特集:欧州が歩む循環型経済への道フランダースの循環型経済は調達、ビジネス、都市の3本柱で推進(ベルギー)

2020年6月22日

ベルギー連邦政府は2016年に、リサイクル事業者やリサイクルに役立つ技術を持つ企業と提携しながら循環型経済への移行を円滑に進めるための指針となるロードマップを設定した。一方で、ベルギーは連邦制をとり、環境・経済政策は地域政府に権限が委譲されている。このため、その具体的な取り組みは管轄する地域政府が策定・実施することになる。

フランダース(地域)政府(注1)は、2018年12月に発表した同地域の長期戦略「ビジョン2050外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の中で、循環型経済への移行を優先課題の1つに挙げた。ワロン地域政府は、資源効率の向上を目的として、2008年から自治体向けに分別収集を徹底するための補助金を支給している。ブリュッセル首都圏地域政府は2016年3月、2025年までに循環型経済に移行することを目指し、ブリュッセルを拠点とする企業を対象に、コーチングや、トレーニング、資金援助、などの行動計画を策定した。本稿では、これらの中でも、特にフランダース政府の政策を取り上げる。同政府の取り組みは、欧州委員会が2019年4月に発表した「欧州における循環型経済に向けた戦略とロードマップ 2019PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.21MB)」の中で「最も包括的な戦略」と評価されているからだ。

フランダース政府は2017年2月、ビジョン2050に先立って循環型経済への移行に向けた政策に関するコンセプトペーパーを発表していた。この中で、「循環型調達」「循環型ビジネス」「循環型都市」が3つの柱であることが示されている。そして、2017~2019年の第1次活動期間の取り組みをまとめた報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が発表された。

調達政策に焦点を当てた「循環型調達」

「循環型調達」の狙いは、企業や団体の調達政策を通して循環型製品・サービスの普及を後押しするところにある。再利用可能な素材や生物由来・生分解性の素材を利用した製品を購入こと、製品や資源を蓄えるまたは他の団体と共有すること、製品自体ではなく製品を利用する権利を購入すること、などを企業・団体に促す取り組みだ。

この取り組みの第1次活動期間(2017~2019年)中、150以上の企業・団体が参加し、115件の事例が報告された。参加企業には、イケア(本社:スウェーデン)、化学メーカーのBASF(ドイツ)、富士フイルム(日本)などの外資系企業や、製品・サービスを供給する側の生産者とサプライヤーを含む。このうち、最も「循環型調達」が活用された調達分野はテキスタイルと家具で、建設、インフラ、情報通信技術(ICT)が続いた(表1参照)。

表1:フランダース地域において「循環型調達」が活用された分野
(2017年7月~2019年6月)
分野 件数
テキスタイル 16
家具 16
建設 15
インフラ 11
ICT 11
食品 9
梱包 7
照明 7
オフィス関連 6
廃棄物処理 6
清掃サービス 5
モビリティ 5
台所関連 1

出所:フランダース政府による2017~2019年の第1次活動期間の取り組みをまとめた報告書

これらの取り組みと、企業や団体の調達にかかわる関係者の対話を通じて、フランダース政府は、特に「建設」「ICT」「オフィス」「テキスタイル」などの分野別に調達を行う場合に重要となる原則や、A~Eの5つのカテゴリーで構成される循環型調達の評価指標PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1,004.86KB)(表2参照)を作成した。同政府はまた、循環型経済や調達に関する基礎的資料や、報告書やイベント情報などを提供している。

表2:フランダース地域における循環型調達の評価指標
項目 A原材料の削減 B持続可能な原材料を除く材料の使用量削減 C製品寿命の延長 D製品・部品の再利用の潜在性 E原料の再利用に関する可能性
評価指標 A1:内部で共有する
A2:レンタルもしくは関係者内で共有する
A3:再使用、改修、アップグレードする
A4:デザインで原材料の使用を最小化する
A5:廃棄物を削減する


B1:製品中のリサイクル材料、植物由来材料、原材料の使用割合を把握する
B2:製品中のリサイクルされた内容物の割合を増やす
B3:製品中の植物由来の内容物の割合を増やす
C1:保証期間の延長
C2:維持管理と修理に関する項目を契約書に含める
C3:アップグレード可能な製品
C4:長期使用可能なデザイン
C5:修理と維持管理ができること
C6:モジュールもしくは変更可能なデザイン
C7:製品寿命が長いほど利点が生じる利用る契約(利用料が分割されるため、初期投資を低く抑えられる、など)
C8:効率的な使用のためのサプライヤーガイダンス

D1:分解ができること
D2:モジュールデザイン
D3:スタンダードデザイン
D4:内部の構成と接続がわかること
D5:契約に回収と再使用に関する項目を含める
D6:循環型ビジネスモデルを促進する
E1:リサイクルのためのデザイン
E2:原材料の確認
E3:契約に回収とリサイクルに関する項目を含める
E4:毒性のある原料の使用禁止、または使用量の削減
E5:生分解性またはコンポスト化可能性
E6:循環型ビジネスモデルを促進する

