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特集:アジアで進展する貿易円滑化と現場の実態多くの課題抱えるインドネシアに大半の日系企業が改善を要望

2020年3月17日

インドネシアでは、約9割の進出日系企業が貿易円滑化に向けた措置の必要性を要望している。具体的には、貿易制度・手続きに関する情報の充実、当局間での関税分類評価などに関する解釈の統一が上位に挙がった。こうした背景としては、インドネシアの貿易赤字や現地産業の育成、政治的動向などに要因があるとの声が日系企業から聞かれた。2019年に大統領選挙が終わって同年後半にはジョコ・ウィドド政権の2期目が本格始動したことで、政治的なリーダーシップが貿易円滑化を促進することに期待が集まる。

約9割の企業が改善を希望

インドネシアの貿易円滑化を求める声はアジア大洋州の中でも特に大きい。ジェトロが2019年8~10月に実施したアジア・オセアニア進出日系企業実態調査(以下、実態調査と略す)で、インドネシアでは88.5%の企業が貿易円滑化措置の必要性ありと回答した。同国はASEAN域内では貿易円滑化に向けた改善が最も求められている。具体的な貿易円滑化上の課題は図1のとおりで、回答者の53.6%が「貿易制度や手続きに関する情報の充実」を挙げている。インドネシアでは、制度・手続きの詳細がインドネシア語記載だけだったり、重要な制度・手続きの変更が関係者への通達などにとどまって正式にウエブサイトなどで公開されなかったりすることもある。続いて、44.0%の企業が「港湾当局や担当者間での関税分類評価などに関する解釈の統一」を課題とした。例えば、HSコードの解釈が当局間で異なることで、インドネシアへの輸入に際し、当該品目の関税率が想定よりも高くなってしまうなどの問題を引き起こす。こうした要因も含んで、実態調査で日系企業に聞いた平均通関日数はインドネシアは日系企業に聞いた平均通関日数は、インドネシアは4.5日と、ASEANの中ではミャンマーの6.4日に次いで時間を要する結果となった。

図1:インドネシアにおける貿易円滑化上の課題
インドネシアにおける貿易円滑化上の課題を聞いたところ、回答者の53.6%が「貿易制度や手続きに関する情報の充実」を挙げた。以下、「当局・担当者間での関税分類評価などに関する解釈の統一」(44.0%)、「事前教示制度の導入と利用可能な運用」(43.4%)が挙がった。「特になし」との回答は11.5%にとどまった。

注1: 回答社数は461社。
注2:「特になし」以外は回答項目のうち上位回答率10項目を掲載。
出所:「2019年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」(ジェトロ)から作成

実態調査によると、在インドネシア日系企業の原材料・部品の現地調達率は45.9%で、中国の69.5%、タイの60.8%と比べると低い。地場企業の品質が日系企業の要求を満たすレベルにないことが、主な理由に挙げられる。その結果、日系企業は日本や他のASEAN諸国、中国などから原材料・部材を輸入する。また、インドネシア進出日系企業は輸出目的ではなく、内販を目的とする進出企業が多い。近年、貿易赤字が増えつつあるインドネシアでは一般的に、優遇措置もある加工輸出型企業と比較して、政府は完成品を国内に流通させる内販型企業向けの輸入手続きを厳しくする傾向がある。その結果、特に、内販向け企業は貿易円滑化の問題に直面することになる(注1)。

輸入に当たって、日系企業は関税率の撤廃・削減につながる自由貿易協定(FTA)を活用する。実態調査の結果、インドネシアの日系企業は輸入の際、ASEANとのFTA(ATIGA)を72.7%の企業が活用している。輸出でも、ATIGAの活用率は68.9%に及ぶ。インドネシアが締結する発効済みのFTAは、ATIGAや日本インドネシア経済連携協定(JIEPA)を含めて、WTO通報ベースでは世界的貿易特恵関税制度(GSTP)を含めて9協定ある。FTAの活用を進める日系企業が増える中、図1にある円滑化上の諸課題、具体的にはHSコードの解釈の不一致やそれを回避する方策としての事前教示制度の運用面での不備といったFTAをめぐる課題を日系企業は抱えている。

