特集:欧州が歩む循環型経済への道国民の分別意識が課題、廃プラリサイクルの現状(英国)

2020年6月4日

中国による2017年末のプラスチックごみの輸入禁止や、プラスチックごみが引き起こす海洋汚染を背景に、英国でもプラスチックごみの排出を抑制しようとする動きが高まっている。本レポートでは、英国の廃プラスチックのリサイクル状況を紹介する。

事業用プラスチックごみは、協同リサイクリング制度で対応

英国環境・食料・農村地域省(DEFRA)が2019年3月7日に発表した統計によると、英国民が1年間に排出した廃棄物の総量は2016年時点で2億2,292万トンだった(図1参照)。

図1:英国の廃棄物
2010年、建設ごみ11,891万トン、事業ごみ6,043トン、2,739万トン、計20,674万トン、2012年、建設ごみ11,412万トン、事業ごみ5,914トン、2,642万トン、計19,968万トン、2014年、建設ごみ13,028万トン、事業ごみ5,690トン、2,680万トン、計21,399万トン、2016年、建設ごみ13,621万トン、事業ごみ5,942トン、2,730万トン、計22,292万トン

出所:環境・食料・農村地域省(DEFRA)

そのうちプラスチック包装材として分別されたのは約152万9,210トンで、廃棄物全体の0.7%に相当する。内訳は事業ごみ133万3,240トン、家庭ごみ12万7,842トンとなっている。家庭が排出するプラスチックごみの量が少ないのは、未分別の「その他家庭ごみなど」が1,511万トンあり、その中に大量のプラスチックが含まれているからだ。

分別回収されたプラスチックのリサイクル状況を図2に示す。DEFRAは、英国で年間に廃棄されたプラスチックの総量は2017年時点で約226万トンと発表。そのうち104万4,000トンが、英国内でリサイクルされたとしている。この結果、リサイクル率(プラスチック包装材廃棄量に対する国内でリサイクルされた割合)は46.2%となり、この割合は年々上がっているという。リサイクル率上昇の大きな要因としては、事業用ごみのリサイクル制度が軌道に乗っていることが挙げられる。

図2:英国のプラスチック包装材廃棄量とリサイクル率(注)の推移
英国のプラスチック包装材廃棄量、2012年、リサイクル済64万トン、リサイクルさなかったもの191万トン、計255万トン、2013年、リサイクル済71万トン、リサイクルさなかったもの155万トン、計226万トン、2014年、リサイクル済84万トン、リサイクルさなかったもの138万トン、計222万トン、2015年、リサイクル済89万トン、リサイクルさなかったもの137万トン、計226万トン、2016年、リサイクル済102万トン、リサイクルさなかったもの124万トン、計226万トン、2017年、リサイクル済104万トン、リサイクルさなかったもの122万トン、計226万トン。 リサイクル率、2012年25.2%、2013年31.6%、2014年37.9%、2015年39.4%、2016年44.9%、2017年46.2%。

注:プラスチック包装材廃棄量に対する国内でリサイクルされた割合。
出所:環境・食料・農村地域省(DEFRA)

事業用ごみの協同リサイクル制度はプラスチックを含めた包装材を対象とするもので、1997年に導入された。この制度への加入は強制で、対象となるのは包装材の生産者・輸入者、包装材の製造・組み立て・輸入事業者、包装材に製品を充填(じゅうてん)する事業者、包装材を利用した商品を販売する事業者(小売・卸売業)のうち、大規模事業者だ。対象の事業規模は年間売上高が連結で200万ポンド(約2億6,200万円、1ポンド=約131円)を超え、かつ、包装材の英国内での取扱量が50トン以上あることだ。

対象企業は協同リサイクリング制度に毎年参加することが義務付けられている。具体的には、毎年4月7日までに「特定事業者」として監督官庁が運営する国営包装廃棄物データベースNational Packaging Waste Database(NPWD)に直接登録するか、協同リサイクリング制度(コンプライアンススキーム)を通じて登録する(いずれも登録時に登録料が必要)。

登録した事業者は、再処理業者に処理費用を払って廃棄物のリサイクルを委託し、法令で定める目標比率のリサイクルがその年度中になされたことを示す「証拠」のパッケージングリカバリーノート(Packaging Recovery Notes (PRNs))を取得する。

協同リサイクリング制度導入から約20年、対象事業者が大企業に限られるという問題点はあるが、図2の通り、プラスチックを含めた包装材のリサイクル率は順調に向上している。他のEU諸国と比較した英国のプラスチックリサイクル率は図3に示す通り、平均をやや上回るレベルにある。さらに、そのコストは図4にあるように、他のEU諸国に比べるとかなり安いことが特徴だ。

図3:EU各国のプラスチック・リサイクル率(注1)(2017年)
リトアニア74.2%、ブルガリア64.8%、キプロス62.3%、スロベニア60.4%、チェコ58.9%、スロバキア52.4%、オランダ50.4%、スウェーデン48.4%、ドイツ48.0%、スペイン47.9%、 ルーマニア46.5%、英国46.2%、ベルギー44.5%、イタリア42.4%、EU28 41.9%、ギリシャ41.4%、デンマーク38.5%、クロアチア37.3%、ラトビア36.6%、ポルトガル34.9%、ポーランド34.6%、ルクセンブルク33.4%、オーストリア33.4%、ハンガリー32.0%、アイルランド30.5%、エストニア26.5%、フランス26.5%、フィンランド26.5%、マルタ23.5%。

