特集:日本とロシアの中小企業協力の未来と課題在ロ中堅・中小企業が抱える課題を議論
日ロ中小企業パネルディスカッション開催

2018年9月6日

ジェトロは2018年5月23日、サンクトペテルブルクで開催されたロシア中小企業フォーラムの枠内で、ロシア連邦中小企業発展公社(以下、公社)と共催で日ロ中小企業パネルディスカッション「中小企業分野での日ロ協力の発展」を行った。日本政府とロシア政府は、安倍晋三首相が2016年5月にプーチン大統領に提案した「8項目の協力プラン」(注)に基づき、両国間の中小企業協力を推進している。ディスカッションでは進出日系企業からロシアでの展開事例や課題が提示された。ロシア側からは中小企業支援施策の紹介や、日本側が提示した課題への助言があり、日ロの企業と政府機関がそれぞれの取り組みや課題を共有する機会となった。聴衆として約60人の日ロ企業関係者が参加した。


日ロ中小企業パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

現地調達の推進は日ロ双方にとっての課題

公社のアレクサンドル・ブラベルマン総裁は「8項目の協力プラン」の1つである「中小企業交流・協力の抜本的拡大」に基づく事業の一例として、ロシアで生産を行う日本企業を対象とした調達商談会をジェトロと共催で2018年3月と4月にモスクワで実施したことに言及。日本企業とロシア中小企業のサプライヤー候補が引き続き商談を行っているとし、「今後も進出日本企業の現地調達化促進、日本企業のロシア進出支援の面でジェトロと協力していきたい」と述べた。

ジェトロの入野泰一理事は、ジェトロが2017年10月から11月にかけて実施した「ロシア進出日系企業実態調査」の結果を紹介した。当該年の営業黒字を見通す企業の割合が過去最高(66.3%)、今後の事業拡大を検討する企業が6割に達するなど、在ロ日系企業の景況感は回復基調にある一方、通関手続きや現地調達(品質、コスト)などが経営上の課題になっていると指摘。特に現地調達は、ロシアは産業多様化を目指しており、日ロ双方にとって乗り越えなければならない課題だとし、「ロシア側の関係機関と協力し、日ロ中堅・中小企業の交流支援を続けていく」と応じた。

2016年からウリヤノフスクでタイヤ工場を操業している、ブリヂストンタイヤ・マニュファクチャリングCISの大前仁(まさし)調達部長は「在庫や物流コスト増などの問題から、現地調達率向上は重要なテーマ」と指摘した。現在の同社の現地調達化率は20%と低いが、ロシアにはタイヤ主原料となる石油化学資源が豊富にあることから、同社は2020年までに現地調達率を65%に引き上げることを目指している。

スモレンスク州開発公社のムラド・ラスロフ投資誘致部長は、2017年9月に北海道に副知事を派遣し、日本との交流が深まっていると述べ、地元企業の対日輸出促進や日本からの投資・技術導入に関心を示した。

日系企業が中小企業向け融資を強化

日本の中小企業である福寿園(京都府)の子会社で、サンクトペテルブルクで日本茶カフェを運営するチャイトルグの後藤英輔社長は、ロシアは世界最大の茶の輸入国にもかかわらず、日本茶の輸入量が極めて少ないと述べた。2016年の輸入量は18万トンで、このうち日本からの輸入はわずか2トンだった。同社は今後、100万人都市に店舗を置く考えがあるが、「ロシアの金融機関から採算が取れる低金利での融資が受けられない」という課題を挙げた。

公社の子会社である中小企業支援銀行のドミトリー・ゴロワノフ総裁は、ロシアの中小企業の定義に含まれる外資制限を撤廃する法案が審議中だ、と紹介した。また、「日本企業によるロシアでの資金調達を歓迎する」と述べ、既に数十億ドル相当の実績があるロシア極東での事業融資を重視する意向を示した。

SBIホールディングスの現地子会社であるSBIバンクは、2011年に現地企業と合弁で設立した銀行を2017年8月に完全子会社化し、2018年3月に現名称に変更して、再スタートを切った商業銀行だ。同行の畑尾勝巳会長は、今後ロシアでニッチなコーポレートバンキングを目指すとともに、「中小企業向けのオンライン・デジタル・プラットフォームを提供していく」と展望を述べた。

在ロ日系中小企業もロシア公的機関の支援策が活用可能

半導体関連製品を製造するフェローテックが現地企業を買収して設立したフェローテック・ノルドは、モスクワとヤロスラブリ州のウグリチでサーモ・モジュールなどを製造する。製品の97%をロシアから輸出する異色の進出日系企業だ。同社の上村圭司社長はロシア進出の効果として、「技術開発力向上や販売機会の拡大の面で日本や他の海外ネットワークとのシナジー効果が発揮できた」と評価した。他方、「(輸出のための仕入商品に対する)付加価値税(VAT)還付が仕入れから5~6カ月かかることと、現地調達の拡大が現状の課題」とも述べた。

輸出支援を目的に2015年に設立されたロシア輸出センターのボリス・イゴシン中小規模輸出業者支援部長は、上村社長が言及したVAT還付について、「ロシア輸出入銀行が提供する保証メカニズムを活用すれば、VAT還付期間は2週間に短縮できる」と助言した。同センターはロシア企業への海外市場情報の提供や、ビジネスパートナー発掘、見本市出展や海外認証取得の支援などを行っている。

リャザンで園芸・農林業向けに肥料を生産するエコロストは、カザフスタンやセルビアへ商品を輸出している。創業者で主要株主のアレクサンドル・カメニョフ氏は「当社商品は環境に負荷をかけず、土地を肥沃(ひよく)化させる効果もあり、日本でもニーズがある」と、日本への輸出を検討していることを明らかにした。

最後に公社のブラベルマン総裁が、チャイトルグの100万人都市への店舗展開について、公社が運営する中小企業向けビジネス情報サイト「ビジネスナビゲーター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を活用すれば、対象地域の物件探しや消費者の所得水準などの把握ができ、店舗設立の検討に役立つと紹介した。「日本企業のロシア進出に向けて、ジェトロと協力を続けていく。ロシア輸出センターも交えて、双方向での支援に力を入れたい」と締めくくった。


注:
(a.) 健康寿命の伸長、(b.) 快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、(c.) 中小企業交流・協力の抜本的拡大、(d.) エネルギー、(e.) ロシアの産業多様化・生産性向上,(f.) 極東の産業振興・輸出基地化、(g.) 先端技術協力、(h.) 人的交流の抜本的拡大。安倍首相が2016年5月にソチで行われた日ロ首脳会談で、プーチン大統領に提案した。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所 次長
浅元 薫哉(あさもと くにや)
2000年、ジェトロ入構。2006年からのジェトロ・モスクワ事務所駐在時に調査業務を担当したほか、農水産輸出促進事業、知的財産権保護事業にも携わる。本部海外調査部勤務時に「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。2017年7月から再びジェトロ・モスクワ事務所勤務。