特集:欧州が歩む循環型経済への道循環経済に向けて廃棄物管理とプラスチック削減に取り組む(ドイツ)
政府・企業・消費者の高い意識がルールづくりに寄与

2020年6月4日

環境大国といわれるドイツでは、1972 年に初めて連邦レベルの廃棄物処分法が施行された。その後、容器包装廃棄物令を定めるなど、廃棄物処理およびリサイクルの仕組みを段階的に発展させてきた。包装材廃棄物の回収義務を負うことになった産業界が官民パートナーシップによる廃棄物回収のシステムを立ち上げたり、廃棄物の処理責任の所在を生産者と明確に定義づけたりするなど、ドイツには環境政策において規制の策定や優れたルールづくりを先進的に行ってきた歴史がある。廃棄物処分法はその後、循環型経済の構築を目的とした循環経済法(KrWG、1996年施行)に改定され、特定の製品廃棄物に関する規制として容器包装廃棄物法(VerpackG)、使用済み自動車令(AltfahrzeugV)、廃電池法(BatterieG)、廃電気電子機器法(ElektroG)なども定められている。本稿では、ドイツにおいて循環型経済を推進するための法制度や規制、プラスチック廃棄物削減に向けた方針や企業の取り組み事例を紹介する。

循環経済法改正によりメーカーと流通業者の責任が拡大

ドイツの循環型経済を運用する基盤となるのが、前述の循環経済法だ。2020年2月12日には、スベンヤ・シュルツェ環境・自然保護・原子力安全相が提出した同法の改正案が閣議決定された。この改正案は、ごみの減量とリサイクルの促進を目的としたもので、主に以下の3つの措置により、これまで以上に、政府ならびに製造者と流通事業者の責任が拡大されることになる。

  1. リサイクル製品の需要増を図るため、政府調達でリサイクル製品を優遇する。
  2. 返品された商品や余剰品の破壊や処分を阻止する法的根拠となる「配慮義務」規定を盛り込み、生産者責任を強化する。こうした規定は、EU初となる。併せて、売れ残り製品の取り扱い方法(値引き販売や寄付など)について、明確かつ包括的な報告を製造業者と流通事業者に義務付ける規制の草案も作成さている。
  3. 道路や公園などの清掃費用について、使い捨てプラスチック製品のメーカーや流通事業者にも負担を義務付けられる(従来は、市民が自治体を通じて負担していた)。

この改正案に関し、ドイツ環境・自然保護連盟(BUND)は製造者責任が拡大されたことを歓迎する一方、ごみの減量に向けた具体的な目標や措置が不足していると批判。また、ドイツごみ処理・水・資源経済連盟(BDE)は、改正案が骨抜きにされていると評し、製品の最低リサイクル比率の義務付けを求めている。

さらに、政府は産業界に対してだけでなく、消費者に対しても普及啓発活動を実施している。環境省が展開する意識向上キャンペーンサイト「ポイ捨て社会にノーを(Nein zur Wegwerfgesellschaft)」では、ポリ袋などプラスチック廃棄物の削減のため、何ができるかをわかりやすく紹介している。

ドイツ政府のプラスチック廃棄物削減に向けた方針

プラスチック廃棄物の削減に関する方針として、環境・自然保護・原子力安全省(以下、環境省)は、ポリ袋の削減、使い捨てプラスチック製品の禁止、化粧品に使用されるマイクロプラスチック(注1)利用ゼロ化、海洋ごみに対する国際的な取り組みの推進、などを掲げている。

まずポリ袋の削減については、2015年、スーパーマーケットでのプラスチック製レジ袋の有料化を自主的に導入することで連邦環境省と小売業者が合意した。その結果、プラスチック製レジ袋の利用数は、2015年の48億枚から2018年には16億枚にまで削減された。

また、使い捨てプラスチック製品についてだが、EUの「特定使い捨てプラスチック製品禁止指令」が2021年に国内法制化期限を迎えることになっている(2019年5月22日付ビジネス短信参照)。この指令に則し、産業界との協議を進め国内措置の実施を加速させることにしている。

さらに2013年連邦環境省は、化粧品や日用品に含まれるマイクロプラスチックの利用ゼロを目指し、マイクロプラスチックの利用を段階的に廃止するための対話を立ち上げた。この結果、化粧品業界との間で自主規制の実施で合意している。2017年には、歯磨き粉やシャワージェルなどの製品に使われるマイクロプラスチックの利用量を97%減少させる措置を導入した。欧州委員会にも働きかけ、2019年3月にはマイクロプラスチックを完全禁止する欧州化学品庁の草案策定につなげた。2020年中に欧州委員会に最終意見書を提出し、2022年中にこの草案の採択を目指している。