注1:プラスチック包装材廃棄量に対する国内でリサイクルされた割合。
注2:2016年のデータ。
出所:ユーロスタット

図4:欧州各国のリサイクル済み廃棄物1トン当たりのリサイクル費用
ベルギー52ユーロ、ドイツ76ユーロ、スペイン96ユーロ、オランダ65ユーロ、フランス82ユーロ、イタリア48ユーロ、英国12ユーロ。

出所:VALPAK「Packflow2025」

英国政府は、事業用ごみのリサイクル目標を毎年定めている。2017年春予算案で公表された2020年までの目標値は、表の通り。2019年のプラスチックのリサイクル目標は55%、2020年は57%だ。

表:英国政府が掲げる事業ごみのリサイクル目標 (単位:%)
項目 2017年 2018年 2019年 2020年
69.5 71.0 73.0 75.0
ガラス 77.0 78.0 79.0 80.0
アルミニウム 55.0 58.0 61.0 64.0
76.0 79.0 82.0 85.0
プラスチック 51.0 53.0 55.0 57.0
22.0 38.0 43.0 48.0

出所:英国政府(2017年春予算案)

国民の関心高まる廃プラスチック

一方で、図2のリサイクル率の正確性に対しては、専門家から疑問の声が寄せられている。環境コンサルタントEunomiaの報告によると、2015年の廃プラスチックは350万トンで、政府統計が使用している数値の1.5倍以上に上る。この結果、リサイクル率は政府統計を大きく下回る可能性があると指摘している。

また、国内でリサイクルされない廃プラスチックの多くは輸出されている(図5参照)。中国政府が2017年末以降、廃プラスチックの輸入を禁止し、他のアジア諸国も追随したことをきっかけに、英国の廃プラスチックも行き場を失うこととなり、人々がリサイクルの現状に目を向けるようになった。前後して、不法に海洋投棄されたプラスチックが海洋を汚染する状況が、動植物学者デービッド・アッテンボロー氏によるBBCの環境番組や新聞、雑誌などで報道される回数も増えた。特に、プラスチックごみで窒息した野生生物などのショッキングな画像が頻繁に目に入るようになったことで、国民のプラスチックに対する関心が急速に高まっている。

図5:英国の廃プラスチックの処理方法(2016年)
リサイクル557,035トン、36%、リサイクル以外の利用(埋め立て材など)4トン、0%、埋め立て53,386トン、4%、国内で処理されなかった分915,754トン、60%、焼却2,348トン、0%。

出所:環境・食料・農村地域省(DEFRA)

家庭からのプラスチックごみの分別推進がカギ

しかし、事業ごみのリサイクルと比べ、家庭から排出されるプラスチックごみのリサイクルはさらに進んでいない状況だ。その現状は、非営利企業のRECOUPが毎年、自治体へのアンケートを基にして発表している報告からうかがえる。

閲覧が可能な2018年の報告によると、2018年に英国の自治体が回収したプラスチックごみの量は前年比2.8%増の52万7,010トンだった。内訳はペットボトル類35万1,907トン、ポット・トレー類17万5,103トンで、回収率はそれぞれ59%と33%、全体では47%となった。回収率は上昇しているが、2017年に英国で上市されたプラスチックの量は約226万トン、うち半分以上は分別されずに埋め立てか焼却処分されている。

また、リサイクルしやすいよう洗浄して出す人は多くないのも、難題となっている。2019年の調査で、プラスチックをリサイクル利用するための最大の障害として、各自治体は「廃プラスチックが汚れた状態である」ことを挙げた。また、別の障害要因として、地方自治体の51%が廃棄物の収集とリサイクルのための予算削減を受けたと報告している。投げ捨てや不法投棄を問題視する自治体も、38%あった。

回収するプラスチックの対象範囲も、自治体によって扱いが異なる。2017年時点では、調査対象の391自治体のうち387自治体(99%)がペットボトルを回収しているが、ポット・トレー類を回収しているのは310自治体(79%)、プラスチックフィルム・袋類は67自治体(17%)にとどまっている。レジ袋の回収に至っては、26自治体(7%)にすぎない。

回収率は年々上昇しているが、最も回収率が高いペットボトルでさえ、59%にとどまっている。20年以上前から徹底したごみの分別を進めてきたドイツや北欧諸国などと比べると、英国でごみの分別に対する市民の意識が低いことが課題と言えそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
岩井 晴美(いわい はるみ)
1984年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(1990年~1994年)、海外調査部 中東アフリカ課アドバイザー(2001年~2003年)、海外調査部 欧州ロシアCIS課アドバイザー(2003年~2015年)を経て、2015年からジェトロ・ロンドン事務所勤務。著書は「スイスのイノベーション力の秘密」(共著)など。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。