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投資協定を海外ビジネスの「お守り」に、その活用方法とは(世界、日本)

2021年3月10日

投資関連協定(以下、投資協定、注1)は、進出先国政府の措置や対応が原因で生じたトラブルから企業を守る国際協定だ。協定の下では、進出先国政府との間で生じたトラブルを解決するため、さまざまなオプションが用意される。自社のリソースや戦略に合った問題解決手段を知っておくことが、いざという時に役立つ。本稿では、海外に進出する企業が具体的にどのような局面や手順で投資協定を活用し得るかを紹介する。

投資協定が役立つ場面とは

地域・分析レポート「海外進出企業の半数以上が投資関連協定を知らず、普及に向けた余地大きく(世界、日本)」では、投資協定の概要に触れた上で、海外に拠点を有する日本企業の半数以上が協定の存在を知らない現状を紹介した(注2)。多くの企業にとって聞き慣れない協定ではあるが、投資協定が海外事業展開時にどう役立つかを知っていれば、リスクマネジメントの選択肢が広がる。

投資協定の活用に向けた第一歩は、協定の下でどういったトラブルやリスクから自社の海外事業を守れるかを知ることだ。投資協定は進出先国政府の措置や対応が原因で生じた課題から企業を守るが、先述のレポートによると、海外に拠点を有する日本企業の約2割がこうした課題に直面している。次の図はこれらの企業が実際に直面した課題の類型とその回答比率を示している。

図:進出先国政府の措置・対応により直面した課題
不透明な制度や突然の規制変更が原因で、事業の継続に支障をきたした41.8%、適当な理由なく事業許認可の更新を拒否されたり、手続きに遅延が生じたりした24.3%、事業の利益を日本に送金することが制限された17.5%、現地労働者の雇用や現地人の役員への任命を求められた14.1%、他国の企業が事業許認可を受ける中、自社の事業許認可が明確な理由なく拒否された5.1%、十分な補償を受けないまま、土地の明け渡し要求や営業権剥奪など(収用)を被った4.5%、現地政府と約束した投資条件(補助金や免税などの投資優遇を含む)を破棄された4.5%、その他9%。

注1:集計対象は現地政府の措置・対応により課題に直面したと回答した177社。
注2:その他は自由記述のみで回答した企業のうち、現地政府の制度運用や個社に対する投資関連措置を課題と指摘した16社。
出所:2020年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

日本の投資協定締約国・地域で、図で示したような課題に自社が直面する(またはその可能性がある)場合、投資協定の枠組みで解決を検討する余地がある。ただし、検討に当たり、自社内に法務・リスク管理部門がないなど、十分なリソースを確保できないケースもある。その場合には、現地専門家などに加えて、ジェトロの現地事務所や日本大使館にこうした課題を相談することも検討してはどうか。後述するとおり、投資協定には問題となる措置・対応の改善を相手国政府に求める政府間のチャネルが用意されているためだ。

まずは自社の投資が協定の保護対象であることを確認

投資協定の枠組みでトラブル解決を検討する場合、まずは日本が進出先国と締結する投資協定の内容を確認することが重要だ。投資協定は二国間・複数国間協定であり、その内容は相手国・地域により異なるためだ。日本が締結した投資協定は全て和文で公開されており、英語で法務に従事しない方でも確認が容易だろう。なお、経済産業省が作成する投資協定要素の一覧表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(105.94KB)を用いると、各協定の内容が一目で確認ができる。

投資協定ではまず、自社の投資が協定上保護される「投資財産」(investment)に該当するかを確認する。日本が締結する投資協定のほとんどで、投資財産は「全ての種類の資産」(every kind of asset)と定義される。この場合、具体的には、現地子会社や株式、債権、知的財産権、法令によって与えられる権利(免許、承認、許可)などが含まれることになる。有体や無体、動産や不動産を問わず、その対象は幅広い。また、企業は必ずしも投資財産を直接的に所有または支配する必要はなく、間接的な所有・支配でも許容される。