リサイクルを加速させる容器包装廃棄物規制

1991年に定められた旧容器包装廃棄物令では、一般家庭から出る容器包装廃棄物の処理責任を生産者や小売業者にあるとする生産者責任が明記された。2019年1月には、さらなる容器包装廃棄物の削減とリサイクル率の大幅な向上を目的に、新たな容器包装廃棄物法PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(157.21KB)が施行された(2018年12月20日付ビジネス短信参照)。2022年までに、プラスチックのリサイクル率を36%から63%に、金属、ガラス、紙は90%にする目標値が設定された。実効性を高めるため、生産者(容器包装を利用する製造業者)は、リサイクル可能な包装材を利用することで、生産者に課される廃棄物回収のライセンス料が低減される仕組みを導入した。また食品小売業者は、飲料の容器が「リサイクル可能」か「使い捨て」のいずれかを明示することが義務付けられた。さらに、包装材を利用するすべての企業に対し、中央梱包登録局の包装登録データベースへの登録を義務化することで監督を強化。「ただ乗り」を排除し、公正な競争環境を確保している。

スタートアップとともに包装の持続可能性を追求するアルディ

消費者に最も近い小売業も、循環型経済の実現に向け積極的に取り組んでいる。ディスカウントスーパーマーケットの大手チェーン、アルディは2018年8月、(1)自社ブランド製品の包装材の使用量を2025年までに2015年比で30%減らす、(2)2022年までに自社ブランド製品をすべてリサイクル可能な包装にする、と発表した。2013年から2018年までの5年間に、同社は自社ブランドの製品について包装材の使用量を約10%削減している。野菜と果物の輸送時に利用する箱を再利用が可能なものに切り替え、2017年には1億2,000万個の段ボール箱を削減することに成功、2019年には包装材の使用量を2015年比で4万トン削減したという。

また、自社製品のプライベートブランドの包装材を100%リサイクル可能にする目標を実現するため、新たな包装材を開発するための技術などを持つスタートアップ企業にも注目。こうしたスタートアップを発掘・育成するために、アクセラレーター(注2)と提携している。2019年12月に実施されたアクセラレーションプログラムには、ドイツ、オートリア、ブルガリアや英国から約80社が応募した。過去に実施したアクセラレーションプログラムを通じて、100%生分解性のストロー(リンゴジュースの生産過程で排出される繊維を活用し、食用も可能)を開発するスタートアップなどに資金提供している。

日用品大手ディーエムはプライベートブランド容器のプラスチック利用を削減

ドラッグストアの大手チェーン、ディーエム(dm)は、長年、プライベートブランドの包装でプラスチック利用を削減する試みを行っている。例えば、2009年から、リサイクル比率が高い紙製包装の製品に独自のクローバーマークを付している。2014年からは、プライベートブランドの化粧品やトイレタリー製品にマイクロプラスチックを利用せず、オンライン販売の画面上ではマイクロプラスチックを成分として含まないことを証する独自マークを各製品に表示している 。またメーカーとも協力し、商品棚の価格表示に包装容器のリサイクル率が高い旨を示すラベルを付け、消費者が持続可能な社会の実現に貢献できる商品を選択できるようにした。

同社は、循環型経済に対する消費者の意識を高め、リサイクル比率の向上、プラスチック容器の削減、製品と容器にリサイクル可能な原料の利用促進を目的とする「リサイクルフォーラム」を2018年に立ち上げた。このフォーラムには、同業のロスマンや、プロクター・アンド・ギャンブルなどの日用品メーカー、包装製造企業、廃棄物管理会社、連邦政府や州政府など、32企業・団体が参加。すべてのバリューチェーンのプレイヤーとともに、情報提供や消費者への意識向上の取り組みを進めている。


左側の価格表示ラベルには「リサイクル率の高い包装容器を使用した商品」と
記されたタグがついている(ジェトロ撮影)

電池回収やネット販売の返品に対応するドイツ発リバースロジスティクスグループ

循環型経済の実現を商業展開させ、欧州をはじめ世界で存在感を強めるドイツ企業もある。環境コンプライアンスソリューションを提供するリバースロジスティクスグループは、製品の回収、選別、評価、市場への再投入を組み合わせた仕組みを提供する。例えば、小売流通業者の売れ残り品回収、ネット販売事業者の返品管理、欠陥商品の回収と再生・再販売、製品廃棄の最終処理、製品の返品対応、2次資源の回収などを手掛けている。各種電池の回収と再生を行う「CCR REBAT」と呼ばれるサービスでは、家庭用電池の廃棄場所となる小売店からの回収場所を拡張することで、2017年には回収した使用済みバッテリーのうち99.7%がマテリアルリサイクルに利用されたという。

ドイツは循環型経済への移行をより強力に推進していくため、法律や規制の改正をたゆまなく行い、生産者責任の拡大をしながら、また、消費者への啓発活動を通じて、資源のリサイクルの仕組みを改善し続けている。今後もドイツは、環境政策に取り組んできた足元を基盤に、世界の循環型経済への移行に向け主導的な役割を果たすことを目指すだろう。


注1:
マイクロプラスチックとは、マイクロビーズとよばれる微細なプラスチック粒子。下水処理を通り抜けて海に流出することで、生態系の食物連鎖に影響を及ぼす。
注2:
創業初期の事業立ち上げを加速・支援する組織。
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
中村 容子(なかむら ようこ)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て現職。