特集:欧州が歩む循環型経済への道ファッション業界が模索するサステナビリティー(イタリア)

2020年6月4日

2019年2月に発効した日EU経済連携協定(EPA)を契機に、一層の輸出促進に期待が高まっている分野の1つがファッション・テキスタイルだ。この業界は、イタリアを代表する産業の1つでもある。欧州では昨今の環境意識の高まりを受け、この分野でも環境負荷を最小限にしつつ投入資源を最小化していく循環型経済の構築と、企業としての「サステナビリティー(持続可能性)」の向上にいかに取り組んでいるかに注目が集まっている。しかし、サステナビリティー向上への取り組みとは、具体的に何を指すのだろうか。イタリアの潮流と直近の動向を紹介する。

ファッション業界で広がるサステナビリティーへの取り組み

イタリアのファッション産業を牽引する業界団体の1つに、「イタリアファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)」がある。1958年に誕生し、現在はジョルジョ・アルマーニ、ヴェルサーチェなどの世界的ブランドも参加するミラノファッションウィークなどの世界的イベント開催を担う主要な団体だ。これまで、サプライチェーンの中の環境負荷低減や投入資源効率化など、サステナビリティーに対してさまざまな取り組みを行ってきた。

同協会は2011年、アパレルブランドや大学、研究機関、Eコマース(EC)企業、その他テキスタイル分野の関連企業によって構成する「エコロジー・環境委員会」を立ち上げ、サステナビリティー向上への取り組みを開始した。2012年には、環境省の後援を受けて「ファッション産業における社会・環境責任に関わる十戒」と題したイニシアチブを打ち出した。それは、サステナビリティーというグローバルな課題に取り組むため、イタリア企業に対してより具体的な行動を提示し、企業自身が企業イメージやオペレーション上のリスクを管理できるよう促すものだった。そこでは、「長く使えるクオリティーの高いものを作る」「環境・社会的価値の高い原料を用いる」などの行動指針を簡潔に明記している。

2016年には、「衣類・皮革製品・靴・アクセサリーの素材における環境有害物質要件に関するガイドライン」を発表した。それに基づいて、加盟企業や研究所などへの研修・啓蒙活動を始めることになる。続いて2017年には、「小売りの持続可能性に向けたイタリアファッション協会の原則」を打ち出し、2019年には「アニマルウェルフェア(動物愛護)」に関する新たな委員会を立ち上げた。

一連の流れを踏まえると、当初は1つの委員会として立ち上がったものが、年月とともに有害物質の使用やアニマルウェルフェア、小売市場など、各トピックに特化したワーキンググループが立ち上がり、個々の課題に取り組むかたちに変化した。「サステナビリティー」の切り口は複数存在し、統一的に取り組むことはなかなか難しい。個々のテーマに応じて問題を具体化した上で対処していく必要性があったことが推測される。加えて、サステナビリティーの命題の下、時代とともに具体的なテーマが多角化している状況も読み取れる。

実際、サステナビリティー向上に対する取り組み方や着眼点、解釈は企業によってさまざまだ。例えば、高級ニット製品を多く扱うアパレルブランドのファルコネリは、カシミヤやカシミヤ混のセーターをクーポン券と引き換えに消費者から回収し、リサイクルする取り組みを行っている。また、イタリアのカジュアルアパレルブランドのベネトングループは環境に配慮した活動の一環として素材に注目。現在は製品に使う繊維のうち91%が自然由来のもので、さらに約半分の商品が単一素材で作られ、リサイクルしやすくしている。

そのほか、大手ファッション通販サイトを運営するユークスは、環境配慮やリサイクルなどの循環性を重視するブランドを専門的に扱うサイトを運営するほか、サステナビリティーに関わる活動の軸の1つに「女性のエンパワーメント」を掲げている。社内に女性も活躍できるようなチームを立ち上げ、技術部門の女性の割合を高める取り組みなどを通じて、女性のリーダーシップ向上を図るものだ。

展示会で見えたサステナビリティー取り組みへの課題

サステナビリティーと一言でいっても、有害化学物質の排除や動物保護、ひいては女性のエンパワーメントまで含まれ得る状況にある中、実際に具体的取り組みを始めるにはどこにポイントを置けばよいのだろうか。イタリアで開催された展示会における捉え方を以下紹介する。

2月4日から3日間の日程で行われたテキスタイルの展示会「ミラノウニカ」では、サステナビリティーをテーマにした展示ブースが会場の一角に設けられた。そこでは「ミラノウニカ・テクニカルサステナビリティー委員会」が定めた基準を満たした、186社による生地やアクセサリー(ボタンなど)約1,400点が展示されていた。2019年7月に開催された前回のミラノウニカでも同様の展示は行われていたものの、今回は参加企業数が24%増、展示サンプル数は40%増となっており、個々の企業レベルの取り組みが活発化している様子がうかがえる。


テキスタイルの展示会「ミラノウニカ」でのサステナビリティーを
テーマとした企画展示の様子(ジェトロ撮影)

「ミラノウニカ・テクニカルサステナビリティー委員会」が設けた基準は以下の10項目だ。

  1. 電気、水の消費量の削減が図られている
  2. サステナビリティーの管理システムが社内に整備されている
  3. 有害な化学物質を製造過程で使用していない
  4. オーガニック栽培に由来する原料が使われている
  5. 責任をもって管理された森林に由来する原料を用いている
  6. リサイクル由来の原料が使われている
  7. 革新的な有機由来の化学繊維が使われている
  8. クローズドループ型生産システム(注1)で作られた化学繊維である
  9. 環境に対して低負荷の技術や生産工程によって作られる伝統的な生地である
  10. 動物に配慮した(残酷な方法でない)飼育に由来する繊維や生地である