また、自社が協定上の「投資家」(investor)に該当するかも確認する必要がある。通常、日本の投資協定では「投資家」を幅広く定義。法人のみならず自然人(個人投資家)も含まれる。ただし、投資協定では、いわゆるペーパーカンパニーによる協定の乱用を防止するため、ある企業が投資元国で実質的な事業活動を行っていない場合、協定による保護の対象外とするルールがあるので、注意が必要だ(注3)。

課題に対応したルールを探す、複数の協定を参照することもポイント

自社とその投資財産が投資協定の保護対象になることを確認できたら、次に自社が直面する課題に対応するルールがあるかを確認する。表では、図で取り上げた各課題に対応する投資協定上のルールを例示した(注4)。

表:各課題に対応する投資協定のルールの例(カッコ内の番号は各協定の条文番号を示す。表中の記号は注参照。)
課題 対応する
投資協定ルールの例
各投資関連協定におけるルールの有無
日中韓
投資協定
日ベトナム
投資協定
TPP11
(投資章)
不透明な制度や突然の規制変更が原因で、事業の継続に支障をきたした 透明性の確保(法令の公表義務など)
(10)

(7)

(注3)
適当な理由なく事業許認可の更新を拒否されたり、手続きに遅延が生じたりした 公正衡平待遇
(5.1)

(9.1)

(9.6)
事業の利益を日本に送金することが制限された 資金の移転(送金の自由など)
(13、注2)

(12)

(9.9)
現地労働者の雇用を求められた 特定措置の履行要求(自国民雇用要求)の禁止 × × ×
現地人の役員への任命を求められた 特定措置の履行要求(役員国籍要求)の禁止 ×
(4.1(f))

(9.11)
技術移転を要求された 特定措置の履行要求(技術移転要求)の禁止
(7.2)

(4.1(g))

(9.10)
ロイヤルティーへの介入を受けた 特定措置の履行要求(ロイヤルティーへの介入)の禁止 × ×
(9.10)
他国の企業が事業許認可を受ける中、自社の事業許認可が明確な理由なく拒否された 最恵国待遇
(4)

(2.2)

(9.5)
十分な補償を受けないまま、土地の明け渡し要求や営業権剥奪など(収用)を被った 収用および補償
(11)

(9.2~4)

(9.8)
現地政府と約束した投資条件(補助金や免税などの投資優遇を含む)を破棄された 契約などの約束順守(アンブレラ条項)
(5.2)
× ×

注1:
○:ルールの規定あり。
△:ルールの規定はあるが、適用は条件付き。※日中韓投資協定では、「不当または差別的な」技術移転要求のみを禁止としている。
×:ルールの規定なし。
●:留保表で列挙した措置や分野には適用されない。
注2:承認手続き期間は約1カ月とし、2カ月を超えてはならない。
注3:同規定は投資章ではなく、第26章(透明性および腐敗行為の防止)で規定されている。
出所:各協定文からジェトロ作成

例えば、投資協定では「透明性の確保」というルールで、投資受け入れ国が投資活動に関連し、または影響を与える法令や行政手続きなどを速やかに公表し、または公に利用可能なものにする義務を定めている。進出先国政府が法的な根拠を示さないまま投資活動を阻害する措置を実施した場合、このルールに基づいて根拠法令を示すよう、進出先国政府に主張できる。

日本と進出先国の間で複数の投資協定が結ばれている場合は、それらを複合的に参照し、最も有利なルールを見つけ出すこともポイントになる。例えば、日ベトナム投資協定では、投資受け入れ国が投資家のライセンス契約に関するロイヤルティー率に介入することを禁止していない。他方、両国間で発効済みのTPP11〔環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)〕では、この介入が禁止されている。2020年11月に署名されたRCEP協定が発効すれば、ASEAN構成国を中心に投資協定の重層化がさらに進むため、こうした協定間の比較も重要になる。

