特集:欧州が歩む循環型経済への道製品ライフサイクル全体で循環型経済を推進(EU)

2020年6月4日

若者を中心に、気候変動に対する市民の関心が大きく高まる中、欧州委員会の次期委員長に指名されたウルズラ・フォン・デア・ライエン候補(当時、現委員長)は2019年7月に、2050年の「気候中立(温室効果ガス(GHG)排出実質ゼロ)」を掲げる新成長戦略「欧州グリーンディール」(注1)を目玉とする政策アジェンダを提案、その後、同年12月に委員長に就任した。全GHG排出の約半分が資源採取と加工に由来し、気候中立目標の達成には完全な循環型経済への移行が欠かせないため、欧州委は「新循環型経済行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.12MB)」(2020年3月11日発表)を「欧州グリーンディールの中核」と位置付けている。また欧州委は、3月10日に発表した「新欧州産業戦略」においても、「単一市場の深化とデジタル化」「公平なグローバル競争環境」「気候中立に向けた企業支援」「イノベーション支援」「技能習得」「(デジタル・グリーンへの)移行への投資と資金提供」と並んで、「より循環型の経済構築」を「欧州の産業変革の基礎」に位置付け、「新循環型経済行動計画」の施策を組み込んでいる。

EUは、2015年に最初の循環型経済行動計画を発表し、自治体廃棄物や包装廃棄物のリサイクル率の目標を設定、また、2018年には「欧州プラスチック戦略」を発表し、廃棄削減、回収・リサイクル促進、海洋投棄抑止など強化策を打ち出していた。2020年3月に発表された新循環型経済行動計画では、これまでの施策を踏まえつつ、消費フットプリント(消費行動による環境への影響)の低減と今後10年でのEUにおける循環型材料の利用倍増を、経済成長の促進とともに両立させることを目標に、製品の設計・製造から消費、修理、再利用、リサイクルに至るライフサイクルを構築し、資源を経済活動のサイクルの中でできる限り有効活用することを目指す立法措置に加え、非立法措置が盛り込まれた。欧州委は、野心的な循環型経済の施策により域内GDPが2030年までに0.5%押し上げられ、新規雇用が70万人分創出されると見込むが、行動計画の目的達成には市場関係者の協力が必要だとしている。

新循環型経済行動計画は次の3点を柱と位置付けている。

  1. 持続可能な製品政策枠組み(規範としての持続可能な製品、消費者のエンパワーメント)
  2. 循環型モデルへの移行のポテンシャルが高い産業分野における施策
  3. 廃棄物の削減

消費者の環境に対する関心の高まりを受けて、産業界も積極的に対応を進める姿勢を見せているが、実効性と現実性の高い施策の選択や、域外の企業に対する競争力の維持について戸惑う声も聞かれる。以下、それぞれの分野における政策を概観する(各政策の発表時期については、新循環型経済行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.12MB)の付属書を参照)。

持続可能な製品政策枠組み

新循環型経済行動計画は、多くの製品の寿命が短く、再利用・修理・リサイクルできない、または使い捨てであり、こうした資源採取から製造、使用、廃棄への「直線的」なモデルが持続可能な製品生産の妨げとなっていると指摘。こうした状況を改めるため、欧州委はグリーンな製品を規範に位置付ける「持続可能な製品政策枠組み」(Sustainable Product Policy Framework)を提唱した。同政策枠組みでは、持続可能な製品の製造に対してインセンティブを提供することを目的に、A)製品設計、B)消費者などのエンパワーメント、C)製造プロセスの循環性(circularity)の3分野の取り組みが、以下の通りまとめられた。

  1. 製品設計に関する施策
    欧州委は、エコデザイン指令(注2)を持続可能な製品の促進のための主要施策とし、製造業における循環性を高めるために、同指令の適用対象を現行のエネルギー関連製品以外にも拡大する法案を提示する意向だ。製品の耐久性や再利用・更新・修理の可能性の改善、製品中の有害化学物質対策、リサイクル材の含有率向上、使い捨て・早期の陳腐化規制、売れ残った耐久消費財の廃棄の禁止などについてもこの法案の一部とし、または、別途、補足的な法案を検討する。さらに、欧州委は「欧州循環型データ空間」(European Circular Dataspace)を構築し、「デジタル製品パスポート(digital product passports)」による製品情報のデジタル化など、情報通信技術を活用した取り組みも行う。
  2. 消費者などのエンパワーメント
    欧州委は、消費者と公共調達を念頭においた施策を発表。まず、製品の修理可能性の改善に向けて2021年までにEUの消費者保護政策や製品政策に「修理する権利」を組み込むことを提案。また、製品の販売時点で、製品の寿命や修理の可否、部品の有無など環境性能などについて信頼性の高い情報を消費者に提供すること、環境フットプリント評価によって企業の環境訴求を実証すること、ラベルやロゴ、情報提供によってグリーンウォッシング(実体を伴わない環境訴求)や早期的な陳腐化などを抑制するより厳格なルールの導入を提案する。さらに、グリーン公共調達の促進に受けて、必須の最低環境基準と目標の導入を提案する。
  3. 製造プロセスの循環性
    欧州委は、製造プロセスにおける循環性向上は省資源化につながるとし、産業排出指令(産業施設からの汚染物質排出削減を定める)の利用可能な最善の技術(Best Available Techniques)への循環型経済の実践の統合を提案。また、産業界主導の報告・認証制度の策定による産業の共生促進、持続可能な循環型の生物由来産業部門の支援などを打ち出した。

