特集:欧州が歩む循環型経済への道環境施策を強化、金融のグリーン化に向けた戦略も(英国)
持続可能な成長に向けた英国の動き

2020年6月4日

英国では、持続可能な社会実現のため、温室効果ガス(GHG)の排出削減目標の下、政府は再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の普及に向けた政策を発表しており、COP26の主催に先立ち、さらに政策を強化している。また、金融分野のグリーン化に向けても新たな戦略を発表した。日系企業にはこのような国内の潮流に沿った投資を進める動きがみられる。

排出削減の推進のため、再エネやEVを推進

再利用、リサイクル、投入資源の縮小などを通して資源利用を効率化し、廃棄物や汚染排出の削減、回復力(レジリエンス)が高い低炭素社会の実現を目指す循環型経済では、温室効果ガス(GHG)排出削減は重要な柱となる。英国では、この点で先進的な取り組みを行っている。2008年には、GHG削減について法的拘束力を持つ長期目標を設定した世界初の気候変動法が成立し、2050年までに1990年比でGHGの80%削減を目指すこととした。2019年6月には、この目標をさらに引き上げ、世界で初めて純排出ゼロ(注)の目標を法制化し、世界における環境分野での主導的な地位を狙う(2019年6月13日付ビジネス短信参照)。また、2017年10月には2020年代における産業の低炭素化を目指すクリーン成長戦略を発表し、同年11月に発表した産業戦略においてもクリーン成長を将来の産業分野の主幹の1つとして位置付けている。

排出削減の推進施策で、英国政府が欧州各国よりもさらに先進的な取り組みを目指すのが、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)の導入だ。再生可能エネルギーにおいては、特に洋上風力を主眼に置く。政府は、自動車やライフサイエンスなど経済の生産性向上への大きな寄与が期待される産業について、成長戦略を定めたセクター・ディールを策定しており、2019年3月には洋上風力セクター・ディールを策定し、世界的にクリーン成長にシフトする中、洋上風力立国としての優位性を最大化する狙いを明確にした(2019年3月14日付ビジネス短信参照)。洋上風力セクター・ディールでは、国内調達率や女性労働者の割合の引き上げや、欧州域内および日本、韓国、台湾、米国といった市場への産業輸出を行う方針が示される。国内でも2030年までに最大30ギガワットの洋上風力の導入を目指す。

また、政府の統計によると、エネルギー分野のGHG排出は再生可能エネルギーの導入が進み、2018年時点で1990年比62%減と大きく削減されている。一方、輸送分野は、同期間で3%減にとどまる。産業分野ごとの排出割合も、輸送分野が28%でトップだ。輸送分野の排出削減が大きな課題となっていることがわかる。政府は2017年に、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売を2040年までに禁止する方針を打ち出しており、2018年7月には達成に向けた戦略「ロード・トゥー・ゼロ」を発表した(2018年7月12日付ビジネス短信参照)。本戦略では、2030年までの中間目標や、2050年までにほぼ全ての乗用車・商用車を排出ゼロとする長期目標のほか、新築住宅への充電設備設置義務付けや高速道路などへの充電設備拡充に向けた方針も示されている。実際に、英国では低排出車、特にEVの販売量が急速に増加している。2019年の新車登録台数(2020年1月9日付ビジネス短信参照)をみると、全体では2017年から3年連続で登録台数が減少する一方、バッテリーだけで駆動するEV(BEV)は前年比2.44倍と大きな伸びをみせている(表参照)。英国内の全体の自動車数や販売台数に占めるシェアがまだ少ないことは事実だが、政府はロンドン市内に排出制限区域を設けるなど規制の強化にも乗り出しており、内燃車からEVへの乗り換えを推進する姿勢だ。

表:燃料種別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
燃料種別 2018年 2019年 前年比
台数 シェア 台数 シェア
ディーゼル車 746,332 31.5% 583,488 25.2% △ 21.8%
ガソリン車 1,466,024 61.9% 1,498,640 64.8% 2.2%
BEV 15,510 0.7% 37,850 1.6% 144.0%
PHEV 42,232 1.8% 34,734 1.5% △ 17.8%
HEV 83,528 3.5% 97,850 4.2% 17.1%
MHEV(ディーゼル) 3,833 0.2% 32,217 1.4% 740.5%
MHEV(ガソリン) 9,688 0.4% 26,361 1.1% 172.1%
合計 2,367,147 2,311,140 △ 2.4%