また、表中の黒丸で示したとおり、最恵国待遇や特定履行要求の禁止などのルールは、締約国があらかじめ指定した分野や法令には適用されないという例外もある。適用除外となる分野や措置は投資協定の付属書に留保表(ネガティブリスト)として定められている。投資協定の活用を検討する際、自社の投資分野や問題視する法令が協定の適用対象外になっていないかも必ず確認したい。

課題解決に向けたアプローチもさまざま、実際の活用事例も

進出先国政府の措置や対応が投資協定に違反することが疑われる場合、企業はどのようなアクションを取れるのか。自社単独で現地政府との対話を進めて課題解決を目指すケースでは、上記ルールを引き合いに対話を有利に進めていける可能性が高まる。また、自社だけで相手国政府と折衝をすることが難しい場合でも、日本の政府系機関(現地ジェトロ事務所、日本大使館、経済産業省など)を経由して申し入れすることも可能だ。2000年以降に日本が締結した投資協定のほとんどは、締約国間で協定の運用について討議する合同委員会(ビジネス環境整備小委員会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )の設置を規定している。合同委員会は締約国政府の代表者で構成するが、両締約国の同意があれば、産業界の代表者なども参加が可能になる。これにより、民間企業も合同委員会で相手国の投資環境の改善などを要求できることができる。これらのアプローチは法的拘束力を伴うものではない。だとしても、進出先国政府との良好な関係を保ちつつルールに基づいた効果的な課題解決を目指すことができる。

実際に、日本企業が投資協定を引き合いに課題解決を有利に進めた事例もある。一例として、中国の上海市嘉定区に進出した日系企業が2006年に、商業・住宅地の開発に伴って地元政府から工場の立ち退きを求められた。しかし、現地政府が示した補償条件が明確ではなく、日系企業の間では補償金額が不十分ではないかという懸念が広がっていた。そこで、日本総領事館から地元政府に対して、日中投資協定第5条に基づき投資財産の収用(国有化)に伴う十分な補償を求めたところ、これが功を奏して補償交渉が決着した(注5)。日系企業の関係者らはこの交渉を振り返る中で、投資協定を根拠とした交渉に加えて、日頃から地元政府と良好な関係を築くことや、複数の企業でまとまって交渉に当たったことが効果的だったと指摘した。

最後に、進出先国政府の措置・対応が原因で既に大きな損害が生じている場合、投資協定が規定する投資家対国家の紛争解決手続(ISDS)制度の下で、進出先国政府に正式な協議を要請できる。協議が不調に終わった場合でも、「伝家の宝刀」として投資協定に基づく投資仲裁制度を活用し、損害の金銭的補償を求めていく手段も考えられる(注6)。

いずれにせよ、実際にトラブルに直面したり損害が発生したりする前に、自社のリソースや戦略に沿うかたちで投資協定の枠組みを活用した解決方法を知っておく価値は大きいだろう。


注1:
投資についてのみ約束を取り交わした投資協定と、投資に関するルール(投資章)を定めた経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)の総称。
注2:
投資協定の概要については、「『世界は今-JETRO Global Eye』 海外進出する企業を守る こんなときに役立つ『投資協定』(動画)」を参照。そのほか、経済産業省のウェブサイトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(105.94KB)では、日本の投資関連協定の締結状況やその活用事例を確認できる。
注3:
利益否認条項(denial of benefits)などと呼ばれる。
注4:
各ルールのより詳しい内容については、経済産業省通商政策局編「2020年版不公正貿易報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の第III部第5章(投資)なども参考になる。
注5:
日中投資協定第5条3項は、土地収用などに当たっての補償の水準について、「(国有化または収用などの)措置が取られなかったとしたら、当該国民および会社が置かれたであろう財産状況と同一の状況に当該国民および会社を置くものでなければならない」と規定している。
注6:
投資協定に基づく仲裁制度については、2020年2月10日の地域・分析レポート「世界で普及する投資仲裁の活用、日本企業による利用機会も拡大」も参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
山田 広樹(やまだ ひろき)
ダナン市投資促進部、プラハ国際関係研究所を経て、2019年にジェトロ入構。同年より現職。

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