特集:北米イノベーション・エコシステム 注目の8エリア良好なビジネス環境、豊富な人材が生む米テキサスのスタートアップ・エコシステム

2019年11月22日

米国では、シリコンバレーやニューヨーク、ボストンなどのエコシステムが有名だが、テキサス州も起業家や投資家から注目を集めている。本稿では、近年、スタートアップの注目度が高まるオースチンをはじめ、大学の支援が充実しているダラス、ヘルスケアの企業が集積するヒューストンのスタートアップ・エコシステムを紹介する。

テキサス州は人口、経済が急成長しており(注)、オースチンを中心にスタートアップ企業が活発である。調査会社ピッチブック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2010~2017年の米国都市圏のベンチャーキャピタル(VC)総投資額上位17都市のうち、テキサス州はオースチンが80億ドル(10位)、ダラス54億ドル(14位)、ヒューストン28億ドル(17位)の3都市が紹介された。また、同レポートでは、スタートアップ投資リターン率がオースチンとダラスで3.4倍(10位)となっている。アクセラレーターのファウンダー・インスティテュートのテキサス・スタートアップガイド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、テキサス州でスタートアップ・エコシステムが起こる理由に、(1)ライス大学などの私立大学やテキサス大学などのスタートアップ支援プログラムの高度な教育を受けた人材、(2)西海岸や東海岸に比べて安い生活コスト、(3)米国の中央部でメキシコとの国境に位置していることが、物流やエネルギーほか多くの産業に地理的優位性をもたらしていること、(4)法人所得税、個人所得税を非課税とする税の優遇措置があること、を挙げている。特にオースチンは、1980年代にデルが輩出するなどハイテク産業の集積が進み、最近では米国IT大手のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン(GAFA)をはじめとした企業がオフィスを構えている。また、スタートアップの登竜門とも称される、音楽・映画・イノベーションの祭典「サウスバイ・サウスウェスト(SXSW)」が開催されることでも知られる。前回(2019年3月)、ジェトロは日本のスタートアップ10社を紹介した(2019年3月18日付ビジネス短信参照)。

スタートアップ支援機関が集積するオースチン

オースチンは、テキサス大学オースチン校(UT)を中心に研究者・学生が集まり、インキュベーション施設、アクセラレーターが活発な活動を行っている。UTはグローバル・イノベーション・ラボを開設し、起業を支援する。

オースチンのスタートアップ・エコシステムは、1977年にUTのジョージ・コズメツキー博士が、UTにビジネス教育研究機関のICスクエア研究所(IC2)を設立したことが始まりとされ、その後、IC2を中心に、ベンチャーキャピタルなどのネットワーク組織のテキサス・キャピタル・ネットワーク(TCN)、インキュベーション組織のオースチン・テクノロジー・インキュベーター(ATI)、産業団体のオースチン・ソフトウエア・カウンシル(ASC)が設立された。これらは、産学官連携の促進、イノベーション教育プログラムの支援や開発を行っている。例えば、ATIは、UTと提携し、学生の起業家やスタートアップに専門知識、大学の教育機関と投資家などのビジネスパートナーとのマッチング、ネットワーク活動、コワーキングスペースを提供している。ATIは、これまで300社を超える卒業企業を出しており、10社以上が新規株式公開、50社以上が合弁または買収・合併によりエグジットしている(2019年5月29日付ビジネス短信参照)。

また、オースチンでは近年、クリーンテック、サイバーセキュリティのスタートアップ企業が増加している。オースチンには、2001年に設立された、テキサス大学のクリーンエネルギー・インキュベーター(CEI)が所在し、エネルギー・カーブ(Energy Curb)やバンヤン・ウォーター(Banyan Water)などのスタートアップの本拠地となっている。サイバーセキュリティでは、株式公開して10億ドル以上の企業価値となったセールポイント(Sail Point)をはじめ、クリアデータ(Clear DATA)、イーグル・アイ・ネットワークス(Eagle Eye Networks)など、多くのスタートアップが活動している。