出所:フランダース政府PDFファイル(1,004.86KB)

フランダース政府は、この地域レベルの取り組みをさらに拡大し、国際化することも狙う。そのため2018年には、循環型調達について北海地域の団体が参加(注2)する「北海地域プロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」とのパートナーシップを締結した。このプロジェクトは2018年12月から2022年6月までに約30件の国際的な実証実験を行うものだ。参加する地域の政府が循環型の公共調達を実施することで、循環型経済を後押しする。参加する地域での政府調達規模は年間で約1兆9,000億ユーロ(同地域の年間GDPの14%に相当する)と大規模なことから、原材料の高騰や廃棄物処理といった問題を解決するには北海地域全体で循環型調達へ転換することが効果的な方法としている。フランダース政府を含むパートナーらは、国境をまたいだ循環型調達のためのフレームワークや要件を策定する予定だ。

建設業に焦点を当てた「循環型ビジネス」

「循環型ビジネス」は、企業が循環型経済を進める上での環境を整えることを目的として、循環型経済に適したビジネスモデルの策定を行うコンセプトだ。

その一環として、循環型経済に向けた官民パートナーシップを構築するためのネットワークとして、「循環型フランダース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を設置した。同ネットワークは、循環型経済の移行を進める上での法律上の障害を特定するための研究をハッセルト大学へ委託している。このネットワークはまた、循環型ビジネスに関する情報集積の場として機能し、情報や潜在的パートナーを探す個人・イノベーター・企業・組織を支援する。

ビジネスモデル策定の具体例として、フランダース政府は「循環型建設」を提唱している。同地域の廃棄物の30~40%が建設業に由来するため、原材料の使用量に与える影響が大きい当産業にまず焦点を当てたという。2019~2023年の間に、他産業のモデルとなり、効率的で効果的な資源の使用を可能とする、資源が循環し、自立した持続可能な産業の構築を目指している。「循環型建設」の取り組みでは、この目標を実現するために(1)デザインや設計、解体システムを変更する、(2)財務的な利益に社会的な価値を加えるようビジネスモデルを変更する、(3)パートナーシップを通じ実地経験・データ・知識を共有する、という3点の実践を進めている。

「循環型建設」に「循環型調達」を取り入れることに賛同するサプライヤー・施工管理業者、建築家、コンサルティング会社、政府機関などの約320の企業・団体は、(1)建設計画の実施、実証試験用の敷地・建物の提供、実際の研究、循環型製品またはサービスの提供、循環型素材の開発、などの実証試験の一部を担うこと、(2)知識や経験を参加者と共有すること、などに取り組む必要がある。

フランダース政府は、循環型ビジネスの取り組みの一環として、会計士や弁護士、環境コーディネーターなどの特定の職業向けの訓練モデルやガイドライン、デザイナーや建築家、エンジニア、技師などの職業向けの学習プログラムを策定している。

都市を舞台に実証試験計画を策定する「循環型都市」

「循環型都市」は、都市を実証試験場と位置付け、その実証試験計画を策定するために必要な技術の特徴や利用可能な技術を特定する構想だ。実証試験計画は、都市空間や建物に使用されるレンガやアスファルトなどの資源や、エネルギー、水、ロジスティクス、食品残渣(ざんさ)の有効活用に資するためのものだ。具体的には、2050年までに化石燃料からバイオ燃料へ転換することを目的として、植物由来のバイオ燃料を自動車用の燃料や電力発電、熱供給に活用し、都市の中で循環させるための実証試験のためのコンセプトを策定。このコンセプトを実現可能とする技術や企業に関する情報を収集する。今後は、データやコネクティビティのようなスマートシティの機能を活用し、都市で消費されるエネルギーを最小化するためのコンセプトの策定と関連技術の情報収集も行われる。

政策面では、使われなくなった土地を有効利用するための取り組みを模索している。循環型都市に関する政策的な取り組みは、温室効果ガスの大幅な削減も見込まれるため、同地域の気候変動政策にも循環型経済の原則を組み込んでいく見込みだ。

さらに、2018年から2019年までの第1次活動期間に、住宅や職場、モビリティなどを主な対象として、循環して持続可能なモデルを示すワークショップが48カ所で開催された。このワークショップは、都市計画や住民、起業家の意識の中に循環型経済に対する理解を定着させる取り組みと言える。


注1:
フランダース地域では地域政府と言語共同体政府が一体化しているため、「地域政府」ではなく「政府」と訳した。
注2:
参加団体が所在する国・地域は、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スコットランド、スウェーデン、ベルギー。
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
大中 登紀子(おおなか ときこ)
2015年よりジェトロ・ブリュッセル事務所に勤務。