特集:2018年の対中直接投資動向四川省は実行額、契約額ともにプラス、重慶市は科学技術・サービス業の投資が増加

2019年5月29日

2018年の四川省の対内直接投資は、契約件数が前年比4.8%増の607件、実行額が10.6%増の90億2,100万ドルとなった。そのうち、成都市の対内直接投資額(実行ベース)は前年比17.5%増の502億9,000万元だった。また、2018年の重慶市の対内直接投資は、契約件数が前年比2.5%減の232件、実行額が0.9%増の102億7,300万ドルとなった。うち、製造業による投資が48件、実行額が13.3%減の44億8,246万ドルだった。科学研究・技術サービス業による投資が8.5倍と大幅に増加した。

四川省で目立つ日系製造業の進出

2018年の四川省の対内直接投資は、実行額で前年比10.6%増の90億2,100万ドルとなり、契約額では2.1%増の63億7,000万ドルとなった。成都市の対内直接投資は実行額が前年比17.5%増の502億9,000万元となった(表1参照)。

国・地域別にみると、上位5カ国・地域は香港、英国、米国、日本、シンガポールの順で、うち、日本からの投資(実行ベース)は34.8%増の2億2,400万ドルだった。

表1:四川省の対内直接投資(単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値)
契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 金額 前年比
2016年 331 3.8 431,879 18.7 854,381 △ 20.2
2017年 579 74.9 623,793 44.4 869,862 1.6
2018年 607 4.8 637,000 2.1 902,100 10.6

出所:四川省統計局、四川省統計年鑑、四川省経済合作局の資料などを基にジェトロ作成

2018年の日本からの投資案件は、製造業が中心だった。三菱ケミカルは9月12日、成都市内の石油化学園区内に機能性樹脂製品の新たな製造拠点を設置すると発表した。自動車内装表皮などに適したスラッシュ成形用PVCコンパウンドの生産を行う。2019年中の生産開始を予定しており、将来的には食品、医療、光学分野向け製品の生産も検討するとしている。

日本特殊陶業は10月2日、米国CHARTグループ内で酸素濃縮装置事業を手掛ける米国CAIRE社と、英国Chart Bio Medical社、中国Chart Bio Medical(成都)社を買収し、子会社化することを発表した。同社はこれにより、酸素濃縮装置をはじめとした酸素関連事業に関して、開発から生産販売まで、バリューチェーンがグローバルに構築されるほか、高品質な酸素濃縮装置の提供も行っていくとしている。

出光興産は12月3日、成都市高新技術産業園区内に有機EL材料製造の新工場を建設することを発表した。敷地面積は1万4,600平方メートルで、装置能力は年間12トンだ。2019年度第4四半期(10~12月)の商業生産開始を予定している。

重慶市で、戦略的新興産業分野への期待が高まる

2018年の重慶市の対内直接投資は、契約件数が前年比2.5%減の232件、実行額が0.9%増の102億7,300万ドルとなった。

国・地域別の投資状況(実行額)をみると、香港からの投資(実行ベース)が最大で、前年比14.5%増の49億1,538万ドルとなった。英領バージン諸島は2.0倍の14億8,746万ドル、韓国は29.8%減の4億5,767万ドル、マカオが38.0%減の3億1,533万ドル、シンガポールが81.2%減の2億7,927万ドル、日本が19.1%減の1億3,523万ドルだった(表2参照)。

表2:重慶市の国・地域別対内直接投資(2018年)(単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値、―は値なし)
国・地域 契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 実行金額 前年比
香港 85 △ 1.2 698,783 278.8 491,538 14.5
英領バージン諸島 9 28.6 41,533 153.4 148,746 103.8
韓国 21 △ 4.6 6,678 65.1 45,767 △ 30.0
マカオ 1 0.0 7 0.0 31,533 △ 38.0
シンガポール 20 25.0 12,263 △ 66.7 27,927 △ 81.2
サモア 1 0.0 2,555 102.6 14,982 25.6
日本 3 50.0 △ 228 △ 118.4 13,523 △ 19.1
バミューダ諸島 0 2,500 0.0 10,900 △ 35.1
カナダ 5 25.0 681 △ 46.0 7,569 8310.0
ケイマン諸島 1 0.0 60 △ 98.9 7,473 1493.4

注:順位は実行ベース順。
出所:重慶市商務委員会提供資料

産業別にみると、第二次産業は12.7%減の45億6,234万ドル(全体の44.4%)、第三次産業が15.1%増の57億1,025万ドル(55.6%)となった。業種別では、製造業が前年比13.3%減の44億8,246万ドルに、情報サービス・ソフトウエア・情報技術産業は3.9倍と大幅に増加し2億2,900万ドルとなったほか、ホテル・飲食業も3.8倍の1,557万ドルに急増した。科学研究・技術サービス業も8.5倍と大幅に増加して1,027万ドルとなった(表3参照)。