循環型モデルへの移行の可能性が高い資源集約型産業に対する施策

前述の「持続可能な製品政策枠組み」の一部として、特に循環型経済への移行のカギとなる分野を対象に、欧州委は利害関係者と緊密に協力し、循環型製品の市場拡大の障害を特定し、障害への対処方法を追求するとし、特に産業ごとに取るべき施策を定めた(表参照)。

表:循環型モデルへの移行への可能性が高い資源集約型産業における産業別施策
産業 施策
電子機器・情報通信機器 欧州委は、再利用と修理の促進、早期の陳腐化防止による製品の長寿命化を目的に、既存・新規の政策手段を活用した「循環型電子機器イニシアチブ」(Circular Electronics Initiative)を提案する。エコデザイン指令の枠組みの下で携帯電話やタブレット端末、ラップトップ・コンピューターに関する新たな規制措置を導入すること、電子機器・情報通信機器を「修理する権利」行使の優先分野とすること、携帯電話などの充電器共通化などの規制を導入すること、が盛り込まれた。さらに、使用済みの携帯電話やタブレット、充電器の回収制度も検討する。
バッテリーと自動車 新循環型経済行動計画は、持続可能なバッテリーと自動車を未来のモビリティの礎と位置付けた。バッテリーについては、回収・リサイクル向上による資源再生のための施策、代替品による置き換え可能な使い捨てバッテリーの段階的な排除、持続可能性及び透明性要件の導入、消費者への情報提供を含む規制枠組みを提案する。自動車については、廃車に関するルールを改正し、リサイクルの効率性を改善するとともに、廃油の持続可能な処理を提案する予定。
包装 欧州委は、2030年までに経済的に無理なくEU市場に上市されるすべての包装が経済的に妥当な方法で再利用・リサイクル可能になることを目標に設定。数値目標の設定などによる(過剰)包装と包装廃棄物の抑制、特定用途での一部梱包材料の使用制限などによる再利用・リサイクル促進、使用可能な素材の制限などを検討する。また、ポリエチレンテレフタレート(PET)以外のプラスチックの食品包装材へのリサイクルに関する安全性ルールも策定する意向。
プラスチック 2018年に策定された欧州プラスチック戦略に基づき、欧州委はリサイクル・プラスチックの使用拡大に向けて、包装や建設資材、自動車などの分野で、リサイクル材の含有量に関する必須要件を提案する。また、欧州委は、マイクロプラスチックと生物由来・生分解性プラスチックの供給と利用にも取り組む意向だ。特に、マイクロプラスチックに関しては、意図的な添加の制限や、測定方法の開発と統一、ラベリング・認証・規制措置を通じたマイクロプラスチックの偶発的な放出対策、排水中のマイクロプラスチックの回収の強化策を検討する。
繊維 欧州委は、新循環型経済行動計画において、再利用やファスト・ファッションの課題への取り組みや、新たなビジネスモデルの実行など、繊維製品の再利用を含む持続可能な循環型繊維市場の促進に向けた、産業競争力とイノベーションの強化を目的とする新たな包括的な政策枠組み「EU繊維戦略」を策定する意向を示した。この戦略には、繊維製品のエコデザイン要件の策定、持続可能な繊維を選択し易くすること、再利用・修理サービスへのアクセス改善に加えて、新たな「サービスとしての製品」(product-as-service)や循環型素材・生産プロセスの支援、2025年までに加盟国が実現すべき繊維製品の高水準の分別回収に関するガイダンス作成が盛り込まれる予定。
建設と建物 欧州委は、建物のライフサイクル全体で循環性を促進するため、新たな包括的「持続可能な建築環境戦略」(Strategy for a Sustainable Built Environment)を策定する。同戦略の枠組みにおいて、建築資材の持続可能性向上(一部の建築資材に対するリサイクル材の含有量に関する要件について、建築資材規則の改正で検討する、など)、建物の耐久性と改修性の改善策、建物のデジタル記録(digital logbooks)などを提案する見通し。
食品 環境に優しい食の安全に関する「ファーム・トゥ・フォーク(農場から食卓まで)戦略(Farm-to-Fork Strategy)」で、食品廃棄物の削減目標を提案する予定。また、食品サービス部門で、使い捨て食品包装・食器について再利用可能な製品に転換することを実現するため、立法提案に向けた準備作業を行う。その他、農業分野での水の再利用や、栄養素管理計画の構築に向けた取組を行う。

出所:欧州委「新循環型経済行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.12MB)」を基にジェトロ作成