注:MHEV:電力単体での駆動はできないが、電力によるアシストにより燃費やCO2排出量を効率化した自動車。
出所:英国自動車製造販売者協会(SMMT)

COP26主催、環境施策をさらに強化

英国は2020年11月(新型コロナウイルス感染拡大の影響でその後2021年に延期)にグラスゴーで開催される第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)をイタリアと共同で主催する。ボリス・ジョンソン首相は2020年に入ると、COP26を前に環境分野における英国の存在感を高めるように、環境政策の強化を打ち出している。洋上風力については、ジョンソン首相は保守党のマニフェストで2030年までの導入目標を40ギガワットに引き上げる方針を示している。また、過去2回の再生可能エネルギーへの補助金制度の入札で対象から外されていた陸上風力や太陽光も、純排出ゼロの目標達成のためにこれらの技術が重要な役割を果たすとされており、2021年に実施される第4回入札での対象復帰について、英国政府が3月から意見公募を行っている。さらに、GHG排出量の大きい石炭火力発電については、2025年までの全廃目標の1年前倒しを図る。

輸送分野についても、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売禁止目標を2035年に前倒しする姿勢だ(2020年2月6日付ビジネス短信参照)。禁止対象には、初めてハイブリッド車が含まれることになり、より排出量の少ないEVなどへシフトする方針を鮮明にしている。加えて、自動車以外の輸送手段も低排出化する。英国政府が2020年2月に打ち出した交通インフラに関する方針(2020年2月19日付ビジネス短信参照)では、政府の交通インフラ投資の一環として、少なくとも4,000台のゼロ排出バスを導入するとしている。また、地域の電動バス導入促進を進めるため、総額1億7,000万ポンド(約222億円、1ポンド=約130.6円)の基金を設け、自治体の参加を募っている。

サステナブル投資促進のためファイナンス戦略を策定

政府が排出削減に向けた施策を強める中、企業によるサステナブル投資も、より拡大することが期待される。政府は2019年7月に「グリーンファイナンス戦略」を発表。同計画では金融セクターが政府の目標に沿い、サステナブル投資を促進するための指針などが示されている。また、同計画の中で政府は、今後数十年間でのこのような投資が、将来の気候や自然、そして環境の変化に対するコミュニティのレジリエンスを左右すると認識している。さらに、純排出ゼロの経済への移行に向け、金融セクターは重要な役割を担うと認識し、移行には大きなビジネスチャンスが伴うとしている。金融セクターは、単に環境にやさしい案件にファイナンスを行うといった役割から、気候・環境要因を重要なポイントとして普遍的な融資決定プロセスに組み入れるようなシステムへの転換の途上にある。政府は、英国がそれを先行する立場にあるという考えだ。また、政府は、グリーンファイナンスで主導的な立場となることがクリーンかつレジリエンスの高い成長へ転換する中で経済的機会を最大化できるとしており、より盤石な立場を築くために、金融セクターはさらに踏み込んだ取り組みが必要としている。

同戦略の目的は、民間部門の金融フローと、クリーンで環境的に持続可能かつレジリエンスの高い成長の整合、および英国の金融セクターの競争力強化とされており、達成に向けて、金融のグリーン化(Greening Finance)、グリーンへのファイナンス(Financing Green)、機会獲得(Capturing the Opportunity)、の3つの戦略がとられる(参考参照)。

参考:グリーンファイナンス戦略の概要

目的
  1. 民間部門の金融フローと、クリーンで環境的に持続可能かつレジリエンスの高い成長の整合
  2. 英国の金融セクターの競争力強化
戦略
  1. 金融のグリーン化(Greening Finance)
  2. グリーンへのファイナンス(Financing Green)
  3. 機会獲得(Capturing the Opportunity)

出所:英国政府「グリーンファイナンス戦略」

「金融のグリーン化」では、パリ協定や英国の環境目標の達成に向け、気候変動その他の環境的な要因によるリスクと機会をすべてのファイナンスの意思決定に織り込む必要があるとしている。そのため、そうした気候変動対策への貢献に関するリスク・機会に関する共有理解の確立や民間・公的金融機関、政府のそれぞれの役割と責任の明確化などの施策をとる。さらに、すべての上場企業や大規模資産の所有者に対し、2022年までに「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく情報開示を求めることなども挙げている。