表3:重慶市の産業別・業種別対内直接投資(2018年)(単位:件、万ドル、%)(△はマイナス値、—は値なし)
業種 契約ベース 実行ベース
件数 前年比 金額 前年比 実行金額 前年比
第一次産業 6 △ 2.5 20,761 △ 26.7 85 84.8
階層レベル2の項目農・林・牧・漁業 6 0.0 20,761 △ 26.7 85 84.8
第二次産業 49 △ 7.5 338,369 210.4 456,234 △ 12.7
階層レベル2の項目製造業 48 0.0 308,380 510.1 448,246 △ 13.3
階層レベル2の項目建築業 1 △ 7.5 29,989 △ 38.8 5,998 11896.0
階層レベル2の項目採鉱業 0 0 △ 100.0 1,728 △ 67.7
階層レベル2の項目電力・ガス・水力生産業 0 △ 100.0 0 △ 100.0 262 0.0
第三次産業 177 △ 1.1 548,350 123.0 571,025 15.1
階層レベル2の項目交通輸送・倉庫・郵政業 12 9.1 63,672 400.6 28,041 42.6
階層レベル2の項目情報サービス・ソフトウエア産業 20 53.9 10,459 △ 25.5 22,900 291.1
階層レベル2の項目卸・小売業 44 △ 10.2 22,415 △ 52.1 84,526 209.4
階層レベル2の項目ホテル・飲食業 9 △ 10.0 7,323 402.6 1,557 276.1
階層レベル2の項目金融業 6 △ 71.4 120,140 34.9 207,701 △ 8.4
階層レベル2の項目不動産業 19 216.7 43,578 291.5 50,528 △ 1.7
階層レベル2の項目リース・ビジネスサービス業 22 △ 53.2 267,907 190.0 169,733 54.5
階層レベル2の項目科学研究・技術サービス業 21 133.3 10,369 290.7 1,027 748.8
階層レベル2の項目水利・環境・公共施設管理業 1 0.0 586 327.1 2,408 △ 95.0
階層レベル2の項目住民サービス・その他サービス業 3 △ 25.0 △315 △ 458.0 0
階層レベル2の項目教育業 1 0.0 29 2800.0 0
階層レベル2の項目衛生・社会保障・社会福利厚生業 6 20.0 1,046 △ 88.3 2,604 △ 40.0
階層レベル2の項目文化・体育・娯楽業 13 333.3 1,141 50.7 0 △ 100.0

注:順位は実行ベース順。
出所:重慶市商務委員会提供資料

日本企業の2018年の動きとしては、スズキが9月4日、持分法適用会社である中国の重慶長安鈴木汽車(長安鈴木)の持ち分を重慶長安汽車(長安汽車)に譲渡することで合意した。長安鈴木は長安汽車の100%子会社として経営を継続する。スズキは長安鈴木に対し、スズキモデルの生産・販売のライセンスを継続することとした。

日立オートモティブシステムズのグループ企業である日立汽車系統(重慶)が9月25日、自動車部品を扱う重慶両江新区の工場の開業式を行った。

日系以外の外資系の案件では、フランスの重電メーカーのシュナイダーエレクトリックが9月15日、重慶市政府と戦略合作協議を行い、同市の高新区に「イノベーションセンター」を建設することで合意した。同社はイノベーション創出、インテリジェンス、ビッグデータなどの分野で重慶市政府と協力関係を構築しており、製造業のスマート化による産業の集積を目指す。

重慶市社会科学院城市発展研究所の彭勁松副所長によると、重慶市は「高成長」から「質の高い成長」への移行を目指し、スマート製造業などの戦略的新興産業を育成している(21世紀経済報道、2019年1月23日)。重慶市政府は2018年12月、「自動車産業の転換およびレベルアップの加速に関する意見」を公布した。同意見では、2020年までの目標として、自動車生産台数を年間300万台に、新エネルギー車の生産台数を年間20万台に、自動車がネットにつながる「コネクテッドカー」の生産台数を年間80万台に、重慶市を新エネ車とコネクテッドカーの国内有数の研究・製造基地にすることなどを示しており、対象分野での投資の活発化が期待される。

一方、ジェトロが実施した「2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」の中で、今後の事業展開の方向性を聞いたところ、重慶市での事業拡大意欲が最も高かった。また、重慶市での日系企業に「拡大する機能」を聞いたところ、販売が55.0%と最も多く、高付加価値品の生産が40.0%、研究開発が35.0%、物流機能が20.0%、サービス事務機能が20.0%、汎用品の生産が15.0%、地域統括機能が15.0%と続いた。幅広い分野で拡大意欲が強いが、他の省市と比べて重慶市では「研究開発」を挙げた日系企業の割合が最も多かった。今後、前述分野での日系企業の投資動向が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。