2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査(ジェトロ海外ビジネス調査)

2021年01月29日

2020年9月に実施した日本企業の海外拠点約9,000社に対する調査(12月発表)に続き、10月末~12月初にかけて、日本本社約2,700社の海外事業展開について調査した。

調査結果のポイント

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大は、6割超の日本企業の海外ビジネスに、深刻なダメージを与えた。2020年度、各社の海外市場における売上高の減少幅は平均で約4割に及んだ。
  • 通商政策上の最大の懸念事項に、米中摩擦に伴う輸出管理規制が浮上したことが注目される。 最も影響を受ける通商政策は、前年の「追加関税措置」に代わり、「中国の輸出管理規制強化」と「米国の輸出管理・投資規制強化」が並ぶ。米中摩擦が、関税措置にとどまらず、安全保障分野にとめどなく広がったことを印象付けた。
  • 日本企業の既存海外拠点の事業拡大意欲は過去最低を記録。一方、新規の海外進出意欲は衰えず。また、海外ビジネスリスクの高まりを受けた事業展開先の「分散・多元化」が目立つ。最大のターゲット市場である中国を重視しつつ、米国やベトナム、台湾等への分散傾向が明らかに。なかでも、米国に「新たに進出したい」とする企業の割合が前年から10%ポイント近く増加。巨大な国内市場を視野に、販売拡大やバリューチェーン多元化への意識の高まりが垣間見える。
  • グローバルリスクの高まりは、日本企業に新たなビジネス様式への移行を迫っている。海外事業戦略や組織体制を見直す企業は約7割。特に、デジタルを活用した販路開拓に意欲が示されるなか、海外向け販売の新たな手段として越境ECの活用が進む。越境ECの活用率は、4年間で約15%ポイント上昇。とりわけ中小企業において、ECを活用した海外販路拡大の意欲が旺盛である。

本調査について

本アンケート調査は海外ビジネスに関心の高い日本企業(本社)を対象に2002年度に開始し、今回で19回目になる。ウェブサイト上で調査を実施し、計2,722社(有効回答率20.2%)より回答を得た(調査期間:2020年10月30日~12月6日)。
本年度は主に新型コロナの影響や海外進出・輸出への取り組み、また海外ビジネスの見直しについて聞いた。その他の調査項目はEC(電子商取引)の利用状況、グローバルリスクと中国ビジネスの取り組み、デジタル関連技術の活用と課題などである。

調査結果の要旨

1.グローバルリスクの高まりとビジネスへの影響

  • 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大による2020年度の売上高への影響について、海外向けにビジネスを行う企業の64.8%が、海外での売上に「マイナスの影響(がある)」と回答した。
  • 2020年度の海外売上高への影響について業種別にみると、主要国市場の低迷から「自動車・同部品/その他輸送機器」で負の影響を受ける企業の割合が高い。需要が底堅い「飲食料品」では、正の影響があるとの回答が13.9%と、相対的に高い。
  • 新型コロナによる2020年度の海外売上高の減少幅(平均)は38.4%となった。国内売上の減少幅(26.1%)に比べ10%ポイント以上高い。国内よりも厳格なロックダウンや、渡航制限の影響が強く出たものと見られる。
  • 2021年度については、海外売上高へ「マイナスの影響」を見込む企業の割合は27.3%と、20年度に比べて低下した。一方、影響の程度については「わからない」との回答率が半数近く(48.4%)を占め、不確実性が強い。
  • 米中摩擦を含む保護貿易主義の影響では、「わからない」の回答率が前年度調査から大幅に増加し、40%となった。今後の米中関係の不透明性などを指摘するコメントが見られる。
  • 調査時点で影響を受ける通商政策として、「中国の輸出管理規制強化」が最も高い回答率(29.3%)となった。「わからない」(28.1%)、「米国の輸出管理・投資規制強化」(25.9%)と続く。今後2-3年程度でも、「中国の輸出管理規制強化」(36.4%)が最も高い。

2.海外進出・輸出への取り組み

  • 今後3年程度の海外進出方針については、「既存の海外拠点を拡充する」と回答した企業の割合が19.1%と前年(30.9%)から10%ポイント以上縮小した。一方「新たに進出したい」企業の割合はほとんど変動しておらず、コロナ禍でも新規投資の意欲は衰えていない。
  • 海外で事業拡大を図る対象国・地域に関しては、1社あたり平均4.9カ国・地域を挙げ、前年度(3.8)から増加。リスク分散意識の高まりから、検討対象の国・地域を増やす動きが強まった。対象国・地域は、中国(48.1%)が最も高く、ベトナム(40.9%)、米国(40.1%)が続いた。特に米国は前年度から8.2%ポイント比率を上げ、4位から3位に浮上した。
  • 今後3年程度の輸出方針については、「輸出の拡大を図る」企業は76.7%と3年ぶりに8割を切った。一方、「縮小、撤退を検討する」は横ばいを維持(1.4%)、「今後、新たに取り組みたい」企業の比率は4年ぶりに増加に転じ(10.8%)、全体として輸出拡大への意欲が大幅に減退したわけではない。
  • 「輸出の拡大を図る」企業がターゲットとする国・地域は中国が最多(56.7%)。一方、米国(50.3%)を挙げる企業が増加したのをはじめ、中国以外の国・地域への分散化が顕著であった。最も重視する輸出先としては、中国と米国、西欧で全体の6割を占める。
  • 販売手段として、電子商取引(EC)を利用したことがある企業は全体の3分の1(33.3%)を占めた。また今後、ECの利用を拡大する企業の割合は43.9%にのぼった。同割合は大企業の28.5%に対し中小企業が46.7%と、中小企業のEC活用意欲が強いことが明らかになった。
  • ECの活用実績がある企業のうち、国内から海外向けの越境ECは45.5%が活用。また、海外販売でEC活用実績のある企業は合計65.0%に上る。越境ECの活用率は、大企業(34.8%)に比べ、中小企業(47.0%)が12%ポイント超高い。販売先は、中国(47.6%)が最多。米国(36.6%)、台湾(28.8%)は、前回調査から回答比率が上昇した。

3.リスクに対応した海外ビジネス見直し

  • 事業戦略や組織体制など、海外ビジネスに関する見直しを何らか行う(行った)企業は69.6%に上る。見直し方針をみると、「販売戦略の見直し」と回答した割合(複数回答)が42.5%と最も大きく、企業規模別では中小企業(44.3%)で特に大きい。
  • 販売戦略の見直しの具体的内容では、「販売先の見直し」が6割を超えたほか、「バーチャル展示会」(38.5%)や「越境EC」(30.0%)など、デジタル活用による販路開拓に取り組む企業の割合が高いことが明らかとなった。
  • デジタル技術の活用意欲が高まる一方、活用上の課題として、過半数(55.7%)の企業が「技術者など人材の不足」を指摘した。 人材確保の取り組みでは、中小企業で「確保していない」企業が44.3%を占め、「新卒、中途採用の確保・育成」との回答が6割を超える大企業との温度差がみられる。
  • 国内外企業・機関との協業・連携に、「取り組んでいる」または「検討中」と回答した企業の割合は35.7%だった。 内容では「国内企業との業務連携や共同研究等」が65.0%で最多となる一方、約3割の企業が海外との協業を模索している。

ジェトロ国際経済課 (担当:伊藤、古川)
Tel:03-3582-5177