特集:2018年の対中直接投資動向広東省、福建省ともに前年比増、深センのベンチャーとの連携を目指す投資も(広東省、福建省)

2019年5月29日

2018年の広東省への対内直接投資額(実行ベース)は前年比4.9%増の1,450億8,800万元(約2兆4,085億円、1元=約16.6円)となった。日本からの投資は64.3%増の42億6,300万元だった。最先端の設備を有する生産拠点の設立や、深セン市での現地ベンチャーとの連携を目指した拠点設立が見られた。

福建省への投資(実行ベース)は3.0%増の305億2,867万元となった。日本からの投資は4.5%増の4億7,337万元だった。実行額では、約半数を占める製造業の伸びは鈍かったものの、リース・ビジネスサービスなどが高い伸びを示した。

広東省:3年ぶりに前年比増

2018年の広東省の対内直接投資は、契約件数が前年比2.3倍の3万5,774件、契約額が28.4%増の5,900億9,800万元だった。実行額は4.9%増の1,450億8,800万元だった(表1参照)。2018年は人民元建てのため単純比較はできないが、実行額は2015年以来3年ぶりの前年比増となった。

表1:広東省の対内直接投資の推移(単位:件、%、億ドル、億元)(△はマイナス値)
契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 金額 前年比
2016年 8,078 14.9 866.8 54.5 233.5 △ 13.1
2017年 15,599 93.1 730.9 △ 15.7 229.1 △ 1.9
2018年 35,774 130.4 5,901.0 28.4 1,450.9 4.9

注1:小数点第2位以下は四捨五入しているため、本文の数値と異なる場合がある。
注2:2016年、2017年の金額は億ドル。2018年の金額は億元。
出所:広東省政府データ

深センへの投資が目立つ

広東省の対内直接投資(実行額)を国・地域別にみると、全体の68.6%を占める香港が10.2%減の995億1,600万元と2桁減となった。一方、マカオが約2.1倍の78億5,800元、韓国が約2.1倍の56億4,600万元、ドイツが約23.9倍の48億700万元と大幅に増加した(表2参照)。ドイツについては、化学大手BASFが同社で世界3位の生産規模となる化学品統合生産拠点を広東省に建設する計画を発表している。

表2:広東省の国・地域別対内直接投資(2018年)(単位:件、%、億元)(△はマイナス値、―は値なし)
順位 国・地域 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年比 金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
1 香港 31,018 86.7 174.1 4819.8 81.7 35.9 995.2 68.6 △10.2
2 マカオ 1,127 3.2 49.9 98.1 1.7 △74.4 78.6 5.4 113.6
3 韓国 193 0.5 19.9 127.3 2.2 317.0 56.5 3.9 113.1
4 ドイツ 45 0.1 4.7 4.2 0.1 0.6 48.1 3.3 2,390.3
5 日本 91 0.3 42.2 29.3 0.5 △77.7 42.6 2.9 64.3
6 英領バージン諸島 83 0.2 43.1 340.4 5.8 456.1 41.0 2.8 6.4
7 シンガポール 153 0.4 10.1 57.3 1.0 △55.8 34.7 2.4 25.1
8 英国 71 0.2 4.4 31.0 0.5 117.9 23.1 1.6 134.9
9 バミューダ諸島 3 0.0 n.a 23.4 0.4 1,222.3 21.9 1.5 35,801.0
10 ルクセンブルク 3 0.0 50.0 8.3 0.1 1,251.5 21.0 1.4 38,455.3
その他 その他 2,987 8.3 n.a 362.0 6.1 n.a 88.2 6.1 n.a
合計 35,774 100.0 130.4 5901.0 100.0 28.4 1450.9 100.0 4.9