オースチンでは、ネットワーキングサービスやピッチイベントで、スタートアップ企業や投資家のネットワーキング機会が豊富にある。例えば、アクセラレーターのキャピタルファクトリーは、2018年には2,400を超える会員数を誇り、大小の規模を合わせると年間1,400回以上のイベントを行っている。7万5,000平方フィート(約7,000平方メートル)の敷地があるオフィスには、会議室、コワーキングスペース、ラウンジ、VR(仮想現実)試験室などがある。会員は、会員限定イベントへの参加、6カ月無料のコワーキングスペースの利用、200人以上のメンターからのサービスを受けることができる。


キャピタルファクトリーの会議室
(ジェトロ撮影)

キャピタルファクトリーのコワーキングスペース
(ジェトロ撮影)

大学の支援プログラムが充実するダラス

スタートアップの育成支援をしているテキサス大学ダラス校(UTD)では、スタートアップに役立つためのカリキュラムや学部の壁を超えた共同研究など、起業につながる機会が豊富にある。また、UTDのスタートアップ育成支援プログラムに属する学生およびその卒業生は、アクセラレーターのキャピタルファクトリー、ダラス・アントレプレナー・センター、ブロックチェーン・リサーチ・インスティテュート、イノベート・インキュベーターのコワーキングスペースやイベントに参加できる。UTDにあるダラス・ベンチャー・開発センター(VDC)は、学生向けのインキュベーターで、業界や投資の専門家から毎週アドバイスを受けることができる。VDCは、2万平方フィート(約1,900平方メートル)に最先端の専用事務所、研究所、会議スペース、共有機器・サービスを提供している。

また、半導体メーカーのテキサス・インスツルメンツや電気通信会社AT&T、アメリカン航空など幅広い業種の大手企業が集まるダラスは、スタートアップにも多様性がある。スマートシティの実現に向けた研究開発支援組織ダラス・イノベーション・アライアンス(DIA)は、インキュベータープログラムを通じて、スタートアップを大学、大企業、および公共機関とマッチングさせている。現在、DIAに入居しているスタートアップは7社で、クリーンテック、二酸化炭素の削減、人工知能(AI)、拡張・仮想現実(AR, VR)、小売り分析などの分野に取り組んでいる。最近では、DIAとAT&Tが開発したスマート照明をダラス市で利用し、エネルギー使用量が35%削減された。8万5,000個の電灯を節電することで、9,000万ドルのコスト削減が可能となる。

豊富な人材に恵まれたヒューストン

ヒューストンは、エネルギー産業のみならず、世界最大規模の医療施設群のテキサス・メディカル・センター(TMC)の周辺に医療産業が(2019年5月20日付ビジネス短信参照)、米航空宇宙局(NASA)のジョンソン宇宙センター(JSC)を中心に航空宇宙産業が発達している。多様な分野が経済を牽引している背景から、国際的なエンジニアのハブであり、人材が多数そろっている。ヒューストンのスタートアップ企業は、ヘルスケア、AI・ビッグデータ分析に強いのが特徴である。

ヘルスケアのアクセラレーターとしては、TMCにあるTMCイノベーション研究所(TMCx)が代表的である。これまでに111社が入居し、総額2億3,000万ドルの資金調達に成功した。またTMCは、民間企業との連携にも力を入れている。例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソンが運営するインキュベーション施設JLABSは、製薬、医療機器、エンドユーザー向け製品開発が行われ、その成果をTMCに提供している。また、AT&Tが運営するAT&Tファウンドリ―は、IoT(モノのインターネット)に特化したインキュベーション施設でデータベース、アプリケーションの開発を行っており、TMCに情報提供している。

このように、テキサス州は、ビジネスフレンドリーで恵まれた人材、インキュベーション、アクセラレーターがそろっている。また、米国の不動産企業ビジネス・ファシリティーズの2019メトロ・ランキング・レポートによると、全米で潜在的な経済成長が期待される都市として、ヒューストンが4位、オースチンが6位に挙げられ、今後の成長が期待される。


注:
米国商務省国勢調査局および経済分析局によると、2010年から2018年にかけてのテキサス州における人口の伸び率は14.1%(全米平均6.0%)、GDP成長率は43.5%(全米平均36.7%)となっている。
執筆者紹介
ジェトロ・ヒューストン事務所
小山 勲(こやま いさお)
2013年、TOKAIホールディングス入社。2018年4月よりジェトロに出向し、海外調査部米州課勤務後、2019年4月より現職。

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