目立つ通関、FTAに関する課題

進出日系企業のヒアリング結果を通じて、さまざまな課題が聞かれた。ここでは大きく、(1)通関、(2)FTA、(3)その他に分けて紹介する(注2)。

表:インドネシアにおける貿易円滑化上の課題
トピック 各トピックに対応した進出日系企業の具体的課題
通関
  • HSコードの不一致が事後調査で指摘され、追徴課税が発生することがある。
  • HSコードを事前に確定できる事前教示制度において、回答が文章でもらえないことがある。
  • 認定事業者(AEO)制度はあるものの、他国との相互認証が進んでいない。
FTA
  • FTA活用のために電子申請制度が整備されているものの、原本が必要になる局面があり、電子申請のメリットが享受できない。
  • 特恵税率を享受できるはずの品目が特恵対象外の品目に分類されたり、当局によるHSコードの判定が同一品目に関わらず、企業間で違いが生じることがある。
  • 特恵税率享受のための原産地証明書は貨物がインドネシアに到着してから3日以内にそろわないと、特恵税率での通関が認められない。また、船積書類と原産地証明書の完全一致が求められる。
その他
  • 保税地域に進出する企業は、税関のシステムに在庫管理と会計のシステムをつなぎ、税関が常に在庫のチェックができる状態にする制度(IT Inventory)を導入した結果、導入企業は時間、金銭面でコストを負担することになった。
  • 非居住在庫は限定的ながら認められるものの、インドネシアの関税部門と税務部門の連携が進んでいないために、恒久的施設(PE)課税の問題は解消されず、利用が進んでいない。

出所:現地日系企業からのヒアリングに基づき作成

(1)通関

多くの日系企業が指摘した課題に、先述のHSコードの不一致が挙がった。例えば、同一商品にもかかわらず、HSコードを判定する当局の判断が異なることがあるために、例えば、当該商品を輸入するサプライヤーが支払う関税率に差が出てしまい、結果的にセットメーカーはコストが見通せないとの声が聞かれた。また、通関時は不一致を指摘されなくとも、事後調査で税関が不一致を指摘し、追徴課税されることもある。税関の判断に不服があれば、企業は関税消費税総局に異議申し立て、あるいは税務裁判所に不服申し立てもできる。ただ、税関がHSコードの不一致の背景を理解すれば、追徴しないこともある。近年は、事後調査を通じたHSコード不一致を理由とする追徴件数は減少しているといわれる。HSコード不一致問題を回避するには、輸入者は税関総局に対し、事前教示(PKSI) の申請を行うことができる。事前教示決定は、申請した輸入者の名義で同一の貨物について3年間使用することができる。しかし、回答が口頭回答のみにとどまる事例もある。この場合、今後も同様のHSコード不一致の問題が生じた場合に、企業は前回の回答結果を生かせないという問題が出てくる。

(2)FTA

FTAを活用した輸出面では、電子化措置の不徹底が挙げられる。輸出者は申請時に関連書類を電子申請できることから、申請面の利便性は図られているものの、申請過程で原本が必要となる局面があるために、全体としては電子化の利便性が担保されているとはいえない。FTAを活用した輸入面では、貨物と原産地証明書をそろえて提出しなければならない問題がある。この点、タイなど近隣国から財を輸入する場合、原産地証明書がインドネシアに到着する前に、先に貨物がインドネシアに着いてしまうことが往々にしてある。この場合、原産地証明書が到着するまで、貨物は通関ができないことになる。また、税関は原産地証明書に記載された品名とインボイス上の品名が完全一致することを求め、軽微なズレでも特恵税率を享受できない画一的な事務処理が散見される。

(3)その他

インドネシアは内需の獲得を目的に進出する企業が多いものの、輸出拠点としてインドネシアを活用する企業もある。政府はそうした企業に税制面で優遇のある保税地域を整備している。これらは、ジャカルタなど首都圏以外の地方での工業発展を目指すために設置されている。当該地域に進出する企業からは、情報技術を活用した貨物の出入り管理(IT在庫管理)を当局から要請されるために、多くの時間と対応するためのコストが必要になるとの声が聞かれた。また、インドネシアでは、非居住者在庫は保税物流センター(PLB)内で限定的ながら認められるものの、関税当局と税務当局の連携が進んでいないために、インドネシア国内での販売利益に課税されるかどうかなど、確認が必要な事柄もあり、スムーズな利用が進んでいない。