注:小数点第2位以下は四捨五入しているため、本文の数値と異なる場合がある。
出所:表1に同じ

日本からの投資は64.3%増の42億6,300万元で5位だった。日本からの投資案件をみると、製造業では、リコーが2018年7月19日、東莞市にオフィスプリンティング機器の生産拠点を設立すると発表した。グローバル集約生産拠点として、IoT(モノのインターネット)による販売、製造データの管理、最先端のロボットや自動化設備を導入する。2019年8月竣工予定で投資額は約75億円となっている。UACJは2018年9月4日、韶関市の子会社「乳源東陽光優艾希杰精箔」の第3工場を新設し、自動車向けアルミニウム電池箔(はく)の生産を開始するほか、コンデンサ箔と自動車向け熱交換器材を増産するための設備投資を行うと発表した。

地域別では、深セン市への投資が相次いだ。ベクトルは2018年7月24日、深セン市に中国4カ所目の拠点を設立したと発表した。日系企業へのサービス提供に加え、現地ハイテク企業との協力によるサービス領域の拡大を図る。ソースネクストは同月26日、深セン市に本社を置くIoTデバイスの企画・開発会社UMEOXの株式の35%を出資し、持分法適用関連会社とすると発表した。スマートドライブは8月6日、深セン市に拠点を設立すると発表した。現地スタートアップや研究機関、現地日系企業などとの共同研究・開発などを視野に入れて活動する。たけびしは8月28日、深セン市に連絡事務所を設立し営業力の強化を図ると発表した。中国華南地区での産業用電機品・電子機器の販売に関連する各種業務を行う。キングジムは9月19日、深セン市に孫会社を設立し、中国への電子商材の販売拠点にすると発表した。みずほ銀行は12月4日付で深セン清華大学研究院と、日本と中国のスタートアップ企業の事業成長支援に関わる業務協力覚書を締結した。

第二次産業が堅調な伸び

産業別の実行額では、第一次産業は前年比58.7%減、第二次産業が47.9%増、第三次産業が12.5%減となった。第二次産業は2016年通年に前年比37.8%減と大きく減少したが、2017年、2018年と続けて2桁を超える増加となった。第三次産業は2017年通年に続き減少した。

福建省:投資件数、金額ともに増加

2018年の福建省の対内直接投資は、契約件数が前年比18.5%増の2,419件、契約額が3.5%増の1,044億6,650万元、実行額が3.0%増の305億2,867万元と、いずれも増加した(表3参照)。

表3:福建省の対内直接投資の推移(単位:件、%、億ドル、億元)(△はマイナス値)
契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 金額 前年比
2016年 2,355 39.4 156.6 8.3 81.9 6.7
2017年 2,041 △ 13.3 148.8 △ 5.0 85.8 4.7
2018年 2,419 18.5 1,044.7 3.5 305.3 3.0

注1:小数点第2位以下は四捨五入しているため、本文の数値と異なる場合がある。
注2:2016年、2017年の金額は億ドル。2018年の金額は億元。
出所:福建省政府データ

日本からの投資は前年比増

福建省の対内直接投資額を国・地域別に見ると、香港が26.3%増の170億410万元、サモアが20.3%増の20億2,343万元、英領バージン諸島が19.0%増の9億6,985万元だった。

日本からの投資は4.5%増の4億7,337万元で9位だった。日本からの投資案件では、千房ホールディングスが5月14日、福州市の大洋百貨福州中城店にお好み焼き店をオープンした。海外6店舗目で中国は初進出となる。

製造業の投資は鈍い伸び

産業別の実行額では、第一次産業は前年比41.9%減、第二次産業が5.4%減、第三次産業が24.5%増となった。

業種別の実行額では、約半数を占める製造業が0.5%増の159億9,815万元にとどまった。また、卸・小売業は10.6%減の20億3,534万元、不動産業は50.6%減の15億4,202万元と大幅に減少した。一方、リース・ビジネスサービスが89.0%増の21億7,281万元、住民サービス・メンテナンス・その他サービスが約20.4倍の4,291万元と高い伸びを示した。

地区別実行額の第1位はアモイ市、第2位は福州市、第3位は漳州市、第4位は泉州市、第5位は平潭総合実験区だった。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 経済分析部 部長
河野 円洋(かわの みつひろ)
2007年、ジェトロ入構。在外企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ岐阜、海外調査部中国北アジア課を経て2014年3月よりジェトロ・広州事務所勤務。