特集:2018年の対中直接投資動向実行額で製造業が7割近いシェア(遼寧省)

2019年5月29日

遼寧省統計局の発表によると、2018年通年の遼寧省の対内直接投資額(実行ベース)は49億ドルとなった。前年比の伸び率は未発表だが、実行ベースでは前年(53億3,508万ドル)より4億ドル以上減少した。

遼寧省:第二次産業が7割近いシェア、瀋陽市で実行額が大幅増

2018年の遼寧省の対内直接投資額(実行ベース)49億ドルのうち、大連市への投資額は前年比17.6%減の26億8,000万ドルとなった。瀋陽市への投資額は41.3%増の14億3,000万ドルと、前年比で大幅に増加した(表1参照)。

報道によると、先端製造業を中心とする第二次産業への実行額が9.8%増の33億9,000万ドルとなり、遼寧省全体の69.3%を占めた(新華網、2019年1月31日付、表2参照)。

表1:遼寧省の対内直接投資(単位:件、%、100万ドル)(△はマイナス値、—は値なし)
省・市 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年比 金額 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
遼寧省 2016年 424 100.0 △10.7 9,220 100.0 34.7 2,999 100.0 △42.2
2017年 512 100.0 20.8 2,654 5,335 100.0 77.9
2018年 4,900 100.0
階層レベル2の項目大連市 2016年 206 48.6 △7.2 5,170 56.1 105.2 3,002 11.0
2017年 185 14,948 188.9 3,250 8.2
2018年 219 18.4 2,680 54.7 △17.6
階層レベル2の項目瀋陽市 2016年 132 31.1 △3.6 816 27.2 △22.6
2017年 178 34.9 1,013 24.1
2018年 1,430 29.2 41.3

注:2016年は遼寧省の統計手法と大連市の統計手法が異なるため、大連市の実行額が遼寧省の実行額を上回っている。
出所:各省市政府発表資料を基に作成

表2:遼寧省の産業別対内直接投資(単位:件、%、100万ドル)(△はマイナス値、—は値なし)
産業 契約ベース 実行ベース
件数 構成比 前年比 金額 構成比 前年比
第一次産業 2016年 12 2.8 9.1
2017年
2018年 10
第二次産業 2016年 97 22.9 2.1 1,030 △28.8
2017年 3,090 57.9 199.8
2018年 3,390 69.3 9.8
第三次産業 2016年 315 74.3 △14.6 1,970 65.6 △46.4
2017年 2,220 41.7 13.10
2018年 1,500

出所:遼寧省統計局および関連報道を基に作成

大連市:新規進出件数では日系が最多

2018年の大連市への対内直接投資額(実行ベース)は前年比で減少したものの、依然として省内第1位だった。大連市統計局によると、2018年に大連市で新規に認可された外資企業数は219社あり、進出件数でみると、第二次産業、第三次産業がそれぞれ37社(全体の16.9%)と181社(同82.6%)と、第三次産業の件数が目立った。外資企業の2018年の進出件数を出資元の国・地域別でみると、日本(57社)、韓国(44社)、香港(39社)の順に多かった。

製造業の大型案件としては、2018年9月、米インテルの不揮発性メモリー工場の第2期部分が稼働を開始し、世界最先端の96層の3D NAND技術を用いて量産を開始した(追加投資額は27億3,000万ドル)。

自動車関連では、パナソニック(オートモーティブ&インダストリアルシステムズ)の車載用リチウムイオン電池工場の生産ラインが稼働、2018年3月には車載用角形リチウムイオン電池の量産を開始した。

日系以外の自動車部品関連の投資では、2018年9月、ドイツの機械メーカーのグローブ・ヴェルケ(Grob)が大連拠点の社名を格労博機床(中国)に変更し、中国本社を設置した。金普新区で工場の増設〔投資額約3億5,000万元(約58億1,000万円、1元=約16.6円)〕を行い、新エネ車用の電機や変速機箱、減速機用の製造設備などを生産していく計画だ。

瀋陽市:自動車、ロボット、物流業への投資が目立つ

2018年の瀋陽市への対内直接投資額(実行ベース)は前年比41.3%増の14億3,000万ドルと前年比で大幅に増加した。主に自動車、ロボット、物流業関連の案件が目立った。

自動車関連では、BMWが2018年10月、瀋陽中独ハイエンド設備製造産業パーク内に新設する華晨BMW第3工場の建設が着工した。報道によると、BMWは華晨BMWに対し30億ユーロを追加投資する方針だ(人民網、2018年10月11日付)。

2019年には華晨BMW瀋陽工場の生産能力が年産52万台に達する見込みのほか、2020年にはBMW中核製品シリーズの初の純EV(電気自動車)「BMW ix3」の生産を瀋陽で開始する予定だ。3~5年後には、華晨BMWの生産能力は年産65万台に達する見込みだ。また、自動車内装部品の製造を行うスペインのグルーポアントリンは2018年9月、中独(瀋陽)先端装備製造産業パーク内に設立した工場の稼働を開始した。主に天井内装、ドア、照明、座席の4つの製品を華晨BMW、フォルクスワーゲン(VW)、吉利などに供給していく。

自動車以外の分野では、2018年9月、米プロロジス(Prologis)サプライヤーチェーン管理(上海)が瀋陽市政府との間で、投資協力に関する合意書を締結し、3年以内に瀋陽市に60億元以上を投資し、国際物流プラットフォームを建設することを決定した。

遼寧省、インフラ整備の推進に加え、日本との協力を重視

遼寧省の経済は、2016年にマイナス成長になった後、回復基調で推移している。2018年の遼寧省の域内総生産(GRP)は前年比5.7%増と、前年(4.2%増)より1.5ポイント上昇した。遼寧省の唐一軍省長は1月16日の同省の政府活動報告の中で、「遼寧省の経済は最も困難な時期を抜け出し、安定かつ健全な成長の軌道に入った」と発言した。

遼寧省政府は2018年5月16日、対外開放の拡大による経済のさらなる活性化を狙いとして、「開放の新局面構築の加速、全面的開放による全面振興の牽引に関する意見」(遼委発[2018]20号)を公布、2022年までにハイレベル製造業と現代サービス業を中心として、150億ドルの外資誘致を実現させるとしていた。唐省長は、2019年の重点政策のうち、対外開放の拡大に向けた措置として、日本、韓国、ロシアとの経済、貿易協力をさらに強化していく意向を示している。

執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
李 穎(り えい)
2007年、ジェトロ・大連事務所入所。総務・企画部、市場開拓部、経済情報部を経て、現在は、進出企業支援センターおよび経済情報部にて、調査や進出企業支援等を担当。