前述基準のうち1項目でも当てはまれば、本企画でサステナブルな製品として認定されるが、認定企業の中でも取り組み方は一様ではない。各企業や製品の特性に即したものになっていて、取り組み度合いにも差がある。「ミラノウニカ・テクニカルサステナビリティー委員会」の基準を満たした186社のうち、最も多くの項目を満たした企業で7項目だった。10項目全てを満たしている企業はなかったことになる。多くの項目を満たすほどサステナビリティーに対する取り組み度合いが高いと言えるものの、展示会の主催者側も「全てをクリアするのは相当難しく、非現実的」との認識を示しているのが実情だ。

なお、前述10項目の基準において、今回企画に参加した186社のうち最も多くの企業が満たしていたのは「3.有害な化学物質を製造過程で使用していない」で、全体の83%が該当している。次いで「6.リサイクル由来の原料が使われている」が65%、「4.オーガニック栽培に由来する原料が使われている」が47%と続く。今回の参加企業がテキスタイル産業全体を代表しているわけではないが、テキスタイル分野で、サステナビリティーに取り組むポイントを検討する際の1つの参考指標になるだろう。

図1:各基準を満たした企業の割合
有害な化学物質を製造過程で使用していない、83%。リサイクル由来の原料が使われている、65%。オーガニック栽培に由来する原料が使われている、47%。(環境に対して)低負荷の技術や生産工程によって作られる伝統的な生地である、33%。電気、水の使用量の低減が図られている、27%。サステナビリティの管理システムが社内に整備されている、27%。責任をもって管理された森林に由来する原料を用いている、25%。クローズドループ型生産システム でつくられた化学繊維である、19%。革新的な、有機由来の化学繊維が使われている、12%。動物に配慮した(残酷な方法でない)飼育に由来する繊維や生地である、10%。

注:1社で複数の項目を満たしているケースがあるため、各項目の合計が100%を超える。
出所:ミラノウニカブックレット

各項目の判定に当たって、企業側が主催者側に提示・提出したサンプル品約1,400点のうち、約半数が「OEKO-TEX® standard 100」(注2)の基準を取得していた。この規格は、「3.有害な化学物質を製造過程で使用していない」ことの証明にもつながる認証の1つだ。また、図2に示したようにさまざまな認証があるが、種類によって取得コストや有効期間が異なることも特徴だ。

図2:サンプル品が取得していた認証の種類
OEKO-TEX® standard 100、47%。Compliance ZDHC、23%。GRS、19%。GOTS、14%。Commitment Detox、13%。OEKO-TEX® STeP、11%。ISO14001、11%。FSC、8%。TF Traceability&Fashion、6%。Textiles & Health、4%。SA8000、4%。OHSAS 18001、2%。Made in Green、2%。EMAS、2%。

注:1社で複数の項目を満たしているケースがあるため、各項目の合計が100%を超える。
出所:ミラノウニカブックレット

1月22~24日の3日間、フィレンツェで行われた糸の展示会「ピッティ・インマージネ・フィラーティ」でも、サステナビリティーの企画展示スペースが設けられた。出展企業が任意で参加し、各社が持つサステナブルな製品(生地)がメッセージ性の強いイラストとともに展示された。


「ピッティ・インマージネ・フィラーティ」での会場の外観(ジェトロ撮影)

しかし、企画展示に参加した出展者によると、「これを満たしていればサステナブル」といった基準の提示は主催者側からはなかったようだ。具体的な製品がサステナブルといえるのかについて、主催者側とその都度相談しながら進めていく流れだったという。すなわち、企業に対して統一的な基準を明示することは、現実には容易でないと推測される。


サステナビリティーに関する企画展示の様子(ジェトロ撮影)

サステナビリティーの明確な基準の確立が今後の浸透のカギに

ファッション業界でのサステナビリティーの意味は、年々多義的になってきており、今後もさらに別の視点が加わっていく可能性がある。また、依然としてファッション業界におけるサステナビリティーに対して明確な基準がないことは、ピッティ・インマージネ・フィラーティの例からも見て取れる。ただ、ミラノウニカで打ち出された10項目は今後、企業がサステナビリティーに取り組むうえで、1つの基準となり得る。

欧州では特に環境配慮への意識が高く、消費者側からも取り組みの姿勢が求められる中、明確な基準の確立とともに、企業はよりサステナビリティーを意識した活動をしていくことが求められていく。


注1:
使用済みの製品から使える部分を取り出し、再利用する循環型の生産システム
注2:
350を超える種類の有害化学物質を対象に分析試験が実施され、試験をクリアした製品に与えられる認証。人の肌への接触度合いなどを基に製品を4つのカテゴリーに分け、各カテゴリーで規制物資と規制値の基準が設けられている。乳幼児用の繊維用品などは最も厳しい規制値が敷かれるクラスⅠ、カーテンなど人との接触が少ない製品はクラスⅣなどと区分けされる。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
山崎 杏奈(やまざき あんな)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課・途上国ビジネス開発課、ジェトロ金沢を経て、2019年7月より現職。

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