特集:欧州が歩む循環型経済への道政府は新たな規制を導入、小売・園芸業界でも進む脱プラスチックの動き(英国)

2020年6月4日

2017年末の中国によるプラスチックごみの輸入禁止、プラスチックごみが引き起こす海洋汚染を背景に、英国でもプラスチックごみの排出を抑制しようとする動きが高まっている。本レポートでは、英国でのプラスチック規制動向、消費者向けに小売りおよび園芸業界が進める取り組みについて紹介する。

25カ年計画で脱プラスチック廃棄物を宣言

中国政府が2017年末以降、プラスチック廃棄物の輸入を禁止し、他のアジア諸国も追随したことをきっかけに、英国の廃プラスチックはその行き場を失った。これと前後して、不法に海洋投棄されたプラスチックが海洋を汚染する状況が動植物学者デービッド・アッテンボロー氏によるBBCの環境番組などで放映され、メディア各紙も連日大きく取り上げるようになった。これらから、国民のプラスチックに対する関心が急速に高まり、市民の意識が急速に変化しつつある。

2018年1月、テレーザ・メイ首相(当時)は英国の「25カ年環境計画」と名付けた長期の行動計画を発表。2050年までに全ての不要な「避けられる(avoidable)(注1)廃棄物」について、2042年までに「避けられるプラスチック」について、使用を一掃すると宣言した。現状では、イングランドだけで毎年、ストロー(ファストフード向け)46億本、マドラー2億2,000万本、綿棒18億本が販売されているとの統計もある。

環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が2019年10月28日に発表した規制案は次の通り。

  1. 2020年4月6日から、使い捨てプラスチック製ストロー、プラスチック製マドラー、プラスチック軸綿棒を禁止する。
  2. 2021年7月3日から、使い捨てプラスチック製ストローを付けた飲料を禁止する。ただし、レストランなどで消費者から要望があった場合に提供するストロー、医療目的で使用するストロー、綿棒、科学目的で使用する綿棒は例外とされた。

また、スコットランドでは、プラスチック芯の綿棒を禁止する法律が2019年10月12日に施行されている。ウェールズでもイングランドと同様、使い捨てプラスチックの使用禁止に向けて手続きが進められている。

このほか、イングランド、スコットランドでは2018年6月19日から、ウェールズでは同年6月30日、北アイルランドでは2019年3月11日から、洗顔用化粧品などへのマイクロビーズの使用が禁止されている。

2015年から実施したレジ袋有料化で使用量83%削減に成功

既に実施されている規制としては、従業員数250人以上の大手スーパーマーケットでの買い物用プラスチック袋有料化がある(2015年10月5日から施行)。その結果、スーパーマーケット大手7社の2016年4月7日から2017年4月6日までの買い物用プラスチック袋の量は、2014年比で83%減となった。有料化は70ミクロン以下の厚みのプラスチック袋1枚につき最低0.05ポンド(約6.5円、1ポンド=約130円)の徴収を義務付けるものだった。施行開始にあたり、スーパー各社はそれまで無料で配布していた袋より厚みがあって大きい袋を用意。有料で購入した客が繰り返し使えるようにした。


無料レジ袋(左)、有料レジ袋(右)(ジェトロ撮影)

写真は、ロンドンのスーパーマーケットのレジ袋。左が無料だった当時、右が有料化された後のプラスチック袋だ。有料の袋には「何度も使ってください。破れたら無料で交換します」と書かれている。

このような取り組みが消費者の理解を得た結果、レジ袋の著減につながったといえる。こうした成果を踏まえ、DEFRAは2018年12月から、レジ袋に関する規制を強化(有料化の範囲を全小売業者に拡大、代金を1枚0.05ポンドから0.10ポンドに引き上げ)するかどうかを問う意見募集を実施した。その結果は、2020年3月末時点でまだ発表されていない。

ペットボトルなど飲料容器のデポジット制(購入時に容器代を支払い、店頭などに容器を返却すると返金される制度)を導入する案も出ている。こちらは2019年2月18日から意見募集を開始し、同年7月23日に発表された結果では、デポジット制は大きな支持を得た。2020年に2度目の意見募集を行い、2023年ごろから制度が導入される可能性が高い。

また、政府は、リサイクル素材の利用拡大推進のため、2022年4月以降、英国で製造または英国に輸入されたプラスチック製品について、使用されているリサイクル素材の割合が3割未満の場合に課税する案を2018年予算案で発表している。

この課税案に対する意見募集は、2019年2月から実施され、多くの意見が寄せられた。2020年3月に発表された2020年予算案の中でも、この意見募集を踏まえた案が発表されており、これについても2020年3月11日から2020年5月20日まで再度意見募集が行われている。