これに関連して、2019年12月にはイングランド銀行(中央銀行)が、大手銀行や保険会社を対象として、気候変動に関するストレステストを実施する方針を発表している。ストレステストでは、中銀が示す今後30年間のシナリオに対して、各行・各社がそれぞれの事業への影響を評価する。気候変動対策を、「早期に実施」「遅れて実施」「実施しない」場合の3つのシナリオで、従来のストレステストで評価される資本の健全性ではなく、どのように気候変動へ対応するかで企業を評価する。

「グリーンへのファイナンス」では、英国の炭素削減目標やクリーンかつレジリエンスの高い成長の実現に寄与する技術や事業に、民間資金の投入を促進する。家庭のエネルギー効率化に向けた政策パッケージや、政府の25カ年の環境計画実施に向けた環境関連法案の策定などを図る。

また、「機会獲得」では、「金融のグリーン化」実現の際に生まれるデータやその分析結果、また「グリーンへのファイナンス」で育成される新たな環境関連金融商品や製品など、創出されるビジネスチャンスを、英国の持つ金融ハブとしての強みを生かし掌握、グリーンファイナンスの面でもグローバル・ハブとなることを目指す。英国には、金融産業の集積、イノベーションやデータ分析関連、低排出技術、市民組織との協働の仕組み、知的財産の活用など、世界のリーダーとなる素地が整っているとしている。

日系企業では再エネ、EV関連事業でサプライチェーンを構築する動きも

日本企業の中には、このような状況を生かそうとする企業もみられる。三菱商事は、欧州内の複数地域で洋上風力発電事業に参画しているが、2018年3月に英国でもモーレイ・イースト洋上風力発電所の一部権益(33.4%)を、子会社を通じて取得した。本事業では関西電力も、同年11月に三菱商事から一部権益(10.02%)を取得している。また三菱商事は、英国で洋上風力発電向けの海底送電事業も行っている。2020年2月には、中部電力とともに、ホーンシー・ワン洋上風力発電所の海底送電資産運営事業にかかる優先交渉権を獲得し、英国における海底送電事業については23件中9件に参画、トップシェアとなっている。

電力・ガス小売事業に関しても、三菱商事は、2019年2月には英国内でOVOグループへの20%出資による資本業務提携をしたことを発表している。OVOグループは、2009年創業のまだ比較的若い企業だが、英国内の電力・ガス小売りで急速に事業を拡大しており、2019年12月には電力・ガスの家庭向け小売事業で国内2位を誇る大手SSEの小売り部門を買収するなど、近年の国内での存在感が大きい。また、EV関連では自動充電設備などのサービスも展開している。三菱商事は、同社との提携について、洋上風力を含めた再生可能エネルギー事業に取り組む中、OVOへの出資参画によりサービス分野と川下領域の強化を図るとしており、電力をベースに再生可能エネルギーから小売事業、EVサービスまでのサプライチェーンを構築する構えだ。

また、住友商事は2018年1月に、「欧州R&D投資支援制度」を導入し、欧州におけるイノベーションの担い手であるスタートアップ企業に対して、迅速な出資を可能とする体制を整備、欧州の強みである環境・エネルギー分野への投資を重点の1つとして掲げている。2019年6月には、EVに使用されたバッテリーをリサイクルして作られる大型蓄電設備プロバイダーである英国企業のコネクテッド・エナジーへの出資を発表。EV導入促進に伴うバッテリーリサイクルと、どうしても不安定となる再生可能エネルギーの安定供給に資する蓄電技術の双方のニーズに応えるソリューションとして注目を集めている。

先に見た通り、英国政府はサステナブル投資として、再生可能エネルギーやEVの促進や金融のグリーン化を進める方針だ。こうした動きは、そのような潮流を日系企業がつかむ象徴的な動きとなっている。


注:
排出量が森林などで吸収される量以下に抑えられること。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
近藤 亜美 (こんどう あみ)
2020年、ジェトロ・ロンドン事務所インターンシップ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て2019年7月から現職。

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