特集:アフリカ・スタートアップ:成長スタートアップに聞くバイク事故を減らすデバイスとアプリを開発、運転データの活用を目指す(モロッコ)

2020年1月24日

カスキー(Casky)は、バイク事故を減らすべく、ドライバーの安全運転を促すとともに事故を減らすデバイスとアプリを開発するスタートアップだ。世界中のバイク事故の減少を目指すアビド・キラニ(Mr. Abid KHIRANI)創業者兼最高経営責任者(CEO)に、同社の取り組みや今後の展望を聞いた(2019年12月23日)。


アビド・キラニ創業者兼CEO(カスキー提供)
質問:
会社の概要は。
答え:
世界中のバイク事故の1割削減を目標に、2017年にモロッコのマラケシュで起業し、ドライバーのヘルメットの背面に取り付けられるIoT(モノのインターネット)デバイスとアプリケーションを開発した。このデバイスは、ドライバーが曲がりたい方向に首を傾けると同じ方向に点滅し、ブレーキを掛けるとブレーキライトが点灯して後続の車に知らせる機能を持つ。ドライバーが事故に巻き込まれた際には、デバイスに登録している血液型や事故が発生した場所のGPS情報を、アプリに登録している身内などの関係者、警察や病院に緊急連絡されるシステムを搭載している。また、デバイスとアプリを通じてドライバーの運転データを集め、安全運転をすればポイントがたまり、提携企業からドライバーが特典を受け取れるシステムを構築している。

ヘルメットに装着したデバイス(カスキー提供)
質問:
デバイスやアプリの活用法は。
答え:
デバイスの提供だけでなく、デバイスが収集するデータの取得および活用に力を入れている。例えば、時間帯や道によって事故発生率がどう違ってくるのか、データを取得することで、地方政府や国は事故の原因分析や改善を検討できるようになる。また、民間企業であれば、保険会社がデータを活用することで、適切な保険料の設定が可能になるだろう。ドライバーにとっても、安全運転をすると、アプリが集積している運転履歴データに応じてポイントがたまり、提携している保険会社やガソリンスタンドなどから、無料クーポンや割引サービスをはじめとする特典を受けられる。
モロッコなどアフリカでは、高速道路や一般道の交通ルール順守への意識が低いため、事故が増えたり、事故の際に死亡したり大けがを負ったりするケースが多い。カスキーのアプリとデバイスで、ドライバーに特典を与えることを通して、安全運転へのインセンティブを発生させて交通事故を減らしたい。また、ヘルメットを着用しない人が多いため、ヘルメットの着用習慣化を促すことを目的に、デバイスはヘルメットに付けるタイプを採用している。技術的には、例えば燃費のデータを収集するため、ガソリンタンク内に設置できるデバイスの製造も考えられる。
質問:
起業の動機と経緯は。
答え:
バイクによる交通事故を減らすというミッションは、自身が過去にバイク事故を経験したことがきっかけだ。自分は九死に一生を得たが、世界では1年間に約50万人がバイク事故で亡くなっているという。IT分野で19年間働いてきた自身の経験と、AI(人工知能)や機械工学の分野で博士号を持つ共同創業者兼最高情報責任者(CIO)の知識を組み合わせて、デバイスとアプリを開発し起業した。
質問:
今後の事業プランは。
答え:
モロッコでは約120万台のバイクが走っており、そのうち25万台はマラケシュに集中していることもあり、マラケシュで起業した。マラケシュでは、バイクが交通事故の原因になることも多く、事故減少を期待されて、マラケシュ市と提携している。
まずは、モロッコと同様の道路事情やヘルメットを着用しないといった問題を持つアフリカ内での事業拡大を考えているが、より多くのバイクが利用されているアジアにも進出していきたい。今後5年間で世界のバイク利用者の1%に当たるとされる5,100万人へのデバイスとアプリの提供を目標としている。
質問:
日本企業との連携の可能性は。
答え:
これまで、ジェトロのプログラムで、日本とフランスでの日本企業向けセミナーに登壇した。日本では第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に合わせたセミナーで受賞し、日本企業からも関心を持ってもらえた。また、既に日本のVC(ベンチャーキャピタル)から投資を受けている。投資はこれからも受けていきたいが、資金提供のみを目的にした投資よりも、例えば保険会社のようにカスキーの収集するデータとシナジーを生み出せるような企業から投資を受けたい。
我々の一番の売りは、バイクからデータを取れること。必要に応じて、バイクの燃費やパーツを交換すべき時期といった、二輪車メーカーにとって有用なデータも取得可能だ。ホンダやスズキなど世界でも大きなシェアを占める日本の二輪車メーカーとぜひ提携したいと考えている。また、先ほども触れたように、事故の発生率などのデータを活用してもらえる保険会社とも協業していければと考えている。カスキーの技術や収集したデータを活用してもらうことで、より魅力的なバイクの製造や保険商品の販売が可能になるだろう。
質問:
他のスタートアップとの競合は。
答え:
フランスのCosmo Connectedのような競合他社が出てきているが、バイクは世界中で530億台使われているとされ、我々のような新しいデバイスの市場は非常に巨大だ。また、データ分析およびデバイスの価格といった面で、カスキーにアドバンテージがあると考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所
大野 晃三(おおの こうぞう)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部環境・インフラ課、企画部企画課海外地域戦略班(中東担当)を経て、2019年8月から現職。