特集:アフリカ・スタートアップ:成長スタートアップに聞く「テックの女王」が開発する人工知能(AI)(エチオピア)

2020年1月24日

人工知能(AI)ロボット「ソフィア」の開発に携わった実績を持ち、知名度が向上しているアイコグ・ラボ(iCog Labs外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。「誰にでもコーディングはできる(Anyone Can Code)」計画を立ち上げ、エチオピアの「テックの女王」と呼ばれ、多数のテレビ番組に出演するなど著名なベテルヘム・デセ(Betelhem Dessie)氏に話を聞いた(2019年12月26日)。


ベテルヘム・デセ氏(アイコグ・ラボ提供)
質問:
アイコグ・ラボについて。
答え:
2013年にアディスアベバで設立した。現在、大卒以上のプログラマー25人を抱える。うち4分の1が、汎用人工知能(AGI)の開発・提供に従事している。AGIの開発では、世界的に有名になったAIロボット「ソフィア」の開発にも携わった。ソフィアは、世界で初めて市民権(サウジアラビア)を獲得したロボットとして知られる。AGIによる課題解決策を提供するため、顧客候補を訪問し、営業することもある。
残り4分の3のプログラマーは、顧客単位のプロジェクトに従事する。現在の顧客は、日本、米国、中国、ドイツ、イスラエルなど。顧客の要望に合わせて、AIによる課題解決策を開発・提供するのが仕事だ。
起業家の育成や教育にも力を入れている。国際協力機構(JICA)や在エチオピア米国大使館と協力し、起業家支援イベント「Solve IT(2019年8月28日付ビジネス短信参照)」に取り組むなど、スタートアップの育成にも取り組んでいる。私が立ち上げた「Anyone Can Code」も教育事業の1つだ。また、アイコグ・ラボでは、大学生を中心に45人のインターンシップや契約職員も受け入れている。
質問:
これまでのキャリアは。
答え:
1998年にエチオピア東部のハラールで生まれた。電気機器販売店を営んでいた父親の影響で、9歳からビジネスを始めた。当初はオーディオやビデオファイルの販売から開始したが、10歳のころにはHTMLのコーディングを開始した。12歳のころにアディスアベバに移住し、その後、情報ネットワーク・セキュリティ庁(INSA)のシステム開発を手掛けた。2013年から2016年までは、フリーランスのエンジニアとして、企業が利用するソフトウェアを開発・販売した。2016年にアイコグ・ラボに参画。「Anyone Can Code」を立ち上げ、現在も取り組んでいる。
質問:
「Anyone Can Code」について。
答え:
8~18歳を対象とした教育事業で、ビジネスとして取り組んでいる。世界各地で、放課後や夏季に講座を開催し、対面でコーディングやロボティクスを教える。社会事業として、支援機関や篤志家などから資金を調達するほか、参加者の受講料で成り立っている。参加費を支払うことができない家庭には、受講料を免除している。これまでに、スウェーデンで実施済みで、英国などでの開催に向けて準備を進めている。
「Anyone Can Code」に限らず、教育事業にはスタートアップ・エコシステムを形成する狙いもある。若年層に教育を提供し、起業家になるまでフォローする。大学入学後、「Solve IT」などの起業家支援プログラムで支援し、アイコグ・ラボの起業家データベースへの登録を促す。起業家データベースを活用し、起業家と投資家につなげる。データベースには起業家5,000人以上が登録し、毎年400人の新規登録がある。

スウェーデンでの「Anyone Can Code」の様子(アイコグ・ラボ提供)
質問:
日本企業への期待は。
答え:
アイコグ・ラボは、アフリカ各国への進出も検討しており、資金提供は歓迎する。投資の場合は、1万~1,000万ドル規模を希望する。アイコグ・ラボはテレビや雑誌に取り上げられることが多く、スポンサーとしての資金提供も歓迎だ。教育事業などの社会性が高い事業への資金提供も受け付けている。
また、ICT(情報通信技術)分野でのアウトソースを検討している企業や、AIによる課題解決を必要としている企業には、ぜひ連絡をいただきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・アディスアベバ事務所
山下 純輝(やました じゅんき)
2016年、ジェトロ入構。東京本部で、農林水産物・食品の輸出業務に従事。2019年2月から現職。