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特集:アジアで進展する貿易円滑化と現場の実態貿易円滑化の改善が図られつつあるも課題は山積(カンボジア)

2020年3月17日

カンボジアでは、貿易円滑化に関する課題が山積する。進出日系企業は、特にタイ、ベトナムとの越境物流や通関手続きの煩雑さ、法律の急な運用変更による問題点などを指摘する。通関にかかる手数料が削減され、国境の物流を改善する動きもある中、どのような貿易円滑化措置が求められているのか、進出日系企業へのヒアリング調査などを踏まえて分析する。

貿易円滑化措置、上位4項目は4割以上が必要と回答

ジェトロが2019年8~9月に行ったアジア・オセアニア進出日系企業調査によると、「貿易円滑化措置の必要性」について「あり」と回答した在カンボジア日系企業はASEANの中で最も高い85.1%だった。「貿易取引の改善に必要な貿易円滑化措置」の中で、最も割合が高かったのは「貿易制度や手続きに関する情報の充実」で、回答率は44.8%となった(図参照)。これに、「税関書類の簡素化、国際基準への統一化・フォーマット化」(41.8%)、「港湾や国境における物流の改善」(41.8%)、「電子化・ペーパレス化、洗練された情報通信技術(ICT)システムの導入」(40.3%)が続き、いずれも4割以上の企業が必要だと回答した。

図:貿易取引の改善に必要な貿易円滑化措置(上位10項目)
「貿易取引の改善に必要な貿易円滑化措置」の中で最も割合が高かったのは「貿易制度や手続きに関する情報の充実」で、回答率は44.8%となった

出所:ジェトロ「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

「貿易制度や手続きに関する情報の充実」は最も回答率が高かったものの、ASEAN平均との差は0.6ポイントと小さかった。カンボジア政府は制度や手続きをクメール語でしか発表していないことが多いため、進出日系企業にとって課題になっていると考えられるが、業界団体や各国の商工会議所から英訳が周知されている状況も反映されたとみられる。

タイ、ベトナムとの国境では渋滞が常態化

「港湾や国境における物流の改善」については回答率が2番目に高く、ASEAN平均を大幅に上回る結果となった。進出日系企業へのヒアリング調査からも、タイ、ベトナムとの国境での通関にかかる時間の短縮を求める声が多く聞かれる。タイとの国境であるポイペトや、ベトナムとの国境であるバベットはいずれも片側1車線で、ゲートも1カ所のため道路の渋滞が常態化している。タイ国境に到着してからカンボジア国境を通過するまで、最大で6時間かかったケースもある。また、国境は24時間対応ではないため、国境に到着する時間によっては翌朝まで待つ必要がある。

プノンペンの日系製造業A社は、原材料をタイの工場から輸入し、空となったコンテナに同工場で生産した加工品を積み、タイの工場に戻しているが、「タイの工場からタイ側の国境アランヤプラテートまで5時間、カンボジア側の国境ポイペトからプノンペンまで12~15時間かかる。国境での通関手続きにかかる時間が、全体の輸送時間に大きく影響する」という。通関での待ち時間も考慮すると、「現状、タイとカンボジアの工場の往復に最大3日かかる計算となるが、通関にかかる時間を短縮できれば、約半分の日数で往復できる。」とし、国境の物流改善の効果を訴える。

周辺国とカンボジアを結ぶ物流のリードタイムを短くし、輸送効率を上げるため、カンボジア日本人商工会議所(JBAC)はカンボジア政府に対して、通関の24時間対応や、登録資本金や貿易量、手続き実績などで一定の基準を満たしたベストトレーダー(注)が優先通関できるファストレーンを設置すること、ポイペトの南側に新たに建設中のストゥンボット国境を早期に開通すること、などを要望している。

求められるペーパレス化、データの互換性の向上

「税関書類の簡素化、国際基準への統一化・フォーマット化」が必要と回答した企業は、ASEAN平均を17ポイント上回る結果となった。「電子化・ペーパレス化、洗練されたICTシステムの導入」も同様に回答率が高く、これらの背景には共通した課題があるとみられる。「電子化・ペーパレス化、洗練されたICTシステムの導入」の中でも、「必要書類の原本の代わりとなる電子的な写し・コピーの受理」が必要とする回答が特に多くみられたためだ。ベストトレーダーに認定されると、通関書類の提出を写し・コピーで対応することが可能になるが、認定を受けている日系企業は3社で、ほとんどの進出日系企業が書面で手続きを行っている状況である。

