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特集:アジアで進展する貿易円滑化と現場の実態貿易円滑化に向けた課題多く、情報の充実に強い要望(インド)

2020年3月17日

「貿易取引にかかる十分な情報をオンラインで簡単に入手したい」。これが最も多くのインド進出日系企業が持つ期待だ。インドでは制度改正が頻発し、どこに情報があるかも分からず、悩みは膨らむばかりだ。HSコードや原産地証明書の解釈でも場当たり的な対応が少なくない。また、電子通関システムICEGATEの導入による通関のデジタル化の進展など目覚しい進歩も見られるが、一層の貿易円滑化には何が求められるのか、インド進出日系企業の声を基に分析する。

ASEAN諸国と類似する課題認識の傾向

ジェトロの「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」によると、「貿易取引を改善するために必要と思われる貿易円滑化措置」について、インド進出日系企業による回答割合が最も高かった項目は「貿易制度や手続きに関する情報の充実」で、50%弱が必要な措置として挙げた(図参照)。インドでは朝令暮改ともいえる制度改正が頻発しており、体系的な情報をオンラインで入手したいという企業の声を頻繁に耳にする。これに次いで回答割合が高かったのは「港湾当局や担当者間での関税分類評価などに関する解釈の統一」だ。税関の担当者の理解不足などで場当たり的な対応が散見される。自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)の譲許税率がこれによって適用されないような事態は改善されるべきポイントだ。3番目に高かった項目は「事前教示制度の導入と利用可能な運用」だ。インドにもHSコードなどの事前教示制度自体はあるものの、実際の運用は不確かな点が多く、企業の悩みの種となっている。4位以下の回答はどれも30%前後で並んだ。インドの貿易取引に関する課題が依然として多く残っていることを物語る数値といえよう。

図:貿易取引を改善するために必要な措置についての回答割合(複数回答)
「貿易取引を改善するために必要だと思われる貿易円滑化措置」について、インド進出日系企業による回答割合が最も高かった項目は、「貿易制度や手続きに関する情報の充実」の49.5%。これに「港湾当局や担当者間での関税分類評価などに関する解釈の統一」が46.2%で次いだ。3番目に回答割合が高かった項目が40.6%の「事前教示制度の導入と利用可能な運用」。 4位以下の回答は概ねどの回答も30%前後の得票率で並んだ。

注:上位10項目だけを抜粋。
出所:ジェトロ「2019年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」

頻繁な制度改正と、HSコードの不一致に悩みの声

前述のとおり、「貿易制度や手続きに関する情報の充実」は、最も多くのインド進出日系企業が貿易取引の円滑化に必要と考える措置だ。インドでは、新しい制度が突然導入されたり、複雑な制度改正が頻発したりするため、取引を円滑にするには迅速に多くの情報にアクセスして対応することが求められる。政府や関連機関のウェブサイトに掲載される情報は年々充実してきているが、時に制度変更に政府のウェブ更新が追いついていないこともある。政府が発表する通達を頼りに企業が独自に情報収集するには限界もあり、結果として法律事務所やコンサルなどの専門家の手を借りざるを得ないのが実態だ。ある日系メーカーは「専門家の質を判断するには、タイムリーにどれだけの通達を読み込んで内容を把握しているかが重要」と述べた。さらに、通達の中身についても触れて「最新の通達を読んでも意味が分からず、通達内で言及している過去の通達にさかのぼって初めてその内容が理解できた」としている。また、ある日系電機メーカーの幹部は「税関の担当者によって(新たな制度に関する)解釈が異なることがあって困る」と漏らした。制度変更の際には、事前に政府や関係機関内での迅速な情報共有の徹底と理解の促進が必要といえよう。

2番目に声が多かった「港湾当局や担当者間での関税分類評価などに関する解釈の統一」について、前述の電機メーカーは「税関職員の質の均一化が必要だと認識している。港湾や空港ごとに対応が異なることは問題」という。特に日系企業から指摘が多かった具体的な問題として、「関税分類(HSコード)の不一致」が挙げられる。この会社は「日本インドEPAを使って日本からインドに輸出をしようとしたところ、日本の税関で適用したHSコードと、インド側の税関が主張するHSコードが異なり、結果としてEPAの譲許関税を適用してもらえなかった」と指摘した。HSコードの不一致が頻発する背景について、「日本の税関にはHSコードを論理的に決定するマニュアルがあるが、インドの税関にはそれがなく、担当者の判断に左右されているのが実態」(自動車部品メーカー)と明かした。続けて、「過去に同じHSコードで通関していても、担当者が変わったら認識が変わるかもしれず、決して油断はできない」という。他方で、「本社が全世界的にHSコードの不一致がないように対策を講じた結果、最近はトラブルがなくなった」(電子機器メーカー)とする企業もあった。

貿易円滑化に必要な措置として「事前教示制度の導入と利用可能な運用」を挙げる声が3番目に多かった。インド税関にも事前教示制度があり、税関のウェブ経由でHSコードの分類や関税評価額、原産地の確定などについて事前に税関に問い合わせることができるようになっている。ただし、こうした事前教示制度を積極的に活用しているという声は、今回のインタビューでは企業からは聞くことができなかった。税関の回答に時間を要したり、運用上不透明な点があったりするなどの理由があるとみられる。

企業側にも求められる対策

ジェトロ調査では、「電子化・ペーパーレス化、洗練されたICTシステムの導入」に対する期待も多く聞かれた。インドは2017年、日本の輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)に相当するシステムとして、ICEGATE(Indian Customs Electronic Gateway)を導入している。前述の自動車部品メーカーは「ICEGATE導入以前は全ての手続きが紙ベースで煩雑だった。ICEGATE導入をきっかけに、近年は通関のデジタル化が進んでいる」と評価した。他方で、日系の物流会社は「ICEGATEで申告するまでのプロセスが複雑で、スムーズに行かないことがある」と漏らしている。

「税関書類の簡素化・国際基準への統一化・フォーマット化」も共通する課題といえる。日系の産業部材メーカーは「輸入に際して、親子間取引をしようとすると面倒になる」とこぼす。インドは移転価格の訴訟件数が世界一といわれており、インドの税関内には、当該取引価格が適正か否かを評価する組織としてSpecial Valuation Branch(SVB)が設置されており、日々の貿易取引に目を光らせている。日本の親会社から部材を購入する場合などは、SVBに対して親子間でも適切な価格で取引が行われていることを証明しなければならない。「輸入を始めた当初は書類が多くて手続きが面倒だった」(前述の部材メーカー)という。前述の電子機器メーカーは「全世界的に工場の利益率を一定にするような取り組みを通じて、移転価格対策を講じている」と回答した。

執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所 次長
西澤 知史(にしざわ ともふみ)
2004年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ山形、ジェトロ静岡などを経て、ジェトロ・ニューデリー事務所勤務、海外調査部アジア大洋州課勤務を経て、2019年12月から現職。

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