廃棄物の削減

新循環型経済行動計画は、廃棄物の発生を抑制すること、また、発生した廃棄物を高品質な原材料に加工することの重要性をうたっている。欧州委は、前述した電子機器やバッテリー、自動車、包装などの製品に関する規制による廃棄物発生の抑制に加えて、廃棄物枠組み指令2008/98の見直しに合わせて、特定の廃棄に関する削減目標を提案する意向だ。また、拡大生産者責任に関する措置を加盟国が導入する際の、同指令に定められた要件の実施を強化し、廃棄物リサイクルに関する情報とグッド・プラクティスの共有を促進する。さらに、分別収集の改善によるリサイクル促進のため、域内の統一的な分別モデルを検討する。最終的に、2030年までに(リサイクルでない)残存都市ごみの量を半減させることを目標とする。

一方、廃棄物からリサイクルされた2次原材料の安全性改善に向けて、欧州委は、有害な化学物質の存在を最小限に抑えるための方法論の構築や、産業界との協力による追跡・情報管理のための統一システムの段階的な構築に取り組む意向だ。また、2次原材料の使用促進に向けて、「廃棄物の終了」基準(end-of-waste criteria、廃棄物から資源に再生されたことを示す基準)の検討や、標準化の活用も視野に入れている。欧州委はこのほか、廃棄物の輸送ルールを見直し、EU域内でのリサイクルと再利用を促進するとともに、第三国において環境と健康への悪影響が指摘されていた廃棄物の輸出の制限を目指す。

新循環型経済行動計画の実施・促進体制

欧州委は、新循環型経済行動計画の実施に当たり、2015年の循環型経済行動計画の指標によるモニタリングの枠組みを、循環性と気候中立、汚染ゼロ目標の相互のつながりを考慮して2021年に更新する。また、消費や材料フットプリントなど、資源の利用に関する指標を策定し、経済成長と資源消費の切り離しの進捗を評価する。

一方、循環型経済への移行に向けたイノベーションへの資金提供については、民間投資を補完するEU資金として、欧州地域開発基金や、LIFEプログラム(環境・気候行動への財政支援プログラム)、研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」などに言及。また、地域レベルでの循環型経済への移行に向けた取り組みの支援について、結束基金や、「欧州グリーンディール」の枠組みで提案された「公正な移行メカニズム」(注3)、中期投資戦略「インベストEU」(注4)にも言及。このほか、職業研修など、人材育成・雇用創出を目的とする資金プログラムなど、既存の資金提供の枠組みへの移行を支援する。

さらに、欧州委は、循環型経済の目標を持続可能な投資対象に関する「EUタクソノミー規則」(持続可能な経済活動の類型)(注5)に統合するなど、持続可能な生産・消費への資金提供の促進を目的とするイニシアチブを行っている。また、企業の非財務情報開示の枠組みにおける環境データ開示の改善や、企業戦略への持続可能基準統合の促進に取り組む意向だ。

加盟国に対する施策としては、経済・財政政策の協調枠組みである「ヨーロピアン・セメスター」(注6)や環境・エネルギー分野における国家援助ガイドラインへの循環型経済関連の目標の反映も検討されている。

新循環型行動計画では、世界的に公正で気候中立、資源効率的で循環型の経済への移行が進むことが、EUの循環型経済に向けた取り組みの成功の条件だとしている。欧州委は、EUの自由貿易協定(FTA)や2国間・地域間・多国間政治対話、環境に関する国際・多国間合意において、循環型経済を提唱するほか、アフリカなど、他地域と環境政策や循環型経済に関する協力を強化する意向だ。

このほかに、欧州プラスチック戦略の構築を通じて、プラスチックに関する世界レベルでの合意の実現を主導、EUの循環型経済におけるアプローチの域外での採用を推進。また、「グローバル循環型経済同盟(Global Circular Economy Alliance)」を創設し、「安全活動圏(Safe Operating Space、地球を正常な状態に保ちつつ天然資源を利用できる境界値)」の検討と、天然資源の管理に関する国際合意に向けた議論を提案している。


注1:
欧州グリーンディールについては、ジェトロ調査レポート「欧州グリーン・ディールの概要と循環型プラスチック戦略にかかわるEU および加盟国のルール形成と企業の取り組み動向PDFファイル(3.08MB) 」も参照のこと。
注2:
エコデザイン指令については、ジェトロ国・地域別情報「EU輸入管理その他 CEマーク 詳細PDFファイル(455.32KB) 」を参照。
注3:
「公正な移行メカニズム」に関しては2020年1月21日付ビジネス短信参照
注4:
「インベストEU」に関しては2018年6月14日付ビジネス短信参照
注5:
「タクソノミー」に関しては2019年12月19日付ビジネス短信参照
注6:
EU による加盟国の財政政策の監視制度。欧州債務危機を受け、加盟国間の財政政策の調和が必要になって 2010年から導入されたメカニズムであり、EU主導で半年ごとに行われる各国の財政経済政策の協調プロセス。各加盟国の優先的投資分野や課題の特定に寄与するため、同制度を持続可能な投資に適用していくことで、投資を確実に持続可能な事業に向けるよう、かじ取りをすることができる。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
村岡 有(むらおか ゆう)
2013年、ジェトロ入構。同年より現職。

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