.5 +3.7
7 シンガポール 33.8 +1.8
8 香港 32.7 +3.1
9 インドネシア 30.7 +1.9
10 マレーシア 28.9 +1.7
非製造業 (n=726)
順位 国・地域名 回答率 増減
(FY18→FY20)
1 中国 52.8 △2.1
2 台湾 43.3 +7.1
3 ベトナム 42.3 +0.1
4 タイ 39.9 +0.2
5 米国 39.5 +6.9
6 シンガポール 33.7 +3.4
7 香港 31.0 +0.5
8 西欧 30.7 +6.9
9 マレーシア 28.7 +0.4
10 インドネシア 28.2 +0.5

注1:nは、今後の輸出方針で「さらに輸出の拡大を図る」、「今後、新たに輸出に取り組みたい」と回答した企業数。
注2:2020年度調査で、今後の輸出ターゲット国・地域としての回答比率上位10カ国・地域のみ掲載。
注3:太字は2018年度から3%ポイント以上増加した国・地域。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

最重要輸出先としては、中国と欧米で全体の6割占める

輸出の拡大を図る企業に対し、輸出ターゲットの中でも最も重視する輸出先を1つだけ回答するよう尋ねたところ、26.9%の企業が「中国」と回答した(図2参照)。今回の調査では、「中国」の回答率はやや下がってはいるものの、2018年度時点の水準をほぼ維持したとも捉えられる。そもそも「中国」の回答率は前回2018年度調査時点で、前々回調査から約10ポイントも拡大しており、この背景には越境電子商取引(EC)の拡大などがあったと考えられる。実際、本調査で別途、「ECによる」今後の海外販売先のうち最重要国・地域を聞いたところ、「中国」と回答した比率は30.6%と、次点の「米国」(17.9%)や第3位の「ベトナム」(6.2%)を大きく引き離した。

回答率は、次いで「米国」(18.7%)、「西欧」(10.4%)と続く。「米国」と「西欧」を最重要視する企業の比率は、それぞれ3ポイントほど上昇しており、「ベトナム」や「タイ」といった他の上位国とは異なる動きを見せた。輸出ターゲット全体の動きと同様に、先進国・地域を最重要先とする回答比率が上昇したのが特徴である。いずれにしても、「中国」と「米国」、「西欧」だけで全体の6割近くを占めており、引き続きこの3極が日本企業の最大の輸出先であることが改めて確認された。

図2:今後の輸出ターゲット国・地域の中で最も重視する輸出先(全体、時系列)
「輸出の拡大を図る」と回答した企業に対し、そのターゲットである国・地域のうち最も重視するのがどこであるかを尋ねたところ、首位が中国(26.9%)、次いで米国(18.7%)、西欧(10.4%)、ベトナム(7.4%)、タイ(5.5%)との結果になった。 中国は2018年度の前回調査(28.1%)よりもやや比率が下がったが、なお圧倒的に重要な販売先であることが分かる。他方で、米国と西欧はそれぞれ前回調査から回答比率が上昇しており、先進国・地域の需要への期待が高まっている。

注1:nは、今後の輸出方針で、「さらに輸出の拡大を図る」、「今後、新たに輸出に取り組みたい」と回答した企業数。
注2:2020年度で「最も重視する輸出先」との回答比率上位5カ国・地域のみ掲載。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

また、最重要輸出国・地域に輸出を行う商品については、食品や機械など多岐にわたる回答が1,654社から得られた。商品名として特定性の高い単語(注2)に絞って抽出すると、化粧品関連や日本酒への言及が多かった(表2参照)。日本酒、健康食品、菓子、米、冷凍食品、清酒など、とりわけ飲食料品に関連した用語が多いが、前述したような、安全・安心・おいしさといった強みや日本食ブームの後押しがこうした顔ぶれに表れている。

表2:最重要輸出先に輸出を行う商品名として頻出する単語
順位 抽出語 具体的な商品名の例 回答
企業数
1 化粧 化粧品、化粧品原料、化粧用ミラー、化粧筆 55
2 日本酒 日本酒 47
3 自動車 自動車、自動車部品、中古自動車 40
4 雑貨 生活雑貨、インテリア雑貨、服飾雑貨 34
5 健康 健康食品、健康機器 30
6 菓子 和菓子、ベビー向け菓子、洋菓子 19
7 精米、オーガニック米、発芽玄米麺、米粉、米油、米菓、純米大吟醸、包装米飯 18
8 冷凍 冷凍食品(農林水産物、調理加工品)、産業用冷凍機 17
9 清酒 清酒 16
10 医療 医療機器(カテーテル、注射針等)、医療機器部品、医療用洗浄剤、医療用下着 15

注:今後輸出のターゲットとする最重要国・地域に向けて輸出を行う(行いたい)商品を記入した1,654社の回答より、特定性のある単語に絞って表示。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

このように、新型コロナという未曽有の危機に瀕して、日本企業の輸出拡大意欲にはいったんブレーキがかかった形だが、中長期的に海外市場にアプローチしていく姿勢は変わらない。とりわけ、中小企業の輸出拡大意欲には底堅いものがある。状況が落ち着き次第、自社製品の強みを生かし海外へ販売を強化しようとの明るい兆しも見えた。その中にあって、中国を最重要ターゲットとしつつ、米国や西欧といった、かつて最大の市場であった国・地域の有望性を、改めて見直す姿も浮き彫りになったのが、今回の調査の特徴であった。


注1:
調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用企業1万3,503社を対象に、2020年10月末から12月初にかけて実施。2,722社から回答を得た(有効回答率20.2%、回答企業の84.9%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
個々の単語から具体的な商品がイメージできるものに限る。従って、「食品」「部品」「機械」「機器」「製品」といった用語は数としては多く抽出されたものの、幅広い商品が想起されるため表には掲載していない。特定性を重視したことで、最終消費財が多く抽出されている。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人 日本経済研究センター出向を経て、2012年4月より現職。世界の貿易投資、および通商政策に関する調査に従事。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』、『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)など。

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