小売業界で急速に進む脱プラスチックの動き

環境意識が高まる中、小売り大手による脱プラスチックの試みが注目を集めている。

高級スーパーマーケットのウェイトローズは、脱プラスチックに早くから取り組んできた。同社は、2016年に化粧用のプラスチック軸綿棒の扱いを中止したほか、2018年には使い捨てストローの取り扱いも中止した。また、生鮮食品に関しては、黒色プラスチック容器(注2)の利用を中止している。同社は、リサイクル困難な3大品目が黒色プラスチック、ポリスチレン、樹脂加工済み板紙と指摘、2019年末までに黒色プラスチックを、2023年までにポリスチレンと樹脂加工済み板紙を使った容器の取り扱いをやめるとした。2019年7月には、総菜用容器をリサイクル素材のカラフルな容器にしていくと発表している。

同じく高級スーパーマーケットのマークス&スペンサーも、2020年1月にプラスチック計画を発表。この中で、(1)プラスチックの使用量を年々減らす、(2)黒色プラスチック容器を減らす、(3)2022年までに販売品目のすべてのプラスチック容器がリサイクル可能となるようにする、とした。同社は2018年8月末、プラスチックの使用量を減らすため、年間7,500万本に上るプラスチック製スプーン、ナイフ、フォークを木製に変更する取り組みを開始した。

こうした高級スーパーマーケットの動きは、他の大手スーパーにとっても無視できないものとなっている。大手スーパー、セインズベリーズは2019年9月、2025年までにプラスチック使用量を半減させる目標を発表した。その手始めとして、ばら売り生鮮野菜・果物用のプラスチック袋の配布を中止。有料(1枚0.30ポンド)の布袋を販売することにした。


セインズベリーズの有料布袋(ジェトロ撮影)

業界最大手テスコも2019年11月1日、脱プラスチックに向けた4R方針(排除Remove, 削減Reduce, 再利用Reuse, リサイクルRecycle) を発表、同社が8月に同社に納入する1,500社のサプライヤーに対して4R方針順守が調達基準となったことを伝えたことを明らかにした。セインズベリーズ、テスコのほか、2019年秋には、大手のアズダ、モリソンズ、アルディ、リドルなどの大手が軒並み、黒色プラスチック容器の利用中止を表明している。

園芸業界が進める脱黒色育苗ポットの動き

大手スーパー各社が黒色プラスチック容器の利用中止を宣言した理由は、顔料として黒カーボンが含まれているため、レーザーを使う分別回収機で認識されないからだ。その黒色プラスチック容器への依存度が高いのが園芸業界だ。ガーデニングが国民的な趣味となっている英国では、黒色プラスチックの植木鉢が年間50億個も市場に出回っている。黒色プラスチック鉢は、軽く、価格が安く、病害に強く、黒い色が太陽光を吸収することから根の成長が良いという理由で、園芸農家にとっては不可欠な存在である。環境面を考慮した生分解するプラスチックの鉢、ヤシや竹といった天然繊維素材の植木鉢も開発され、販売されている。しかし、価格が黒色プラスチックに比べてかなり高額なこと、植物の長い生育期間中に分解して熱を発し、根を痛めてしまうといった問題点が解決されておらず、普及には至っていない。

毎年、50億個もの黒色プラスチック鉢の大半がリサイクルされず、埋め立てや海洋投棄に回ってしまう現状への危機感から、英国園芸産業組合(HTA)、RECOUPとプラスチック企業が共同で代替となるポットを開発し、広報活動を実施している。2018年10月に発表された新しいポットは、黒ではなくトープ色(Taup、茶色っぽい灰色)で、リサイクルされたポリプロピレンを多く含んでいる。新容器は、容器自体は従来のものと比べると25~30%ほど価格が高いものの、末端の消費者が買う場合、1つの植木鉢にすると1.5~5%の値上げに抑えられるという。園芸愛好者には環境保護に敏感な人が多いことから、新しいポットに切り替えたい、と多くの園芸流通業者が名乗りを上げている。HTAは、各自治体に対して、トープ色のポットの分別回収とリサイクルを進めるよう呼び掛けている。HTAでは「現時点では、これが最も現実的なプラスチック対策になる」と説明している。

ただし、分別しやすいとはいえ、トープ色のポットもまた、プラスチックであることには変わりない。HTAは「最終的な目標は、園芸業界の英国のサプライチェーンの中で、プラスチック鉢を生産、回収、再利用して再び販売するという循環が成り立つようにすることだ」と述べている。


注1:
「避けられる(avoidable)」とは、回避が技術的・環境的・経済的に実施可能と定義される。
注2:
英国のNGO廃棄物・資源行動プログラム(WRAP)によると、黒色プラスチック容器は、含有する顔料が原因でリサイクル用の分別回収機で認識できないとされている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所(執筆時)
岩井 晴美(いわい はるみ)
1984年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(1990年~1994年)、海外調査部 中東アフリカ課アドバイザー(2001年~2003年)、海外調査部 欧州ロシアCIS課アドバイザー(2003年~2015年)を経て、2015年よりジェトロ・ロンドン事務所勤務。著書は「スイスのイノベーション力の秘密」(共著)など。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
山田 恭之(やまだ よしゆき)
2018年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て2019年7月から現職。