貿易赤字、未成熟な産業、選挙が円滑化阻害の背景に

貿易円滑化を阻害する要因については、現地日系企業へのヒアリング結果からは、おおむね3点が考えられる。第1は、貿易収支の赤字だ。昨今、保護貿易主義的な動きが頻発し、貿易赤字を忌避する国がみられる中、インドネシアも貿易赤字の動向には神経質だ(注3)。同国の2019年通年の貿易収支は33億8,534万ドルの赤字だった。赤字幅は2018年の77億ドルから縮小したものの、2年連続で貿易収支は赤字状態にある(図2)。赤字の原因になる輸入の増加を抑え、貿易収支を改善させるために、インドネシア政府は貿易円滑化の取り組みに積極的でないとする見方が関係者から聞こえてくる。

図2:インドネシアの貿易収支の推移
インドネシアの輸出入、貿易収支の推移を示している。インドネシアの貿易収支は2010年以降に赤字の年が目立つ。特に、2018、2019年は連続した赤字になっている。

出所:「Global Trade Atlas」(IHS Markit)から作成

第2に国内の産業育成との関係がある。政府は資源依存型経済からの脱却を目指している。スハルト政権時代には「上からの工業化」によって、製造業が経済を牽引する構造が実現したものの、2000年代以降のパーム油、原油などの国際商品市況の高騰は、同産品に強みを有するインドネシアに再び第一次産業への傾斜を強めさせ、結果的に、製造業の育成が遅れることとなった。海外産品への依存、ひいてはインドネシア政府が望まない貿易赤字を減らす上でも、政府は製造業の底上げに力を入れている。例えば、政府は鉄鋼の輸入には数量割り当て政策を設け、企業が鉄鋼を海外から輸入するのを難しくすることを通じて、国営の鉄鋼企業クラカタウ・スティールの育成を図ろうとしている。こうした国内の産業レベルの底上げを目的とした政策が貿易円滑化を阻害している側面もある。

第3は大統領選挙の影響だ。政府は2018年に予定していた外資系企業の出資比率制限を規定した投資ネガティブリストの改定による規制緩和を見送った。背景には2019年5月の大統領選挙を踏まえた政府の判断があったとされている。同様に、貿易円滑化措置については、外国からの商品が大量に国内市場に流入することで、反発がインドネシア企業、特に中小零細企業から巻き起こることを避けるために、積極的な実施が見送られていたとみられる。

今後の円滑化の進展を期待

インドネシアは民主主義が進む国だけに、政府は国民の反応を考慮して重要事項を決めることが多い。特に、大統領選挙の前後は、先のネガティブリスト改正はじめ日系企業に影響を与える重要な規制緩和の動きがストップしてきた。選挙でジョコ大統領が再選され、第2期が2019年10月にスタートした。選挙が終わったことでジョコ大統領も自身の政策を進めやすくなった。その意味では、今後は積極的な貿易円滑化措置の導入に期待する日系企業は多い。大統領は11月に、世界銀行が発表するビジネスのしやすさランキングを現在の73位から2021年には50位に引き上げるとし、貿易・投資面での改善にも力を注ぐ意思を表明した(「ジャカルタポスト」紙2019年11月22日付)。潜在成長性がもともと大きいインドネシア経済だけに、貿易円滑化の進展は停滞気味の経済成長率を引き上げる契機となりうる。今後の貿易円滑化について、日系企業をはじめ関係者の期待も大きい。


注1:
フィリピンやベトナム、マレーシアなどは当該国から第三国への輸出を目的に進出する日系企業が多い。これは、各国政府が生産量の大半を輸出することを条件に、関税や各種税金、規制などを免除する自由貿易地域、あるいはそれに類似する制度を用意していることが大きい。当該地域に進出する日系企業からは貿易円滑化上の問題を指摘する声は多くない。インドネシアにもこうした地域は存在するものの、同国は人口2億6,000万人強の巨大市場を持つことから、進出企業は輸送機械中心に内販を目的とする企業が多い。
注2:
インドネシアの場合、貿易円滑化のトピックの中では、非関税措置に関する課題も多い。この点については、地域・分析レポート:国内外の日系企業が多くの非関税措置に懸念(インドネシア)を参照。
注3:
インドネシア政府は貿易収支の赤字を削減するために、輸入を減らすと同時に、輸出については手続きの簡素化や国営企業に輸出増加を要請するなどの輸出促進政策を打ち出している(「ジャカルタポスト」紙2018年11月19日付、2019年1月25日付)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。

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