また、カンボジアでは電子通関システムASYCUDAが導入されているが、各省庁や国境ポイントのシステムと接続していないため不便とする指摘が多い。例えば、カンボジアで適格投資プロジェクト(QIP)に認定された場合、関税の免税措置が受けられるが、免税措置を受けるためには、年次輸入計画書(マスターリスト)の提出が必要となる。しかし、マスターリストの情報はASYCUDAに接続していないため、一から手入力する必要がある。少量多品種の商品を扱う企業にとっては、特に入力の手間が大きくなる。

セミトレーラー付き車両の長さ規制の運用が厳格化

また、アンケートでは該当する項目がないが、進出日系企業へのヒアリングから、車両の長さ規制の運用が厳格化されたことによる課題が明らかになった。カンボジアには以前から、セミトレーラー付き車両の全長が16メートルを超えてはいけないとする規制があったが、運用されていなかった。ところが、2019年5~6月ごろから公共事業運輸省や警察による取り締まりが厳しくなった。16メートル規制に違反する車両は、実際にカンボジア国内で多く走っている。カンボジアでは、エンジン部分が突き出した米国仕様のトラクタヘッドが多く、それに40フィート・コンテナをつなぐと16メートルを超えるためだ。

現地の物流関係者によると、16メートル規制に違反しないトラクタヘッドが不足しているため、取り締まりの強化によりトレーラーの手配が2~3日遅れる傾向にあるという。これによる影響を受けている進出日系企業もあり、トレーラーの手配に時間がかかることを見込み、余裕を持って1カ月前倒ししたスケジュールで生産するなどの対応をしている事例もみられる。また、長さ規制の影響で、45フィート・コンテナが使いにくくなったことが輸送効率を下げる一因となっており、JBACは長さではなく重量で制限することを提案している。

世界銀行調査でも通関手続きやインフラに課題

世界銀行が2年ごとに実施する「物流パフォーマンス指標」(LPI)では、カンボジアの2018年のスコアは2.58で、160カ国・地域中98位だった(表参照)。「適時性(予定、期待された配送時間での配送)」「国際出荷の容易さ(競争的な価格での出荷)」は、カンボジアの中で高いスコアとなった。一方、「税関(通関手続きなどの効率性)」「インフラ(貿易、交通インフラの質)」などのスコアは低く、日系企業による貿易円滑化への改善要望と重なる。

表:「物流パフォーマンス指標」におけるカンボジアの項目別スコア
項目 スコア
適時性(予定、期待された配送時間での配送) 3.16
国際出荷の容易さ(競争的な価格での出荷) 2.79
トラッキング、追跡能力 2.52
物流サービスの質(輸送事業者) 2.41
税関(通関手続きなどの効率性) 2.37
インフラ(貿易、交通インフラの質) 2.14
総合 2.58
順位 98

出所:世界銀行「物流パフォーマンス指標」

「税関(通関手続きなどの効率性)」については、2019年にカムコントロールによる輸出入時の検査業務が撤廃され、通関コストが削減されたことに対して、日系企業からも評価する声が聞かれる(2019年2月6日付ビジネス短信参照)。一方、通関手続きのペーパレス化が進んでいないことや、通関時に領収書の発行されない手数料を要求されるケースがある、など課題は残っており、JBACはカンボジア政府への働き掛けを継続している。

「インフラ(貿易、交通インフラの質)」については、カンボジア国内にある2つの港湾で設備の拡充が進められている(2020年2月6日付ビジネス短信参照)。道路においても、プノンペンとシアヌークビルを結ぶ高速道路が建設されているほか(2020年1月8日付ビジネス短信参照)、タイ、ベトナムとの国境をつなぐ南部経済回廊でも道路の拡張やバイパス道路の建設、改修工事が行われており、これらを通じて、物流効率が改善されていくことが期待される。


注:
ベストトレーダー制度の概要はジェトロウェブサイト参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
山口 あづ希(やまぐち あづき)
2015年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産・食品課(2015~2018年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(2018~2019年)を経て現職

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